今月の特集1

「好きだと叫びながら自転車のペダルを思いっきり漕げるような、恋がしたい」

Cocco、歌手、沖縄県出身、東京都在住。気が付けば干支を三まわり。一瞬に散らばる夢の欠片を拾い集めて生きる女性。――36の断章(メッセージ)。

待望のCoccoさん最新エッセイ『東京ドリーム』がいよいよ発売です!!
ミシマガジンでは、本書に込められたCoccoさんの想いをいち早くインタビュー。心が瑞々しくなるような、まさに総天然色の言葉たちがどのようにして紡がれたか、一瞬で目を奪われるカバーの絵はどのように生まれたか、そして「東京ドリーム」とはどんな夢なのか。これらが1冊の本になるまでの軌跡を、感動と爆笑のエピソードを交えて、ここにお届けします!!

(聞き手:三島邦弘 構成・写真:森オウジ)

東京ドリームを探して―Cocco 第3回 少年よ、スマホを捨て、「原始」を学べ

2013.10.24更新

わからない曲があったら、まず歌おう

―― 「お見送り」というエピソードで、「謎を謎のまま胸の中で膨らませたり萎ませたり、延々と脳裏を駆け巡らせたりとしている内に生まれるそれら独特のリズムや色香は可愛らしい」という一文があります。今は何でもすぐにWikipediaで調べて答をわかった気持ちになってしまいがちですが、Coccoさんは謎を謎のまま大切にされる・・・

Cocco私が子どものころはラッキーだったね。想像できる時間がいっぱいあった。たとえば、子どもの頃に耳で覚えた中森明菜の歌で「他の人愛せれば〜」って歌詞がある。でもその時、なぜか「おなごいのかけ電話」って聴こえてて。

―― それは一体何なんですか?(笑)。

Coccoよくわかんないけど、きっとこの歌は方言か何かで、女の人が電話をかけてて、恋に破れて雨に打たれているイメージが私にはあって。今でもその歌を聴くと、雨に濡れている女の人が電話をガチャンと切るシーンが、ふっと浮かぶ。昔ずっと思っていた、考えていたことがそのまま歌のイメージになっている。
けっきょく聴き間違えているわけだけど、そのとき調べていないからこのイメージを持てている。昔は歌詞すらも調べられないから音だけであたためていられた。心の中のイメージをずっと追いかけることができた。今はすぐ答が出てしまうから想像する時間がない。それはある人にはラッキーかもしれないけど、そうでないこともあるかもしれない。

―― 今はその想像の余地がどんどん減ってますよね。最近なんてスピーカーにスマホをかざしたら曲名がわかるアプリもあるようで。

Cocco私、しょっちゅうCD屋さんで歌ってたよ。どこかで耳にした曲を覚えて、「この曲わかりますか?」って。あるとき、それが Joan Jett & the Blackhearts の 『I Love Rock N Roll』だった。
 レコードショップに行って歌うんだけど、これがみんな、わかんないわかんない。「それKISSじゃないの? お金ないなら聴いていいよ」って言われて、アルバム全部聴かせてもらった。でもなんか違う。
 その後も、バレエ教室にアメリカ人がいたので聞いてみる。その人の前で歌って紹介されたのは、メタル系のよくわからないミュージシャン。これまた間違い。
 ぐるっと回ってどこかのCD屋さんで、ようやく Joan Jett & the Blackhearts に辿り着いた。もうほんと、寄り道ばっかり。でもこの寄り道がなかったらKISSも知らなかったし。そういう寄り道ができるチャンスが今、ないね。

―― すぐに見つかりはするんですけどね...。

Coccoそうそう、すぐに答えに辿り着いちゃう。でも、Joan Jett & the Blackhearts なんて何度も回り道して辿り着いたから、けっきょく特別な1枚になっていった。今でも聴くと、イエーーーイ!!! ってなる。もう何十回歌ったんだろうね。


電話番号は覚えるもの?

