今月の特集1

第2回 アスパラガスキー

 さて、この1ヶ月、ミシマ社ではしつこいくらいインド映画を推してきました(「またインド映画かよ!」と思ったかた、ゴメンナサイ。これで最後です)。

 それもすべては『きっと、うまくいく』が素敵だったから!
 素敵すぎて、ついつい勧めてしまいたくなる魅力を持っているのです、この映画。

 そして、『きっと、うまくいく』を観て「もっとインド映画を観たい・・・」と思ったかたは多いはず。
 けれども、日本ではほとんどインド映画が配給されておらず、映画大国・インドの映画事情はほとんど謎だらけ。そして次にどれを観ればいいのやら、数がありすぎてわからない!
 そこで、「みんなのミシマガジン」でも「たもんのインドだもん」を連載していただいている、デザイナーの矢萩多聞さんにおすすめの映画を教えていただきました!
 う〜ん、あれもこれも、観たいのばっかり・・・!

インド映画を観に行こう! 第5回 おすすめのインド映画

2013.06.26更新

きっと、すきになる! みんなにオススメしたいインド映画7本

 みなさま、「きっと、うまくいく」、楽しんでいただけましたか。
 ぼくも京都・みなみ会館に2回観に行ったけれど、映画が終わり劇場から出てくるお客さん、みんなホントいい顔していたなぁ。しみじみ。
 ミシマ社の新人編集者ミッキーも、「インド映画ってメチャクチャおもろいし、泣けるし、感動するし、わーー」と会うたびに大興奮してくれて、まるで自分がほめられたように嬉しかった。
 公開後、いろんな人から「もっとインド映画みたい! オススメなんですか?」と聞かれることが多くなりました。
 しかし、残念なことに、日本で配給されるインド映画ってびっくりするくらい少ないんです。そのうえ、公開後DVDになったものも、いまはほとんど絶版か入手困難になっていて、お薦めしたくしても観るチャンスがないのです。

 「きっと、うまくいく」を観た人が次に見るべきインド映画を何本か教えてください、と三島さんにも依頼されたのですが、そんなわけで、選ぶのが難しい。
 イロイロ悩んだ末、日本語字幕付きDVDはいったんあきらめ、「この映画、日本の人に観てもらいたい」「もしぼくが映画配給会社やってたらこれもってくるぞ!」という視点で7作品を並べてみました。
 ちなみに映画タイトルをクリックすると、各映画の予告編が観れます!

*なお「Eega」はテルグ語。それ以外はヒンディー語の映画です。

インド映画を観に行こう!

インド映画を観に行こう!

Taare Zameen Par (地上に、星が)
2007年/監督・制作:アーミル・カーン/主演:アーミル・カーン、ダルシール・サファーリーほか/音楽:シャンカル・エサーン・ロイ

 小学生イシャーンは、成績は最悪、文字の読み書きもままならない落ちこぼれ、いつも先生に叱られてばかり。だけど好奇心と想像力は人一倍たくましく、絵を描くことが大好き。そのマイペースっぷりに学校もさじをなげ、親元を離れ、山奥の特別な寄宿学校で孤独な日々を送るようになる。そんなある日、ラム先生というユニークな教師と出会い、イシャーンがなぜ勉強が不得意なのか明らかになるが・・・。

 「きっと、うまくいく」でランチョー役を演じたアーミル・カーンの初監督+主演作品。超競争社会に突入したインドの教育のあり方に一石を投じ、大きな波紋を呼びました。教育問題、競争からの脱落者という部分では「きっと、うまくいく」とも似たテーマを持っていますが、こちらは舞台が小学校で、ぐっとしっとりピュアな感じ。
 子役の演技がすばらしく、落ちこぼれの小学生と、彼を救おうとする先生のやりとりは涙を誘います。
「忘れてはいけない、地上に星があることを」という主題は、ちょっと中島みゆきチックではありますが、そんなことはどーでもよくなるほど、映像もダイアローグも美しくて、まっすぐな映画です。同脚本家が監督・主演した映画「スタンリーのお弁当箱」が6月末から日本公開されるのでこちらも要チェック!

インド映画を観に行こう!

