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『創発的破壊』発刊記念 米倉誠一郎氏×税所篤快氏 師弟対談

2011.09.06更新

去る8月11日にジュンク堂書店新宿店にて米倉誠一郎先生の『創発的破壊』の出版を記念してトークイベントが開催されました。今回のイベントでは、『創発的破壊』のなかで紹介されている現役大学生の社会企業家・税所篤快さんとの対談が実現。お二人のご著書のお話、師弟関係ならではの絶妙なやりとりをダイジェストでお届けします。

(文:足立綾子)


脱原発、脱炭素化社会にむけて、意欲ある若者よ、出てこい!

創発的破壊

米倉先生が『創発的破壊』で今後の日本のビジョンについて言いたかったのは、「日本は脱原発、脱炭素社会の世界的なリーダーになる。分権化された都市国家をつくり、今までの10分の1から半分のエネルギーで暮らす。そのノウハウ、テクノロジーを世界に売って、富に換える」こと。

エネルギー問題に関して、今年5月に行われた済州島国際フォーラムで「この夏、日本は30%のエネルギー削減をするぞ」と公演したそうです。削減できる根拠がなにかあるのかと思いきや、「根拠はない!」と言います。

「ビジョンに根拠はいらない!」
これについて、米倉先生は、アメリカのアポロ計画を例に挙げて解説します。1961年、当時のアメリカの大統領だったジョン・F・ケネディは、1960年代中に人類初の月面着陸計画を達成させるとの声明を発表しました。でも、「アポロ計画が成功した本当のポイントは、ケネディがすごいんじゃない」と強調します。

アポロ11号のプロジェクトチームの平均年齢は26~28歳。ケネディの演説を聴いて、「やろうじゃないか!」と競うようにNASAに行った当時大学生、大学院生だった若者たちでした。

「日本が脱原発、脱炭素化社会を目指すにあたって、若者たちが『自分たちがやるぞ!』と出てきてほしい。実際、東京都でいちばんエネルギーを使う事業所である東京大学が、今夏、エネルギーの30%削減を実現している。やれないことはないんです。」

「創発」というのは、ひとつひとつの小さな力が想像以上の総和をつくること。中東やアフリカで起きたジャスミン革命も反体制の強い対抗馬がいたわけではなく、ツイッターやフェイスブックなどの新しいテクノロジーが発端になり、体制が崩壊したのは記憶に新しいところです。テクノロジーのおかげで、一人ひとりの「おかしいんじゃないか」という声が大きな力になり、破壊を生み出すようになってきました。

バングラデシュのグラミン銀行元総裁のムハマド・ユヌス博士は「今、後発国を変えられるのはテクノロジーだ」と語られたそうです。そのテクノロジーを使い、バングラデシュ初の映像教育プログラム「e-Educationプロジェクト」を発足させた税所さんのお話に続きます。

「e-Educationプロジェクト」二年目の試練

米倉先生と税所さんの出会いは6年前。当時高校2年生だった税所さんは、企業人と高校生がイノベーションや働くことの意味を学ぶ学校「日経エデュケーションチャレンジ」に参加。そこで、校長を務める米倉先生から「君たちのもっているポテンシャルはすごいんだ! なんでも世界は変えられるんだ!」という話を聞き、人生が根本的に変わったそうです。

というのも、高校の授業に馴染めず、当時の偏差値は28。"東京都足立区の落ちこぼれ"だった税所さんは、米倉先生のお話をきっかけに「世界は広いんだ!」と思い、大学に進学すべく、猛勉強を開始。「落ちこぼれの自分がのし上がるにはこれしかない」と有名講師の授業を映像で勉強する東進ハイスクールに通い、晴れて早稲田大学に合格します。

そんな自身の経験から、バングラデシュで、教師が4万人不足していることを知った税所さんは、東進ハイスクールのシステムを応用することで教師不足を解消することを思いつきます。

前へ!前へ!前へ!

