今月の特集1

 アジカンことASIAN KUNGU-FU GENERATIONのボーカル、後藤正文さんと、建築家・光嶋裕介さん。2014年5月、代表・三島を加えた三人で、「僕たちの世代」と題した鼎談を行いました。これからの建築、音楽、出版のこと、そして「受け手」から「渡し手」に変わってゆくのだというバトンのこと。じんわりと何度読んでも染み入り、そして考えることの多い、このうえない時間でした。

『Wonder Future』ASIAN KUNGU-FU GENERATION

 そんな鼎談から、ちょうどもう1年がたったのか〜と思っていた、2015年5月末のこと。2年8カ月ぶりとなるアジカンの最新アルバム『Wonder Future』が発売になりました。7月5日からは、ツアーで全国を巡られるそう。そしてそのツアーの舞台設計を、なんと、光嶋さんが担当されるんだとか!

 光嶋さんが設計をされた内田樹先生の自宅兼道場「凱風館」をまたまたお借りして、ことの経緯や、どんなステージになるのか、お二人にお話しを伺ってきました。そして二人が語る、ライブをみる、する、そして「つくる」とは?
 7月からのツアーがますます楽しみになる対談、全3回でお届けします!

(聞き手:三島邦弘、構成:新居未希、写真:中谷利明)

ライブ、みる・する・つくる 光嶋裕介×後藤正文

2015.06.27更新

アジカンの曲は速すぎる?

光嶋僕はいつも、ジャズなどの音楽を聴きながら夜に幻想的な都市風景をモチーフにドローイングをしています。
 絵を描くスピードにはもちろん調子いいときと悪いときがあるんですけど、どんなにがんばっても、ある一定のスピードでしか線は引けないんですね。アジカンのドローイングはもちろんアジカンを聴きながらやっているんですけど、曲が速すぎるんですよ。

後藤え、どういうことですか?

光嶋僕はドローイングをするときは、2時間くらいが集中力の面においてもベストなんです。アルバムってだいたい40分くらいだから、2時間あると3往復できるんですよね。「Standard」「Opera Glasses」とか、曲によっていろんなムードが立ち上がるんだけど、僕は歌詞を極力聴かないようにしているんです。絵を描くときは、言葉とまったく遠いところにいるので。
 でも不思議なもので、音楽から立ち上がるイメージというのはあるんですよ。聴いているとはっきりと風景が見える。リズムやビートがそこにいざなってくれるんです。だからアジカンの音楽を聴いていると、それが目まぐるしく入ってきます。それで、4分とかで曲が進んでいってしまうと、絵が間に合わないんです。なので、曲単位というよりかは、アルバム全体を聴いているなかから、ふぁ~と立ち上がってくるイメージを絵に落としていくスピードでしか描けないんですよね。

 だから、さきに「PVのように重ねたくない」と言いましたが、「重ねたくない」というより「重ねられない」んですよ。たとえば「Easter」をひたすら10回くらい聴いて、「Easter」という曲だけで立ち上がってくるものを描くのであればいいのかもしれないですけど、『Wonder Future』というアルバムは音楽性においてもすごく豊かで振れ幅がありますから僕はそれに形を与えたい。そこから立ち上がる都市の断片的なイメージみたいなものを描いているので、それぞれの曲とダイレクトには沿ってないんです。

後藤なるほど、曲と同期していないほうがいいということですね。

光嶋そう、言葉だとあまりにも同期しやすい。つい、執着して不自由になりかねない。同期して感情が揺さぶられる、エネルギーが注入されるスピードと、それをアウトプットする紙と僕のペンが追いつかないんですよね。

後藤なるほど、それは面白い話ですね。

光嶋だから言い訳のように「リンクはしていませんよ」と(笑)。僕のドローイングと曲そのものは。でもそうありたいと思ったというのが、さきの距離感に対する僕の答えなんです。邪魔したくないんですよね、曲を。



光嶋さんは「いつもいい席に座ってる」人

―― 後藤さんが光嶋さんのドローイングを個展で観たとき、「これだ!」と思われたものはなにかあったんでしょうか?

後藤全体ですね。普段やっていることや言っていること、プロフィールに書いてある「音楽スタジオを建てたい」という将来の夢とか。

―― 常に前を見ている感じですよね(笑)。

後藤光嶋さんって、「建築家」という肩書きだけに収まってない。そういうところがいいと思うんですよ。今回のこのツアーのデザインを、ガチガチの建築家の方に頼んでも、それは違うと思うんですよね。

『ソニック・ハイウェイズ』Foo Fighters

 普段からジャズを聴いたり、舞台を観たり世界中旅をしてみたり、ドローイングの個展を開いたり、そういう人とだったらできるかなと思ったんです。だってどこの都市とも、どこの町とも違うものを作りたいので。要は「幻想都市」を作るということなんですよね。
 今回のアルバムはFoo Fightersのスタジオで録音しましたけれど、彼らが最近出した『ソニック・ハイウェイズ』というアルバムは、アメリカの音楽史を辿るようにいろいろな街で録音されて、その街の建物やビルを合体させた「架空の都市」がジャケットになっているんですけど。