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Swades (わたしの国)
2004年/監督:アシュトーシュ・ゴーワーリカル/主演:シャールク・カーン、ガヤトリー・ジョーシーほか/音楽:A.R.ラフマーン

 米国NASAで宇宙開発のエンジニアとして働くモハンは、幼いころ自分を育ててくれた母親代わりのおばさんをアメリカに呼び寄せるべく、インドへ一時帰国する。海外暮らしが長い彼には、農村の暮らしはカルチャーショックの連続。理不尽な村の慣習に疑問を抱き、自分にできることは何なのか考えるようになる・・・。

 インドにルーツを持ちながら、外国で暮らすインド人(=NRI)の物語だけど、これ、観る人によって、いろんな風にあてはまります。
 いまやインドに暮らす都市生活者もまた、押し寄せる消費社会とグローバル化の流れの中で、伝統的な暮らしを捨て、文化を忘れ、アイデンティティを見失っている。町を生き直す、という言葉があるけれど、この映画は故郷を生き直す、がテーマ。
 例えば、インドに来たばかりの彼は瓶のミネラルウォーターを買いこみ、キャンピングカーに寝泊まりしている。でも、物語が進むにつれ、村の水を飲み、民家の軒先でごろ寝するようになる。その移り変わりがとても身体的で、主人公に自分を重ねて観てしまいました。
国とか、町とかのくくりを超えて、故郷とはなにか、人間が生きていく場所とはなにかを考えさせてくれる。これはサウダージの物語です。

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Rang De Basanti (黄色に塗りつぶせ)
2006年/監督・制作:ラーケーシュ・オームプラカーシュ・メヘラー/主演:アーミル・カーン、マーダヴァンほか/音楽:A.R.ラフマーン

 イギリス植民地時代、多くのインド人たちを処刑したイギリス人将校。その孫娘のスーは祖父の手記を元にした疑似ドキュメンタリー映画を撮るため、デリーにやってくる。俳優はデリーの普通の大学生たち。最初は古くさい愛国主義を鼻で笑う彼らだったが、現代社会のなかでもやもや抱える鬱屈と、独立の志士たちの言葉がシンクロしていき、それぞれの役にはまりこんでいく。そんななか、空軍に勤める仲間のひとりが任務中の事故で死んでしまい・・・。

 インド独立運動家というと、非暴力のガーンディーや、武装派のチャンドラ・ボースが有名ですが、当時のインドには多くのフリーダム・ファイターがいました。バガット・シン、チャンドラシェーカル・アーザード、ラームプラサード・ビスミルらはいまも肖像画が飾られるほどの偉人たち。彼らは英国に骨抜きにされるインドを憂い、テロリストとなり、捨て身の闘争を続けました。
 一方、現代の、豊かで何でもあるけれど、漠然とした不安を抱える都市の若者たち。最初はインドのために死ぬなんてまったく理解できないのだけど、少しずつ考えが変わっていく。いまのインドの腐敗した政治家や、利己的な財界人たちが、インドを辱めたイギリスとだぶって見えてくる。その経過のストーリーテリングが絶妙で、切ないです。
 インドでは賛否両論を呼び、その後の市民運動にも大きく影響を与えた問題作。「きっと、うまくいく」主演三人が全員登場します。

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Vicky Donor (ヴィッキー・ドナー)
2012年/監督:シュジート・サルカール/主演:アンヌー・カプール、アーユシュマーン・クラーナーほか/音楽:ビシュワディープ・チャタルジー

 ヴィッキーはうだつのあがらない若者。いい職も見つからず街でウダウダしているうちに、怪しい医者に儲け話を持ちかけられる。仕事の内容は不妊で悩む金持ちの夫婦にイキのいい精子を提供する「精子ドナー」! 調べると彼の精子はとても強力で、世界で最も人気のある純アーリア人種のDNAを持っていた。最初はこばむヴィッキーだったが、やがて秘密の仕事にのめりこんでいく・・・。

 抱腹絶倒の新時代コメディ。13億人超の人口を抱えるインドにも、不妊で悩むカップルは多いです。体外受精や代理出産という方法は新聞を賑わせています。明確に法律で禁止はされていないけど、そういう手段に抵抗感をもつ人は少なくありません。こんなに微妙なトピックを笑い泣きのコメディにしてしまえるインド映画は懐が広いと思います。
 最初は主人公も仕事の内容を偽って暮らしているけど、隠しとおせるわけもなく、ある日、みんなばれてしまう。家族は犯罪者のように彼を罵り、嘆く。新婚の妻も実家に帰ってしまう。もはや八方ふさがりの状況。ここからどうやって家族を、社会を、そして観客の私たちを納得させるか。ぜひ目撃してください(かなり力業だけど!)。

