今月の特集1

 昨年12月に発売となった『等身の棋士』
 おかげさまで、発売数日で即重版がかかり、北野さんの前著であるシリーズ『コーヒーと一冊』『透明の棋士』の読者の方々からは「待っていました!」という嬉しい声もいただいています。

 前著『透明の棋士』の主人公の一人が中村太地王座です。作中では、2013年の第61期王座戦五番勝負で激闘の末に羽生善治王座(当時)に惜敗した印象深いシーンが描かれました。

 そして『等身の棋士』の執筆も佳境にさしかかった昨年9~10月、第65期王座戦五番勝負で再び中村六段vs羽生王座の闘いが実現します。その死闘を終えた直後の中村新王座へのドキュメントインタビューが収録されたことで、本書は完成に至ったと言っても過言ではありません。

 そんな中村王座と著者である北野さんが昨年末、八重洲ブックセンターで対談を行いました。年の暮れにもかかわらず、100名を超えるお客さまたちの熱気の中で、棋士として生きるということ、昨今の将棋界における変化、藤井聡太四段や加藤一二三九段、羽生善治竜王のこと、将棋を書くということ、などなど、おおいに語らっていただきました。3日間にわたってお届けします。

(構成:星野友里、構成補助:中谷利明)

中村太地王座×北野新太 棋士として生きるということ(2)

2018.01.29更新

200年考え続けても将棋のことはわからない

北野来月の文藝春秋さんで羽生先生のロングインタビューをさせていただいたんですけど、そこで驚いたのが、中村先生と同じ将棋観を持っていらっしゃったことなんです。

中村え!?そうなんですか!?

北野『等身の棋士』の中に出てくる「将棋は2人で指すもので、自分の中で完結するものではない」という中村さんの言葉と同じ意味のことを仰ったんですよ。

中村へぇ〜〜。羽生先生が言うと重みが増しますね。永世七冠を取られた時のインタビューでも「まだ将棋のことをぜんぜん分かっていない」ということを仰っていたのが印象的でした。

北野そのインタビューでも「これから200年考え続けても将棋のことは分からない」と仰ったので「でも先生、これから200年も生きていくことはできないですよね。それはつらいことなのではないでしょうか?」ということを聞いたんです。

中村分からないまま終わってしまうのは、ということですね。

北野でも「たとえ限られた時間だったとしても、将棋という膨大な可能性の中の一欠片が自分にとって得難いものであるならば、それでいいじゃないかと思うようになったんです」と仰るんです。

中村カッコ良すぎますね...。永世七冠を取られて、別の次元に行かれてしまったような、なんというか、一人だけ他の世界に行かれてしまったような感じがちょっとしますよね。

北野いや、先生は羽生先生から王座を奪取されたわけですから、そこをお忘れなく(笑)。羽生先生が永世七冠になった夜、中村先生にLINEしたら「今日の会見を聞いてて、私は本当にあの方に勝てたのでしょうか・・・」と(笑)。

中村あのインタビューを聞いた後だったら、勝てなかったかもしれないですね(笑)。


どちらかというと下座に座りたい

中村王座を獲った翌日に北野さんに取材していただいて、あれはけっこう感慨深かったんです。家の近くでご飯を食べて、その後、前にも連れて行ってもらったバーに行ったんですけど、雰囲気がめちゃくちゃよくて。

北野そうでしたね。夜の高層階にあるバーで、もう営業時間も終わるような時になって、生バンドの音楽がパッと止まった瞬間があったんです。もう2、3時間くらいお話しをしていたから、ちょっと沈黙が訪れてですね。「おお、中村さんとの間に沈黙が訪れたぞ」という謎の感覚があって。「これはなんだ?」と思ったら、4年前も違うバーで、中村さんと、それこそタイトルにあと一歩届かなかった翌日にお酒を飲んでいたんですね。その時に訪れた沈黙のことを思い出したんですよ。「あー、中村さんはあそこからここに辿り着いたんだなぁ」という感じがあって、僕もグッときてたんです。あの時。
その時、先生は「夜景が素敵ですね~」「ここは東京タワーとスカイツリー、両方見れるんだ。すごい!」みたいなお話をされて沈黙を破ってて。「あー、等身の棋士だ、この人は」と(笑)。

中村その等身なんですか(笑)?

