今月の特集1

 今月20日(金)、ミシマ社から『「消費」をやめる~銭湯経済のすすめ』(平川克美著)が発刊されることとなりました。大きな反響をいただいた『小商いのすすめ~「経済成長」から「縮小均衡」の時代へ』の発刊から約2年半。

 そのあいだに「小商い」という言葉は時代の方向を示すキーワードとして、さまざまな媒体で目にするようになりました。そしてそれと同時に、著者の平川克美先生ご自身の生活の「小商い」化もまた、どんどん進んでいたのです。

 今まであまり語られることのなかった、消費第一世代=団塊の世代としてのご自身の消費原体験や、株主資本主義ど真ん中のビジネスの経験。そしてマクロな視点で振り返る、戦後70年間の日本の消費化の歴史。

 その2つが重層的に語られ、次第に平川先生が最近実践されている「銭湯経済」という暮らしのあり方へと、話は進んでいきます。
 私たちの未来のあり方の可能性のひとつを描き出す一冊、どうぞご期待下さい。

 今回のミシマガジンの特集では、発刊に先行して本書の一部を公開するとともに、『いま、地方を生きるということ』の著者、西村佳哲さんとの発刊記念対談も掲載いたします。どうぞお楽しみください!

「消費」をやめる 銭湯経済のすすめ

2014.06.13更新


 いくつかのことが重なって、一九九九年にアメリカ西海岸のシリコンバレーで会社設立に携わることになります。

(中略)

 二〇〇〇年前後は、アメリカも日本もITバブルのただ中でした。ビジネスカフェジャパン設立の際に、出資を求めてあちこちプレゼン詣でに行くと、なんと五億円もの大金が集まります。出資に応じてくれたのは、アメリカ商工会議所のメンバーやら日本の銀行やら通信会社やら。「使ってくれ」と、億単位のおカネを託されたのは人生ではじめての経験でした。

 その顚末はというと......。十年で五億円を使い果たし、会社を畳むというものでした。
 いい加減にやっていたわけではなく、一所懸命でした。が、何も生み出さずに人件費と投資失敗の山で瞬く間におカネが消えていった。それが、わたしの「暗黒の十年」です。そのときの体験から、わたしは株主主権や成長至上主義の限界を痛感するようになるのです。

(中略)

 わたしが「暗黒の十年」の経験で学んだこと。それは、カネで集まってきた連中は、カネがなくなれば去っていくという単純な事実でした。そして、事業においては、実質的には、最終的な責任は経営者がかぶらざるをえないということです。リナックスカフェの借金で、わたしはそのことを痛感しました。

 次第に、このときの暗澹たる気持ちを言葉で表現したい思いが芽生えてきました。自分が何を学んだかを、書く作業を通じて確認したいと思うようになったのです。

(中略)

 わたしがアーバン・トランスレーションの社長だったころ、毎年はじめに社員にメッセージを渡していました。かれらはよく、「何のために働くんですか?」とか「何で自分はこんな給料なんですか?」とか、わたしからすれば、なぜそんな疑問をもつのか理解に苦しむ質問を投げかけてきました。そういう質問にまとめて答えるために、文章を綴って渡していたのです。

 その文章を内田くんにも渡したところ、かれが面白がって自分のブログに掲載してくれました。それを見つけた洋泉社の渡辺さんという編集者が、わたしのところに書籍のオファーをもちかけてきたのです。なんでも、わたしが書いた「ビジネスは一回半ひねりのコミュニケーション」という言葉や、戦争の言葉でビジネスを語ることへの違和感を、本にして読者に届けたいというのです。

 いまとなっては赤面ものですが、当時のわたしは「戦略コンサルタント」を名乗っていました。こんな本を書いたら自己否定になるし、ただでさえ苦しいビジネスが余計に大変になる......とも思いましたが、書きたい気持ちには勝てず、執筆を引き受けました。結果は案の定......、戦略コンサルタントの仕事の依頼は一切来なくなりました。

 自分がやってきたことを振り返ると、アーバン・トランスレーションにしろ、このときの本にしろ、自分でつくったものを自分で壊すことばかり繰り返しているように思います。あとになってみると何ともバカげた気分になりますが、そのときどきの自分はいたって大真面目です。

 それからのリナックスカフェは、まさに「小商い」です。社員数名でできる範囲に事業を縮小し、『反戦略的ビジネスのすすめ』に関する講演やらを引き受けて、できることを確実にやりながら、少しずつ信用を積みあげるビジネススタイルに変えていきました。

――第三章 消費ビジネスのなかで より



*次回は、平川克美さんと『いま、地方で生きるということ』の著者・西村佳哲さんとの対談をお届けします。

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平川克美(ひらかわ・かつみ)

1950年東京生まれ。1975年、早稲田大学理工学部機械工学科卒業。渋谷道玄坂に翻訳を主業務とするアーバン・トランスレーションを内田樹らと共に設立、代表取締役となる。現在、株式会社リナックスカフェ代表取締役。立教大学特任教授。著書に『小商いのすすめ 「経済成長」から「縮小均衡」の時代へ』(ミシマ社)、『ビジネスに「戦略」なんていらない』(洋泉社新書y)、『株式会社という病』(文春文庫)、『経済成長という病』(講談社現代新書)、『移行期的 混乱―経済成長神話の終わり』(筑摩書房)、『俺に似たひと』(医学書院)などがある。


『小商いのすすめ』
平川克美(ミシマ社)

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