仕掛け屋だより

第14回 争うなんてばかみたい

2010.09.15更新

読者の方に会いに行くこの企画、今回は38歳女性の方に会いに行きました。
今回は、初めて、友人を通して出会えた読者の方のご紹介です。
というのも、友人が、仲よしの方に益田ミリさんの『ほしいものはなんですか?』をプレゼントしてくれて、その仲よしの方が、今回の読者、M子さんでした。

通常、読者の方からのお葉書は会社に届くのですが、ある日M子さんは、友人に聞いてわたしの住所に手紙を送ってくださいました。
「突然の手紙で申し訳ございません。
 わたしは木村さんのお友達、Kさんと仲良くさせていただいている者です」
とその手紙は始まり、
「Kさんに益田ミリさんの本をプレゼントしてもらいました」
とあり、
「木村さんともお友達になれないかしらとKさんに相談して、手紙を送ることにしました」
などということが書いてありました。

30歳をすぎて、一冊の本をきっかけに見知らぬ方からお友達になりたいとはそう言われることはないだろうと、びっくりしながら友人Kに連絡をとってみると、ちょうど来週M子さんに会いに行くというので同行させてもらうことにしました。
M子さんに連絡をとってもらうと、取材もOKとのこと、うれしい気持ちでした。

M子さんに会いに行く車中(取材時M子さんは栃木にお住まいでした)Kは、今回M子さんが益田ミリさんの作品を初めて読んだらすっかりはまって、出ている本を一冊ずつ集めはじめたそうだよと教えてくれました。

初めてお会いしたM子さんは、すらりと背の高い和服美人でした。
日傘を持ち、和服を美しく着こなされている姿は、そこだけ暑さがひいたような涼やかさ。
「いつも和服をお召しなのですか?」
とうかがうと、声もなく微笑んでコクリとうなずかれ、その様子はとてもセクシーで、同じ女性としての姿勢の違いに、ちょっと緊張のはじまり方だったのでした。

M子さん行きつけの洋食屋さんに入って一息つくと、KがM子さんをわたしに紹介してくれました。
M子さんは、料理をお願いした後に、ぽつりと、
「わたし、一カ月前に離婚を申し渡されて、来月からはニューヨークへ行くんです」
とおっしゃいました。
M子さんの言葉を、復唱して状況を把握し仰天するわたしを、Kは大笑いして、
「ね。あなたよりも、どうしてそうなるの? って人、いるもんでしょ」
と言います。
どういう意味なのだ、Kよ。

目の前の和服美人が何故離婚を申し渡されたのか、なぜニューヨークへ旅立つのか「?」を頭のなかにいっぱいにして次の言葉をじっと待つ、なんだか興味だけにとりつかれた嫌な感じのわたしがそこには居たはずです。
すると見透かしたようにM子さんが、
「過去のことはふりかえらないから、詳しくは言わないでもいい?
 離婚したのは、向こうの浮気30回目発覚後に向こうから別れてと言ってきたからです。
 ニューヨークにする理由は特になくって、一人になる時が来たら行こうって、決めてい
 たんです」
「!!」
「M子の、浮気30回目とか数えてる意味が、そしてM子が離婚を言い渡すんじゃなく、
 言われる意味がわたしにはさっぱりわからん!!」
とKが言うので、思わずわたしも何度もうなずいてしまいました。
「男の人の浮気って、結婚する時点で、もう浮気する人ってわかってたら、し続けるもの
 なのかしらね。それでも好きだから一緒になったのだけれど、30回はないんじゃないか
 って信じていたの。そりゃモテるのでしょうけど、30回以上はちょっといただけないじ
 ゃない?」
「いや、その手前でいただけないでしょ!!」
と、Kは声をあげました。
「それでね、もう別れようと彼がいうから、ああ、ついにその時が来てしまったんだわと、
 案外騒いだりせず、心の波風もたたずに受け止められてしまって・・・もうわたし、好きじゃなくなっていたようです」

「・・・その冷静さ。
 M子は昔からどこかおっとりしすぎのお嬢様でね、ちょっとふつうと感覚が違うのよね〜」
するとM子さんが、
「ふつうがどれなのかわたしにはわからないわ。
 ふつうって千差万別だって、あの本読んで思ったのだけれどな。
 あの『ママたち、けんかしてるの?』のシーン。
 女性はもしかして、シリアスな会話に毎日さらされたり、そんな空気を自らつくり出して
 しまっているのかも知れないなと思ったんです。
 わたしはとても共感して、ハッとしたシーンだったの」
「確かに。あのシーンね・・・。ほんと、共感ってことばがピッタリだったな」
Kは今日はじめてM子さんに同意して、深くうなずいたのでした。

このシーンは、専業主婦のミナ子さんと、独身OLのタエ子さんが、にこやかに、けれど冷やかに、相手にはわたしのことはわからないだろうという気持ち前提で会話するシーンで、ミナ子さんの娘リナちゃんに「ママたち、けんかしてるの?」と聞かれてしまうシーンです。

益田ミリさんの作品の読者の方から届くお葉書の数は、本当にすごい数で、仕掛け屋二人で追いかけても、お返事が全然追いつかないほどの数です。(申し訳ございません)
そしてそこに書かれているのは、M子さんやKのような、共感の声です。

あのシーンに似たことがあったのですか? とM子さんに聞くと、
「ええ、ご近所に、お子さんが三人いる奥さんがいらして、時々お昼ご飯をこちらのお店
 でご一緒していたんです」
ところが、会を重ねるうち、どこかしら「こうしたらいい、ああしたらいい」という干渉が増えてきて、M子さんは、はじめこそ「そうですか」などと相槌をうっていたものの、段々窮屈に感じるようになったそうです。

「彼女にとってのこうしたらいいって意見は、わたしにとってその逆ですってことばかり
 だったんです。それがわかってからは、どことなくピリピリした会話が続いてしまって。
 でも本を読んで、みんなそれぞれちがうんだから、争うなんてばかみたいって思ったら、
 嫌な気持ちや窮屈な気持ちがほどけて行きました」
「でも、M子だけ気持ちほどけても、お相手が同じ調子じゃどうなの?」
とKが聞くと、
「すべては受けとめないの。ひとつずつちゃんと聞く。お相手の言葉をじっと聞くの。す
 るとなんてことはない、わたしが未熟だっただけで、お相手は悪気なんてきっと最初か
 らなかったとわかったのだから、楽しい時間に戻っていったわよ」
M子さんはそう言ってきれいな表情で笑いました。

それから数週間後。
ニューヨークからKとわたし宛にM子さんのメールが届きました。

「本当に来てしまいました。
 英語も片言でうまく通じないし毎日大変だけれど、
 つまり必死で生きるとはこういうことなのね。
 SさんにM子の必死な姿は一度も見たことがないと言われつづけましたが、
 今のわたしを見たらそんなことは言えなくなることでしょう!
 わたしの「ほしかったもの」は、こんな楽しい必死な自分だったのかもしれません。
 いつかは誰かに必死に恋もしたいです。
 もう少しして落ち着いたら、どんどん色々な場所へ行ってみるつもりです。
                                    M子より」

今日は、「ふつう」の枠組みで捉えようとしたら、大変な思いをされたと言えるM子さんの、本当にのびやかで楽しそうな人生のうちの、ホンの一瞬のお話でした。
人を、自分の小さな枠、小さな世界で束ねようとしない大きな視点を持ちたいものです。
大切なこととは何なのか、知ろうとする姿勢が美しいM子さん、楽しい時間をありがとうございました。(Kさんも、ありがとうございました!)

ところで・・・
貴方の「ほしいものはなんですか?」

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