Coccoでも私、わりとひとりが好きだから、ひとりで調べられたらそこで完結してひとりになっちゃう。幸か不幸か携帯もパソコンも使い方がわからないから、他人に会って聞くしかない。それは自分を社会性のある人間に保ってくれている。他人に聞かないとわからないから、ひとりになれない。でも携帯とか持ったら人に会わなくなるかもしれない。ひとりになってしまうかもって思う。
そんな自分を知っての上で、持ってない方がいいと思っている。だから私は、映画を見ようと思うと、今でも映画館に電話してしまう。
誰かといると、みんなすぐに調べちゃう。「みんなすっごいね!電話しないの? あ、でも私、番号言えるよ?」みたいな。

―― (笑)。確かに番号は覚えなくなりましたね。

Coccoだから時々、自分の家の電話番号を覚えられない子は心配してしまう。今の子って携帯に「おうち」で登録されてるから、番号を知らない。それはいざというとき、とっても危険。
 それに番号を覚えていると、数字とセットでその人のことを覚える。このひと「2」が多いなって思ったら、なんかプレゼント買うときも200円のものがあの人に似合うっていうような発想もできる。

―― 携帯になんでも預けているから、人自体に何もなくなる。落とした瞬間、親にも電話できないんですね。僕らはまずは家の番号覚えさせられましたもんね。
ということは、14歳の息子さんも携帯はもっていない?

Coccoもちろん携帯持ってない。
 なんか、「友だちが持ってるから」とか言ってなにげにねだられたこともあるけど、ナメんなお前、って思う。同じもの持ってないと友だちになれない友だちなんて最初からなくしちまえと。いらねえよと。私があんたのこと100倍愛してるから問題ない。グレてくださいどうぞ! みたいな。オレと勝負しようぜと。

―― しびれます。その通りです。

Coccoある時、うちの子どもが「iPodがほしい」とか言ってきて、ふざけんなってことで一蹴しようと思った。けど、あいつは頭がいい。「Coccoとか聞けるよ? サッカーの試合の前に? テンション上げちゃうんだ」とか言ってくる。
 なるほど言ってくれるぜと思って、買ってやったのがSONYのカセットウォークマン。

―― カ、カセット?

Cocco自分の好きなテープをつくるんだよって、片面にうまくおさまる分数にまとめてB面に行くんだよとかを教えた。見た目にはイヤホンでiPodを聴いてるふうだけど実際はカセットウォークマンという(笑)。

―― (笑)。

Coccoしかも彼のカセットウォークマンはちょっと壊れてしまったので、現在は割り箸とガムテープで補修されてる。
 昔はテレビで歌手が歌ってるのを、録ったものだった。テレビの近くで「シーッ」って静かにして録ってたらお母さんが帰って来て「ガラガラ〜ただいまー」で、がっくり、みたいなことも起きた。悲しいけれど、それで「録音」ということがわかる。
 テープも切ってくっつければ「編集」できるとかがわかる。こうした基礎的なことがわからないで、さらに高いレベルのことやってしまうと、本当に魔法使いの話にしかなんない。火のおこし方がちゃんとわかってたら、水をかけたらダメな火のこともわかる。大体の電化製品はドライヤーで乾かせば動くとかもわかる。そういう基礎を私と一緒にいる間に学んでほしい。家にいるうちは原始を学べと。その後は、信じるしかない。

―― まったく、「ついていきます」と言いたくなります(笑)。かっこいい大人が確かにここに一人います。

*いよいよ最終日の明日は、「Coccoさんと本と本屋さん」。そして『東京ドリーム』というタイトルの謎に迫ります。お楽しみに!

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Cocco(こっこ)

1977年 沖縄県出身 歌手
96年日米インディーズデビュー。
97年ビクターSPEEDSTAR RECORDSより日本メジャーデビュー。CDシングル16枚とアルバム9枚を発売。音楽以外のフィールドでも絵本、エッセイ集、小説などの出版物を発表。

2011年6月東日本大震災救援企画「Cocco Inspired movies」発売。同年映画「KOTOKO」初主演。ベネチア国際映画祭オリゾンティ部門最高賞他多数受賞。2013年8月DVD「Cocco ベスト盤ライブ~2011.10.7」発売。

著書に、絵本『南の島の星の砂』『南の島の恋の歌』エッセイ集『想い事。』『こっこさんの台所』『コトコノコ』小説『ポロメリア』がある。

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