今月の特集1

 「下流老人」、「老後破産」など、なにかと暗い言葉で語られることが多い高齢化問題。しかし、そんな時代の空気に巻き込まれず、楽しくもがいている施設福岡にがあります。その名も「宅老所よりあい」。そして、われわれがそれを知ることができるのもこの施設には「編集部」があるからなのです。

 編集部といえど、構成メンバーは鹿子裕文さん、ただひとり。ひとりで企画・取材・撮影・執筆・発送まですべてをやってのけます。そうしてできた雑誌『ヨレヨレ』のあまりの面白さに感動し、ナナロク社の川口さんが依頼したのがきっかけで生まれたのが『へろへろ』です。

 老いゆく日本の楽しい未来、ここにあり。京都のとある集会所で語られた、よりあい、そして鹿子さんの『へろ戦記』の様子を3日間でお届けします!

(構成・写真:田渕洋二郎)

鹿子裕文×三島邦弘 へろ戦記 京都・ちゃぶ台篇(1)

2016.02.25更新


鹿子福岡で『ヨレヨレ』というふざけた雑誌をつくっております、鹿子と申します。よろしくお願いします。えー、今日はこのような素敵な集会所に呼んでいただいたわけですが、みなさんご覧下さい。真っ昼間だというのになぜかカーテンが締め切ってありますよね。まさかこれはアレですか? 霊感商法の会ですか? 「どなたか肩がこっている方は? あ、奥様。それは悪霊のせいです。いい壺がございます!」的なことですか? まあ、みなさんさえよければ、そういう会にしても面白いと思うんですけど。

三島うおおおーい(笑)。初めから飛ばしますね。ミシマ社の三島です。この雑誌『ヨレヨレ』が出たころは、「なんなんだこの雑誌は!」と話題になって密かに出版界隈を賑わしたんです。
 
鹿子ありがとうございます。


三島そして去年、うちから『ちゃぶ台』という雑誌を出していて、寄藤文平さんがその中のエッセイで、「銭湯を出版社の拠点にすれば、高齢社会が楽しくなるよ」というアイデアを書いているんですよ。そういうことをまさに先取りをしているのがこの『ヨレヨレ』かなと思います。よりあいについて簡単に説明をお願いできますか。


野垂れ死ぬ覚悟はできとる!



鹿子そうですね。まず、一番最初から話しますと、下村恵美子さんという人がいるんですね。この下村さんっていう人が、強烈にボケてるお年寄りが大好きな人で。その下村さんにある日、「うちのマンションにとてつもないばあさんがいるから、なんとかしてほしい」という相談が来るわけです。

 そのおばあさんは大場ノブヲさんっていう明治生まれの人なんですけど、もう見た目が完全に妖怪なんですね。お風呂も三年くらい入っていなかったみたいで、身体からはすごいにおいがしてるし、冷蔵庫にぎっしり詰まってる食品もほとんど腐ってるから、もう部屋もすっごいことになってるわけです。だもんで、「もう一人暮らしは大変でしょう? 老人ホームはよかとこですよ」と下村さんが説得しに行くわけですね。


三島うんうん。

鹿子そしたらこの大場さんが世紀の発言をするわけですよ。「お前に何の関係があろうか! ここで野垂れ死ぬ覚悟はできとる! いたらんこったい!」と。その言葉に下村さんはぐっときちゃうんですね。「このご時世に、こんな街中のマンションで野垂れ死ぬ覚悟で生きとるばあさんがおる!」と。「これはぜひその野垂れ死ぬところを見せてもらわにゃいかん」と。まあ、わけわかんないんですけど、そう下村さんは思ったんだそうです。それが1991年頃の話ですね。


「託老所」じゃなくて、「宅老所」

鹿子で、当時のデイサービスというのは「ぼけた人お断り」のところが多かったみたいなんですね。そこで下村さんが「それなら自分で場所をつくる」ってお寺のお茶室を借りて大場さんを連れて行ったというのが、まあ「よりあい」の始まりになるわけです。ちょうどそのお寺の住職のお母さんもぼけ始めてたから、じゃあ一緒にお世話しましょうみたいな(笑)

三島(笑)

鹿子そうこうしているうちに口コミで評判になっていくんですよ。「あそこはどんなにぼけててもお世話してもらえる」って。それで、他の施設では拒否されるような、超アナーキーなお年寄りたちが集まるようになっていくんですね。まあ、なんせアナーキーなお年寄りたちなんで、納骨堂に勝手に入ってお供え物を食べたり、違う宗派のお経を平気で唱えたり、鐘をガンガン鳴らしたりするわけです。死ぬほど面白かったらしいですけどね。

 でも、さすがにこのままではまずい、ということになって民家に場所を移して介護を始めるようになるんですけど、それが「宅老所よりあい」という施設になるんです。で、施設の名前を決めるときに、最初は「託老所」にするはずだったんですが、また大場さんが言うわけですよ。「年寄りば託するちゃどげんことか!」って。で、自宅に近い感じの建物だからということで、「託老所」ではなく「宅老所」と名乗ることになったと、まあざっと言えばそういう感じですかね。