バングラデシュの有名講師の授業をビデオに撮り、首都ダッカから約8時間も離れた農村部で映像授業をし、バングラデシュの東大であるダッカ大学合格を目指す。バングラデシュ版「ドラゴン桜」といえる「e-Educationプロジェクト」の発足から運命の合格発表に至るドキュメンタリーは、税所さんの著書『前へ!前へ!前へ!』(木楽舎)に詳しいです(ムハマド・ユヌス博士にこのプロジェクトをプレゼンした際に、"Do it! Do it! Go Ahead!!"と言われたことがプロジェクトの後押しになり、著書のタイトルにもなっています)。

「e-Educationプロジェクト」は、一年目で参加した生徒のうち、約3分の2が大学への合格を決めるという上々の滑り出しをみせました。しかし、二年目の今年、プロジェクトは新展開を迎えます。いざ今後この活動をどうやって広めていくかにあたって、ひと波乱あったようです。

NPOとしてボランティア的に活動をすすめる道、生徒から少しだけお金をとってソーシャルビジネスとしてすすめる道、このふたつの道があるなか、税所さんはソーシャルビジネスでやっていくことを決めます。

「米倉先生やアドバイザーの先生からは一年、二年、活動を積み重ねた方がよいというアドバイスをもらいましたが、ソーシャルビジネスにふみきりました。バングラデシュで5カ所の教室で300人の生徒を集めて映像授業をやっていくぞと。でも、課金制にした途端に生徒は誰も来ませんでした。現在、なんとか集まった10人ぐらいでやりくりしています。」

途上国でのビジネスはタフだと実感した税所さん。「e-Educationプロジェクト」をどのようなモデルにしてのせるか、今まさに悩んでいるところだと言います。

師弟対談:世界中からアントレプレナーが集まる国・バングラデシュ

「e-Educationプロジェクト」の二年目に起きた新展開をうけ、米倉先生と税所さんの師弟対談がはじまりました。

* * * * *

米倉先生と税所さん

米倉失敗は、若い時しかできないからいろいろやったらいいと思うんですけど、今は逃げ腰になっている。東京からバングラデシュに帰らない。今日、これ終わったら、バングラデシュにすぐ帰れ!(笑)

税所(笑)。

米倉税所君とはインドにも一緒に行ったんですが、連れて行ったわけじゃないんですよ。僕は学会のために行くのに、税所君が「インドに連れてってくれ! ムンバイの空港で待ってます」って言うんです。まさかいないだろうなと思ったら、たくさん空港で寝ている人のなかで、むくむくむくって起きだすやつがいる。あれは、びっくりした。しかも航空会社の毛布にくるまって寝ているわけ。

税所いやいやいや(笑)。

米倉そんな感じで勝手にくっついてきて。でも、あれがよかったよね。

税所そうですね。勉強になりました。

米倉ちょうどその頃に、僕とユヌスさんが対談する機会があって、その対談は『創発的破壊』に抄録が収録されていますが、「膝が震える」とはこういうことかと思いました。ユヌスさんと話しているとやらなきゃいけないような気になる。身体が熱くなってくる。税所君の本、すごくいいタイトルでしょ。"Do it! Do it! Go Ahead!!" 彼も彼だけに言われたと思っていると思いますが、ユヌスさんは、誰にでも言う。

僕もバングラデシュに一緒に行きましたが、ダッカ大に入るのは本当に大変。ダッカ大の倍率は35倍で、たいしたことないと思われるかもしれませんが、ダッカ大に行けば、一生安泰みたいなメンタリティなんです。首都のダッカにすら行ったことのない田舎の子どもたちが、本当にこんなことやって大丈夫かなーとモチベーションが下がったときに、税所くんがバスツアーを計画するんだよね。

税所(笑)。先生も「つきぬけろ!」っていう話は誰にでも言ってるんですか?

