今月の特集1

浦沢直樹さん

 そもそものきっかけは、漫画家・浦沢直樹先生のスタジオとミシマ社のオフィスが、ほど近いところにあるということでした。
 『自由が丘の贈り物』にご登場いただけただけでも夢のようでしたが、去る8月4日、浦沢先生とミシマ社三島との、まさかの対談イベントが実現。
 会場となったのは、本書でもご紹介しているcafé イカニカさん。この完全地元密着型のイベントでは、自由が丘のこと、本づくりのことなど、2時間にわたるトークが交わされました。3回目の今日は、浦沢先生の自由が丘お気に入りのお店のお話です。

(文:皆川夕美、写真:新居未希)

「自由が丘と本づくり」浦沢直樹さん×ミシマ社三島 トークイベント

2013.08.22更新


自由が丘のとんかつ・オムライス談義

三島自由が丘にあるお店で、オススメがありましたら教えてください。

浦沢亀屋万年堂の向かいにある、直出しワインセラーのお店はいいですよ。隣のワインショップから買って持ち込めるので、リーズナブルに飲めるんですね。しらすのかかったペペロンチーノがメニューにあって、もういいよっていうくらい、しらすをかけるんですよ、こんもりと。ただ、あそこはなかなか予約取れないんですよね。あと、駅近くのカフェのオムライス。

三島今日、お昼に食べました。大葉が入っていておいしいですよね。でも夜に行くと、ご飯切れの時がありますね。人気なんですね。

浦沢直樹さん

浦沢自由通りにあったお店のオムライスもおいしかったんですよ。「オムライス」って注文するとおじいちゃんが上の階から降りて、オムライスを作り出すんですね。ときどきおばあちゃんが作るんですけど、やっぱり違う。おじいちゃんの味が本当にうまかった。

三島オムライスに命を捧げていますね。

浦沢なくなってしまったお店ばかりなのですが、昔、自由が丘デパートの向かいに、とんかつ屋がありましたよね。ご主人がもうご高齢で、しばらくお店を閉めてらして。でも、あるとき一日だけ暖簾がかかっていたのでお店に入ったら、ご主人が「ご無沙汰しておりました」と深々とお辞儀をしてくださって。覚えていてくださったんですよね。でも、それ以降はまた閉まってしまったんです。

三島ああ、そうですか。残念。この本でよしもとばななさんがエッセイを書いてくださっているお店で、奥沢のとんかつ屋さんがあるんです。そこのカツカレーが、本当においしいんです。僕も今回はじめて食べに行って、ひとくち口に入れた瞬間に「はあ~」ってなりました。大将も奥さんも素敵な方で。

浦沢奥沢といえば、ある画廊でライブをやったんです。オリジナルの曲を10曲くらい、歌いました。

三島今度ぜひ、ライブにもお邪魔させていただきます!


「読者の未開の扉を開けるため、悪球を投げた方がいい」(浦沢)

(浦沢先生の作品作りのプロセスやスピリット、大好きな作家スティーヴン・キングの話、理想の編集者像などのお話が続いたあと・・・)

三島ここで最後になのですが、地元のご縁ということで、ミシマ社についてもし何かアドバイスをいただけたら、ぜひお願いします。

(会場から笑いが起こる)

浦沢直樹さん

浦沢でも、こんなにうまくいくと思ってなかったでしょ? うまくいきすぎなくらい、うまくいっているでしょ?

三島いえいえ、全然です。

浦沢外から見ていると、各出版社がうらやむほど、好きなものを楽しげにやっているように「見える」んです。苦悩が表に見えてこないのは、すごいと思いますよ。

三島実際は、溺れそうなところでもがいています。

浦沢でもやっぱり紙の、本でしかできないことをやるのは、大事だと思いますよ。僕は『小田嶋隆のコラム道』とか、自分で買ってましたから。

三島え! そうだったんですか。ありがとうございます。めちゃめちゃうれしいです。

浦沢いまの着眼点で、やっていっていいと思います。欲目を出して商業主義に向かうと、マーケティングになってしまうから。それは嫌なんでしょう?

三島マーケティングはしたくないですね。できるだけ直感でやっていきたいです。

浦沢作り手側が「こういうものを思いついたんですけど、どうですか」というスタンスで発表して、読者がそれに反応してくれるかどうかですよね。読者の好きなモノなんて、作らなくていいんですよ。読者だって、好きなモノを出されたって困るんです。

三島なるほど。

浦沢「あ、こういうのもあるのか」という、新しい扉を開いてくれた方がおもしろいじゃないですか。よく、「これ、僕のストライクゾーンです」なんて表現を聞きますけど、それはただ、体の真ん中にグローブを構えているだけだと思うんですね。そうでなくて、もっと手を伸ばして遠いボールを取りに行こうよ、と言いたいんです。だから作り手側も、どんどん悪球を投げた方がいい。

三島悪球を投げる自信はあります。なんか、勇気が出てきました。悪球だけでいいのかなと思うことが、最近多かったので。

浦沢まあ、届かないほどじゃ、さすがにね。それだと暴投だから(笑)。

三島これからも、悪球を投げ続けていきたいと思います。ありがとうございました!

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浦沢直樹うらさわ・なおき

1960年東京生まれ。1983年デビュー。1989年『YAWARA!』で第36回小学館漫画賞を受賞、『MONSTER』『PLUTO』で二度の手塚治虫文化賞マンガ大賞受賞など受賞歴多数。海外での評価も高い。現在「モーニング」(講談社)にて『BILLY BAT』を連載中。
音楽活動も活発で、アルバム「半世紀の男」を発表している。

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