今月の特集1

 今月20日(金)、ミシマ社から『「消費」をやめる~銭湯経済のすすめ』(平川克美著)が発刊されることとなりました。大きな反響をいただいた『小商いのすすめ~「経済成長」から「縮小均衡」の時代へ』の発刊から約2年半。

 そのあいだに「小商い」という言葉は時代の方向を示すキーワードとして、さまざまな媒体で目にするようになりました。そしてそれと同時に、著者の平川克美先生ご自身の生活の「小商い」化もまた、どんどん進んでいたのです。

 今まであまり語られることのなかった、消費第一世代=団塊の世代としてのご自身の消費原体験や、株主資本主義ど真ん中のビジネスの経験。そしてマクロな視点で振り返る、戦後70年間の日本の消費化の歴史。

 その2つが重層的に語られ、次第に平川先生が最近実践されている「銭湯経済」という暮らしのあり方へと、話は進んでいきます。
 私たちの未来のあり方の可能性のひとつを描き出す一冊、どうぞご期待下さい。

 今回のミシマガジンの特集では、発刊に先行して本書の一部を公開するとともに、『いま、地方を生きるということ』の著者、西村佳哲さんとの発刊記念対談も掲載いたします。どうぞお楽しみください!

「消費」をやめる 銭湯経済のすすめ

2014.06.10更新

*その1はこちらから


 あれは、小学校の一年生か二年生のころでした。家の近所に、二軒の文房具屋がありました。もはやどっちの店かは覚えていないのですが、とにかくわたしは、文房具屋で買いものをします。
 その額、五〇円―。

 当時の五〇円をいまの貨幣価値に換算すると、おそらく五〇〇〜一〇〇〇円ぐらいではないでしょうか。その五〇円をどうやって手に入れたのか、おそらくお年玉か何かだと思いますが、はっきりとしたことは覚えていません。その五〇円で何を買ったのかも、ちょっと記憶にありません。
 まあとにかく、それぐらいの額の買いものを、小学校低学年の子どもがひとりでしたわけです。
 いまの小学生なら、五〇〇円ぐらいの買いものをすることは普通のことですよね。

 けれどもそのとき、わたしの親は、子どもがひとりで五〇円を使ったことに対して、かんかんになって怒りました。そのすさまじい怒り方にさすがにびっくりして、「おカネというのは使っちゃいけないものなんだな」と強く感じたものです。戦中派の親世代にとっては、子どもがおカネを使うということが、それほど特別な、悪徳ともいえる行為だったのです。
(中略)

 かつては、おカネ持ちは、どこかいかがわしい人間だと思われていたところがあります。それが次第に、おカネ持ちは何か優れた人間だと思われるようになってきます。それもこれも、生産することを中心に回っていた社会が、消費することが中心の社会になったことが原因です。

 こんな劇的な変化が現実になぜ起きたのか、わたしは長いこと不思議で仕方ありませんでした。少なくともわたしは、「貧乏は美徳、カネ持ちはいかがわしい」という価値観で育ったのに、気づけば貧乏が軽蔑されるようになっていたわけですから。
 しかも、この変化は誰かが命じたわけでもありません。誰に命令されたわけでもなく、まるで宗教を改宗するかのように、価値観の劇的な変化が起きました。それがなぜ起きたのか、長いことずっと理解することができませんでした。
(中略)

 この変化が長いあいだ疑問だったのですが、後になって振り返り、ようやく理解することができました。ポイントはおカネがいちばん大事になったということ、おカネの万能性というものが社会のなかで、最大化したというところにあります。
 いや、いつの時代でも誰にとってもおカネは大事なものです。

 でも、おカネより大事なものがあると誰もが信じていた時代もあったということは、覚えておいていいと思います。もちろん、半ばは貧乏人の僻もあるのでしょうが、多くの人がおカネより大事なものがあると信じているような世界を想像してみるのは悪くはないと思います。

 おカネはとても大切なものだが、それよりももっと大切なものがある。この言い方のなかには、論証できるようなロジックがあるわけではありません。ただ、世の中を生きていくうえでの信仰といいましょうか、信念のようなものがあるだけです。でも、その信念が世の中をどこまでも、競争的な世知辛いものにすることを押しとどめている。人間を少しだけ慎み深いものにさせる。生活に規矩というものを与えてくれるということです。

――第一章 消費者第一世代として より


*続きは13日(金)に更新します!

お便りはこちら

みんなのミシマガジンはサポーターの皆さんと運営しております。

平川克美(ひらかわ・かつみ)

1950年東京生まれ。1975年、早稲田大学理工学部機械工学科卒業。渋谷道玄坂に翻訳を主業務とするアーバン・トランスレーションを内田樹らと共に設立、代表取締役となる。現在、株式会社リナックスカフェ代表取締役。立教大学特任教授。著書に『小商いのすすめ 「経済成長」から「縮小均衡」の時代へ』(ミシマ社)、『ビジネスに「戦略」なんていらない』(洋泉社新書y)、『株式会社という病』(文春文庫)、『経済成長という病』(講談社現代新書)、『移行期的 混乱―経済成長神話の終わり』(筑摩書房)、『俺に似たひと』(医学書院)などがある。


『小商いのすすめ』
平川克美(ミシマ社)

バックナンバー