今月の特集1

『ミシマ社の雑誌 ちゃぶ台「移住×仕事」号』(ミシマ社 編)

 今月、ミシマ社10年目突入の節目に、初となる雑誌『ミシマ社の雑誌 ちゃぶ台「移住×仕事」号』を創刊しました。編集長のミシマも、雑誌編集者としては新米一年生。初めての雑誌づくりを経験する中で、雑誌づくりについて知りたい、あんなことこんなことが、フツフツと湧いてきたのでした。
 じつは当初、『ちゃぶ台』は7月に発刊される予定でした。その頃に、雑誌づくりの大大大先輩である松家仁之さんにご連絡をして、「これを刊行する暁にはぜひトークイベントをご一緒させていただけないでしょうか」と恐れ多くもお願いしたところ、「ぜひ」とすぐにご返信が...! ところがその後、初めての雑誌づくりと格闘するうち、刊行は延びに延びてゆきました。
 「この雑誌出るの?」と寄稿いただいた方からも言われながら、ついにめでたくこの10月に発刊、松家さんとのトークイベントが実現するにいたったのでした。
 「雑誌って何?」「台割って何?」「紙の本の行方は...?」。温かな会場の雰囲気に包まれながら話は深まり、「いま、雑誌をつくるということ」が少しずつ手応えをもって見えてきたような、そんなイベントとなりました。今回の特集ではその一部を、3回にわたってお届けいたします。

(構成:星野友里、構成補助:寺町六花、写真:池畑索季)

いま、雑誌をつくるということ 松家仁之×三島邦弘(3)

2015.10.30更新

会って話を聞きたい人に、会って話を聞く

『つるとはな 創刊号』(つるとはな)/『考える人 2015年秋号』(新潮社)

三島僕はやっぱり『つるとはな』は理想だと思っているんですよ。というのは、記号的な要素が一切ないんですね。
 たとえば『ちゃぶ台』は「移住×仕事」という核に、血を通わせようとしました。一方、『つるとはな』は1号はお勉強というテーマですけど、「今は勉強の時代」と謳っているわけではなく、いろんな学びのあり方や、年を重ねることの側面があるということを、最初から最後まで自然に見せてくれる。本当にプロの技だなと思いました。

松家それは編集長の岡戸絹枝さんの手腕だし、デザイナーの有山達也さんの力なんです。岡戸さんはもちろん周りに相談したりもするけれど、『つるとはな』というのは岡戸さんの雑誌なんです。やっぱり雑誌というのは、一人の強い個性を持つ編集長が、「こういう雑誌が作りたい」と突っ走るように我儘につくるからおもしろいんだと思います。
 『つるとはな』の表紙の左上には、「人生の先輩に聞く」とコピーがあります。僕と岡戸さんが一緒に雑誌を作ろうと相談したときに一致したのが、「お年を召した、年長の方のお話がいちばんおもしろいですよね」ということでした。僕自身も『考える人』を編集しながら、年長の方のお話はなんておもしろいんだと身にしみて感じてきたので、その方針だけでも雑誌ができるんじゃないかと思ったんです。その一点だけです、出発点は。

三島年齢に関係なく読めますよね。年を重ねるってすごいなということを、自然に感じられる。

松家老人は常に「問題」とセットになってしまった。そんなに先行きは暗いのか、嫌だなあと思いますよね。ところが実際にいろんな方に会うと、「明日のことなんて考えないわよ」という方がいらっしゃる。「老人問題」がないとは言いませんが、思い煩わず朗らかに生きている方もいる。そういう方を取り上げたい。そういうシンプルな動機なんです。
 『考える人』の編集で役得だなあと思っていたのは、「憧れのあの方にお会いして、お話をうかがえること」でした。そういう場所と機会が、ふたたび欲しくなったんですね。


おもしろいものを信じきる

三島本当にこうして、どうやって世界中から取材するお相手を見つけてこられるのでしょう?

松家とにかく岡戸さんが、あらゆる手をつくして探しだしてくるんです。創刊号のときも、彼女の住む最寄り駅の近くで、白髪の素敵なご婦人を見つけて、「すみません、私の雑誌に出ていただけませんか」といきなり声をかけたりもします。岡戸さん自身はすごくシャイな人なんですけど。人に紹介されて、ある店の主人を訪ねて最初は取材を断られるんですが、それでも諦めずに何回も通って、結局出てくださることになったり。いいかなと思って取材してみたら、ちょっと方向性がちがうと感じるとペンディングにしてしまう。岡戸さんがここにいたら怒るかもしれないけれど、ものすごく原始的で粘り強いんですよ。
 「つるとはな」も原始的な小さい会社ですから、大丈夫かな? とお互いに思いながら綱渡りしていくみたいなところがあります。でも出版社って、もともとそういう成り立ちのものなんですよ。ほんの数人が集まって成り立つかどうかわからないなか、「とにかく出したいものを出すんだ!」って野蛮にやるものだったんじゃないかという気がします。

