今月の特集1

浦沢直樹さん

 そもそものきっかけは、漫画家・浦沢直樹先生のスタジオとミシマ社のオフィスが、ほど近いところにあるということでした。
 『自由が丘の贈り物』にご登場いただけただけでも夢のようでしたが、去る8月4日、浦沢先生とミシマ社三島との、まさかの対談イベントが実現。
 会場となったのは、本書でもご紹介しているcafé イカニカさん。この完全地元密着型のイベントでは、自由が丘のこと、本づくりのことなど、2時間にわたるトークが交わされました。2回目の今日は、自由が丘と浦沢先生の作品に出てくるキャラクターに纏わるお話です。

(文:皆川夕美、写真:新居未希)

「自由が丘と本づくり」浦沢直樹さん×ミシマ社三島 トークイベント

2013.08.21更新


「"自由が丘"発祥の地で、明け方のキャッチボール」(浦沢)

三島自由が丘へはいまから25年前、『YAWARA!』の終わりぐらいに越してこられたとのことですが、なぜ、自由が丘だったんですか?

浦沢もともと、よく遊びに来てたんですよ。地元は違うのですが、結婚して移り住んだところが東横線沿線だったんです。そこから橋を車で渡って自由が丘に来ていたんですが、橋を渡るのが面倒くさくなっちゃったんですね。あの橋は、夕方すごく渋滞するので。それで、もう橋を渡らなくてすむようにしようと自由が丘に来たんです。事務所はいまで3軒目ですね。

三島最初は、駅のスーパーの近くだったんですよね?

浦沢直樹さん


浦沢そうです、最初は普通のマンションで。この本にも出ていますけど、あのスーパーの横の立体駐車場の斜度が「自由が丘」の発祥なんですよね?

三島そうなんです。いま石碑があるところです。

浦沢当時は立体駐車場でなくて、坂をあがると小高い丘になっていたんですね。それで、明け方に仕事を終えて、アシスタントたちと忍び込んでキャッチボールをしたことがありましたね。駐車場なので、本当はいけないんですけどね。

三島インタビューでもお聞きしたお話で、すごくいいエピソードですよね。

浦沢それであるとき、あの斜面にカラスがびっしりいて、でもその中に一匹だけ黒猫が混じっていたんですよ。全部カラスだと思って見ていたら、「にゃあ」って聞こえて。ゾーッとしましたけど、「うわ、いい画だな」と思いましたね。

三島ゾクッとしますね。

浦沢当時は仕事場と自宅が別でしたから、明け方まで仕事して、仕事場から自宅に向かって歩いている途中に、そういう、夜明けにしかない街の風景をよく見ていましたね。


「自由が丘の喫茶店で、物語もキャラクターも生まれた」(浦沢)

三島場所の変化が作風に影響することはありましたか?

浦沢僕の頭の中のイマジネーションが作品になっているので、基本的にはないですね。ただ、日々のなかで蓄積された「空間感」みたいなものは出ているかもしれないです。街の縮尺が自由が丘っぽいというか。それこそ、高いビルがなくて空がよく見えるとか。

浦沢直樹さん

MONSTER』全18巻(小学館)

三島たしかに、そうですね。高いビルがないのは、僕が自由が丘を気に入っている理由の一つで。歩いていても圧迫感がないんですよね。これが山手線内のほかの街と決定的に違うところだと思いますし。そういうのが知らないうちに影響しているんですね。

浦沢そうですね。『MONSTER』は担当編集者と週1回ミーティングをして話を作っていこうと決めていて、その打合せ場所が自由が丘の喫茶店だったんですよ。そこはもうなくなってしまいましたが。

三島そうなんですか! 自由が丘の喫茶店で物語が生まれていたってすごいですね。

浦沢直樹さん

YAWARA!』全29巻(小学館)

浦沢喫茶店で目の前に座っている人をキャラクターにしちゃったこととかね、よくあったんですよ。『YAWARA!』に出てくる加賀邦子という、恋のライバルで巨乳のメガネっ子がいるんですが、そのキャラクターをどうしようかと考えていたときに、向こう側の席に座っていたんですよ、思い描いていたような感じの方が。それで、その場でバーッとデッサンしました。あとは本の中でも話していますが、『20世紀少年』の世話焼きおばちゃんもそうですね。自由が丘のスーパーで買い物をしていたら、横にいたんですよ、「あ、この人だ」と思えるおばちゃんが。

三島おばちゃんもびっくりですね! もちろんご本人はご存じないでしょうけれど。じゃあ自由が丘を歩いていたら、キャラクターのモデルに使っていただけるチャンスがあるかもしれないですね。


※明日に続きます!

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浦沢直樹うらさわ・なおき

1960年東京生まれ。1983年デビュー。1989年『YAWARA!』で第36回小学館漫画賞を受賞、『MONSTER』『PLUTO』で二度の手塚治虫文化賞マンガ大賞受賞など受賞歴多数。海外での評価も高い。現在「モーニング」(講談社)にて『BILLY BAT』を連載中。
音楽活動も活発で、アルバム「半世紀の男」を発表している。

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