今月の特集2

就活生に告ぐ! 君はバッキー井上を知っているか 第1回

2013.04.22更新

就活生に告ぐ!君はバッキー井上を知っているか


本特集は、ミシマ社に来ている学生さんたち(通称・デッチ)に、
バッキー井上さんの話をしているときに決まりました。
「バッキーさんって、37歳で漬物屋を始めたんやって。
それまでは、"ひとり電通"したかったらしいよ」
「な、なんですか、それ??」
「うーん、よくわからん」。
そんな会話の断片が、就職活動中の学生の胸に突き刺さったようです。

「なんか、自分らの生き方狭い気がする・・・。就活だけが、可能性じゃないのかも」

そのつぶやきを聞いたミシマ社編集部はすぐさま、
「生バッキ―さんに会ってみよう!」と即座に提案したのでした。
そうして実現した本企画。
ゴタクはこのへんにして、さっそく、「バッキ―井上」ご本人の肉声に触れてみてください。

全4回でお届けします!

(文:池畑索季、三島邦弘 写真:新居未希)


行きがかりじょう

―― バッキーさん、早速ですが自己紹介お願いします。

バッキー基本的には漬物屋をやっています。
錦・高倉屋っていう漬物屋をやっているんですけど、百錬って言う居酒屋も個人でやっています。
百錬は小さい店で、僕が料理をつくるわけではないんですけど、
・・・行きがかりじょう始めることになって。

極端なこと言うと、僕は就職活動したことないんですね。
なんか目指して、そこにたどり着くのが良いのかちょっとわからないんでね、僕がこうやってお話をさせてもらうのがいいのかなぁって。

ここにたどり着きたいと思って、そこに努力するっていうのがね。
まぁ、努力するって言うのは素晴らしいことやと思うんですけど、その段階で、到達点の予測って言うか、到達点に行けばどうなるか予めわかっているということについて、ちょっと疑問かなぁというふうに思うんですけどね。

そこに辿り着こうとする努力とか、そこに辿り着こうとして色々勉強したり、
いろんな人にあったり、経験したり、それはものすごい素敵なことだと思うんですけど、
到達点を予め予測できるっていう感覚はどうかなぁっていう。
まぁ、はっきり言って難しいですね。

僕なんかは、「行きがかりじょう」っていうふうに、こう。
行きがかりじょうっていうのは情けないことなんですけどね、
それを情けないと言うてたら、もう勝手に年も行くしね、
情けない言うてる間に人生終わってしまってもあれなんでね、
行きがかりじょうの方がカッコイイんちゃうかって。
まぁ、言うてるだけなんですけどね。

―― そういう考え方は昔からなんですか?

バッキー徐々にですね。行きがかり上ということで納得する素質は物凄いあったと思うんですよね、子どもの時から。

皆さんもあると思うんですけど、例えば裏山で基地とか作っていて、もうできそうやって時に、太い枝ごと折れたり、自分が落ちたり、いつもは来ないはずの親が来て止めさせられたりとかね。
そういうのがあるでしょ。やっぱり泣きたくなるしね。

そこでそれを良い展開に感じないと。晩飯もうまないしね、翌日も嫌やしね。
全部、何もかも嫌になりますよね。

運動会でクラス対抗リレーの選手になるっていうことは誉れだったんですけど、
ギリギリのところでコケたりね、
脚の早いやつが転校したりして「ついに俺も・・・」なんて思っていたら怪我したりね。
なんかあるでしょ。そういうこと。


広告会社に潜り込む

―― バッキーさんはこれまでどこかに就職されたことはあったんですか?

バッキー広告会社に入りたくてね。
なんにもわかってなかったんやけどクリエイティブの仕事をしたくて。
電話帳を見て、何社か電話したんですよ。
でも、制作系の学校出たのかどうかとか、作品を持って来いとかいうのがあってね。

僕はそんなところ行ってないし、仕事をしたことがあるわけじゃないし、作品があるわけでもないし。それでずっと電話してたら、「うちは募集してないのになんで君は電話してきたん?」って言われてね。
「オフィスから出てくる人がキレイやし」とか言うて、ほんまは行ってもいないのに。
そしたらクスクスって笑わはって、「ほな、社長に聞いといたげるわ」とか言って。
ほんで、ほんまに聞いてもらって、「納品係やったら来てもらってもええかも」って言うてもらって。
もうなんでもええわ、と思って。とりあえずそういう世界に触れるんだったらと思って。

それで行ったら、もうね、会うたこともないような人種ばっかりでしたね。
今から思ったら大したことないんですよ。
当時はね、ヒゲはやして、いかにも「クリエイター」って感じの人とか。
そこへ潜り込んでね。そっからですよ、ボクが変になったん。

―― (一同 笑いをこらえる)

