今月の特集1

 2017年2月27日。
 京都を拠点に活動する劇団「ヨーロッパ企画」の第35回公演「来てけつかるべき新世界」が、第61回岸田國士戯曲賞を受賞したというニュースが飛び込んできました!

 「来てけつかるべき新世界」は、新世界のおっさんたちが迫り来る未来と格闘する新世界SFコメディ。
 ヨーロッパ企画の代表であり、この脚本を書いた上田誠さんは、いったいどのようにしてこの傑作を生んだのでしょうか。

 今回は上田さんがよく取材中に通ったという大阪・新世界にある串カツ屋「ぜにや」で、この場所でしが聞けなかった、受賞後初の独占インタビューを敢行!
 全2回でお届けするインタビュー、後半をどうぞ。

(聞き手:ミシマ社メンバー)

岸田國士戯曲賞受賞後初! 上田誠さん(ヨーロッパ企画)独占インタビュー(2)

2017.04.18更新

岸田國士戯曲賞の影の功労者

上田あと、励まされた、ということでいえば、この串カツ屋の隣にあった石碑のおかげでこの劇が書けたといっても過言ではないです。

つうてんかく
じゃんじゃんまち
くしかつ どてやき
ふぐ ちょうちん
かようげきじょう
なにわくらぶ
いご しょうぎ
さんきち こはる
びりけん
たまいちこおひい





上田という石碑なんですけど、これって本当に表層しか書いてないんですよ。もっと奥深いことが書いてあるのかと思ったら、全然そんなことなくて。でもこの「石碑にまでした詩が表層の羅列だった」という事実に勇気づけられたんです。もう、気にせず串カツを書いていいんだと。

――(笑)。

上田それに、この詩にもある「ビリケン」もなかなか味わい深くて、実は輸入されてきた神様なんですよ。それも、街おこしのために輸入されてきた神様。だから街じゅうにあるし、増殖可能なんです。

―― 劇のなかでも、演歌歌手の子がコピーされるのは、そういった背景もあるのかと考えるとゾットしますね。


ドラマとバラエティーとドキュメンタリーのあいだ

―― 「来てけつかるべき新世界」はある種、新世界のドキュメンタリーの側面もあるように感じました。

上田ありがとうございます。この前テレビの仕事をしてて思ったことなんですけど、普通テレビって、ドラマとバラエティとドキュメンタリーって、カテゴリが分かれているじゃないですか。当たり前のことなんですけど、それが新鮮だったんですよ。ひるがえって考えてみたら、うちの演劇はドラマとバラエティとドキュメンタリーの、あいだのことをやろうとしているなあと思って。

―― そういえばそうですね。

上田本当はそれらって並立可能なんですよね。テレビのなかでも、「水曜どうでしょう」とかはバラエティーとドキュメンタリーの要素がどちらも入っている。さらにはドラマ性もある。そういう作品が好きなんです。
 映画も、劇映画だとしてもドキュメンタリー性ってやっぱり底流に走っていたりして、そこを損なうとけっこう痛いことになる。たとえばある地方を舞台にした映画なのに、実は一箇所だけ東京のスタジオで撮っている、みたいな内情を聞くと萎えたりしますよね。それは、ドラマとしては問題なくても、ドキュメンタリー的なところに嘘が入るからなんですよ。

―― ありますね。

上田僕たちの「サマータイムマシン・ブルース」という舞台が映画化されることになったとき、撮ってくださった本広(克行)監督が香川出身だったんですね。なので香川でロケしようということになって。(作品のなかには)部室のシーンがよく出てくるんですけど、そこは別に都心のスタジオとかで撮ってもよさそうなものなのに、そうではなく、ちゃんと香川の大学の一室を借りて撮ったんです。そうすることによって、ドラマ的な感動とは別に、香川ですべて撮ったというドキュメンタリーの要素が出てくる気がします。

串カツを食べながらお話を伺いました。串カツ、うまかった。


声にすべてが出る

―― ドキュメンタリー、奥が深いです。

上田ヒカシュー(というバンド)の巻上光一さんという方が、「声は、発声する人のすべてのことが含まれるドキュメンタリーで、すべてが出るものなんだ」とおっしゃっていたことがすごく残っているんです。ヨーロッパ企画でもラジオドラマをやることがあるんですが、「台本を読みながら話す声」と「台本を外して相手の目を見ながら話す声」って全然違う。

―― そうなんですね。

上田巻上さんは、録音のとき、スタジオに来るまでに都会のアスファルトを歩いた感触も声に出るし、信号を待ってる感触も声に出るとまで言う。役者も多分そうだろうなあ、と思っていて。本当は、経験したことのないことを経験したように語るのが役者の力なんですけど、やっぱり経験してないと出てこないものなのだな、と。

―― ふんふん。

上田たとえば「今月ボーナス少なくてさあ」というセリフも、ボーナスをもらったことがない役者が言うのと、サラリーマン経験があって、(実際にボーナスが)少なかった経験がある役者が言うのとでは、言い馴れかたが違うんですよ。その役者の体の現実感覚からじゃないと言葉って出てこないんだなあって。なので役者みんなで新世界へ行きました。具体的に何をするわけではなくても、新世界に触れてる時間があれば、ちゃんとドキュメンタリー性が体に現れるんじゃないかな、と。


今、書きたいこと

―― 最後に、次の作品はどんな作品になりそうでしょうか?

上田そうですね、ちょっとまだ具体的にはあれなんですが、今、画家のエッシャーが気になっているんです。たとえば、好きな画家は? と聞かれて「ゴッホ」と答える人はいても、なかなか「エッシャー」って答える人はいないと思うんです。ある種のアウトサイダーアートというか、色物扱いされることが多い。でも誰しも、エッシャーの絵を見たら「おっ」となるのがいいなと思って。
 『三つの世界』という作品があって、これがめちゃくちゃいいんですよ。

 水面には落ち葉が広がってて、その下に魚が泳いでて、木の影が写ってるという絵なんですけど、それが水上の世界と、水面の落ち葉と、陸に生えている木の陰の3つの次元が1枚の平面に収められています。

―― ほんとですね。

上田エッシャーは、こういった多次元2次元に収めるということを徹底的にやった人なんですけど、その執念ってすごいな、と思っていて。このエネルギーを活かせば、何か面白いことができるんじゃないかと思っていますが、今のところ舞台や人物を全部モノトーンにしようか、みたいなことしか思いつかないので(笑)、一旦そこから離れて、何か別のことも考えないとなあ、と。


おまけ

上田さんとめぐる新世界、なにを見つけたのかポカーンと口をあける代表・ミシマと、半笑いのメンバー。


昨日のなにわを守る合言葉の答えは、「火い消した?」でした!


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上田誠(うえだ・まこと)

1979年京都生まれ。1998年、大学入学とともに同志社小劇場に入団し、同年、劇団内ユニットとしてヨーロッパ企画を旗揚げ。ヨーロッパ企画の代表であり、すべての本公演の脚本・演出を担当。外部の舞台や、映画・ドラマの脚本、テレビやラジオの企画構成も手がける。2016年9月、ヨーロッパ企画のはじめての本『ヨーロッパ企画の本』がミシマ社より刊行。第35回公演「来てけつかるべき新世界」にて第61回岸田國士戯曲賞を受賞した。脚本を担当したアニメーション映画「夜は短し歩けよ乙女」(森見登美彦原作)が4/7〜全国公開中。

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