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「いま、地方で生きるということ」を書いてみて 西村佳哲(前編)

2011.08.02更新

いま、地方で生きるということ

いよいよ8月上旬に発刊となる、西村佳哲・著『いま、地方で生きるということ』。本書は、東北と九州に住んでいる方、計10人にインタビューした一冊です。

この本の最後には、三島が西村さんと打ち合わせ中に突然受けたインタビューを収録しています。渋谷のロイヤルホスト、夜の23時のこと。どうして城陽にオフィスをつくったのか。その謎を聞かれたのですが、今回は、「逆」に三島が西村さんにインタビューをおこないました。さて、どんな話が飛び出すのでしょう・・・?

本を書くきっかけをお話いただいた前編と、住む場所について語ってくださった後編、全2回でお届けします。

(文・大越裕 聞き手・三島邦弘 取材場所/efish


「いま、地方で生きるということ」を書いてみて 西村佳哲(前編)

「いつか」はない、という思い

いま、地方で生きるということ

西村佳哲(にしむら よしあき)
1964年、東京生まれ。武蔵野美術大学卒。デザインオフィス、リビングワールド代表。働き方研究家としての著書に『自分の仕事をつくる』(晶文社/ちくま文庫)など。
http: //www.livingworld.net/

―― このインタビューは『いま、地方で生きるということ』の執筆から、西村さんの手が離れた直後になります。今回、西村さんにとっても突然書こうと思われたテーマのようですね。

西村はい、打診されなかったら書かなかったテーマだと思いますね。最初は書けないと思ってましたから。

―― 地震があって『いま、地方で生きるということ』についてあらためて書いていただけないか、というメールを僕が送ってから、西村さんの気持ちが一気に盛り上がったような気がしました。数週間後には東北、そして九州に取材に行くと決めて、それが4月の終わりでしたね。あのスピードには驚きました。

西村それ以前からずっと「物事に『いつか』はないんだ」という思いがあったんです。「恐らく三島さんと本を作る機会は、これを逃したらないだろうな」と。「いつかそのうちに」と言っていたら、その機会は来なくなってしまう。それはここ数年、ずっと考えていることでした。三島さんにも登壇してもらった奈良の「自分の仕事を考える三日間」というフォーラムに、ネパリ・バザーロというNPOの代表をつとめる土屋春代さんに来てもらいました。彼女はある時からネパールと日本を結ぶフェアトレードの活動を始めたんですが、その方のインタビューをしたときに、「40歳になった時『いつかはない』と強く思って、この団体を始めたんです」と話していた。それが1年半ぐらい前のことでしたが、思い出深くて、ずっとその言葉が頭のなかに響いていたんです。

―― ええ。

西村それである日、床屋に行って座ったら、いつものお兄さんが「西村さん、今日どうします?」「いつか丸めたいって言ってましたよね」と。ふだん彼の方から言うことってなくて、たいてい僕が「いつもどおり」と答えるパターンだったけど、その日は違ったんですよね。ちょうど「いつかはない」と考えていたので、「そうか今日か」と(笑)。それ以来、坊主頭なんですけど。これは完全な余談ですが。

―― 重要な話です。

西村冬に丸めるもんじゃないと思いましたけどね。寒いし(笑)。で、「いつかはないんだよ」って、大学の授業で課題を出して、講評会の時によく思うんですよね。彼らは「また次の時にうまくやればいいや」と思ってるんだろうけど、その「いつか」はもう来ない。同じ課題をやる機会なんて絶対ないんだから。そんなわけでこの本についても、「三島さんと本をつくるという波がいま来ている、このタイミングで乗らないとテイクオフできない」と感じたのが最大の理由ですね。

―― そうだったんですね。

西村しかし波が来てるとは言っても、どんな板(サーフボード)に乗ればいいんだ、という話になりますよね。それを確かめることになったのが、今年4月20日から数日間の東北出張でした。震災後はじめて東北へ行って、本書にも出てくるRQ(※1)の佐々木さんや塚原さんに会って、手応えを感じた。その人たちと話すことで心が動いたので、「これは書けるかも」と。何かを始めるときって、頭だけで考えて良さそうでも、それだけでは足りない。心が動かないとダメなんだよね。その心の動きを、実際の仕事の初動にすると、うまく行くような気がしてます。

「塚原  僕は80年生まれで。バブルがはじけるのを中学生時代に見た。『良い学校を出て、いい会社に入って』と聞かされて大きくなったけど、『お金だけじゃない』ことは薄々感じていた。

テレビや社会は相変わらずそっちを追っている様子を見ながら、自然学校の講座を受けて、そこで学んで、働いて。その中で自分は『教育された』と思っているんです。

僕みたいなごく普通の人間でもそういう教育を受けてくれば、非常時もこうして動けるし、死なないようにできるし、人の役にも立てるし。これってすごいことだと思うんですよ。

『こういう人になりました』というのを、一つこう実践して見せることができたら面白い。同じ世代の人たちに。

今までにないような働き方とか、暮らし方とか、仕事をつくるということ。ないものから、あるものをつくること。みんなもやってみたらできるよって。」(本書60ページより)

※1「RQ」:RQ市民災害救援センター。東日本大震災の被災者支援のために、3月13日に発足。
野外教育や自然体験活動の能力とネットワークを活かした活動が特徴。http://www.rq-center.net

―― その波に乗ったまま、最後まで一気に執筆された感じですね。

西村最後に屋久島で作家・翻訳家として活動されている星川淳さんのインタビューをすることになったのも、なかば偶然だったんですよね。最初は屋久島にワークショップに行くことしか決まっていなくて、星川さんに会えればいいな、ぐらいの感じだった。星川さんは別の本でも少しだけ取り上げさせてもらったんですが、もっとお話をうかがいたいと思っていた。これも後から知ったんだけど、本書の最初で出てくるRQの広瀬さんと星川さんは、親しい間柄なんだそうです。お互いにすごく認め合っている方同士だそうで、同世代ですし。そんなかたちで最初に乗った板で、最後まで乗り終えた感はありますね。

―― 本書を書くために、別の本の予定をずらしていただいたとか・・・。

西村そうなんです。実は、河出書房新社からデザインに関わる本を出す予定で、ずっと進めていました。担当編集者の高野さん、ありがとう。

―― 本当にありがとうございました。そのおかげで、本書が完成しました。

efishのおしゃれなカップ

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西村じつはミシマ社から『いま、地方で生きるということ』というテーマで本を出さないか、という話が来ていて、そちらを先に書き上げたいと思っている」と話しました。すると「そちらを先に書いたほうが西村さんにとってもいいのかも」と呟いてくれまして。怒ってましたけれど(笑)。

―― 逆の立場だったら、怒る気持ちはよくわかります。私からもいずれお詫びの一言を。

西村今度紹介しますよ(笑)。

後編は、「「地方で生きる」人の話を通して、真摯に考えた続けた一冊」をお届けします!

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