特集

『計画と無計画のあいだ』発刊記念 夏葉社島田潤一郎×ミシマ社三島邦弘

2011.12.22更新

2011年11月20日、オリオン書房ノルテ店で行われた、弊社代表の三島邦弘と、吉祥寺のひとり出版社、夏葉社代表の島田潤一郎氏の『計画と無計画のあいだ』刊行記念トークイベントの後編です。

前編では単身出版社を立ち上げたきっかけを中心に話が展開しました。精神的に火事になったり、炎上状態になったりと、それぞれの個性溢れるエピソードに皆さん興味津々の様子でした。

後編では、小さな出版社だからこそできる本づくりや、そこから描かれる未来についてのお話を、会場からの質問も交えてお届けします!

文:富田茜

一点に向かうためのチーム

夏葉社×ミシマ社

三島人を増やそうとは思わないんですか?

島田今はあまり考えていないですね。ミシマ社さんとか見ていると、ほがらかで楽しそうだなあと思うんですが。

三島僕も最初はひとりでずっとやっていこうと思っていたんですけどね。

島田例えば僕が編集をやって、他に営業を任せるとしたら、僕と同じ熱量でやってほしいと思ってしまう。でも自分も外回りをしたことがあるから思うんですが、営業マンって外で何してるかわからないし、単純に難しいと思ってしまいますね。

三島たしかに同じ熱量でできたらベストですけど、うちはもう・・・てんでばらばらですね。本当は共有しなきゃいけないこともあるし、社員教育も必要だと思うのですが、僕は編集の仕事で手一杯だし、この本が売れなければ給料も払えないという状況でやっているのでそこまで手が回っていないんです。でもそれぞれが自由に動けているので、結果的に良かったのかもしれないですね。

島田こういう上司、経営者が良かったとかはないんですか?

三島あまりないですね。とにかく面白いと思える本をつくっていきたくて、最終的には読者の方が「読んで良かった」と思えるような状態をつくりたい。それをつくるためだけに出版社はあると言っても良いと思っています。

島田そうですよね。その言葉メモしたいくらいです!

三島それ以外は余分なものだと思うんです。うちではミシマ社通信というものを配ったり、書店に置くパネルをつくったりしていますが、それは一冊をより多くの人と共有するという一点に向かうためにやっていることです。そこに向かうために動いていくのが僕たちの役目で、各個人のやり方があっていいと思いますね。僕は本も生き物だと思っていて。100年生きるものにしていくには、つくってほったらかしにしてはだめですよね。人が関わっていくなかで手をかけ、愛情を注ぎ、初めて成り立つものです。だからうちでは絶版本をつくらないことにしているんです。子どもの頃、ほしい本を書店で探したら「絶版だよ」と言われたことがあり、とてもショックでした。「なんでほしい本が手に入らないんだろう?」と。

島田よくわかります。僕も1冊目に出した『レンブラントの帽子』は、なんでこんなに良い本が絶版なんだろうと思ったし、絶版になる回転がどんどん早くなっていることにも不満がありました。このあいだ、僕が尊敬するある編集者と話していて、その方が校了する時に「この本はお前より長生きするんだぞ」と言われたと教えてくれて、すごく良い話だなと。

三島本当ですね。そういった本をつくるために、日々通り過ぎていく面白い玉をつかむことが大切だと思うんです。でもそれって感覚が良いときにしかパッとつかめないんですね。その感覚を落とさないために、日々感覚を磨いていきたいですね。

島田そのための修練が、旅に出ることだったり。

三島でも最近旅してないんですよ。そろそろ炎上するかもしれません(笑)。

本を読む喜び

島田(『計画と無計画のあいだ』を開きながら)僕がこの本のなかですごく感銘を受けたのが『「本そのもの面白い」と思う人の絶対数増に挑むことから、新しい出版を始めたい」というところで・・・すごいなあと。それがきっとミシマ社が、ビジネス書や絵本、料理本など、ノージャンルで本をつくることに繋がっているような気がしていて。

三島初めに勤めた出版社がビジネス書寄りの出版社だったんです。それまでは文学ばかり読んでいてわからなかったのですがビジネス書って面白いものがたくさんあって、食わず嫌いだったなと。だから本の面白さって多様だと思うんですよね。

島田「本が面白い」という状態がいちばん大切ですよね。

三島「本が好き」という人がたくさんいる社会の方が、個人的に生きていく上でも好きですね。今までまったく違う人生を歩んできた人とも、一冊の本を介して話し合える瞬間ってありますよね。本ってただの情報交換ではないので、お互いの人生をピッと重ね合わせられる。

島田まったく同感です。本の話をして、「その本自分も読んだよ」と言われると本当に嬉しいですよね。

三島そうですよね。そういった「本を読む喜び」が『昔日の客』には詰まっているんですよ。僕はこの本、寝る前に少しずつ読んでいったのですが、読み終わるのが惜しくて。こういった本が夏葉社から出たということもとても素晴らしいことだと思います。