米倉そうですね。豚もおだてれば木に登るけど、登る豚と登らない豚がいる。みんなに公平に言わないと。

米倉先生と税所さん

税所そもそも村から出たことのない子どもたちでしたから、パートナーのマヒンと生徒たちのマインドをどう変えようかと考えて、日本のオープンキャンパスの要領でダッカ大学のスタディツアーをやったんです。実際に大学の授業も受けてもらいました。そこからは生徒たちの目の色が変わって、怒涛の勉強の日々でした。

米倉やっぱりリアリティがないとね。結果、ダッカ大学に合格した生徒も出して、素晴らしいでしょ。ところが、彼の決定的な勘違いは、彼は自分のプログラムがすごいと思ったんですね。僕はそうじゃないと。たまたま農村に埋もれていた優秀な生徒を見つけ出した。そこがイノベーションなんだと。でも、人間てアホだから「システムがすごいんです!」ってなっちゃう。今、悩みながら自分でビジネスモデルを考えてる。NPOもビジネスもさほど差はないと思うんだ。

税所先生、失敗しそうなの、わかってました?

米倉そりゃ、わかるでしょ。大学の先生ですからね(笑)。いや、それは、わかんないけど、ステップがあるよね。でも、しょうがないですよね。やりたいことはやると。そのあと、どう修復していくか。

(聴衆の来ているTシャツを見て)それすごくいいシャツですね! "Nothing ventured Nothing gained"って書いてある! これをよく頭に入れて頑張る。目の前にこういうシャツを着ている人が座っている時点で、ラッキーだね。幸せな男だよ。

税所あはははー。先生は僕が高校生のときから同じようなことを言っていますよね。

米倉僕の代わりに授業できる人、いっぱいいると思いますよ。同じことしか言ってないんだもの。そのなかでもやる人とやらない人がいる。しかし、偏差値28からよく早稲田に入ったね。

税所そうですね。東進ハイスクールの映像授業があったのと、負けたくないという気持ちがあったので。ハングリーで頑張りたい人にとって、映像授業は合うんです。だから先進国の日本でもおもしろいモデルだと思うんですが、むしろハングリーな人がたくさんいる途上国ですごい使えると思ったんです。

米倉バングラデシュは今、おもしろい。いろんな国のアントレプレナーが集まっている。日本だと50万円の価値が、途上国だと500万円、1000万円の価値を生む。レバレッジがきくんです。途上国でのおもしろさは、我々がこんなお金でできるのかなっていうことが実現できるところにあるんです。

もうひとつ、バングラデシュはイスラム教だから、女子が学校にいけない。進歩的なお父さんも娘がハイヤーエデュケーションをうけることに抵抗がある。税所くんのプロジェクトは、女性の地位を上げるポテンシャルがあるね。

税所バングラデシュは女子生徒の教育が遅れていて、特に農村部に優秀な女子生徒がたくさんうまっているんです。そういう生徒たちをこのプロジェクトでうまく掘り出していきたいなと思っています。

米倉そういうことをちゃんと伝えて、ひとつひとつ詰めていかなければならないね。みなさんからいろんな知恵をいただいたり、こういうプロジェクトと合体したらどうかとか、まだまだ広がる可能性があるプロジェクトだと思いますので、是非応援していってあげてほしいと思います。

米倉先生と税所さん

税所最後に僕から質問です。中国、インド、バングラデシュに先生について回りまして、どの国の若者もポテンシャルが高くて、パワフルだなーと思ったんですけど、一方で、日本の若者のなかにもパワフルで熱い人もいて負けてないと思うのですが、先生はどう思われますか? 先日、安藤忠雄さんとの対談で「若者はダメだ」って話されていたような。

米倉質問じゃないじゃないか! それは俺に対する非難か!?

税所いやいやいやー(笑)。

米倉「若者はダメだ」って言ってる大人はだめですよ、間違いなく。若者は大人の鏡なんだから。ダメだっていうよりは、視線がどんどん低くなっているなとは思うね。大学二、三年のいちばんいいときに黒いスーツ着て、丸の内に行って・・・。僕、「学生に赤いスーツを着ていけ! 受かるから」って言ったら、白いスーツを着ていった学生がいた。まあ、彼は落ちましたけど・・・。

転んだやつを笑わないカルチャーを

最後に、質疑応答の一部をご紹介します。

Q 税所さんのプロジェクトで、先進国の富裕層が教育投資をするようなシステムをつくるのはどうでしょう?