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Peepli [Live](ピープリ村から生中継)
2010年/監督:アヌシャー・リズヴィー/主演:オームカル・ダース・マニクプリーほか/音楽:インディアン・オーシャンほか/

 ピープリ村に暮らす貧しい百姓ナターとその兄ブディヤーは、借金が返せず畑を手放さないとならない瀬戸際にいた。そんなとき、「政府が農村の自殺者に10万ルピーの見舞金を出す」という噂をききつけ、兄弟はわざと自殺をしてお金をもらう計画を立てる。その話を地方新聞の記者が記事にしたことで、都会のTV局が注目。ちょうど同地区で選挙中の州首相、農業大臣も巻きこんで、村は上へ下への大騒ぎ。いつ自殺をするのか、政府は本当に金を出すのか。報道は過熱し、人びとはピープリ村からの生中継を固唾を飲んで見守るが・・・。

 百姓の自殺というヘビーな題材なのに、基本はコメディです。
 10年間で800万人超の農家が離農してしまったインド。世界有数の農業国なのに、アメリカ企業や無策な政治家たちがここ数年で一気にぼろぼろにし、農家の自殺はいまもなお深刻な社会問題です。
 この映画は「百姓の自殺を作り出す悪社会はだめだ」という単純な結論を掲げているわけではありません。むしろ、それをネタに熱狂を煽るマスコミ、選挙の道具にする政治家、悲劇や美談を記号的に消費したい都市生活者たち・・・そっちの方がよっぽど怖くない?  という、痛烈な皮肉をこめている。農村の物語だけど、最後はちゃんと観客自身の問題として返ってくる。社会派映画ってこういうのを言うんだな、って思います。
 役者のほぼ全員が素人、本当の百姓たちが演じているのもイイ。画面から牛糞が匂ってきそうです。

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Eega (ハエ)
2012年/物語・脚本・監督:S.S.ラージャモウリ/出演:スディープ、スマンタほか/音楽:M.M.キーラヴァニ/

 青年ナーニは、家の向かいに住む美しいビンドゥに惚れていた。彼女はNGOにたずさわっており、つれないそぶりを見せていたが、実はナーニのことが好きだった。
 ある日、ビンドゥは寄付のため、実業家のスディープと出会う。スディープは自己中心的な女好きで、ビンドゥが他の男に気があることを知ると嫉妬の炎を燃やし、ついにはナーニを殺してしまう。しばらくして、不幸なナーニはハエとして生まれかわるが、前世の記憶を思い出し、小さなからだを駆使して、スディープに復讐をはじめる・・・。

 輪廻転生や復讐劇はインド映画でありがちなテーマですが、主人公がハエって・・・! この発想、ありえないでしょ。監督ラージャモウリは、何十億円もの制作費を投じてファンタジー系アクションを作りメガヒットさせたかと思うと、三枚目のコメディアンを主人公にして低予算の密室劇を作ってみせる。バブリーなインド映画業界で、アイデアと人材を駆使し、縦横無尽サービス満点にとにかくおもしろいモンを作る南インドの映画人です。
 ハエ部分はCG映像なんだけど、ハリウッドのおこちゃま映画みたいに、ハエに台詞をしゃべらすようなことはしない。仇役スディープの演技だけで、この小さな恐怖をユーモラスに描いてみせる。デジタルとかアナログとかしちめんどくさいことブツブツ言っていないで、こういうおもしろい映画つくってみせてよ! と某国の映画監督に言いたい。
 ちなみに今秋に日本でも公開する計画があるとか。

インド映画を観に行こう!

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English Vinglish (イングリッシュ・ウィングリッシュ)
2012年/監督:ガウリー・シンデー/出演:シュリーデーヴィーほか/音楽:アミット・トリヴェーディー

 シャシは夫と二人の子どもと暮らす普通の主婦。料理やお菓子作りが得意で、主婦業のかたわらラッドゥー(インドの饅頭)をつくって小銭を稼ぎ、平穏平凡に暮らしていた。ある日、NYに暮らす姉から連絡があり、姪の結婚式の手伝いのため、英語が出来ないのにもかかわらず、単身アメリカへ渡るはめになる。
 町のカフェでコーヒーさえも注文できず、落ちこんでいたシャシだが、たまたま見つけた英語教室の広告をみて一念発起。お菓子作りでためたヘソクリを手に、家族には内緒で教室に通い、英語を学びはじめる・・・。

