今月の特集1

 2014年末、刊行されるやいなや「傑作!」と話題をさらったマンガ『逢沢りく』。
 ミシマ社内でも、編集部内でそれぞれが購入していたり、泣いた、よかった、素晴らしい、と絶賛の声が止まりませんでした。刊行から3ケ月が経とうとしている今もその感動の声は広がり、読み返すたびに胸をうつシーンの数々があります。
 特筆すべきは、14歳の主人公・りくが、東京から大嫌いな関西の地へ一時的に身を寄せること。父方の大おば一家のこてこての「関西ノリ」に触れるうちに変わっていくりく。その東京と関西の対比や、関西弁の「あるある!」に、東京と京都の二拠点で活動する我々ミシマ社一同は、深く感じるものがあったのでした。

 今回はそんな『逢沢りく』の著者であるほしよりこさんに、お話を伺ってきました。
 『逢沢りく』の魅力存分に、『逢沢りく』「これが私のひとコマ!」を交えてお届けします。インタビューにはめったにご登場されない、ほしさんの貴重なお声をどうぞ。

(聞き手:三島邦弘、構成:新居未希)

『逢沢りく』ほしよりこさん インタビュー

2015.01.27更新

「読む人ひとりひとりのなかにある「逢沢りく」。
 いったい、逢沢りくとはなんなのか? いかにして生まれたのか?
 その秘密の一端に迫りました。


その人その人に歴史があって今がある

ほしいろんな立場の人がいて、どうしてこんなふうになってしまったんだろうと思いながら暮らしています。逢沢りくも、その父も母も、みんな一生懸命なんです。母という立場の人ってどうしてこうなんだろうとか、母と娘ってどうしてこんなふうにこじれるんだろうとか、そういうことを、描くことを通して少しでも見られるかなあと思いながら描いていました。
 ただ、なににしても一人の人に寄り添うと、その人なりの事情やその人が置かれている状況というものがあるので、それは一般的に言えることではないですよね。『逢沢りく』だって、オシャレな東京の両親だからこうなったとかいうことではないです。全然そんな、オシャレな業界人を否定するような気持ちはまったくない。その人その人に歴史があって、いろんな人に出会ったり別れたり、辛い思いやいろんな経験をして今があるんだということを、私としては示したかった。

―― うんうん。

ほしそれを全部説明する必要はないと思うんだけれども、どの人もその人なりに苦しんで、いまベストだと思われることを探ってる。りくの母も、相当あがいて探ってるんです。りくの母なりの苦しみというものは十分にあるものだし、「りくは母親の望んだことをしている」と読まれたりもしますが、母だって決してそれを望んでいるわけではないと思うんです。りくは「母親がこうしてほしいと思ってるから」と思い込んで先回りしてやっているつもりだけれども、母親はりくに泣いてすがってほしかったり......そういうことじゃないかなと思うんです。そっちのほうを彼女は求めていたんじゃないかな。
 そうして上手くいっていないコミュニケーションがずっと続いていっているだけなんじゃないか。そういうことを、いろいろ思います。


社会は、何かを常に与えようとしてくる。

―― 母もそれを望んでいないんじゃないか、というのは重要ですね。

ほし自分が求めているものを正確にわかっている人って、世の中にそんなにいるのかな、と思いますね。とくに大人になって、どんどん複雑になっていく。社会って、いろんなものを与えようとするじゃないですか。なにかを買わせようとしたり、こんなふうに生きさせようとする。いろんなCMで、何かを常に与えようとしてくる。
 そのとき人は、本当は自分には何が足りなくて何を求めたらいいんだろうかと思うはずなのに、そのことには注目しないで、他のことに置き換えさせる。そういうことがすごく多いと思います。本当に求めるものではないのに、努力しないですむように、お金で買えるものやなんとなく「それっぽい」癒される場所みたいなところに行ったりして。

―― 本当にそうですよね。

ほしけれど実際はもう少し、シンプルなことなんだと思います。身近なこと、たとえば周りの人間関係のことでも、普通に話せばいいとか、向きあえばいいというだけだったりする。けれどみんなそれをしない。そうやって向き合うには勇気がいるし、エネルギーを使うから。そういったときに、ほかに与えようとしてくるものに対して、簡単に手を伸ばしてしまう。
 親子関係もそうなんじゃないかなと思うんですよね。『逢沢りく』のりくと母で言ったら、この人たちはそういうことが上手くいけてないんだけれど、本当は大体の人がそうだと私は思うんです。作品では極端な面を描いてるんだけど、みんなそんなもんなんちゃうんかなあ、と。

―― 読者によって、この本の読み方って本当にいろいろあると思うんですね。読むひとによって全然ちがう。いろんな解釈ができると思っています。

ほしそれは、すっごくありがたいです。いろんな人が強く思ってくださっているというのは、作品に「よかったねー!」と言ってあげたいです。ひとつの方向だけに絞られるよりも、物語も活きてくる。それに私としても疑問がいっぱいあるなかで描いているものだから、答えをひとつにはしたくないという気持ちがあります。だから読み方が多いのは、すごく嬉しいです。
 作品を描くことは、ほんとにディスカバリーですね。書くことによって知りたいことが広がっていく面もあるし、最初に描き始めたときには、登場人物がこんなふうに進んでいくなんて思っていなかった。自分にとってもすごく新しい体験だったなあと思います。


上巻P198 一番下のひとコマ
とにかく、おばちゃんの孫である時ちゃんが可愛すぎて
基本的に出てくるシーンは大好きなのですが(笑)、
『逢沢りく』に出てくるおばちゃんや先生、りくよりも年上の
人たちは誰もりくを怒ったり、怒鳴ったりしない。
もちろん時ちゃんにだってそう。それがすごく好きです。
                     (30代・女性)

下巻P55
大おばさんが、自分のお古のスカートをりくに履かせるシーンが
とくにすきです。りくは、おばちゃんのお古の服なんかを気に入って
しまう自分にショックを受けますが、こういう心理ってりくじゃなくても
経験したことあると思います。この人には心を開かないと決めてしまった
相手からは、どんなに嬉しいことをされても嬉しいとは言えない。
気づかないふりをする。この切なさとむなしさ。

と同時に、ほしさんの絵から、このおばちゃんがすごくりくのことを
大切に思ってるんだなあということに気づいて私がびっくりしました。
自分のお古着せて喜ぶとか物をあげるとか、割とよくある迷惑なおばちゃんの
行動ですが(笑)、これってほんとに嬉しくて、その子のことを可愛がってる
んだなと気づかされました。自分も今までこういう形の愛を割と鬱陶しいと
思って疎んできたなぁと振り返ります...。
いろんなシーンで、ほんとに自分の中のいろんな部分に触れられました。
                         (20代・女性)



   

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ほしよりこ

1974年生まれ、関西在住。漫画家。2003年より、インターネット上で連載された『きょうの猫村さん』が大きな話題となり、2005年、『きょうの猫村さん1』(マガジンハウス)として発売。2015年1月現在、7巻まで発売されている。『きょうの猫村さん』は、「猫村.jp」にて連載中。そのほかの著書に、『山とそば』(新潮文庫)、『僕とポーク』『カーサの猫村さん』(共にマガジンハウス)など。

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