今月の特集1

 昨年12月に発売となった『等身の棋士』
 おかげさまで、発売数日で即重版がかかり、北野さんの前著であるシリーズ『コーヒーと一冊』『透明の棋士』の読者の方々からは「待っていました!」という嬉しい声もいただいています。

 前著『透明の棋士』の主人公の一人が中村太地王座です。作中では、2013年の第61期王座戦五番勝負で激闘の末に羽生善治王座(当時)に惜敗した印象深いシーンが描かれました。

 そして『等身の棋士』の執筆も佳境にさしかかった昨年9~10月、第65期王座戦五番勝負で再び中村六段vs羽生王座の闘いが実現します。その死闘を終えた直後の中村新王座へのドキュメントインタビューが収録されたことで、本書は完成に至ったと言っても過言ではありません。

 そんな中村王座と著者である北野さんが昨年末、八重洲ブックセンターで対談を行いました。年の暮れにもかかわらず、100名を超えるお客さまたちの熱気の中で、棋士として生きるということ、昨今の将棋界における変化、藤井聡太四段や加藤一二三九段、羽生善治竜王のこと、将棋を書くということ、などなど、おおいに語らっていただきました。3日間にわたってお届けします。

(構成:星野友里、構成補助:中谷利明)

中村太地王座×北野新太 棋士として生きるということ(3)

2018.01.30更新

ここで頑張り切れなきゃ、いつやるの

中村北野さんと最初にお会いしたのはドトールでしたかね?

北野ドトールでした(笑)。あれが棋聖戦挑戦の直前ですから、2012年の春ですね。それで私、スポーツ新聞らしく「斎藤佑樹選手の早実同級生が羽生に挑む」みたいな感じで分かりやすく紹介させていただきましたね(笑)。

中村北野さんに東京ドームまで連れて行っていただきましたよね。それで試合前のグラウンドの上まで行って、斎藤投手とお会いして・・・。

北野斎藤投手がマー君と甲子園決勝で投げ合った時、棋士になりたてだった先生はスタンドで応援されていたんですよね。でも、まさしく今回の王座戦に向かう中村先生も、一度きりの夏に賭ける球児のように、じゃないですけど、同じような気持ちで勝負に臨んだと思うんです。どういう思いを胸に今回の王座戦には臨んだのか。あらためて伺えますか?

中村前回からの4年間は、あまりタイトル戦に絡む活躍も出来ていなくて。ちょっとまずいなと思っていた時期もあったんですけど、この一年、特に王座戦に関してはわりといい感じでトーナメントを勝ち上がることができて、挑戦を決められた時に「ここで頑張り切れなきゃ、いつやるの」と。

北野「いつやるの...」

中村「今でしょ!」っていう(笑)。将棋は運が絡まないゲームですから、負けた時は全部自分のせい、自分が弱かったから、ということになってしまいます。でも、結果が出たのは本当にたまたまで。結果としては3勝1敗ですけど、ちょっと、例えばある一手に何分費やすかどうか、といったようなところで結果も違ってくるものですから。特に第1局なんてそうなんですけど。

北野大激戦でしたからね。1局目は、午前中で既にやや指しにくくなっていたじゃないですか。控室にいて「うーむ、中村さん最初から大変な戦いだな」と思っていたんです。でも、一方で、指している時の表情が4年前とは明らかに違うなとも思いました。この人は今、たとえ形勢を損ねても「ちょっとまずいな」とか揺れ動く部分がないところまで、完璧に自分を追い込めてるんだな、という感じがありました。実際に逆転勝ちをして、一気に走っていったのは明らかに4年前からの変化だなという感じがしました。

中村そうですね...。ん? しんみりしちゃいました...。


盤を挟んだ目の前に、羽生善治がいるということ

北野巷のウワサでは、王座が日本将棋連盟次期次期次期会長に就任することは間違いないと言われてるそうですけど(笑)。そこのところ実際にはどうなんでしょうか(笑)?

