今月の特集1

 2013年12月末、『あわいの力 「心の時代」の次を生きる』を発刊しました! 著者は、安田登さん。能楽師のワキ方として活躍されている一方、古代文字の研究もされています。とりあえず、この数行ではお伝えしきれない、すさまじい知の世界をお持ちの方なのです。
 いっぽう、ミシマガでも「これからの建築スケッチ」でおなじみの建築家・光嶋裕介さんは、大学院を卒業したあとドイツの建築設計事務所で働き、2008年に建築家として独立。内田樹先生のご自宅兼道場である「凱風館」をはじめ、多岐にわたり活躍されています。

 そんな安田先生と光嶋さんが、『あわいの力』の刊行を記念して、恵文社一乗寺店で対談をすることになりました。年末にもかかわらず、たくさんの人でいっぱいの会場。まだ読まれていない方のために、できるだけ本の内容には直接触れないように、おふたりは話し始めました。
 どーんと全部をご紹介! ・・・したいのですが、あまりにも広大な対談だったため、ぎゅぎゅっと凝縮してお送りします。今日は、光嶋さんにご登場いただきます!

(文:熊谷充紘、新居未希)

『あわいの力』刊行記念対談 安田登×光嶋裕介

2014.02.25更新

一瞬にして、響くかどうか

 こんにちは。建築家の光嶋裕介です。
 『あわいの力』を拝読して、おもしろさに心が震えました。なかでも心の三層構造、表層に「こころ」、その下に「おもひ」、さらに底に「心(しん)」があるというのが、とくに気になった部分でした。

 僕は初めて能を見たときに、「能はジャズのライブに似ているな」と思ったんですね。ジャズライブに行くようになると、せっかくだからいろんな弾き手の動きを逃すまいと、つい一生懸命に見てしまっていたんです。
 けれどもいいライブというのは、目の前の生演奏を聴きながら風景が見えるというか、ある種のトリップさせてくれる感覚があるんです。その感覚こそが自分に備えられたセンサーだと思うんですよね。能やジャズによって自分の身体的センサーが刺激されることによって新たな創造を触発するような力というものは、心の深い部分に繋がっているんじゃないかと思いました。
 今まで自分が出合ったなかで感動した建築はたくさんあるのですが、いい建築は「心(しん)」で語っているため、文句なしに素晴らしい。言葉による説明の必要が一切ないんですよ。一瞬にして響くか、響かないか。それは「心(しん)」の部分によるコミュニケーションだと思います。


人間なき建築は存在しない


 建築をしているなかで、最近よく「時間に対する意識が欠落し始めている」と感じるようになりました。
 建物の空間というのは、人が入らないとただの廃墟ですよね。だから僕は、人間なき建築は存在しないと思っています。
 更に、人間が入った瞬間に流れる時間についても考えなければならない。
 いま我々は、大げさに言えば、歴史を作っているんですよね。いまこの場所で話させていただいていることが、この場所のなにか、空気の粒子になってどこかにくっついていくんですよ、たぶん。僕は、そのような感覚を大事にしていきたい。

 また、ヨーロッパにいたときは建築空間に連綿と積層した時間をよく感じることがあったんですが、日本の建築における時間という概念の優先順位が低くなっているように思うんです。
 たとえば原宿・表参道という道を半年ぶりに歩くと建物がコロコロと変わっていて、前になにが建っていたか全く思い出せない。それって、とっても哀しいことじゃないですか。あの都市の変化するスピード感というのは、ちょっと異常ですよね。


人間的なスピードで


 僕は常々、建築の大事な役割のひとつは、「記憶の器」であると思っています。ここに、この瞬間に、なにかが堆積していく感覚が芽生えるような空間をつくっていきたいのに、スクラップ・アンド・ビルドという経済合理主義に基づく、あのスピード感は、決して人間的じゃない。

 心と時間ということを考えたときに、建物、街というものこそが、記憶となってしっかりと根づいていくべきだと思うんです。もちろん、すべての古いものをただ残せと言っているわけではなくて、当然古い建物をつぶして新しいものをつくることも必要かもしれないが、歴史に対する敬意、時間の感覚をもっと意識したいですよね。そのときに「あわいの力」に対する感受性が大切な気がしています。
 何百年先まで建ち続ける建築を作りたいのであれば、やはり何百年も前のことを考えるのは当然なわけで。歴史を知らないと未来を作れないというか、長いスパンの時間感覚をもつためにこそ「心」が鍵になってくるんじゃないかと思うんです。

 日本はもちろんヨーロッパとは風土が違うし、石と木という建築文化も違いますが、それでも日本において時間感覚が短くなっていることが気になります。
 個々人が想定している時間が短いということは、逆に言うと打てば響くような状態で、結果がすぐにわかるということですよね。時間軸が長くなると結果はすぐにはわからないですから、不安になるのかもしれません。
 でも僕はもっと、感覚としての時間軸を長く持ちたいんです。時間軸の大きさは人間の萎縮してしまっている視野を、もっと広くするきっかけになるのではと思っています。

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