島田ありがとうございます。

小さな出版社がつくる明るい未来

三島僕はこの前、福岡のイベントでナナロク社代表の村井さんと対談させていただいたきました。ほぼ初対面だったのですが、村井さんは著者の方のいちファンとして「この人のためにすべてできることをやる」というスタンスの編集なんです。そこから生まれたものってやっぱり愛に溢れていて。その時「こんな風に編集をとらえているんだ!」と面白く感じたんですね。

島田つくり手によって、本のつくり方も違うのが面白いですよね。

三島夏葉社の本も、本を愛してやまない島田さんだからこそできるつくりになっているなと、ページを開いた時の美しさを含めてそう感じます。つくり手の個性や愛が一冊につぎ込める状態ってとても良いですよね。それが小さな出版社だと可能だと思いますし、今そういった小さな出版社が増えてきていることが自分自身も小さな出版社として楽しいです。島田さんはどう思われますか?

島田出版の未来は明るいですね。

三島僕もそう思います!

島田素敵な書店員さんや読者の方と会って話すと、「この人たちと一緒に歳をとっていきたい」と思えるんです。それってまさに「未来」ですよね。彼らの期待に応えられるような仕事をしようと思えばヘマをしないような気がするし。

三島僕は「出版不況」なんてないと思うんです。これまでのやり方にしがみついていたらそうなってしまうかもしれないけど、そのやり方をとる必要はないわけで。多様なかたちの本がたくさん出るようになれば、その集積として面白いことができると思いますね。

島田誰か「出版社つくりたい」という相談に来られたりしますか?

三島いくつかあります。ミシマ社のワークショップ「寺子屋ミシマ社」の参加者が、その後本当にかたちにしたのが高松のROOTS BOOKSという出版社ですね。島田さんのところには来ますか?

島田来ます来ます。「やったらいいんじゃないですか」と言いますよ。そういう方には売り上げも経費も給料も全部見せます。するとだいたいやらない(笑)。

三島でも出版社つくりたいなと思っている人にとって、編集経験がゼロで出版社を立ち上げた島田さんの存在は勇気を与えますよ。

島田みんな応援してくれるのでみんなやったらいいと思いますよ。

三島学校の授業と一緒で、答えは知っていても手を挙げなければ先生は当ててくれない。挙げたらみんな「一緒にやろう」と応援してくれるんですよね。だから出版社をつくるということがリスクとして語られていること自体がおかしいと思うんです。

島田そうですよね。リスクがあっても、個人で責任をとれる範囲ですから。

三島それぞれの感覚を最大限に生かしたかたちの出版社が小さな規模で、できれば東京だけではなく、日本全国に無数にできれば日本全体が明るくなると思います。

島田まったく同感です。

「場」があれば「出版社」

三島夏葉社のオフィスに行ったら本は買えるんですか?

島田はい。この前、名古屋から僕と同い年くらいの男性が買いに来てくれたんですが、「敬意を表して」と小さなバラの花束をいただいて、めちゃくちゃ嬉しかったです。

三島おお〜。いいですね。

島田青森から「母に頼まれて買いに来ました」という学生の方もいらっしゃって・・・本当に嬉しくて、その日は仕事にならないくらい嬉しい。あとはずっとYoutube見て終わり、みたいな。

一同(笑)

島田そういうところがひとり出版社は脆いんですよ。外部のプレッシャーがないから嬉しいときも悲しいときも脆い。

三島そうですよね。僕も初めはひとりだったので、聞いていてすごく懐かしいです。

島田僕も初めは三島さんの起業時のブログを読んで「コピー機買いました」「観葉植物置きました」とか、そこから具体的なイメージをもらいました。

三島初めからワンルームを借りたのですが、電話もネットも通じてなかったのでひとりポツンと追いやられたような感じで、「これからどうなるんだろう」と思いました。仕方ないから図書館からやたらと漫画を借りてきてましたね。

島田起業したばかりの時って、まだ本も出していないのですごくヒマですよね。当時の自分のブログを読んだら「こんな夢を見た」とか書いてるんですよ。「こいつめちゃくちゃヒマなんだな」と(笑)。でもオフィスという「場」があることは重要だと思いました。

三島どんなに小さくても「場」があれば「出版社」なんですよね。オフィスはいつ借りられたんですか?