三島そう思います。常にお尻に火がついてるということが、生きてるってことじゃないかと思うんですね。小さな会社だと、よりリアルにそういうことを感じます。でもそういうときに、焦ったり暗い顔をしていても仕方がない。出版は、おもしろい本を作ることしかないと思うんですね。

『コーヒーと一冊』(ミシマ社)

 去年、ある読者から、「三島さんがとにかくおもしろいと思う本を作ってくれたら、僕はそれが読みたいから」というはがきが届きました。僕がおもしろいって信じ込んだものをやり切ったらいいんだと、強く背中を押されたような気がしたんですね。それまでどこかやっぱり、遠慮があったように思います。小さな出版社ですから、一冊が届かなければ経営的にも苦しくなるので、「帯コピーなんかでも、もう少しキャッチ―なほうがいいかな」と考えたり。でもそのはがきを頂いて、「もう、いったれ!」と(笑)。それが、今年出た『コーヒーと一冊』につながっています。これはカバーや帯もないので、どんな本なのかもわからないんですが、読者の感性を信じよう、信じて当然なんだと、迷いがなくなりました。それが『ちゃぶ台』につながっています。


「商品」からの脱却

松家新潮クレスト・ブックス』を企画したときも、帯をやめようと思ったんです。ある書店員さんに聞いてみたら、「賛成です」とおっしゃった。帯で手を切って怪我することがあるって(笑)。でもそれは重要な指摘でした。怪我するほどの意味、価値があるのかという。
 帯もだし、書店員さんの手書きポップもだし、ある日誰かがやり始めて成功するといっせいに広がって、あとはただやってる場合もあります。それを全部は否定しませんけれど、送り手はつねにそれがほんとうに必要なのか、捉えなおすことも必要だと思いますね。

三島そうですね。今は「手作り」も記号化されて、商品になってきてしまっている。バーコードも、昔はなかったんですよね。

松家なかったです。要するにあれは、在庫確認、「売れ筋」商品の把握のために始まったものですね。出版業界が右肩下がりになってきた理由はひとつではなくいくつもあると思いますが、バーコードもじつは怪しいって思っているんです。3年、5年、10年と、少しずつ、しかし長期的には確実に売れていく本ってありますよね。ひと月という短い単位で見て、駄目だと判断されているものがあるような気がします。ロングセラー殺しというか。
 本屋さんには素晴らしい棚作りをされる書店員さんがいらっしゃいますが、あれはデータとは直接関係がないんですよ。データでつくったら、全部同じになっちゃう。

三島本当にそうですね。本や雑誌はそもそも、小さな声を集めてできていくものだと思っています。今、バーコードは当たり前のものになってしまっていますが、それがどこかで落とし穴になっているんじゃないかと。それによって制約されるおもしろさって、あると思うんですよ。

松家そうですね。三島さん率いるミシマ社が、そういう落とし穴や壁をほがらかな顔で壊していくとどうなるか、ほんとうに楽しみで、あわよくば後ろからついていきたい(笑)。

三島今は、新しい土壌を作っていくしかないと思っています。だから『つるとはな』ができたのが、本当にうれしかったです。けっこう問い合わせも多いですよね。

松家会社にかかってくる電話は、品のいい感じの年長の女性がとても多いんです。だいたい長電話になります(笑)。「次はいったいいつ出るのかしら?」と心配してくださったり、「じゃあ待ってますよ」と励ましてくださったり。読者の反応は本当にありがたいですね。

三島本って、そうやって次号を待つ人に時の流れを感じさせたりするから、短期商品じゃないんですよね。あと、本と雑誌の違いとして、雑誌は、より時代と共にあるなというのを感じました。今この時代の空気が、どこかに反映されているというか。

松家それは本当にそうだと思います。

三島とにかく今は、枠をどんどん外していったらおもしろいことがいろいろできるなと思っているんですけど、松家さんの実感としてはどうですか?

松家そうですね、僕も自分なりの原点回帰をやるだけなんですね。子どものころから学生時代を送るなかで、本や雑誌から得てきた有形無形のものを信じるというか。本や雑誌の世界にあこがれる気持ちは、いまもたいして変わらないんです。そのなかで自分のつくりたいものをつくるだけですね。幸いスタッフにも恵まれて、ほそぼそとながらゆっくり回っている感じがあるので、とにかく、第3号は来年の3月にしっかり出す (笑)。年明けには、「つるとはな」の初の単行本を出そうと思って、編集作業に入ったところです。

三島単行本を! それは楽しみですね! 株式会社つるとはなは、必ずしも雑誌出版社ではないんですね。

松家そうですね、年に最低一冊は単行本を、と思っています。ご期待ください(笑)


   

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松家仁之(まついえ・まさし)

1958年生まれ。大学卒業後、新潮社に勤務し、海外文学シリーズの新潮クレスト・ブックス、季刊誌「考える人」を創刊。2012年、長編『火山のふもとで』で小説家としてデビュー、同作で読売文学賞受賞。第2作は北海道を舞台にした『沈むフランシス』、第3作は『優雅なのかどうか、わからない』。2014年10月、編集制作として携わる雑誌『つるとはな』を創刊。

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