今月の特集1

 『小商いのすすめ』、そしてミシマガでおなじみ「隣町探偵団」の平川克美先生が、3月4日に喫茶店をオープンしました。
 その名も「隣町珈琲(かふぇ)」。
 隣町探偵団の活動の舞台となっている東急池上線沿い、荏原中延の商店街に、そのカフェはあります。探偵団の基地と位置付けられる一方で、平川先生自らが「小商い」を体現しておられる場所となれば、これはもう、取材に行かないわけがありません!

 店内の雰囲気は? 経営方法は? 商店街にある理由は?
 ミシマ社でデッチとして働いている学生たちが、憧れの平川先生のもとを訪れ、お話を聞いてきました!
 大学生・就活生ならではの疑問や悩みにもお答えいただいています。
「じいさんのため」に開店したという隣町珈琲ですが、この記事は、若者も必読です!!

(聞き手:角智春・野津幸一  文:角智春 写真:星野友里)

デッチがゆく! 隣町珈琲編

2014.03.25更新

特集1


じいさんのためのカフェ

平川このカフェはね、実はあんまり若い人向けではないんだよね。

―― そうなんですか? 来たい人は多いと思います。

平川もちろん、来てくれるのもいいんだけどね。もともとじいさんが集まれる場所がないでしょ、今。これからは街にじいさんがあふれるわけです。東京オリンピックが開催される2020年には、人口の3分の1がじいさんになる。成人の半分は60歳以上になります。だから、それにあわせた街というものをつくっていかなきゃならない。そこで、家から駅までの中継地点として、500円でゆっくり休憩できる場所があるといいね、と。そこに行ったら誰かがいて話ができる、といった、中間コミュニティをつくれる場所にしたいと思っています。

―― 隣町珈琲では、座学の講座も開かれるとお聞きしました。

平川やります。「じいさんのためのパソコン教室」や、「じいさんのための英語教室」。5月くらいから、月1回のペースで。それ以外にも、ジャズライブや落語会をやろうと考えています。約20席あるので、そのくらいの規模で。

―― やっぱり、つながりがほしい、という方はたくさんおられると思います。

平川そうだよね。街のなかにさ、「非生産的な空間」というものが必要なんだよね。何もつくっていない、という空間。今までぜんぶ効率社会でやってきたでしょう? だから、たとえばこういう喫茶店をやっても、儲かるか儲からないかの話になるじゃないですか。そうじゃない発想でやれるかどうかだよね。というか、やらないとたぶんもたないんだけどね、この社会が。

―― 「非生産的な空間」というものによって、人のつながりが新しく生まれはじめるのですね。

平川みんなそれぞれぎりぎりだけど、とりあえず生きていける、という考え方ですね。「生きていりゃあ、まあいい」と。昔はそういう発想だったんだよ。雨露をしのぐ屋根があり、週に一度ぐらい日本酒を1本飲めればそれでいいね、と。それだと、コストはあまりかからないわけですよね。そうやってささやかな楽しみをもつことが大事なことだよ。


いい加減でいいんだよ

―― 「若者ではなく、じいさんのための」というお話をうかがいましたが、ミシマ社に来る学生さんたちのなかには、平川先生の本をよく読んで、お考えに興味を持っている人がたくさんいます。

平川学生は「小商い」という言葉にすごく反応したよね。でもあのタイトルは、俺じゃなくて、三島くんのアイデアだからね(笑)。

―― 私自身、学生として、「これからどのように働けばいいのか」ということを非常に切実な問題として考えている立場なので、「小商い」というキーワードはすごく響きました。

平川学生は考えすぎだよね。初任給がどうだとかさ、将来がどうだとか、そんな先のことはわからないよ。もうちょっといい加減でいいんだよ。ちゃらんぽらんやっていればいいよ。ただ、勉強はしないとだめだよ。やっぱり、何か蓄積しておかないと、ただの空っぽだと厳しいよね。なにかあれば、そこを軸にして人間関係ができたりしますから。

―― ありがたいです。そういうことを言ってくださる方はとても少ないんです。「もっと考えろ」とばかり言われてきた気がします・・・。

平川内田くん(編集部注:内田樹先生)にしても、俺にしても、相当いい加減だったよ(笑)。
 なんかそこで人生が決まっちゃうような、妙な思い込みで会社に入るんだけど、実際はその後つらくてどうしようもなくて、辞めちゃう人が多いんだよね。もうちょっと楽に考えていいんですよ。「死ななきゃいい」くらいに考えていると、だいぶ選択肢が広がるよ。

―― 「ここで無理をしてでも職を得ないと、人生が決まってしまう」という考え方で就職活動をして、壊れていくという学生は多いのではないかと思います。

平川「だいたい」でいいんだよ。お金も、ネットワークのなかの誰かが持っていればいい。全部自分でやろうとするのではなくて、いろんな人とつながっていることが大事。孤立するから、武装しようとするわけだよね。孤立と競争を前提としているから、今のような就活のやり方になる。
 でも、孤立しないで共生していけば、「与太郎」も生きていける。江戸時代の長屋には与太郎がいたわけでしょう。なにも生産しない人でも、そこにいて空気を和ませたりすることで、共同体のなかでの役割を果たしている。

―― 「死ななきゃいい」というスタンスでやっていると、人間関係というものが一番大事になってきて、そこから何か面白いものが生まれてくるかもしれないですね。

平川僕、前に内田くんたちと翻訳会社をやっていたでしょ? で、誤訳とかが指摘されたり、クレームがきたりしたわけだよ。もちろんそれは良くないことなんだけど、ちょっと訳を間違えてもね、人が死ぬわけじゃないんだよ(笑)。

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