バッキーそこの会社はね、社長が何もかも指示するんですよ。怖いんですよ。
その社長の気が向くまで仕事しはらへんからね、待ってるんですよ。
その先生がね、その事務所にピアノやらビリヤード台やら、カッコイイ事務所でね。
仕事乗るまで、将棋したり、麻雀したり、お酒飲んだりしはるんですよ。
僕は割とどれも付き合えたんで、オモシロがらはってね。
「とりあえずお前は残っとけ」って。

将棋もね、他のスタッフは先生には勝てへんのやけど、僕は割と互角の戦い。
ビリヤードも互角の戦い。お酒も強いしね。
歌もよう知ってるから、仕事以外のことは割と付き合わされるんですよ。
それが得したんかな、ボク。

で、周りもぽろぽろ辞めて行ったりしてね。
なんでもかんでも「お前やっとけ」とか言わはるんですよ。やったことないのに。

その時に、もうなんかいろんなコトで吸収するんやろうね。20代の前半やったからね。
朝とか昼は納品行って、夕方から夜は先生の遊びに付き合って、夜中とか仕事しはるんでね、その時に手伝うんですよ。
普通のスタッフは20〜22時くらいに帰らはるんですけど、俺はいとけって言われるんですよ。
遊びの相手にね。それが割と得したんちゃうかな。

そやから何があるかわからへんな。
ただ、何かになろうと思って努力することはアレなんちゃうかなぁ。


「損得」で考えてみる 〜バッキー流取材術、開発秘話〜

バッキー努力って言うか、ボクは割とすぐ「損得」に置き換えるんやけどね。
例えば、ライターとかの仕事させてもらった時に、
お店の取材とかにカメラマンの人と一緒に行くでしょ。店に行くのは一緒やんか。
ボクは聞いたりしたりしてる時に、カメラマンの人は写真撮って。
ボクらはレイアウトが出来てきたら、原稿書かなあかんのですよ。
でもカメラマンの人は現像したら終わり。

で、俺は損やって思ってたんですよ。俺は飲みに行けへんやんか。
明日の晩、原稿書かなあかんとか、デートできひんとかね。
カメラマンのやつはできるしいいな、こりゃあ損や。ギャラも変わらへんしね。

それで、取材している間に文章書くことにした。ぐわーって。
取材しているときにいくらメモをしたりしてもね、インターバルあるでしょ。
原稿を起こす時までに。レイアウト上がってきたり、2日か3日あるじゃないですか。
そしたらもうね、わからないんですよ。その時の何かが。

そやからね、行ってる最中に店の料理やお酒と全然関係ないことをいっぱい書くんですよ。
カベの時計がちょっとだけズレてるとかね。
額縁を壁に張っていた日焼け跡があるとかね。
ご主人の字がキレイとか、奥さんの爪がどうやったとかね。
そんなんぶわーって書いていくんですよ。もうホンマにびっくりするくらい。

取材してる時はね、机の上には紙を置かないんですよ。テープレコーダーもやらない。
これやると、起こす時に聞かなきゃいけないでしょ。それ時間かかるから、机の下でビューっと書くんですよ。もう何書いてるかわからなくなるんだけど。

机の上で書いたら、そればっかり相手が見はるんですよ。
テープレコーダー置いても、変なこと言ったら残るから、気になるんですよ。
しゃべる言葉が慎重になるし。

もう後はね、レイアウト上がってきたら、つなぎ合わせるだけ。早いんですよ。
それで褒められんねん。江(「ミーツ・リージョナル」の編集長・当時)に。
「お前の原稿はおもろいのぅ」とか言って。「飲んで書いてるんちゃうんかー」って。

その場のやつを組み合わせてるだけ。
そしたらはよ終わるからカメラマンと一緒に飲みに行けるし。

損とか得とかって言うのはお金のことじゃなくてね。
そういうことがきっかけになって仕事してることが多いですね。


いっぱい入っていたら重くなる

バッキーたとえばお店のドア板がポーンと跳ねててね、別に誰も気にしてないんだけど、それがあったら誰か引っかかるかも知れんなぁと思ったりするでしょ。

でもそれを取るにはね、ドライバーとか道具を取りに帰らなあかんとか言うことで、3日とか一週間放っておくとするやん。

それで一週間後に道具でそれを取るのと、その時に取るのとでは、作業自体は同じ10分で終わっているのに、今やるのと一週間後にやるではだいぶ違うでしょ。
損得で言うたらね。

そんなんで言うたらね、パソコンも重くなるでしょ、データがいっぱい入っていたら。
そやからそんなんをどんどん外していくと、割と軽く動くんちゃうかなってよう思うね。そんなん日常にいっぱいあるんですよ。重く重くなっていくんですよ。



*この続きは明日、更新します!

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バッキー井上(ばっきー・いのうえ)

本名・井上英男。1959年京都市中京区生まれ。画家、踊り子などを経て、現在の本業は錦市場の漬物店「錦・高倉屋」店主。そのかたわら、日本初の酒場ライターと称して雑誌『Meets Regional』(京阪神エルマガジン社)などに京都の街・人・店についての名文を多く残す。独特のリズムと感性をまとった店語りは多くのファンを持つ。

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