税所今年、4、5月の二カ月間、「READYFOR?(レディーフォー)」というサイトで寄付を募り、約80名の方にファンドしていただき、39万円ぐらい集まったんです。是非そういう仕組みをつくって、生徒から課金しないシステムを考えていきたいです。

Q 米倉先生はカリスマではなく、プロフェッショナルが必要だと言われていましたが、スタートアップベンチャーには、一般的にはプロフェッショナルや高度なスキルはないんじゃないかとも思うのですが。

米倉そこは微妙ですね。でも、「勉強が好きじゃないし、ベンチャーで一発当てます」っていう学生が僕のところに来るのですが、そういうやつは来るな!と(笑)。今、我々がほしいのは、10分の1のエネルギーでこの世界を動かせる人たちなので、プロにはいちばんこだわりたいですね。

Q プロジェクトのパートナーとは、どうやって出会ったのですか?

税所パートナーのマヒンと出会ったのは、ダッカ大学でバングラデシュの教育について100人の学生にインタビューをしたときです。彼だけが「なんでこういうことをしているんだ?」と僕に食いついてきた。量をあたってみたというのが、ひとつありますね。

Q 何事でもつきぬける必要がある」とおっしゃっていましたが、今の日本の教育は、横並びで競争を避ける教育で、でも社会に出たら、自分で課題を見つけて、自分なりに答えを考えて実行することが求められている。日本の教育はミスマッチしているなと考えているのですが、米倉先生はどのように思われていますか?

米倉その通りなんだけど、今の日本の教育のなかでも、つきぬける人がいる。チャンスだよね。これもひとつの例ですけど、僕、58にもなって半ズボン履いて歩いてるんですよ! これ、わざとやってるんですよ!

(場内大爆笑)

それを突き破ることでも生きていけるっていうのをみんなで一生懸命みせていかなきゃいけない。日本の教育を言い訳にしているからこそ、チャンスなんです。

「次のリーダーは誰だ?」とどのメディアも言っていますが、我々はもうリーダーはいらないんだってことを『創発的破壊』で伝えたかった。白馬に乗ったリーダーが出てきて、突然日本を変えてくれるなんて、ありえないこと。だから、創発的にいこうじゃないかと。そうは思わない?

税所そう思います。米倉先生の門下生のなかでも、僕は「おまえ、バカだな! アホだな!」っていちばん先生から言われてきた自信があって。でも、「バカ!」とか「アホ!」って言われれば言われるほど、それはニアリーイコール、「期待してるぞ!」っていう意味なのではって門下生のなかでは囁かれていたんですけど、本当ですか?

米倉いや・・・、バカはバカだ・・・。

(場内大爆笑)

税所そんな感じで先生と6年間ぐらいお世話になり続けていて、一度、「なんでバカな僕を面倒みてくれるんですか?」ってメールを書いたら、「バカを育てるのが俺の仕事なんだ」って返事がきて。「おまえは、バカだけど、実行力がある。そこを伸ばせば、なにかものになるんじゃないか」って。先生、覚えてます?

米倉いや、覚えていない(笑)。いいこと言うね、米倉先生! でも僕の大学院のゼミに来るのは落ちこぼれが多くて、それを野球の野村監督みたいに改造するのが、うれしいなあと。やっぱり我々が変わらないといけないと思うし、つきぬけた人をみんなでいいじゃないかと。僕は、転んだやつは笑わない。日本がよくないのは、転んだ奴を笑うこと。転んだ奴は歩こうとしたから転ぶ。座ったままでは転びませんよね。転んだ奴には、ありがとうと。なにかやろうとしたんだね、この国を変えようとしたんだね。また一緒に頑張ろうというカルチャーをつくらないといけないとは思うんですよね。

税所僕は高校生のときに、「転んだやつは笑わない」話を聞いたときに目が覚めた気がしたんです。米倉先生に出会って、とにかく歩かなきゃいけないなと思いましたね。

* * * * *

このトークイベントは、とても活字化できないような、ここだけの話もたくさんしていただきました。サービス精神旺盛なお二人の講演を聞くと、元気が出て、なにかをしたくなるはずです! 

米倉先生の話がもっと聞けるイベントを開催予定です。

2011年09月28日 (水) 19:00~21:00 場所 六本木

詳しくはこちらより、お申し込みくださいませ。

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