光嶋いろんな街やビルが鳥瞰的にコラージュされた魅力的なジャケットですよね。

後藤そうなんです。このジャケットに近いようなことを舞台上でやればいいのかなと想像していたんですよね。そういう意味でも、光嶋さんは世界中の建物を見てるし、面白いイメージのコラージュが立ち上がるんじゃないかという期待がありました。

―― なるほど、まさにぴったりだったんですね。

後藤あと光嶋さんもひと通り会われていると思うんですが、ステージまわりの人って職人堅気の方も多いし、すこし変わった人ばかりです(笑)。今回のように、いわゆる業界的な慣習に慣れてない人が入ってきたとき、仲間内の集団は緊張すると思うんです。「大丈夫かな、あの若手建築家がめちゃくちゃなことを言い出さないかな」とか、誰しも考えると思うんですけど、そういう面でも光嶋さんなら大丈夫かなと思いました。光嶋さんって、いつも本当にいい席に座るんですよ。パッと見ると「一番いい席に座ってんじゃん」といつも思います(笑)。こういう人だったら絶対大丈夫。だから、打ってつけなんじゃないかなあ。


ドローイングは描き下ろし!

―― 光嶋さんに依頼したことは、メンバーにはお伝えされていたんですか?

後藤今回の『Wonder Future』はアメリカで録音をしたんですが、アメリカに行く時点でジャケットデザインは白と決まっていたんですね。それで、「街の中を歌ったアルバムだから、もう一回ステージの上でアルバムの世界観を立て直すようなイメージでツアーもやりたいんだけど、いいかな?」とみんなにたずねました。アジカンのメンバーはだいたい何でも「いいよ」って言ってくれるんですけれども。「あいつがやりたいんだったらやらしてやりたい」みたいな感じなので(笑)。

光嶋はじめから白いアルバムということは決まっていたので、スタート地点はすごくスムーズだったんです。
 でも、『Wonder Future』には初回限定特典で、ペンがついてあるんですね。それって「自分たちでそれぞれのWonder Futureを描いてくれ」というメッセージだと思ったんですよね。だから、僕も今のアジカンの音楽から生まれたひとつのWonder Futureをしっかりと示さなくちゃ。ここで終わりじゃないんだ。むしろここに何を映すかが問われているんだ、と気がついた。「幻想都市風景をたくさん描かれているんですから、今までのものを映せばいいんじゃないですか」と言われたんだけど、「いやいや、そんなんじゃダメですよ。描き下ろします!」と即答し、いまも必死に毎晩遅くまで描いているんです(笑)。でも、本当に聴けば聴くほどいろんなイメージが浮かび上がるんで、楽しいです。

―― おお、ぜんぶ描き下ろしなんですね!


光嶋だから今回は、ステージの設計とドローイングという二段階なんですよね。はじめての試みなんだけど、内田樹先生の自宅兼道場「凱風館」にしてもどの建築にしても、常にそういうふうに設計とドローイングの行き来をしているので、僕としてはスムーズに、むしろ前のめりな感じでドーンといけたらいいなと思っています。

後藤「そういう構造物がステージのそこにあったら、音がしんどい」とか、音響的な注文もありましたよね。

光嶋そうですね、舞台の設計の方では、技術的なことやメンバー同士の目線をどうするかとか。
 パネルの壁を斜めにしたら反射がどうとか、テクニカルスタッフとの目線が抜けるようにとかという話はもちろんですし、僕は普段からクライアントからの要求は基本的にすべて受け入れます。「こうしたいです」というなら「はい、わかりました」といいますね。そこをスタート地点に、更に良いものを目指すように心掛けています。いつも柔軟な指揮者として、最高の選択を模索しています。

後藤そうやって順応するところが、光嶋さんのすごいところですよね。

光嶋こだわらないといけない自分の本質的な部分を否定されると戦いますけど、予算が足りないからと言われたらそれは仕方がないですし、そういったことの連続ですから。それが指揮者的である仕事なので。今回はそういう意味において、仕事の「こと」としては初挑戦ですが、仕事の「やり方」としては普段どおりなのかもしれませんね。

後藤なるほど。僕らも、実際にセット上で音を鳴らしてみるまでわからないんです。何が起きるかわからない。

光嶋そう。もうやめよう!もういいわ! みたいなことが起きるかもしれない。

後藤そういうことはないと思いますけどね(笑)。



<つづきます>

ASIAN KUNG-FU GENERATION Tour2015「Wonder Future」

7月5日@埼玉を皮切りにはじまる全国ツアー、
チケットや会場など詳細は【特設ページ】
http://www.akglive.com/wonderfuture/をご覧ください!


    

お便りはこちら

みんなのミシマガジンはサポーターの皆さんと運営しております。

バックナンバー