仕掛け屋だより

第2回 季節の自由が丘だより(クレチュール)

2009.08.25更新

第1回 「日本一」のシュークリームを作る、「クレチュール」島村さん

こんにちは!
ミシマ社仕掛け屋チームの林です。

われらがミシマ社のある自由が丘には、ここにしかない素敵なお店がたくさんあります。
このコーナーでは、そんな知られざるオススメのお店と、そこではたらく素敵パーソンを紹介してゆきます!

記念すべき第1回は、「日本一」という名前のおいしいシュークリームが評判のお店、「クレチュール」のご主人、島村義孝さん。
こちらの店では、ミシマ社の書籍『病気にならないための時間医学』発刊時に貸切の小さなパーティーをしていただいたり、オフィスの引越し祝いや三島の誕生日に美味しいケーキを作ってくださったりと、あたたかい交流をしてきたお店です。

仕掛け屋だより クレチュールさん 画像

8月某日、お昼すぎ。
まだお店に伺ったことのないわたくし林を、「いらっしゃい」と気さくに迎えてくださいました。

初めて見る店内は、すみずみまで意識された、隙の無い、だけど落ち着く空間。
店内に優雅に流れるモーツァルトが合っていて、とても心地いい気が流れていました。

島村さんは、「まず召し上がってください」と、
「日本一」という名前のシュークリームを出してくださいました。

進化し続けるから「日本一」なのです。

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―― 美味しいです! 皮がクッキーのようにサクサクしますね。初めて食べました、こんなシュークリーム!

島村そうでしょう。うちではその皮のサクサク感を召し上がっていただきたくて、ご注文いただいてからシューにクリームを詰めるんですよ。

―― でも「日本一」という名前をつけるなんて、すごい自信ですよね。

島村いや、これは「日本一」を目指しています、という進行形の思いを込めてつけた名前です。既に日本一だなんて思っていません。今使っている材料よりも、より良いものを発見しようと、日々アンテナを張っていますよ。シュークリーム「日本一」は、日々進化しているんです。この「日本一」という名前も、シュークリームを召し上がったお客様に「これは日本一おいしい。『日本一』という名前がふさわしい」と、何人もの方におっしゃっていただいたので、思い切って命名しました。

―― 「クレチュール」というのは、どういった意味ですか?

島村フランス語の「CREATEUR」からきていて、英語で言うと「Creator(クリエーター)」、つまり創造者、という意味です。これには「店創り」「お客創り」「商品創り」「味創り」の意思を込めています。

―― 素敵な内装ですね。

島村ここは以前、雑貨屋さんだったようです。当時の雑貨屋さんを設計した建築家と同じ方に頼んで、このようにしました。鏡はあえて分割しているのがポイントです。

―― 確かに、1枚になっていないことで、なぜか品の良さが増す気がします。

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島村幸運なことに、設計士さんと僕の感覚が合っていたので、改装はすべてスムーズに進みました。

―― クラシックの音楽が流れていますが、何かこだわりがあるのですか?

島村モーツァルトが好きなので、その音楽が似合うお店にしたかったんです。だから音楽に合せて什器もアンティーク調にしました。僕は音楽好きで、もともと音大を目指していたくらいなんですよ。昔は180万円のスピーカーを狭い部屋に2個も置いていましたね。困ったことに、良いスピーカーで音楽を聞くと耳が良くなるんですよ。するとアンプも良いものに替えたい、コードも替えたい・・・・・・と尽きることない欲望が沸いてきてしまいまして。今はそんなことないですが。

―― 何の楽器を演奏されるのですか?

島村トランペットです。自由が丘駅近くの音楽教室で、また習い始めたところなんですよ。音大を目指していたのですが、あきらめて、飲食関係のいろんな職種につきました。その中には、皇居や東宮御所の大膳に、ほぼ毎日、お魚を届ける仕事もありました。皇居の中は、とても東京のど真ん中とは思えない、森の中みたいでしたよ。

実はマネジメントしかやったことありません

―― ほう! では「クレチュール」を始めたきっかけは何ですか?

