仕掛け屋だより

第11回 最後に眠るとき

2010.05.19更新

読者葉書を送っていただいた読者の方に会いに行くというこのコーナー、最初に待ち合わせてお会いする瞬間はいつもドキドキします。
でも、今回ほどドキドキ大変だったことはないかもしれません。
今回は70代男性の方です。

白川密成さんの『ボクは坊さん』を読んで読者葉書をお送りいただいた方。
待ち合わせは「ぼくんちの近くの公園でもいいですか」とのこと。
その日は気持ちよく晴れた日で、9時に指定された公園へ向かうと、おじいちゃまが5、6人集まっておられる。
どちらにいらっしゃるかしら? とみまわしていると、なんとその集まりのなかからおひとりが手をあげて

「木村さんですか?」

と近づいてこられて、それが読者Kさんだった。
なんでもそんな待ち合わせをするなら、ぼくも行くと、仲よしがついてきたのだとかで、
まさか朝の公園で、そんな大勢のおじいちゃまたちに迎えられるとは思ってもおらず、わたしは少々面食らったのだが、早速インタビュー開始・・・

・・・とは当然いかず、ゲートボールにおつきあい。
ゲートボール、初めて体験したのですが、やってみると意外と面白い。
「木村さん、これ、なかなか面白いでしょ?」
「はい。でも、このスポーツちょっと意地悪ですね」
「ふはは!! そ、その通り! だから僕たちにピッタリなんですよ」

そのあと一時間くらい遊んびみなさんと汗をかきつつ、わたしは、これどうなって行くんだろう・・・今日のインタビューはどうしよう・・・なんて考えてもいるところ、Kさんたちが言った。

「木村さん、まだ大丈夫でしょ?」

大丈夫も何も、まだ何も聞かせていただいていない状態です! と思いながら、もうここまできたらとことん今日は一緒にいようと心に決め、Kさんたち行きつけの古めかしい喫茶店へ入る。

「マスター、コーラ!」
「おれはメロンソーダ!」
「ぼくもそれ」

子どもか!! と突っ込みをいれたくなるような注文に笑いながら、わたしも相当ひさかたぶりにノリでメロンソーダを頼んでしまった。
シュワシュワいうグラスを前に、Kさんたちが一斉にこちらを見る。

「で、木村さん、今日ぼくの話聞きにきたんだよね」
「はい」
「『ボクは坊さん』、今この方読んでるから」
Kさんの隣のSさんがにっこり笑う。
Kさんがこの本を読んで、いい本だからとお仲間に回覧してくれているのだそうだ。
今のSさんで4人目だそうで、良い本があると時々そういうことをして、この喫茶店で話をするらしい。
実は、『街場の教育論』も回覧していただいたと知る。

「ぼくらぐらいの歳になると、同級生もちらほらあの世へいきはじめて、考えるのよ。そう遠くない未来に死んでしまうってことはわかっていて、でも、木村さん若いからわからないだろうけど、ぼくらだって、あんまり30、40歳のころから比べてもそんなに歳とってるつもりないからね、死ぬのはやっぱり怖いわけ」
「おれ、怖くないよ。もう好きなことしまくったから」
「それDちゃんぐらいのもんだよ」
「でもDちゃんショウコちゃんとは結局一緒になれなかったね」
「うるさい」
「だからこそDちゃんは遊んだんでしょうが」
「うるさいっての!!」

もう、話が全然進まない。
とにかくみなさん、お元気でよく笑う方たちである。
「それでね、今年もひとり亡くなってね」
「そうねー。ほんと急で驚いた」
「ぼくらの仲間だったの。キャプテン。さっきの公園で、去年まで一緒にゲートボールしてたのよ」

そもそもKさんたちは、ある職場の野球部のメンバーだったそうだ。
Kさんは当時の副キャプテン。
リタイアした後も、職場近くに住んでいたメンバーでこうしてときどき会って遊ぶのだという。
「職場のメンバーで、リタイアしたあとも会って一緒にスポーツするって、よっぽど仲よしですね」
とわたしが言うと、
「いや、会社っていうより、勿論会社なんだけど、我々の会社、小さい企業でね。ぼくら創業して間もないころのメンバーだったんだよね」
「へえー! そうなんですか!!」

「当時の会社は合併して名前が変ってしまったり、扱う製品も様子が変わっていったりしたけど、その長い会社員人生には、恋愛、結婚、子供ができて、後輩ができて、家を買って、仕事で大きなポカして怒られまくって、親の面倒見て、親を見送ってって、会社ってそういういわゆる普通の営みが無数につまっているもんでしょ。野球部のみんなで、そんな話をあれ、いつだっけ?」
「40代になってたんじゃない?」
「40代だっけ、そう、そのころ」

Kさんたちは、多くの時間を費やすこの会社の仲間をより理解しあい、楽しく仕事をするために、野球部で様々なことを一緒にしたのだという。
野球部みんなで誰よりも朝早く出社して会社の草むしりをする。
トイレ掃除をする。お昼を作る。帰りは飲みに行く。
最初は嫌がっていた後輩たちも、そのうち少しずつ巻き込まれていったという。
そして不思議と、業績はどんどん上がっていったというのだ。

「それからぼくらが、ひとりふたりと定年になるまでそう時間はかからなかった。気がつくともう、60歳も過ぎてさ」
「驚いちゃうよね~。本当」
「それでUキャプテンがKを呼んでね」
「そう。キャプテンに呼び出されて、これからときどき、集まるぞ。みんなで地域ボランティアするんだって。ぼくらほとんどが、会社の近所住まいだったから」
リタイアした後も、会社周りの草むしり、ゴミ拾い、公園の手入れをしているという。

そんななか、『ボクは坊さん』を書店で見かけたKさん。
「そうか、リタイアのあとに待っているのはあとはひ孫の顔見てからの死か、なんて気持ちで手にとったんだよね。葬式出る機会も増えたけど、坊さんて、ろくでもない人もいるっていう感じがしてさ。正直なところ。でも坊さんでも、若い白川さんが悩みながら、それでも前に進もう、伝えようとする気持ちが読んでいて、グッと心掴まれて、それで葉書をね」

「白川さんも野球してるしね(笑)」
「そ、野球している人に悪い人はいないから」
「ここに悪い人いるよ」(Dさんが指をさされている)
「うるさい!」
「最後に眠るとき、こんなお坊さんに見送っていただけたらなって思うよ。でも、どんなお坊さんに見送られても、自らが落とされたこの世の命に、はずかしくない生き方をしていたら、悔いはないような気がするんだよ。キャプテンは、すごい人だったって、白川さんの本読みながらまた思ったね」
「キャプテンはさ・・・」

それから先はずっとUキャプテンの話が続いていた。
愛されていたんだなと、つくづく思う。
だけど、Kさんたちもきっと、後輩たちにとっても愛されておられるだろう。

生きることへの意味を見つけ続ける強い気持ち、生きているなら誰かを幸せにしたいという気持ち、そんな熱いことばがたくさん飛び交う時間でした。
命に、この世にはずかしくない生き方とは。
わたしもしっかりこの言葉を覚えておきたいと思います。
Kさん、みなさま、ありがとうございました!

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