北野本当はバーの話も本の中に書こうと思ったんですけど、編集者さんに「もう夜のバーがどうのこうのみたいなの、やめませんか?」的なことをやんわり進言されて、やんわりと忖度しました。書けば良かったよーな気もしてきました。うーむ。...あれから早2カ月くらい経ちますけど、先生は「王座」と呼ばれることに慣れてきましたか?

中村2カ月弱経ってきて、ようやく慣れまして。王座になったすぐ後は、サインする時に「六段」って書きそうになってたんですよ(笑)。もう七段でもあるわけだから全然違うんですけど(笑)。

北野ダブルで違いますね(笑)。対局とかでも特別対局室の上座に必ず座ることが多いじゃないですか。

中村それがですね・・・もともと上座が好きじゃないんですよね、自分。下座に座っていたいんです。常に挑戦者として居たい、みたいなところがあって。なので、立場とかはどうでもいいから下座に座らせてほしいんですよ。常に。後輩とやる時でも、どちらかというと下座に座りたいし。だからちょっと居心地悪いんです。

北野それはすごいですね。と思いつつ、なんとなく分かる気がします、先生ならば(笑)。


藤井聡太四段と加藤一二三先生のこと

北野2017年は将棋界にとってものすごい年になりましたけど、先生から見ても、藤井聡太四段はやっぱりすごい棋士なんでしょうか?

中村彼が奨励会に入った時くらいから名前は聞いていましたけど、さすがに三段リーグでは「天才でも四段に昇段するまで2、3期くらいはかかるよね?」と思っていたら、一期で抜けちゃって。
あの神谷先生(広志八段が1986年度に樹立した)28連勝の記録を誰かが塗り替える日がくるとは本当に誰も思ってなかったと思いますし、しかもそれがデビューでというのはあり得ないことで。人の「これくらいだろう」という予想を上回り続けているので「すごいなぁ」と思うしかないですよね。

北野あと今年でいうと、加藤一二三先生ですよね。先生は公式戦で指したこともあるはずですけど。

中村加藤先生には2、3局教わっていまして。印象深かったのが、テレビ棋戦の予選で、持ち時間を使い切って30秒将棋になったんですね。でも加藤先生は「10秒・・・、20秒・・・、1、2、3・・・」と読まれても、全然指さないんですよ。

北野おお、微動だにせず・・・。

中村「5、6、7・・・」と。「まぁ加藤先生はギリギリになって指される方だから」と思って見てたんですけど「8、9・・・」でも、まったく微動だにしなくて(笑)。それで記録係と僕で目を合わせて「あれ?」と思って。記録係も恐る恐る「10・・・?」って言って(笑)。

北野(爆笑)!!! 

中村9から10のあいだは5秒くらいあったんですけど(笑)。でも、ついに言わざるを得なくなって。加藤先生はそれでも気付いてなくて。すごい集中力で聞こえていないんですよ。

北野それは・・・、集中力というか、集中してないというか(笑)。そうなんですか。そんな一局がありましたか。

中村すごい伝説ですよね・・・、僕のなかで印象深い出来事です。記者から見て、加藤先生はどんな印象ですか?

北野一言で語るには表現しにくいですね。でも、このあいだ羽生先生のインタビューでも加藤先生のお話をすることになりまして。「自分が今、50手前になってみて、77歳になったとして、あれだけのパッションとテンションは保てないです」と仰っていました。やっぱりバラエティとかで見ている方には、もうちょっと加藤先生の勝負師的なところも伝わってほしいなという気もしますよね。

中村そうですね。2018年は、そういうところも知っていっていただきたいですね。


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