島村最初この店は、家内とパティシエと私の3人で始めたんですね。パティシエというのは私が以前勤めていた「シェ松尾」のパティシエでして、その人が持病を持っていて普通の会社で働くのは難しい状態でしたので、店を作るから一緒に働こう、と誘ったんです。

―― 前職ではシェフとして働いていらしたのですか?

島村いや、マネージャーとしてです。今の店を作るまで、僕はお菓子なんて作ったことなかったんです。マネジメントしかしたことがなくて。そういう立場だったんです。当時働いていたのは池袋の東武百貨店の中にある店舗で、店長として社運を賭けたティールームを作ることになりまして。いくつか店舗を見てまわっていたので、来るとパッと問題点か見えるようになるんです。

―― なるほど。

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島村だから、そこを直せばだいたいどこも売上があがるんですよ。東急本店に行ったときも、500万の売上だったんですけど、800万までは上げられると思ったし、繁忙期には1000万、と目標を掲げまして。最初「冗談だろ」って言われていましたが、事実その2ヶ月後には860万まで売上が上がって。

―― え、どうやってそんなに繁盛したのですか?

島村売っている商品は僕が来る以前と全く同じですが、店内売上とテイクアウト売上の比率のバランスが悪かったんです。そこで店内売上を伸ばそうと思いまして、サービスを変えて、高級なイメージを作ったんです。そのために今までいた店長を、申し訳ないけど外して自分が入って、サービスの指導をしました。それによってお客さんの反応も変わってきたし、料理長と相談してコースにして値段も上げたら、あっという間に売上が上がりました。僕がいたときが、東武の全盛期だったかもしれない。でも百貨店がお客さんを集めてくれるのだから、僕はそのお客さんが自分のお店にきていただく手立てを考えればいいだけでした。今は道を歩いている人に、この店に入ってもらわねばならないのですから、とても難しいですね。

―― なるほど、そんな違いもあるのですね。

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島村そんな風に仕事をしていたのですが、会社という組織に入って仕事していますから、自分勝手にメニューを作ったりしてはいけないんですよね。そういう不自由さも感じました。一緒にいたパティシエがシュークリームを作れるというので、合間を縫って作ってもらったんです。今のシュークリームとは全然違いますが、「これいけるじゃない!」ってお店に並べてみたんです。そしたらあっという間に売れましたよ。それが何回か続きまして。

―― 何回も勝手に作ったんですか(笑)?

島村ええ。そしたら会社から呼び出されましてね。「会社が認めてないものを勝手に売るな」と。

―― ・・・・・・至極もっともな忠告ですよね(笑)

島村それで翌日からやめました。でもそれだけでなくてね、アルバイトの人がたくさんいたのですが、入った人には一生懸命サービスを教えて、育てるわけですよ。そうしてやっと一人前になった人が、学生だと、就職や卒業といった区切りでやめるんですよね。そうやって何人も何人も育ててやめて、育てちゃやめて・・・・・・と繰り返すうちに、なんとなく虚しくなってしまって。でも嬉しかったのは、やめた人がたまにお店に来てくれたとき、すごく感謝してくれるんです。就職時の面接で、「言葉遣いが普通の学生と違うね。君は何してたの?」って聞かれると。「こういう店でこんな風に仕事をしていました」と答えると、「いい仕事をしたね」って言われたって。そういうのを聞いて感謝されたときは、良かったと思いましたね。安定はしてなくても自分の店をやってみたい、という気持ちは段々強くなっていきました。

―― なるほど。でもどうしてまた自由が丘にしようと思ったのですか?