島田起業と同時でした。初めは電話かかってくるだけでも嬉しくて。だいたい先物ですけどね。「島田社長いらっしゃいますか」と言われたら「ただいま外出しております」と言って切ったりして。ひとり出版社なのに(笑)。

三島先物って嗅ぎつけてきますよね(笑)。突然訪ねて来られたことがあったんですが、そのときいたメンバーが「何か御用ですか? 帰ってください。」と強硬に断ってくれて・・・そういうとき社員がいてくれるとありがたいですよ。

島田来年人増やそう(笑)。頑張ります。

夏葉社×ミシマ社

質疑応答

直昄で取引している書店の数と、「小さい出版社が直販でやっていくにはジャンルを固定しないと厳しい」という言葉についてどう思われるか教えてください。

島田僕は直販ではないので、取次を通して取引している書店は150店くらいです。ジャンルを固定しないと、新しいジャンルの本を出せば営業も一から新しい関係を築かないといけないので確かに面倒ですね。でもそのくらいの面倒臭さなのでノージャンルでも問題ないと思います。

三島うちは通常4〜500店、売れる本だと8〜1000店くらいです。ノージャンルなので大型書店ですと、1回の営業で会う担当者が6〜7人なので2〜3時間かかります。非効率極まりなくて大変ですが、それが面白いです。例えばビジネス書でヒットを出して担当者と良い関係を築けても、次に初めて文芸書を出すとしたら、文芸担当者に挨拶にいってもまったく知られていないわけです。でも毎回新参者として原点回帰できるのでそれは良いことですね。ジャンルを決めてしまうとそこからの逆算でしか企画できなくなると思うんです。うちは著者ありきの本づくりなので、初めに「この人と何か面白いことがしたい」という気持ちだけがあり、結果的に絵本になったりノンフィクションになったりします。だからジャンルは必然的には絞れませんね。

三島さんに質問です。直販で流通することで作業量的に大変ではありませんか?

三島僕ではなくて営業事務をしているメンバーが大変ですね。取次を通していれば、毎月各取次に対して請求書を送れば済みますが、直販だと各書店ごとに送らなければいけないので、そりゃあもう大変な量ですね。返品もありますし。いつも「すごいなあ」と横で見てます(笑)。 この前京都の恵文社一乗店の堀部店長と話したのですが、「本屋さんはすべて直販、買い切りでやるべき。配本があるから返品の作業が生まれるわけで、その手間をなくせばいい。」とおっしゃっていました。要はとらえようだと思うんです。僕は最初に非効率をとる方が最終的には効率的になると思っていて。今のやり方が完成型ではなく、まだまだブラッシュアップしないといけないですが、こっちの方向で間違いはないと思ってやっています。

島田ちなみに僕のところは古本屋さんに卸すときは、委託か買い切りか選べるようにしていて、買い切りだと少し安いんですよ。するとだいたいが買い切りを選ばれますね。買い切りで50冊買っていただくと商売人って感じでかっこいいなと思います。でもそれが基本といえば基本かもしれないですよね。

三島さんに質問です。本をつくるにあたって、著者が既に持っている引き出しと、編集者が引き出す部分の割合や、やり方はありますか?

三島僕は編集の仕事は鏡みたいなものだと思っています。著者と向き合ったときに、自分で見えていなかった部分を映すような鏡になりたいんです。やり方は特になくて、僕はほぼ無言なんです(笑)。「一緒に面白いことしましょう」とだけ伝えてあとはポツンと座っている。すると色々しゃべってくれて、そこから生まれますね。つまり答えは書き手の方にしかないんです。よく「あの本は俺がつくった」と言う編集者がいますが、それは傲慢です。でも書き手も気づいていなかった、自分のなかにあるめちゃくちゃ面白い玉を一緒に磨いていくことはできるかなと思っています。割合はわかりませんが、やっていく過程でできるだけそうしていきたいと思っています。

「面白い玉をつかめるように感覚を磨く」ことについて意識してやっていることは?

三島オフィスが築50年の一軒家なので、バスが通る度にガタガタ揺れるんです。それと、撲滅したはずのネズミが最近また家のなかを走っていて・・・それはもう感覚が磨かれると思います(笑)。

島田ありきたりですが、本をたくさん読んだり・・・それと生まれた室戸に帰って従弟と思いっきり遊んだりします。あと、そこにいる漁師の人たちって、みんなほとんど本を読まないんです。そういう人と話をして帰ってくると感覚がリフレッシュされて、仕事がバーっと広がりますね。

ヒット作をつくりたいとは思いますが? また、何部からヒット作になりますか?

島田うちは初版が2500部なので、5000部越えたらヒットです。ヒット作をつくりたいと思うときはありますが、そういうときはだいたい「金が欲しい」とか「モテたい」とか、ろくでもないことを考えているときなのでなるべく思わないようにしています。結果としてヒット作になってくれればいいなと思っています。

三島まったく同じで「出てくれたら楽なのに・・・」とは時々思います。でも本当にそれを望んでいるわけではないんですよね。1万部越えてくれたらいいなと思いますが「この本を届けたい」という思いの延長線上に売れる本があればいいなと。たまに社内で「ベストセラーつくろう!」と言いますが、それはテンションをあげているだけなんですよね。うちは初版は3〜5000部なのですが、それをしっかりと版を重ねて、絶版本を出さずに読み継がれるものにしていきたいですね。

営業マンに求めるものはなんですか?

三島ガッツ!

島田愛嬌。

三島この二つがあれば最強ですよね。今のがラストでよろしいですか? では、本日は日曜日のお昼にもかかわらず、こんなにたくさんの方にお集まりいただきまして、本当にありがとうございました。

島田ありがとうございました。

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