今月の特集1


 本日、全国の書店にて、後藤美月さん作・絵『おなみだぽいぽい』が発売になります。
 『家のしごと』(山本ふみこ著、ミシマ社)の装画でお世話になったことからご縁がつながり、後藤さんが長年温められてきた初の絵本を、発刊させていただくことになりました。

 後藤美月さんは、書籍や雑誌で挿絵を描かれるイラストレーターさんですが、もともと、三重県四日市にある本屋さん「メリーゴーランド」で働いていらしたことがありました。(このあたり、詳しくは「本屋さんと私」に登場いただいたときの記事をご参照ください。)
 そのメリーゴーランドの店主であり、後藤さんが通っていた専門学校の絵本の授業をしていた先生の先生でもあるのが、増田喜昭さん。後藤さんが小学生の頃に強く影響を受けたという『しばてん』という絵本を、その小学校の先生に紹介されたのも増田さんと思われ、後藤さんが多大な影響を受けてきた方です。

 『おなみだぽいぽい』の発売に先立ち、できたてホヤホヤの見本をもって、ドキドキしながら四日市のメリーゴーランドを訪れた後藤さんと編集部。そこで行われた増田さんと後藤さんの師弟対談は、絵について、絵本について、子どもについて......熱くひろがりました。3日間にわたり、お届けします。

(構成:星野友里、構成補助:角智春、中谷利明、写真:鳥居貴彦)

増田喜昭×後藤美月 自分の人生に落とし前をつける絵本(1)

2017.06.20更新


絵の学校なのに「絵を描くな」と言った先生

後藤じつはこの本に出てくる「先生」は、デザイナー学院の松永先生という絵本の先生で、増田さんの教え子でもあって。専門学生時代や、幼少期、いろんな経験が合わさってできた本なんですけど、いろんなことを考えると、増田さんがいないとできなかった、と思います。

増田彼は、僕がデザイナー学院の先生になったときの、最初の二期目くらいの教え子で、「こんなつまらん学校辞めとけ」と。

後藤講師なのに、生徒にそんなことを言う、と。

増田で、一年で辞めて、二年になっても俺の授業だけ潜りで来ていた。で、なぜか俺のあと、その学校の先生を引き継いだ、という変な話。学校出てないのに(笑)。これはなかなか面白い話やね。

後藤そこの学校は専門学校で、授業料が他の学校と比べて高かったんで、ここには行かんとこかなと思ったんですけど、体験入学のときのその先生の話が、「教えてやるぞ」という感じではなくて、「絵を描くな」と。絵を学びに行こうと思っているのに、「絵を描くな」って言うんだ、なんか面白いなと思って。たぶん増田さんが逆の言い方をよくするのが、その先生のなかにも染み付いていて。ここだと面白いことができそう、と思って入ったんですけど。


「これが私です」というものが無かった

増田美月はメリーゴーランドで働いていたときから、絵本作家じゃなくて、イラストレーターとして東京で食っていく、と。もう、就職したときから豪語しとったんですよ(笑)。「東京はきついぞぉ」なんて、僕なんかはけっこう言ってたけど、本人は意思が強いから。「とびだせ! みえの絵本作家たち展」をやったときは、自作絵本出してなかったのかな。

後藤出してなかったです。2011年のちょうど地震があった時なんですけど、増田さんが企画されて、メリーゴーランド絵本塾出身の作家たちが作品を出して、津市で展覧会をやったんです。私は絵本塾出身でもないし、自作絵本を出していなかったのに、「お前も出ろ」と言ってくださって。

増田そのときはもう少しずつ、僕は、美月には才能というか、面白いセンスしているから、とりあえずこういうのやってみれへんかって、二つ絵本をつくる仕事を紹介して。もちろん自分の文じゃないんやけど。

後藤でも、その「絵本作家たち展」のなかで、やっぱり自分は絵本を出していないというのがすごく、心のなかに重くのしかかっていて。なんか、みんな、「これが私です」というものがあって、私だけが無くて、「なんでここにいるんだろう」という感じも、すごい悔しくて。展示は、みんながひとりひとつの箱の部屋のなかで作品を作っていたんですけど...。

増田四畳半の木の部屋をもらって、そのブースを子どもたちが訪ねて遊ぶ、という。

後藤絵本作家の街、みたいな感じで、自分は絶対にこのなかの誰にも負けないやつを作ろう、と思っていたんですけど。

増田みんなすごかった。徹夜で何か作り始めて、えらいことになった。

後藤みんな自分の作品の核みたいなものがあるから。なんかそれが、私だけなくて。すごい悔しくて。その打ち上げのときに、「今までイラストレーターとしてやってきましたけど、私は絵本を作ることにしました」って、初めて宣言したんです。それが2011年だから、すごい長いことかかった。

増田6年か。


私は輪に入れない子に届ければいいな

増田年々ね、目に見えないことで子どもを傷つけているようなことに無神経さが増しているような感じがします。やさしい絵本を読ませてやさしい子にする、とか、本当に申し訳ないけど、親の都合で子どもを育てている。「あんたのためを思って、先生も親も、一生懸命しているのになによ」みたいな。子どもからしてみれば、「俺が頼んだ覚えはない」と。

 だから、絵本の読み聞かせなんか、あんまり好きじゃない。だれも頼んでないし。でもそれが、いいことだ、って全国に広まり、それして金を取るところが出てきたり。「え、どないなってんねやろ。そんなことより、『長くつ下のピッピ』とか読んでやったほうがいいのに」と思う。

 本当に子どもに添うつもりで気合いを入れて子どもの仕事をしている人がいなくなっちゃって。先生もビビりながら、親の顔色見ながら、それで絵本を読んでやる人はいい人、みたいに。これは難しいんやけど、絵本っていうのは深読みなんよ。やから子どもはそんなことしてないように大人は思うけど、大人のペースでページをめくられたってさ。だから読み聞かせが嫌いなんよ。

後藤これ(『おなみだぽいぽい』)ひとりの絵本ですからね。読み聞かせの本じゃないですもんね。

増田聞いてる子どもの表情を見逃さなければやってもええと僕は言うんやけど。「ここに10人おったら、お前はその10人の誰のために読むんや」って。「不特定多数? なんやそれ」みたいな。「みんなって誰?」って。子どもの頃からずっとそう思ってきたんや。「みんなができることが、どうしてできないんだ」って、「いや、おれはみんなじゃないし」。

後藤絵本の読み聞かせに見学に行ったことがあるんですけど、たいていの子は楽しみ方を知ってるから、先生が「あー!」って言ったら揃えて「あー!」って、楽しい雰囲気ができるんです。けど、なかにはそのうしろでその輪に入れない子がいて、その子のことばっかり気にしてしまって。「この子はこの時間どういう気持ちでおればええんやろ」と。おこがましいですけど、大多数が参加できる本はだれか別の人が作れると思うから、私はうしろでひとりでなにかしている子に届ければいいなと思うんですけど。

(つづきます)


   

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