今月の特集1

「THE FUTURE TIMES」0号(創刊準備号)

 どうしても話をうかがいたい人がいた。アジアン・カンフー・ジェネレーションの後藤正文氏。自費で発行するフリーペーパーの編集長も務めている。
そこに掲載されている言葉の数々に、ほってはおけない熱を感じた。たとえば0号(創刊準備号)の冒頭――。

「僕が知らない間に
いや、知らないふりをしている間に なんだか不味いことになっていた
ひどくこんがらがって 自分で自分を縛っているような
そんな社会になってしまった」

 まさに同時代に生きる人。そう思った。たとえ同じ時代に生きていても、同時代感覚をすべての人と共有できるわけではない。同じ時代を生きることと、同時代感覚をもつということは別の話だ。その意味で、後藤さんは自分にとって、まさに同時代感覚の持ち主だった。

 今回、「僕たちの世代」という特集のなかで、音楽、建築の世界で活躍中の同世代のお二人と話しあいました。
「この時代における音楽、建築、出版そして表現とは?」
 その役割、意味、展望・希望・・・さまざまな角度から「僕たちの世代」が浮かびあがってきたように思います。

 場所は、光嶋裕介さんが設計された内田樹先生のご自宅兼道場「凱風館」(兵庫県住吉)。
 当日蓋をあけると、内田先生、釈撤宗先生が「聴衆」というなんとも驚きの環境で開催されたことをひとこと付け加えておきます。大先輩方の前で、私たちはいったい何を話したのでしょう?
 全3回でお伝えいたします。

(構成・写真:新居未希、構成補助:赤穴千恵)

僕たちの世代 光嶋裕介×後藤正文×三島邦弘 「世代と時代」

2014.05.19更新


「怒りって、抱えてますか?」(光嶋)

光嶋先日ふと「なにかモノをつくるには、怒りが必要だ」という言葉を耳にして、「僕はどうかなぁ」と考えることがありました。自分自身で言うならば、阪神淡路大震災や同時多発テロ、そして3.11がおき、怒りというか建築や都市に対してある種の絶望みたいなものを感じたんですよね。けれど、それらを通して感じたものの根底にあるのが、怒りか絶望かはわからない。音楽や出版においても、怒りって抱えているものですか?

後藤うーん、難しいですけどね。ある種の無力感は前提にあります。たとえば、ジョン・レノンが「イマジン」をつくっても戦争はなくならなかった。そういう意味では音楽が本当に世界を変えるのかというと絶望を感じてもいるし、その一方で、ジョン・レノンによって人生がかわった人もたくさんいる。でも・・・なんか僕は、「怒りから生まれる」なんて断言されると、それ自体に抗いたくなりますね(笑)。

三島それはたしかに。

光嶋そうか。僕があのときに感じた違和感って、断定だったからだなあ。ふと「怒り」って言われたとき、「あれ、僕にとっての怒りってなんだろう」って思ったんですよね。そもそもなんで怒らなきゃいけないんだ、っていう。

後藤怒ってない人もたくさんいますよ。言葉を一言でまとめすぎるのは、美しくないです。







「単純じゃないほうが安心します」(後藤)

Gotch『Can't Be Foever Young』(only in dreams)

後藤そうは言っても、負の感情から生まれるいいものもあったりはしますよね。けれどたとえば僕は、ソロとして作ったはじめてのアルバム『Can't Be Forever Young』なんかは、怒りが原動力ではないです。

光嶋それは、怒る具体的な対象がいなくなったということなんですかね?

後藤いや、そんなことないですよ、怒ってますよ日々。

光嶋・三島日々!(笑)

後藤いや、日々ニュースを見てウガーッとなるけれど、「うわー腹立つ安倍政権! よし、音楽つくろう!」とはならない(笑)。なにがしかの感じたことは自分のなかにあるとは思いますけど、そういうつながり方ではないですよね。

光嶋たしかに。3.11のことだって、忘れるなとかがんばろうって言っても「よし、いい建築つくろう!」って、そんな単純な接続の仕方じゃないですもん。

後藤単純じゃないほうが安心しますよね。目的と行動がばちっと繋がるときのほうが怖いんじゃないか、ちょっと考えろよってシグナルがパカパカでます。

光嶋たしかに、社会的に誰に対して音楽をつくるんだって明確に言語化できたら、それこそ怪しい。考えてつくり続けることの中にしか、結果はわからないんですよね。







「全部壊して解決って、それは危ない」(三島)

後藤時々思うんですよ、ぶっ壊すことが本当に正解なのか? って。僕たちの時代の抗い方は、そっちじゃないという気がしています。ちゃんとしたいし、上手く回そうぜって。もちろん法律やしくみを変えなきゃいけないときもありますけど、この流れとか、システムの中でどれが一番滑らかに動くかを考えるのが面白いことなのではないかと思っていて。僕たちの抗い方はこっちなんじゃないかな、と。

