今月の特集1

(左)『断片的なものの社会学』岸政彦(朝日出版社)、(右)『東京を生きる』雨宮まみ(大和書房)

 『女子をこじらせて』(幻冬舎文庫)、『東京を生きる』(大和書房)などの著書を持ち、こんがらがった自意識や女子のあれこれを、やさしい文体でほぐしてくれる、ライター・雨宮まみさん。以前、このミシマガでの連載「石井ゆかりの闇鍋インタビュー」にもご登場いただき、たくさんの反響をいただきました。

 そんな雨宮さんが「ぜひお話ししてみたい」とおっしゃるのが、社会学者・岸政彦さん。5月30日に発刊となる新著『断片的なものの社会学』(朝日出版社)や、前作『街の人生』(勁草書房)でたくさんの注目を集めている、ミシマ社一同もとってもお会いしてみたかった方なのです。

 晩婚化が進み、成人男女の未婚率もどんどん上がっていく昨今。「便所飯」「ぼっち」などの言葉が出てきたりと、恋愛・友人関係問わず、誰かとつながる、ということが難しくなってきているのではないか......。そんな疑問を、雨宮さんと岸さんのお二人に、じっくり話し合っていただきました。
 第2回をお届けします。

(構成:雨宮まみ、写真:中谷利明)

人とつながるということ 雨宮まみ×岸政彦

2015.06.11更新

*第1回はこちら

日本に恋愛は根づいていない

95年くらいから非婚率が急上昇するんやけども、それはちょうど労働条件が悪くなったときと重なっているんです。95年って、非正規化が進んでいたときなんですよ。1995年に「新時代の日本的経営」という提言を当時の日経連が出して、そこからガバッと非正規が増えてくる。
 それと、今まではお金がないから結婚できない、という解釈だったんだけど、最近の家族社会学の研究を見ていると、正社員のグループはけっこう結婚をしているみたいなんですね。それは、会社が相手を紹介しているんですよ。

雨宮それ、うちの両親の結婚のパターンですよ。昭和じゃないですか。

今でもけっこうあるんですよ。だから派遣だったり小さな会社に入ると、出会いが少ない。結婚って、日本では、戦後間もない頃は7割がお見合いで、恋愛婚はほとんどなかったんです。それが65年ごろに逆転するんですね。今は、お見合い1割で恋愛9割です。それから最近では、お見合いをしてもその後に恋愛をしますから。本人たちは、恋愛結婚やって言うんですよ。

雨宮そのせいで見かけ上は、恋愛結婚が増えてるように見える。

きっかけがお見合いでも、基本は恋愛なんですよ。恋愛を通過しないといけない。それで恋愛を保証する場所のひとつが大学で、もうひとつは会社だったんですね。だけど会社に行ける人が少なくなったので、結局いま結婚している人の数が減っているんだと。
 そうすると恋愛が逆転したのは見かけのものであって、昔はお見合いだったのが会社が紹介してるだけの違いなんです。個人では出会ってないんですよ、全然。

雨宮釣り書きがなくても、スペックがわかる場所での出会いですね。

そうそう。結局、日本に恋愛って根づいていないんですよね。だから言語化が必要だっていうのは、そういうところもある。
 出会って恋愛のきっかけを作るのって、ソーシャルスキルじゃないですか。それは言葉でしかないですよね。身体を使ったら暴力になるし。単に「好きだ」って感情をぶつけるだけじゃなくて、「相手に好きにならせる」っていうのは、ものすごく複雑な戦術がいるんですよ。相手に選ばせるみたいな。とくに女性の場合はそうだと思います。できる人とできない人がいるんやけどね。
 実のところ僕たちは、この社会は、言語によるコミュニケーションをしてこなかった。そして今でもしてないなぁと思うんですよね。

雨宮本当の意味で恋愛できる人は、ほんの一握りだとよく言われますよね。

むき出しの個人のコミュニケーションみたいなのは、やってはいるんだけど、どこかで苦手なところはあるんですね。


ウェディングドレスが着たい!