 ぼくはフェミニストではないし、むしろ、その手の人たちが苦手なんだけど・・・これからのインドは女性が変えていく、と思っています。
 このごろ都会で英語教室が流行っているらしい。英語は実質の共通語で、多くの人が話せるのだけど、そういう日常の言葉ではなく、しっかり英語のスキルをみがきたい、という人が増えている。「生徒は女性、特に中年の主婦層が多いのよ」と、英語教師をやっている友だち(彼女も40代主婦)から聞きました。
 NGOで働く人も圧倒的に女性が多い。旦那はしっかり働いて稼いで、マダムたちは趣味や旅行、そして社会貢献にはまる。コールセンターに働く若いOLの友人も週末はボランティア活動に行く。消費と浪費を強いられる都市生活のなかで、そういう場所に潤いを求め、暮らしのバランスをとろうとするのはどこの国も同じなのかもしれません。
 自信のない主婦が、家族には内緒で英語教室に通い、ばっちり英語をしゃべれるようになる痛快なストーリーですが、自信を取り戻した末に、「自由で自立した女性として社会に出ていく」というありがちな自己実現の物語にはまとめていない。なにものにもゆるがず主婦として家庭を守っていくという、骨太の「母性」を落としどころにしている。ここらへんがインド人にはたまらないのでしょう。往年の名女優シュリーデーヴィーの演技もすばらしく、後味爽快。元気の出る映画です。

インド映画を観に行こう!

 こうして7本並べてみても、すごいなぁ、やっぱりインド人にはかなわない、と思い知らされます。映像、編集、脚本のうまさ、俳優の演技力、音楽のセンスのよさ・・・映画としての水準が高いのはもはや基本で、そのうえで何ができるのか、というレベルで毎年すばらしい作品が次々つくられている。

 「きっと、うまくいく」もそうだけど、今回選んだ作品のどれもが、作り手と観る側双方にとって身近で切実な問題をふくんでいる。インドで事件や社会問題が持ちあがると、すぐそれを題材に映画が作られる。しかも、道徳的なメッセージ性の強い社会派映画ではなく、あくまでもエンターテインメントとして、観客を十二分に楽しませてくれる。

 ぼくはどんな美しい風景の町でも、食いモンがうまくないと(口に合わないと)、長居はできない・・・といつも思います。
 すごくいい温泉があっても、旅館の女将さんが感じ悪かったら、また行きたいと思わないですよね。
 インド映画はまずぼくらを楽しませてくれる。人間楽しむと心もからだも開きます。逆に開かないとどんなすばらしいことが語られていても、入ってこない。単なる説教臭い、ひとりよがりな映画になっちゃう。

 このごろ、クールジャパンや日本のポップカルチャーを海外に輸出したいと言っている人たちがいるけれど、はたしてそれが自分たちにとって切実な問題なのか、なによりも自分たちが楽しめているのか。けっこうビミョーな気がします。
 ぼくは日本も映画も好きだから、日本映画にももっとがんばってほしいです。いつかインド人と一緒にポップコーン食べながら「うははは、これ楽しいねー」と日本映画を観たいなあ。
 では、その日まで、サヨナラサヨナラサヨナラ~!

矢萩多聞(デザイナー)

 観たい映画が山もりすぎて、いくら時間があっても足りそうにありません!
 もっと日本でもインド映画が公開されることを、切に願っております。
 どれか配給しませんか? 日本の映画会社のみなさ〜ん・・・!

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矢萩多聞(やはぎ・たもん)

1980年横浜生まれ。9歳のとき、はじめてネパールを訪れてから、毎年インド・ネパールを旅する。中学1年生で学校に行くのを辞め、ペンによる細密画を描きはじめる。1995年から、南インドと日本を半年ごとに往復し、日本帰国時に、銀座、横浜などで個展を開催する。

2000年、日印コミュニティサイト「Indo.to」をオープン。2002年、対談本『イン ド・まるごと多聞典』(春風社)を刊行。このころから、本の装丁の仕事をはじめる。バンガロールのアトリエをキープしつつ、2012年、事務所兼自宅を京都に移転。現在、インド/横浜/京都を行き来し、装丁、ペン画、エディトリアル・デザイン、イベント企画など多岐に渡って活動をくり広げている。

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