中村(笑)。いやいやいや...、畏れ多いですよ...。連盟会長は大変ですよ。佐藤先生(康光九段、日本将棋連盟会長、永世棋聖資格保持者)の姿を見ていたら、大変そうだなと思いますよ。ものすごい責任感でやっておられるので。

北野普段、将棋会館にいる時、事務局に佐藤先生と森内(俊之九段、日本将棋連盟専務理事、十八世名人資格保持者)先生が一緒にいるという光景はすごいものがあります。10代から切磋琢磨してきたお二人が、連盟の運営においてタッグを組んでおられる姿には、ものすごくグッとくるものがあるんです。お二人は紫綬褒章を受章されたんですけど、お二人とも会見の席で「同世代の仲間たちと生きてこられてよかった」という話をされるんですよね。僕が最もグッとくるポイントなんですよね、なぜか。

中村たしかに。僕も羽生世代をずっと見て育ってきた世代ですけど、やっぱりあの世代は特別だと思いますね。

北野王座の場合は、羽生先生に憧れまくって棋士を志したわけじゃないですか。で、その少年が棋士になって、タイトル戦に出るようになって、盤を挟んだ目の前に羽生善治がいるっていう状態って、他の競技ではまずないことじゃないですか。これはものすごいことですよ。確実に。

中村そうですね。やっぱり、アスリートでも普通は40歳を越えたらトップで居続けるというのは難しいことですからね。最初の棋聖戦で挑戦した時は、憧れでオーラが見えてしまうような感じが正直あったんです。将棋界で言うと神様みたいな方ですからね。

北野神様。...神様ですねえ。

中村ただ、尊敬しすぎるのもイカンというのもいろんな人から言われましたし、僕自身も感じました。羽生先生も、将棋盤を離れた時は47歳の普通の男性なんです。で、2年くらい前からですかね。羽生先生だって普通の人間じゃないか、普通の人だと思って戦わないとダメじゃないか、ということにわりと若手が気付きだしたような感じがあったんです。

北野羽生先生にとっては脅威ですね(笑)。「若手よ、気付きやがったか!」みたいな状態というのは(笑)。

中村盤の前に座ると、すさまじい、怖いくらいの威圧感を感じますけど、でも、そのあたりから、相手が羽生先生であっても盤上に集中できるようになったかな、という感じはします。

北野羽生先生と戦うということと、羽生先生であっても普通の人だと思って戦うということは、やはりとんでもない状況であり、とんでもないお話という感じがします。とんでもない話には、やはり惹かれますね。

北野さんがアマチュア三段とかになったら僕は嫌です

中村僕が北野さんにお願いしたいことがありまして、あまり将棋を強くならないでほしいということなんです。

北野ええ!! いやいや、強くなりますよ。ならせてください(笑)。来年の誓いはアマ初段ですって年賀状にも書いたくらいなので。あ、イヤ、しかし、こう見えても観戦記とかは一応書かせていただいたりしていますからね。ちょっとは成長してるんですよ...。あ、思い出した。恐ろしい話を思い出しちゃいました。私、生涯で初めて観戦記を書かせていただいたのはNHK杯の西川和宏先生と上田初美さんの一局だったんですけど、何を血迷ったか、中村先生に「ちょっと付いてきてください」って言ってNHKまで着いて来させて、アドバイスをいただいたという黒歴史があるんですよね(笑)。

中村ありましたねー。

北野今にして思えば、どんだけ失礼なんだよって話で...。よく頼んだなお前~って思います。すいませんでした。

中村いえいえいえ。いや、でも思うんですけど将棋がすごく強い記者の方はたくさんいますけど、北野さんの程良い強さというか...。

北野弱さと言っていただいて構いませんので。素人目線で書く人も...とビシッと言っていただいた方が気がラクに...(笑)。

中村当然ながら、まったく分からないと将棋のことは書けないですよね。でも、投了図のこととかも書いていただきましたけど、ちょうどいい塩梅の「美しさ」とか「流れ」とかはもう分かっている、というくらいがすごくいいと思ってるんです。なので、本当に、ネット対局とかあんまりしないでください。危ないから(笑)。北野さんがアマチュア三段とかになったら僕は嫌ですけどね。

北野いやいやいや、ぜひ技術論を語り合いたいです。ネット対局、メチャやってますからね。覚悟してて下さい。

中村たしかにもう1人の北野さんがいたら、技術的な内容ばっかりで「こういう思考回路で、こうなってこの手に決めた」みたいなのもちょっと書いてほしいなという気持ちもたしかにどこかではありますね。あ、それもありだな、やっぱり(笑)。

北野でしょでしょ(笑)

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