今月の特集1

 2015年12月、シリーズ「コーヒーと一冊」第2弾が発刊となりました。その第2弾3作品のラインナップのうちの一つが、『K氏の遠吠え 誰も言わへんから言うときます。』。著者の江弘毅さんは、関西といえばこの雑誌「Meets Regional」の創刊から12年にわたり編集長を務め、著作も多数。いわば街の達人なのです。『K氏の遠吠え』では、街と食の話はもちろん、ファッションや音楽など、「あれ?」と思いつつも口にできなかったあんなことこんなことに踏み込みまくり! 「批評家・K氏(こと江氏)」誕生の一冊です。
 今回はその発刊を記念して、「働くこと」を書かせたら右に出るものはいない、大阪在住の作家・津村記久子さんとおこなわれた対談をお届け。津村さんの新刊『この世にたやすい仕事はない』の話から「これってどうなん?」な話まで、テンポ良い爆笑トークをお楽しみください。

(2015年11月29日 紀伊国屋書店梅田本店にて収録 構成・写真:新居未希)

街場の遠吠え 江弘毅×津村記久子(2)

2016.01.27更新

デザインで「ええやん!」と思えた

津村今ふと思ったんですけど、「コーヒーと一冊」、すごいラインナップですよね。ミシマ社ほんまにやばいなというか(笑)。この『K氏の遠吠え』と一緒に発刊したのが、最相葉月さんの人生相談本と、『イナンナの冥界下り』っていう本で。何なんでしょうね(笑)。その3冊で1カ月過ごしていけますよね。バラエティに富んでるから、思考のサイクルとしていろんなこと考えられる。

寄藤文平さんが書いた「K」の犬のラフ

表紙つくるときもおもろかった。「コーヒーと一冊」はデザインが文平銀座の寄藤文平さんなんですよね。いまの広告代理店やメディアの仕事って、まず全部検索するんですよ、何でもかんでも。検索することでベースとして大衆を構築して、マーケティング的にやっていく。寄藤さんはそんなん全然ちゃうんですよ。どかーんって、紙にこの「K」のところの犬描いて、「これでいきましょう江さん!」って。全然おもろいわ、これいこいこーって。正直嫌やったんです、「遠吠え」てタイトル。ほんまの遠吠えになったら救いようがないやないですか、だーれも聞いてくれへんとか、首つって死なな、みたいな。

津村そこまで思いつめなくても(笑)。

ところが犬のこの顔がセットになって出てきたときに、「おおー! ええやんええやん!」って。

津村テーマありきじゃないんですね。

編集長をずっとやってた「Meets Regional」も、1回1回表紙は全然違う仕様やったんです。毎回、写真、イラスト、次何で行こ、みたいな。システマティックじゃなかったんですね。そのへんシステムに乗っかっちゃうと、やってておもんないっていうか。誰もがわかる、目に見える形、手に取れる形ってね。


検索して構築するんは田舎くさい

食べもんを書く場合も、たとえばフランス料理ってすぐ記号で書けるんですよ。「シェフが三ツ星のポールポキューズで5年修行して大阪に帰ってきて、バルバリー産のカモつこうて、それがスペシャリテ...」ってな具合で。

津村これを即席で言うてはるんやからすごい(笑)。

ところがお好み焼き屋に取材に行って、「大将これめちゃめちゃうまいですねぇ。生地に何入ってますのん?」って聞いたら、「塩と味の素や!」って。「豚はどこ産で?」言うたら、「そんなん知らんわ〜、ずっと市場で買うてる」って。そのときにはたと、記号とか数値に頼らず、どういうふうにするんや!って思ったんです。

津村食べ物を表現するのって難しいなと思います。

表現もそやし、もうひとつ土壌というか。そのお好み焼き屋さんの斜め向かいが、魚屋さんなんですよ。その魚屋のおっちゃん、そのお好み焼き屋で、店閉めてから食べてはるんです。けどお好みの具のイカとかタコとか、自分とこの魚屋のんなんですよ。そんなん家で食ったらええやないですか。けどわざわざ斜め向かいのお好み焼き屋で食べてるって関係性を見たときに、やっぱりそういうことを抽出せんと、と思いました。なんちゃらウォーカーとかは、お好み焼きの厚さで測ってそれを比べる。ほんなら1mの厚いお好み焼き作ったらどやねんな。

津村ようわかります。すごい社会的な話ですよね。

そこを考える力がなくなるんですよ、検索してたら。そんで点取るというか、ある程度のとこクリアするじゃないですか、いま。それは、ごっつ田舎臭いんですよね。街的やないというか。


「粉もん」ってなんやねん!

そういえばぼく、「粉もん」っていう言い方徹底して嫌いやって書いてます。だって粉もんって、「粉もんでも食べに行けへん?」って絶対に言わへんでしょ? お好み食いにいこやとかタコ焼きとかじゃないですか。

津村全然違いますもんね。何で「粉もん」言うんですかね、全然ちゃうけどって言いたくなる。全然ちゃいますよね?

ちゃうちゃうちゃう。粉もんって名前を付けることによって、キャッチ―さというかわかりやすさをつけようとしてんねやろけど。

津村うん、わかる。でもお好み焼きとか言うたりタコ焼きとかって言うのは何か執着があるんじゃないですか? 「たこ焼き」ってすごい執着の産物だと思うんです。たこ焼き好きな気持ちってなんかものすごい狭いですよね、なんて言ったらいいかな。

「粉もん」っていうことによって何か新しいジャンルができることで、わかりやすくなるんやけど、結局底が浅くなってしまう。「粉もん特集」やったらうどんも入れとけ、とかね。

津村それよくないですよね、全然違う。

餃子は粉もんか、みたいなことでね、

津村違うって。

ちょっと言わしてください(笑)。ある東京のグルメ誌から発注があったんですよ。でも餃子を粉もんにしたら粉もんって一体なんやねんと。そりゃお前、粉を水で溶いて熱を加えて固めたもんや、となるとね、

津村ほんならカステラとかも粉もんやん。

それで、ほなドーナツも粉もんやろと。いや、そら揚げもんやろ、ってなんねんけど(笑)。そっちのほうがおもろいやんって、逸脱していくねんな。

津村ドーナツは揚げてるもんなぁ。揚げると粉では原材料というよりも揚げるのほうが勝つんですよね。「揚げる」って、インパクト強いなぁ。

(つづきます)

    

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江弘毅(こう・ひろき)
1958年、大阪・岸和田生まれの岸和田育ち。神戸大学農学部卒。『Meets Regional』(京阪神エルマガジン社)の創刊に携わり12年間編集長を務めた後、現在は編集集団「140B」取締役編集責任者。著書に『岸和田だんじり祭〜だんじり若頭日記』(晶文社)、『「街的」ということ』(講談社現代新書)、『街場の大阪論』(バジリコ)、『「うまいもん屋」からの大阪論』(NHK出版新書)、『有次と庖丁』(新潮社)、『飲み食い世界一の大阪~そして神戸。なのにあなたは京都へゆくの~』(ミシマ社)など多数。

津村記久子(つむら・きくこ)
1978年大阪府生まれ。2005年『マンイーター』(『君は永遠にそいつらより若い』に改題』で太宰治賞を受賞し、作家デビュー。08年『ミュージック・ブレス・ユー!!』で野間文芸新人賞、09年『ポトスライムの舟』で芥川賞、11年『ワーカーズ・ダイジェスト』で織田作之助賞、13年『給水塔と亀』で川端康成文学賞を受賞。

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