光嶋いや、ほんとうにそうですね。

後藤もしかしたら、就職のときに上手く回ってなかったことに対するとばっちりというか、「就職がないのは俺たちのせいじゃないだろ」って思いがあった人もいるだろうけど。

三島たしかにあの頃(90代終わりから2000年代初め頃)、上の世代のせいだとか制度も壊そうぜって文脈がばーっとでてきた気がします。終身雇用、年功序列の廃止とか、急に声高に言われ出しましたよね。でも「一気に全部壊して解決」させようという発想は、それ自体危ないって気がします。

後藤社会がドラスティックに変わるっておっかないですよ。毎週革命なんて起きたらやだもん(笑)。

光嶋それは大変だ(笑)。

後藤だから、あんまり変わらないほうがいいんだっていうような考え方は、一種の知恵なんだなって思う部分もありますね。

光嶋あるひとつの集合知みたいなものに対する感性というかね。

後藤社会ががらっと変わるより、少しずつのほうがいいですよね。







「建築は、街を変えますよね」(後藤)

後藤それって、建築のほうが考え方が近いんじゃないですか?

光嶋そうですね。建築のスピードって、圧倒的に社会の流れる速さには間に合わないですからね。たとえば、今考えていることが建築として完成するのは1,2年後なんです。だからその時差を考えると、今思いついていることを疑わないと、それこそ時間に耐えられない。長い時間軸を意識してつくることを考え続けたいですね。

後藤でも建築は、街を変えますよね。駅の建物がよくなるだけで気分がよくなったりするじゃないですか。ベルギーのリエージュってところの駅は、天窓で最高にかっこよかった。「ここに降りたい!」って思いましたもん。

光嶋その感覚って、やっぱり建築の力なんですよね。それって数値化できないじゃないですか。「この駅すごいでしょ」って、説明する必要がないんですよ。入ったら瞬時にわかる。子どもが自然と遊び回りたくなる空間って、いきいきしていて、その良さは説明不要ですよね。

後藤建築ってきっと、その街の人の美意識を表してますよね。

光嶋ひとつの建築が、時間をかけて周りに影響を与える可能性を秘めている。そこに住まう人たちのふるまいを規定するし、街としての美意識の鏡でもあるはずなんです。

後藤そう考えると、もうちょっとまわりの建物がよくなると気分よく暮らせるのかなあ(笑)。

光嶋僕は、循環や統一性みたいなもので「これはだめだよ」って排除してしまうのではなくて、もう少し色んなものが同居をする方向に目を向けられないかなと思っています。

三島先日のミシマガの連載記事でも、「建物はその人のものだけど、外から見れば公共物なのだから、その意識をもったほうがいい。そこがベルリンと日本との違いじゃないか」と書かれてましたよね。

光嶋地域の人たちが、自分たちの街というか周りの環境に対して発信しているんだと意識を少しでももつことができるかどうかは大きいですよね。都市には同居しうるんですけど、「俺の家だからいいだろ」っていう風に個々人が独立してしまうとね。

後藤ガウディくらいぶっとんでたら、認めざるをえないですけどね(笑)。街中を歩いてると、「あのまがまがしい結婚式場はなんだ!」とか思うんですよ。作る人のアーティスト性によって建てられてるから。

三島なるほど。

後藤だから、生活の場にアートが出ないほうがいいんじゃないかな。ある種の付加があったほうが調和しますよね。芸術って生活の場ではあんまり信用していない。

光嶋芸術は、癖みたいな強い個性がありますし、趣味なども関係してくるので、取り扱い注意みたいな感じですよね。

後藤どこまで自由にやっていいのかな、ってところですよね。ものづくりに関しては、制限があったほうがいいものをつくれると思います。

三島たしかに。原稿も、締め切りがあるからこそ書けますよね。


*第2回「身体と言葉」はこちらです。

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光嶋裕介(こうしま・ゆうすけ)
1979年アメリカ・ニュージャージー州生まれ。建築家。東京・目黒と、兵庫・神戸在住。
2002年早稲田大学理工学部建築学科卒業。2004年、大学院卒業とともにドイツの建築設計事務所で働く。4年後に帰国し、事務所を開設。一級建築士免許取得。首都大学東京・都市環境学部助教。
著書に『みんなの家。~建築家1年生の初仕事~』(アルテスパブリッシング)、『幻想都市風景』(羽鳥書店)、『建築武者修行~放課後のベルリン』(イースト・プレス社)がある。
光嶋裕介建築設計事務所


後藤正文(ごとう・まさふみ)
1976年静岡生まれ。ASIAN KUNG-FU GENERATIONのボーカル&ギターを担当。すべての楽曲の作詞と、ほとんどの作曲を手がける。また、新しい時代やこれからの社会など私たちの未来を考える新聞「THE FUTURE TIMES」を編集長として発行。2014年4月30日、自身初となるソロアルバム『Can't Be Foever Young』をリリースした。


三島邦弘(みしま・くにひろ)
1975年京都生まれ。京都大学文学部卒業。出版社2社で単行本の編集を経験したのち、2006年10月、単身、株式会社ミシマ社を設立。現在は8名のメンバーとともに、「原点回帰」を標榜した出版活動を行っている。
著書に『計画と無計画のあいだ』(河出書房新社)がある。

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