今月の特集1


 本日、全国の書店にて、後藤美月さん作・絵『おなみだぽいぽい』が発売になります。
 『家のしごと』(山本ふみこ著、ミシマ社)の装画でお世話になったことからご縁がつながり、後藤さんが長年温められてきた初の絵本を、発刊させていただくことになりました。

 後藤美月さんは、書籍や雑誌で挿絵を描かれるイラストレーターさんですが、もともと、三重県四日市にある本屋さん「メリーゴーランド」で働いていらしたことがありました。(このあたり、詳しくは「本屋さんと私」に登場いただいたときの記事をご参照ください。)
 そのメリーゴーランドの店主であり、後藤さんが通っていた専門学校の絵本の授業をしていた先生の先生でもあるのが、増田喜昭さん。後藤さんが小学生の頃に強く影響を受けたという『しばてん』という絵本を、その小学校の先生に紹介されたのも増田さんと思われ、後藤さんが多大な影響を受けてきた方です。

 『おなみだぽいぽい』の発売に先立ち、できたてホヤホヤの見本をもって、ドキドキしながら四日市のメリーゴーランドを訪れた後藤さんと編集部。そこで行われた増田さんと後藤さんの師弟対談は、絵について、絵本について、子どもについて......熱くひろがりました。3日間にわたり、お届けします。

(構成:星野友里、構成補助:角智春、中谷利明、写真:鳥居貴彦)

増田喜昭×後藤美月 自分の人生に落とし前をつける絵本(3)

2017.06.22更新


僕の顔だって親父の盗作やし

後藤私、いろんなものを読むと、その人の新しい表現が自分のなかに染み付いてしまって知らず知らずのうちに自分も使ってしまいそうで、読めなくなっていくんです・・・。

増田使うねん、どんどん。盗作。みんな、僕の顔だって親父の盗作やし。電話でたら「お父さんですか?」って間違えられてん。せやろ? 真似したわけやないんやけど影響受けるってそういうことやねん。「この人の文章が好き」とか、その言葉が嬉しいのは自分のDNAのなかにその言葉がもともとあるんやて。

後藤うん。「共感した」ってことですよね。

増田そうそう。だから「おいしい」とかもだいたい10歳までのあいだに全部決まってる。もうみなさんに言っとくけど、なんぼいい話聞いても人生変わる人なんかおらへん。講演とかして、お母さんに「今日はええ話ありがと〜!」って言われるけど、「明日も朝起きたら子どもに文句言うんやろなぁ・・・、この人」って思うもん。変わりっこないですよ、そんなん。

 だから僕は子どもに年齢聞いたり、中3の子が来ても「あぁ、受験生大変だね」は絶対に封印してる。「15歳はいっぺんしかないんやから楽しめよ」っていうふうに切り替える。「へー、このおっさん、他のおっさんらと言うことちゃうなぁ」と。それが嬉しいんや。だから世間一般と同じことを言う大人にはならん。やからうちの娘は「大きくなったね、ももちゃん」って言われたら、「小さくなったらお化けやし」っていう子どもやったんですよ。

後藤(笑)。


根本的な問題は何も解決しない終わり方にしたかった

増田これからいろんな人がいろんなことをこの作品に関してね・・・。

後藤そう、いろんな意見が出てきて。でも自分のなかにはひとつ真実があるわけで、それに対してその意見が正解とか間違ってるとかじゃなくて「そう見るんや」と受け止めていけたらと思うんですけど。

増田ちょっといまはね、「みんな一緒」ってことが嬉しすぎ。だからみんなが売れる本を買うみたいな。僕はそれ大反対なんですけどね。昔はここに左翼がいて、右翼がいて、共産党がいても一緒にご飯食べれてん。まったく思想が逆なんやで。「殺してやる!」ってくらいの議論をしながらハンバーグ定食を食っとんねん。でもそれがディスカッションってもんやったんですよ。いまでは残念だけど、大学生も子どもたちもそれを「喧嘩」って言われてしまうんですよ。