以前、よく学生に理想の結婚・恋愛を書かせてたんです。すると、男は本当にかわいらしくて、仕事から疲れて帰ってきたらエプロンつけた奥さんがシチュー作って待ってくれてて娘はピアノ、息子とキャッチボール、レトリバーを飼うみたいな感じなんです(笑)。関西の子たちなので、ふざけて書いてるだけなんやろけどね。
ダウナー系だと、結婚してもいいんだけど、家帰ったらすぐ自分の部屋に入ってゲームしたい、そこで嫁と喋るのだるい、みたいな感じだったり。そういうの邪魔しないんだったら結婚してもいいけど......という。
 女子は切実みたいで、私は結婚したい。子どもが小さいうちは主婦でいたい。でもそのために稼ぎがいい旦那を見つけるくらいの器量は私にはない。けどわたしはこの厳しいデフレの中で働いていけるだろうか、でも、でも、でも......みたいな感じです。切実なんですよ、男はあほやなあと思う(笑)。

雨宮私、30歳ぐらいのとき、結婚を考えたんですが、同世代の男はほとんど貯金ゼロでした。なのに「家欲しいな~」とか「車欲しいな~」とか「子ども欲しいな~」とか言ってる。こっちは結婚式は諦めないととか、出産を考えたらどのくらいの家に住んで、費用はどのくらいいるのか、出産するとして仕事はどうなるかとか考えてるのに。認識の差に愕然としましたね。

でも逆にそういうやつのほうがいいかも。

雨宮楽観的でいいんでしょうね。でも、絶対やだ(笑)。

うちの卒業生の女子がこの前、「20代も越えたし、結婚したいけど、彼氏がすごく稼ぎが少なくて優柔不断だし」と泣いていて。でも同棲はしてるから「そんなん籍入れたらええんちゃうん?」と言ったんですね。僕も式は挙げてないので。そう言ったら「わたしは式をしたいんです、一生に一度はウェディングドレスを着たいんです」と。

雨宮私も着たい!!

おぉ......やっぱり着たいと思う人は多いんですね。

雨宮今どき着ない人のほうが、身近では多いですけどね。着れたら入籍も披露宴もしなくていいです(笑)。式はしてみたいかな。

彼女もみんなに見てほしいみたいなんですよ。披露宴をしたい、お色直しもしたいわけ。

雨宮幸せだと認められたいんですかね?

とくに自己評価の低い子やと、普段は容姿に劣等感を抱いて生きているから、無条件で「かわいい」とか「きれいだ」って言ってもらえるのがその日だけみたいな思い込みがすごくあって。そして僕は、そういう考えを否定はできない。でも、社会学者ってそういうのを簡単に否定するんですよ。「家父長制なんてとんでもない! 結婚なんていうのは体制のアレだ!」みたいにね。

雨宮ささやかな願いじゃないですか。それが結婚式ぐらいの重大時にしか叶えられないことのほうが問題じゃないですかね? AV女優さんに「なぜAV女優になったんですか?」と訊くと、もちろん「お金のために」とかは言わないし、嘘もあるでしょうけど、「メイクして綺麗な状態で写真を撮ってほしかった」と言うんですね。それが決定的な理由ではないにせよ、そのことは本当に嬉しそうに言う人が多い。若くて綺麗なうちに人前に出て、きれいだとかかわいいとか褒められたい、っていう気持ち、私は否定できないです。でも、芸能人になるかAV女優になるかでしか満たされないなら、それ、ほとんどの人ができないことじゃないですか。

なんというか、その程度の承認が満たされない。だからものすごくシビアな世の中だなと思います。

雨宮承認を得る、ということに関しては、AVにも大きな影響があるじゃないかと思います。承認を得たい女の子、いっぱいいます。軽いものから重いものまで。でも、誰だって承認は得たいですよね。得られなすぎる現状が異常なんじゃないかと思います。



裸になるって、どうですか?

話が脇道にそれるかもしれませんが、体を売るというか、裸になることに対してはどうお考えですか? いまどき特別な職業でもないけど、それでもやっぱり完全に普通の職業ではないことは、雨宮さんから見てもあります?

