今月の特集1

 2014年末、刊行されるやいなや「傑作!」と話題をさらったマンガ『逢沢りく』。
 ミシマ社内でも、編集部内でそれぞれが購入していたり、泣いた、よかった、素晴らしい、と絶賛の声が止まりませんでした。刊行から3ケ月が経とうとしている今もその感動の声は広がり、読み返すたびに胸をうつシーンの数々があります。
 特筆すべきは、14歳の主人公・りくが、東京から大嫌いな関西の地へ一時的に身を寄せること。父方の大おば一家のこてこての「関西ノリ」に触れるうちに変わっていくりく。その東京と関西の対比や、関西弁の「あるある!」に、東京と京都の二拠点で活動する我々ミシマ社一同は、深く感じるものがあったのでした。

 今回はそんな『逢沢りく』の著者であるほしよりこさんに、お話を伺ってきました。
 『逢沢りく』の魅力存分に、『逢沢りく』「これが私のひとコマ!」を交えてお届けします。インタビューにはめったにご登場されない、ほしさんの貴重なお声を全3回でどうぞ。

(聞き手:三島邦弘、構成:新居未希)

『逢沢りく』ほしよりこさん インタビュー

2015.01.28更新

 ほしさんの作品を、はじめて読んだときは衝撃でした。
 こ、これ、全部鉛筆で描いてあるやん......!
 マンガは、だいたいはペンで描くのがふつうです。そうしてペン入れしたものに、ベタ塗り(黒く塗りつぶすこと)をしたり、トーン(マンガ用の柄付きシールのようなもの)を貼ったりして描いていく。そうして最後に写植をします。けれどほしさん作品は、鉛筆オンリー。セリフだって全部手書きです。そしてこの手書き文字がまた素敵で、すごおおくいい味を出しているんです!
 第3回目は、そんな制作話やお好きな本の話まで、ほしさんの作風に迫りました。


「そのままでいいと言われたので、そのままです」

―― ほしさんは、マンガはずっと鉛筆で描かれているんでしょうか。

ほしそうですね。でもこれも、ほんとにたまたまなんです。「鉛筆って消せるし」という理由で描き始めて。それをそのままウェブ連載で出していたんですが、もともと本にするという考えがまったくなかったんですよね。ウェブ連載は無料で見られるから、そういうことにはならないだろうと。けれど実際にはウェブの読者さんから「本で見たい」という声が一番多かったんです。
 だからそのとき「ああそっか、本にするなら、鉛筆を全部ペンで書き換えたりせなあかんのかな」と思ったんですけど、そのままでいいと言われたので、そのままです。それを言ってもらっていなかったら、わりと大変だったと思うんですけどね...。

―― それは素晴らしい判断ですね。

『きょうの猫村さん 1』ほしよりこ(マガジンハウス) 

ほしはじめに『きょうの猫村さん』がマガジンハウスで本になる企画が通ったとき、絵本とかではなく漫画の体裁できちんとやったほうがいいと言われていました。1ページに何コマするのか、とかいうことを話し合うときに、装丁デザインをしてくださったアリヤマデザインストアの有山達也さんが、「原画をそのまま縮小もしないでポンポンと置くだけでいい」と言われたんですよ。それが一番大きかったですね。大胆な決断ですよね、本当に。

―― ずっと漫画を書いてらっしゃったわけではない?

ほし漫画家になりたいと思っていたときは、わりとあったんです。小学校のときも、漫画をノートに描いたりしていて。でも「枠内何センチ以内で描いて」とかが本当にできなかった。鉛筆で描いていたらなんとなくできるんですけど、ペンで描いたらできなかったので、挫折してしまいました。一時はビッグコミックスピリッツをすごく愛読していて、投稿しようかと思っていたこともあったんですよ。そのときは『東京大学物語』とか『編集王』とかがめちゃくちゃ好きで、土田世紀さんが大好きでした。毎週こんなに面白いってすごいなと。


ほしさんと本屋さん

―― ほしさんは、本屋さんはよく行かれますか?

ほし行きますね。個性的な本屋さんより、普通の本屋さんによく行きます。近くでご飯食べたりもしますし、大垣書店烏丸三条店とかは入りやすくてけっこう行きます。
 子どものころは、図書室とかはよく行きましたけど、本屋さんにあんまり行かなかったなあ。あんまり物を買ってくれる親ではなかったので。親が機嫌よかったら付録がある『一年生』とかを買ってもらって喜んでいました。

―― 主体的に本屋さんに行かれるようになったのは、いつごろですか?

ほし高校生くらいかなあと思います。高校生のときは、文庫本か雑誌をずっと読んでましたね。雑誌は、音楽とかサブカル系が多かったかなと思います。ロッキング・オン・ジャパンとかCUTとか、Oliveとか、いろいろ読んでました。とくに音楽誌のインタビューが好きで! そのときのロッキング・オン・ジャパンは、いまも実家にほぼ残ってます。

―― 最近読んで面白かった本があれば教えてください。

『クレイジー・ライク・アメリカ』イーサン・ウォッターズ(紀伊國屋書店) 

ほし『クレイジー・ライク・アメリカ』がすごく良かったです。どうやって心の病は輸入されたか、ということがルポ的に描かれているノンフィクション。みんな欧米のやり方のカウンセリングを受けていて、伝統的なやり方で治そうとしていた人も、欧米の薬漬けになっているのでは......という、ちょっと疑問に思っていたことも描かれていたので興味深く読みました。
 あとは、それに伴って読んだ『依存症ビジネス』という本も面白かったですね。今まで、その依存症を癒やすプログラムを書いた本は多かったと思うんですけれど、これはそれに疑問を呈する本でした。

―― おお、面白そうですね!

ほしあと、小林エリカさんの本がどれもとても好きです。『親愛なるキティたちへ』が初めに読んだ本だったんですが、ストーリーテラーとしても面白いし研究者としての目も鋭くて、同じ時代に生きられてよかったなあと思います。原子力の問題なども扱ってらっしゃるんですが、「反原発」など一つの方向に収まるのではなく、昔はこのようにして大事にされていた、などいろんな方向から光を当てているんですね。これからどうなるかわからない問題に、どのように光を当てていくんだろうと興味深く読んでいます。

―― きょうは本当にありがとうございました! 次の作品を心から楽しみにしています。


上巻P87
この後の小鳥をにぎりつぶそうとするところ、
なんかぐっときました。
と、この本を勧めてくださった会社の上司に言ったら、
「自分に似てるから?」と言われました。ちょっとがーん。
                   (20代・女性)

下巻P232
ずーっと関西弁を拒絶してきたりくが、
病院から電話を掛けてきたときちゃんに応えて、
チーパッパの真似をして関西弁を口にするシーン。
ずっと頑なに「自分」を守って、
他者を受け容れようとしなかったりくの、
自分自身への呪縛が、最後の最後でようやく解けた。
その瞬間が好きです。      (20代・男性)


◉いろんな思いあふれる『逢沢りく』、未読の方はぜひ読んでみてください!

   

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ほしよりこ

1974年生まれ、関西在住。漫画家。2003年より、インターネット上で連載された『きょうの猫村さん』が大きな話題となり、2005年、『きょうの猫村さん1』(マガジンハウス)として発売。2015年1月現在、7巻まで発売されている。『きょうの猫村さん』は、「猫村.jp」にて連載中。そのほかの著書に、『山とそば』(新潮文庫)、『僕とポーク』『カーサの猫村さん』(共にマガジンハウス)など。

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