 だからね、それを言わせてあげる本にしてあげればいいんです。「私は私よ。もともとこんなですから。なんか文句ある?」と。それは作者としての強みだから。ただちゃんと言うべきことは言って、「そうじゃないですよ。この先生は決して子どもをいじめたわけじゃなく、この子はこの先生が大好きで、なんとかみんなと同じように理解したかったんだけどできなくて、つらくて泣いているんです」ということを言えばいいんです。

後藤実際の出来事は、その先生は私に対して言ってたんじゃなくて大多数に対して言ってたのに、自分のことを言われてると勘違いして、「もうわからない」って授業をぬけだしたんです。けど、その先生は授業が終わったあとに私のところにバーーッと走ってきて、「おい! どうしたんや!」って言って抱きしめられたんですよ! 「おれはそんなことされたら授業したくなくなるやろ! だからやめて」って言われて。この絵本とは関係ないことですけど、現実世界ではちゃんといい先生です(笑)

 一番最後に「先生が出てきて抱きしめてくれました」ってすることは簡単で、そう書くことはできたけど、すべてハッピーエンドなお話じゃない、根本的な問題は何も解決しない終わり方にしたかったというのはあります。

いっぺん無くすことができる子は生きていける

増田これ(扉の絵)は、後藤美月カラーやね。誰が見ても後藤美月カラー。表紙だけではちょっとわからんかもしれへんけど、パッと1ページ開けてタイトルを見たら「あっ、後藤美月」ってわかりますよ。やっぱり僕は色は赤黄青やと思ってるんですよ、元はね。それはもう僕の持論なんやけど。それはずっと(後藤さんは)外さずに使ってきたからね。

後藤よくご存じで・・・。

増田混ぜればどんな色でも出るんやけど、これは不思議な話なんですけど、混ぜるのは読者なんですよ。イラストのことをもうちょっと言うとくけど、見事です。ここ(のページ)大満足。これが答えなんです。美月の。ここを真っ白にする、「それで なんにもなくなりました」って。いっぺん無くすことができる子は生きていけるんですよ。それは電話でも言ったんやけど、「よう描いたな、このページ」と思うんですよ。

 ここまでぎっしり描いて、そしてブシュッてなくなることによって、この子は完全に救われているというか、自分では腑に落ちてるんです。だから次のページでもう大丈夫になってる。このことがね、子どもは直感的にわかると思いますよ。だからこれは世に問うたらおもしろいことが起こりますよ。これ端が切れとるからけっこう大っきいんやろ? 原画も。

後藤それがもうビチビチに描いてて。増田さん、メリーゴーランドいるときも「お前トンボ切ってちゃんと描いたほうがいいぞ」って私に言ってくれたんですけど、でもトンボ切るって嘘じゃないですか。なんかトンボがあると「絵」になるじゃないですか。世界を作りたいのに「絵」になるとわからなくなるんです。描いてて、すごく。「絵本はイラストじゃないから。自分のことだから」と思ってやりたいようにやらせていただきました。すみませんでした・・・。

増田いやいや、とりあえずおめでとうございます。これからが僕たちの仕事です。

後藤何卒よろしくお願いします。悪口言いながら売ってください。

増田悪口は言わんよ。まぁおれがどっかで書評を書いてそれを読めば、「そうやって思ってんのか」って。今日はぜんぜんそれ言ってないからね。いま言っちゃうと、「あぁ、この人は本を売りたがってんな」、まぁもちろん売りたがってるんやけど。これは読者が読み取るものであって、さきに僕の解説聞いたらダメなんです。今日ちょっと言うたけど、まだいっぱいあるからね。この作品の裏に隠れた本人も気づかない絵の世界。楽しみにしててください。

後藤ありがとうございます、楽しみにしてます。


いかがでしたでしょうか。発売日の6月20日~、京都の恵文社一乗寺店では、原画の一部を展示しています。お近くの方はどうぞお立ち寄りくださいませ!


   

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