三島このエピソードを『へろへろ』で読んだときに感動したのですが、おばあさん、すごく頭働きますよね。ボケてらっしゃるとはとうてい思えなくて...。「老人を託すってどういうことや」っていう発想はすぐには思いつかないですよね。
 そんな、よりあいでの出来事をまとめたのが、この『ヨレヨレ』という雑誌なんですね。もうタイトルからしてインパクトがある(笑)。

鹿子5分ぐらいで思いついたタイトルなんですけどね(笑)。煙草に火をつけて吸い終わるときにはもう思いついてましたから、もしかすると5分かかってないかもしれないですよ。まあ、いいことばっかり書いた、よくある企業PR誌みたいにするんだったら、「よりあいの森から」みたいなタイトルになったと思うんですけど、僕はほら、そういうことする気は全然ないですから。「よりあい」にいるお年寄りたちはみんなヨレヨレしてるし、職員もヨレヨレになりながら働いていたから、ああもう、これは「ヨレヨレ」だなと。それを下村さんに伝えたら腹抱えて笑ってたんで、「あ、こんなに受けるんだったら大丈夫だ」と思いました。

三島表紙のインパクトもすごいです...。


アニメーターとしてはもうヨレヨレです

鹿子このモンドくんが描いた創刊号の表紙はすごいですよね。宮崎駿さんの似顔絵なんですけど、この目の所をよーく見て下さい。



 これは完全に「危ない人」の目ですよね。子ども好きの優しいおじいちゃんの目じゃないですよね。僕も昔からそう思っていたんですけど、モンドくんも宮崎駿の本質を完全に見抜いてると思ったんですよ。しかしこの似顔絵に「ヨレヨレ」というタイトル文字をはめた瞬間、僕は死ぬほど笑い転げましたけどね。

三島本当に、なんかマッチしてますよね(笑)。 

鹿子ちょうどこれを作っているころに、宮崎駿が引退会見しましてね。その会見で「私はもうヨレヨレです」みたいなことを言ったんですよ。「キターーーーーー」って思って。それにこの表紙だったら、スタジオジブリの特集号だと勘違いして買ってくれる人もいるかもしれない、とか思って(笑)。

三島そんなこと考えてたんですか...(笑)

鹿子あ、考えましたね。ま、そう思わない人でも、表紙をぱっと見たとき、宮崎駿の似顔絵の上にヨレヨレって書いてあるから、「これはディスってるんだろうか?」ってなると思うんですよ。それで横見たら「うんこの水平線」って書いてあるわけでしょ。「なにこれ、ふざけた本なの?」って思ったらその下に「谷川俊太郎」ってあるわけです。それでさらに混乱したところに「谷川さん、認知症です」とセンセーショナルな文字が目に入るようにレイアウトしてあるわけです。もうわけわからなくなって、「これください」ってなるだろうと(笑)。


『ヨレヨレ』が500円な理由

三島この500円という値段も絶妙ですよね。

鹿子この本はもともと、本屋さんで売る予定じゃなかったんです。「宅老所よりあい」は公民館などでよく講演をするんですけど、その後に物販があるんです。そこでワンコインで買えるものを、ということで先に値段が決まっていたんです。

三島なるほど。

鹿子それで講演の終わり頃に必ず「うちは日本一貧乏な施設です」みたいなことを言うんですね。そうすると来たお客さんもタダで聞いてそのまま帰るのも悪いと。これはなにか買って帰ってあげなきゃって思うみたいなんですよ。職員の手作りジャムが400円、ヨレヨレが500円。だいたいみなさん1000 円札を出してくださるんですね。それで、おつりの100円を「どうもありがとうございます」と言いながら、すぐ横に置いてある募金箱をちらっと見て渡すんです。そしたらね、「あんたたちも大変だね」と、チャリンって入れてくれるという(笑)。

三島うまい!

鹿子そうすると「お客さんも『今日はいいことした!』と思って気持ちよく帰ってくれるやろ」って下村さんは言うわけです。確かにそういう気もしますけど、ま、ものは言いようということですね。うははは。


(つづきます)

   

お便りはこちら

みんなのミシマガジンはサポーターの皆さんと運営しております。

鹿子裕文(かのこ・ひろふみ)

1965年福岡県生まれ。編集者。早稲田大学社会科学部卒業。ロック雑誌『オンステージ』、『宝島』で編集者として勤務した後、帰郷。1998年からフリーの編集者として活動中。2013年、「宅老所よりあい」という小さな老人介護施設で起きているドタバタのみを取り 上げる雑誌「ヨレヨレ」を一人で創刊(現在第4号を制作中、まもなく発売)。杉作J太郎が率いる「男の墓場プロダクション」のメンバー。人生でもっとも影響を受けた人物は早川義夫。

バックナンバー