仕掛け屋だより

第7回 出逢うべくして出逢う

2010.02.09更新

2008年4月8日の消印で、こんな読者葉書が届きました。

書名
『謎の会社、世界を変える。〜エニグモの挑戦』

ご感想をご自由にどうぞ
「JR土浦駅から東京への行きの電車で読み始めて、
 帰りの電車に乗っている今、読み終わりました。
 少し涙が出て、深く感動していることに気づきました。
 読んでいるときはワクワクドキドキして、私もエニグモの
 一員になっているような気分だったのかもしれません。
 今、まさに、社会に育まれながら大きく成長しつつある会社と、
 乗組員の方々の様子を伝えて下さって本当にありがとうございました」

このお葉書を送ってくださったのは、竹来智子さん。
三人のお子さんと、ご主人と土浦にお住まいの方です。
いつものようにお返事を書くと、また美しい字でお手紙をいただきました。
ほどなく、弊社で開かれた小さなパーティーの最中に一本の電話がかかって来ます。

「木村さん、竹来です。今御社のそばまで来ているのですが、迷ってしまって」

慌ててわたしは外を飛び出してあたりを見回すと、そこに竹来さんが真っ赤なバラの花束を持って立っておられました。

「こんなふうに来たら変に思われてしまうかなと思ったんですが、こどもたちに行ってきなよと後押しされて...内田先生やミシマ社さんの本に、支えられています」

そうおっしゃった竹来さんにバラの花束を差し出され、三島をはじめ、わたしたちは本当に驚きました。
これがわたしたちにとって読者の方に直接お会いする、初めての出来事でした。
本が読者に届いていることを当たり前ながら改めて実感した、忘れられない嬉しい出来事でした。
そんな竹来さんには、その後も時々メールやお祝いをいただいて、エールいただき続けています。

今回はこの竹来さんに会いに、電車にゆられて土浦へ。
JR土浦駅で待ち合わせて、竹来さんのご案内で土浦の古い町並みの商店街などを散策し、まるでバーネットの『秘密の花園』の舞台のような一軒の素敵なレストランへ入りお話をうかがいました。

「あの読者葉書をお送りしたとき、わたしは文字通り傷ついていたんです」

謎の会社、世界を変える。〜エニグモの挑戦』を手にとっていただいたころ、竹来さんはさまざまなことに苦しい思いを抱いておられたのだという。

百科事典と童話の全集だけが身近にあって、その本の『サンドリヨン』とシンデレラが同じ話だと(ずっと)知らなかった竹来さんのこども時代。学びへの姿勢は強くても、家が厳しく、自分の居場所を窮屈と感じることもあったそうです。けれどもそれがあたりまえのことなのだと思っていた日々。そんな竹来さんを羽ばたかせたのは結婚したご主人の存在だったといいます。

「これもいいんだ、これもしていいんだと、ひとつずつ解放されていきました。わたしは結婚して赤ちゃんからやりなおした感じ」

一番下の子が幼稚園に入った年に、放送大学で学び始め、真ん中の子が病気になったのをきっかけに社会学に興味を抱き、とある大学に入ります。

「知っていることをガラガラと一度くずしてもう一度立て直すのが知だと思っていたので、もっと知りたいという純粋な心から」始まった、主婦になってからふたたび訪れた大学生活。そこで大学の先生に教わって、内田樹先生の『寝ながら学べる構造主義』(文春新書)に出会います。

「日本の中のフランス思想をやや揶揄しながらも、生活者からはなれず、大切なことはきちんと書かれているところが、面白いなあと思ったし、社会学的だと感じていたし」

しかし、大学で水を得た魚のように探究心を深めていった竹来さんが院へ進んだある日、純粋に学びたいという心を決定的に折る出来事が起こります。
ある論文を書いたことで教授二人に呼び出され、

「君の研究していることは、君には達成できない」

と含みを込めた言葉を言われてしまいます。
内にしばる体質の大学にまた窮屈さを覚えはじめていた竹来さんの心は、この言葉で一気に失速します。純粋に学びの場でいられない状態に失望感を抱き、そっと大学を去ります。

それから、なかなか心理的に本を読めなくなったという竹来さん。
そのころ、後に何冊も読んでファンになっていった内田樹先生のブログで、弊社を知ってくださり、『謎の会社、世界を変える。〜エニグモの挑戦』と出逢われます。

早速取り寄せ、通勤の電車で読み始め、文章が事実を並べる好きな記述式だったことも手伝って、帰りには読了、そして電車にゆられながら読んだときそのままの感情を読者葉書に書いてくださったのだそうです。

「もともと、突っ走ってバタンと死ねたらいいのにと思うようなところがあったわたしにとって、須田さんと田中さんという才能のある二人がいて、一目散に走って、だんだん周りが巻き込まれていってというエネルギッシュな現実を読んで、ただただ本当に気持ちがよかったんです」

それから少しずつ元気を取り戻していったのだと竹来さんは笑顔でおっしゃいました。
なんどか読者の方にお会いしていくうちに思うことがあります。本は、人と出逢う時期に出逢うべくして出逢うのだということです。それがたまたま弊社の本だったというとき、本当に嬉しいなと思います。けれども何より、それぞれの心を一番支えているのは、近くにある愛しい笑顔。

帰り、なんと車でつくば駅までお送りいただいたのですが、のどかな田園風景と筑波山を眺めながら、ご主人の話をぽつぽつとお話いただきました。少し照れておられましたが、今も恋をされているような美しい竹来さんの横顔が印象的でした。
今回は、知るということ、学ぶということにまっすぐなことが印象的だった竹来さんへのインタビューでした。

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