島村家内の親が有名な住職でして、上板橋に住んでいた若い頃、お店を開くことについて聞くと「42歳過ぎのときに、ここから南の場所で6月17日にオープンした方がよい」と言われまして。それで上板橋の南を探し、目白、上石神井、明大前、中目黒、自由が丘の物件を探しました。

―― 三人でお店を切り盛りするのは忙しくないですか?

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島村三人どころか、今は家内と二人でやっているんです。渡哲也さんや黒木瞳さんといった著名な方にもお気に召していただけるようになって、どんどん仕事が増え、最初からやってもらっていたパティシエの負担が大きくなってしまった。体力的にしんどいと言うので、辞めることになり、次の日から家内と二人でシュークリームを作り始めましたよ。毎日見ていたし、よく手伝っていたから、作り方がまったくわからないというわけでもない。そうする中で気づいたんです。作りおきしておくと、せっかくパリパリの皮が台無しになってしまう。だから、注文をいただいてから、クリームを入れることにしたんです。パティシエの彼がいるときはできなかったことなのですが、二人になったからできるようになった。

人もいなくなって負担が増えたにも関わらず、さらに手間の増える方法に変える。
それは生半可なことじゃない。
事実、寝る時間を裂いて、二人は連日シュークリーム作りに誠心誠意、取り組んだという。

―― 私だったら翌日から不安で、作りおきを大量に作る方向に行ってしまいそうです。

島村そうするようになってからですね。「ここのシュークリームは違う」ということで口コミが広がって、取材のお話もくるようになったのは。

―― だって違いますもの。皮がパリパリで、クッキーみたい。

島村ありがとう。当時、百貨店にも定期的にお声掛けいただいて参加したのですが、そいうときは大量の注文が来るんですよね。ここの設備じゃ到底作れない数なので、そのときだけ一度に800個くらい焼けるオーブンをレンタルして、一週間ほぼ徹夜しましたね。

―― それもお二人で?

島村ええ。でも作るのに精一杯で、販売に手が回らないので、別の人に手伝ってもらいました。当日、家内は一人で店をまわし、私は現場でひたすらシュークリームを作り続けました。

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―― そうか! 売り場でクリームを入れる人が必要ですよね。

島村そう。800個、売り切りましたよ(笑)。それがきっかけで、今でも百貨店で定期的に販売させていただいてます。

―― まさか、毎回オーブンをレンタルして一週間徹夜をしているんですか?

島村いやいやいや。今、ここで400個まで作れるようになったので、400個までです。

―― でも通常の業務をしながら、すべてをお二人でされているなんて・・・・・・物理的に考えて、寝る時間ないですよね?

島村そうですね。イレギュラーな注文が入るときは、必然的に睡眠時間を削ることになりますね。
少しずつ作って作り置いておく、というのもできないですしね。そもそも毎日カスタードは1回一時間半かかるのを、4回作らなくてはいけないんです。ということは、それだけで6時間。カスタードは家内が作るのですが、クリームを炊く作業はすごい力が必要なので、とてもじゃないけど続けて作れない。

―― それを毎日、ですか?

島村ええ。営業の合間に。しかも同じ鍋で今度は僕がシューの皮を作らなきゃいけない。

―― それじゃあお二人で休める時間なんて、取れないですよね。

島村いや、一応月曜が定休日なんですけど、それは月1回くらいしか取れないかな・・・・・・。

―― もう仕込みがいっぱいで。

島村うん。だからイベントがあるときなどは、終わったあとに休める!と思うと、それが唯一の楽しみになって頑張れます。月に1、2回はここでコンサートも行っていて、それも楽しみの一つです。

―― どんなコンサートですか?