雨宮出てる女の子が特殊だとは思ってないです。でも、難しいですね。自分はやってないわけだし、将来的に長く続けていける子も少ない世界でもある。でも「がんばりたい」と心から言ってる子に対して、何も言えないですよ。

AV女優が職業としてどう社会に認識されてるかって複雑なところですけど、完全に「お前が選んだ仕事やろ」って個人に責任が向くのもおかしいと思うんですよね。それでまた、一部の人は逆に褒めるでしょ。「自分で選んで身体売ってるんだから、それは素晴らしいことだ」って。それもちょっと違うやろと思うんですね。

雨宮聖なる職業みたいな持ち上げ方ですよね。ああいうの一番気持ち悪いですね。今、AVに出る女の子が言う「AVを選んだ理由」で、一番聞くのは「風俗より安全そうだから」です。バレるかもしれない社会的なリスクを取るか、肉体的なリスクを取るか、みたいな話になってる。

今は出演料もかなり下がってるんですよね。そうなると逆にお金だけじゃないというか、自分の存在がかかってるみたいな感じになってきますよね。

雨宮安くなったとはいえ、毎日働かなくても1カ月暮らせるのが魅力だと言う子もいます。存在を賭けて熱心にやる子もいるんですけど、熱心にやったからといって売れる世界ではない。

業界として、女優を育てるっていうシステムになってないわけですよね。

雨宮もちろん事務所側は売りたいし、今のAVって適当にやってて済む世界でもないので、熱心な子は育っていくんですけど、それが人気につながるかというと......。熱心で実力のある女優さんよりも、デビューしたばっかりのまっさらな子のほうが売れたりする。でも、これってAVの世界だけのことじゃない気がするんです。考えると死にたくなることのひとつですね。常に求められるのは、若い素人の女。

なんか競争ばっかりで全体がギスギスしてる感じがするんですよ。日本の文化のそういう面はすごい感じますよね。


言葉でわかり合えれば満足か

本当はお互いの居場所が見つかったり、信頼関係が築けたらいいんですけど。言葉でわかりあっても、どこかで価値が減るっていうのは、どこかにまだ残ってるんですね。

雨宮綺麗な言葉は安いみたいなところがありますよね。嘘くさいみたいな。AVの世界でも、暗くて病んでるえげつない話が一般的には求められるし、それが本物っぽいと思われる。AVの暗い話を聞くことで、ストレス解消をされてるような不快感があります。

でも、言葉でわかり合えればそれで欲望が満足かって言われると、それも違うでしょ。やっぱり身体的なものとか、不特定多数から承認されたいとか、いろんな欲望がある。
自分の家族からかっこいいとかかわいいとか言われても、全然価値ないじゃないですか。それで自分の性愛は満たされないでしょう。

雨宮岸先生はときどき、「俺は顔を褒められたいんだ!」ということをおっしゃいますよね。

(笑)。基本的に男の生き方って、努力と引き換えに承認されるルートしかないんです。どんな職業にしても、努力して認められていく過程なんですよね。それを認められるのは嬉しいけど、たまには何もしなくても、元々持ってるものを褒められたい、というのがある。

雨宮女は女同士で褒めあったりしますけど、男はないんですか?

ないですないです。男同士で褒めあうとすれば、「お前の論文おもしろかったよ!」「あの仕事はいいよね!」みたいなことで。結局実力ですよ。あんまり「ありのままのお前いいよ」みたいなのはないですね。

雨宮女同士は褒め合いますけど、「美人だね」「かわいいね」みたいな直接的な褒め方は少ないです。「その服いいね」とか、演出力や手間、テクニックを褒めてる。男に伝わらない努力を女同士で褒め合ってる部分もあるし、相手への好意を褒め言葉で示すというコミュニケーションのあり方でもあると感じます。


<つづきます>

     

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雨宮まみ(あまみや・まみ)
ライター。アダルト雑誌の編集を経て、フリーライターに。女性の自意識との葛藤や生きづらさなどについて幅広く執筆。
著書に『女子をこじらせて』(幻冬舎文庫)、『ずっと独身でいるつもり?』(KKベストセラーズ)、『女の子よ銃を取れ』(平凡社)、最新刊は私小説風エッセイ『東京を生きる』(大和書房)。



岸政彦(きし・まさひこ)
1967 年生まれ。社会学者。大阪市立大学大学院文学研究科単位取得退学。博士(文学)。龍谷大学社会学部教員。研究テーマは沖縄、被差別部落、生活史。著書に『同化と他者化──戦後沖縄の本土就職者たち』(ナカニシヤ出版)、『街の人生』(勁草書房)など。最新刊は『断片的なものの社会学』(朝日出版社)。

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