島村ありがたいことに、結構著名な方に来ていただいているんです。うちのお客さまのお知り合いということで。うちでは3時間くらい時間をかけて、調律士にきちんと音色を作っていただきます。ショパンやリストなど、古典・ロマン系の曲のときは丸く柔らかい音を、バッハやフェンデルといった近代の曲はチェンバロのような硬い音にしてもらいます。僕は、あやふやでなくて明るく、芯があって丸い音が好きですね。きちんと調律したピアノで弾いていただけるので、またやりたいとおっしゃっていただける方も最近は増えてきました。出演料が良いわけでもないし控え室もない会場なのに、ありがたいことです。きっと、耳の肥えたお客さまが多いので、心地よく弾いていただけているのだと思います。

美味しいものしかつくらない

―― これからもシュークリーム一本で勝負したいですか?

島村今はチョコレートのケーキも扱っているのですが、こちらも結構評判が良いです。それをいろいろ工夫していこうと思います。僕はね、あんまり「奇策」ができないんです。正攻法というか、ごく当たり前のものを、こだわった良い素材で作りたいですね。なので旬を大切にした素材選びをしているので、自然と美味しいものしか作らないようになります。
例えば卵も、普通の卵の何倍もする高級な卵を使っていますが、やっぱり美味しさが全然違います。そうやってたまにいい素材に出会うと、嬉しくなります。せっかくですから、卵、見ます?

そういうと、島村さんは卵を出してくださいました。
太陽色の、元気な卵を。

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―― 全然違いますね!

島村食べてみる?

―― えっ。

島村お腹すいてるなら。

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―― ぜひ!!

ということで図々しくも、白いご飯まで用意していただき、ぺロリと完食いたしました。
おいしい!! 濃厚で、新鮮な味わいに感動いたしました。

―― 素敵な食器がたくさん並んでいますね。集めるのも大変ではなかったですか?

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島村ここに飾ってあるのは、ほとんどお客様がお持ちになったものなんです。おうちにあっても使わないから、って。貴重なものなのに、ありがたいことです。

―― こういった食器をお持ちの方がお客さんだなんて、素敵な人が集まっていますね。お客さんはよくいらっしゃる常連の方が多いんですか?

島村うちの90%は常連さんです。夏になると家族がいたり避暑に行かれたりするので、あまりいらっしゃらないんですけど、逆に自由が丘に観光客が増えるので新しい出会いもありますがね。ありがたいことに雑誌やテレビは一年に一回くらいのペースでご紹介したいと連絡いただくので、それを見た方などがいらっしゃいます。うちのお客さまは滞在時間が平均3時間で女性がメインです。最長9時間半もいらっしゃった方もいました。

―― きっと、居心地がとても良いからでしょうね。一人でも来やすいので、私も今後利用させていただきます! では島村さんがよく行かれる、自由が丘でお気に入りのお店もありますか?

島村ここにいると、お菓子の甘い香りを消してしまうようなお料理はお出しできないんですね。だからここのメニューにできない「焼き魚」を、むしょうに食べたくなることがあります。そんなときは早めに仕事を終わらせて、家内と二人で近くの「ちょっぷすてぃっく」という定食屋さんに行きます。おいしいですよ。

―― なるほど、そこも行ってみたいと思います! 今日は長い時間、ほんとうにありがとうございました!!

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島村さんのお話から学んだことは「仕事は真剣さが大切、そして継続が力になる」ということ。
すべきことを長年やり続ける凄さを感じました。
ただ漫然とこなしているとこんなに続けることはきっとできなくて、
どうすればより良くなるかを日々考え試行錯誤しながら仕事をされてきた15年の深さを感じました。大変勉強になりました。

ということで第1回「クレチュール」島村さんから始まった自由が丘探検隊。
次回もお楽しみに◎


<プロフィール>
島村義孝
1951生まれ。「CREATEUR」代表。日本橋「海幸」勤務後、1983年六本木「福鮨」入社、店長就任。
1989年シェ松尾入社。1995年よりサロン・ド・キャフェクレチュール開店、現在に至る。

<クレチュールコンサート情報>
9月24日(木)19:00~
徳永慶子 ヴァイオリンの夕べ ビアノ 小田裕之
一人6000円
お問い合わせ 03-3725-5005(CREATEUR)

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