今月の特集2

就活生に告ぐ! 君はバッキー井上を知っているか 第4回

2013.04.25更新

就活生に告ぐ!君はバッキー井上を知っているか


本特集は、ミシマ社に来ている学生さんたち(通称・デッチ)に、
バッキー井上さんの話をしているときに決まりました。
「バッキーさんって、37歳で漬物屋を始めたんやって。
それまでは、"ひとり電通"したかったらしいよ」
「な、なんですか、それ??」
「うーん、よくわからん」。
そんな会話の断片が、就職活動中の学生の胸に突き刺さったようです。

「なんか、自分らの生き方狭い気がする・・・。就活だけが、可能性じゃないのかも」

その呟きを聞いたミシマ社編集部がすぐさま動いてできたこの企画。
なんと今日が最終日です。いよいよ「行きがかりじょう」の神髄に迫ります!

(文:池畑索季、三島邦弘 写真:新居未希)


予約したら損

バッキー取材のときにメモ取るでしょ。メモをする時は字がちっさい方が得なんですよ。
ちっさければちっさいほど得。ストロークが小さいから、早いんです。

――ますます読めなくならないですか?

バッキー読めなくなります。でもね、なんかわかるんですよ。
字が読めなくても、その時の自分に復元できるんですよ。
何が書いてあるかわからないけど、書いてた自分に戻れるんですよ。
戻ると早いんでね。

まぁ試合としては損やね。


取材した時の自分ってもういないし、その何日か前より成長してるやんか。
「あんな料理食べたないわ」とか思ってたり。

ま、これに書いてることとかでもね、要はね結局、うまいのを食べたいとかね、
予約した時点でね、割と損な戦いに入ってるんですよ。

うまいもの食べられても、予約したからちゃんと空いていて、
勝ってもね、自分が予測した通りなんです。

それって割と損な戦いなんです。勝ってもチャラ(元)って言う。
うーん、そやから、「それは損やなぁ」って気づいたねぇ。

―― パッと入った店がおいしかったら得した気分になりますよね。

バッキーそれで人生変わっていくこともあるしね。
予め知っている所に、予め知っている満足を求めて行っていると、
それで100点満点でも、なんかあんまり得な感じがないから、

でも予約しないで行くとね、たまたま店が閉まっていたりするじゃないですか。
「残念だな」って言うことで、行ったことないけど隣の店に入ってみたとするでしょ。
そこで良いものが出てきたり、良いサービスがあるとは限らないじゃないですか。
自分自身が向こうの人から、
「おいしいもの出してあげたいな」って思われるよう自分になっていけば、
「あ、おいしいもの出してあげな」とか、
「この人顔汚れてるし、おしぼり3つ出してあげよう」とかね。

そういうふうでなしに、「うまいもんどれやー」とか、
「なんとか得したろ」とか、「遅いなー」って思ったりとか、
そういう「懲らしめたろう」ばっかり思って行くと、
もう店もすぐにわかるんで、「この人はあんまり来てほしくない」とか思うんですよ。

「この人が毎日来はったら楽しいやろな」とか思ったら、
対応が良くなったりするんちゃうかなぁ。

出来るだけそんなふうにありたいなぁって。

お金ないけどおいしいもの食べたいなぁとか思ったりするやん。
そしたらまぁ、そういうオーラ出すんですよ。

「お金ないけど食べたい」っていうオーラをね。

―― あんまり願望は隠さないんですか?

バッキーいやいや、隠しますよ。微妙に出すんですよ。


「咎める」より「赦す」

バッキー将棋で言うとね、相手が疑問手指した時はね、
それに対して攻めることを「咎める」っていうんですよ。
相手のミスを咎めていくっていう風に言うみたいなんだけど。

僕はね、「咎める」っていうことをお店とか人に対してやっていると、
いくらお店や人に勝ってもね、そこに潤いってないもんなぁって。

それやったら「赦す」方がいいね。
うどんに指バーンって入って持ってきはって、麺のびてて、出汁も水くさくても、
「赦す!」みたいな感じでね。「また来るよ」って言うて。

赦す方がいいよ。店も人もね。咎めるのはゲームだけでいい。


磯辺の生き物

バッキー僕のところでようアルバイトしてくれる人とか、
一緒に僕が飲んだりする人とかは、磯部の生き物な人が多いと思ってるんですよ。


海のバーンって開けたところだったらあまり変化しないでしょ。磯の波打ち際とかやったら、変な虫とかおるでしょ。
ヒトデとか、ウニとか、イソギンチャクとか、虫とか、色んなもんがウヨウヨ。そういうふうになりよるんですよ。
普通やったら生きていけないから、岩の隙間に入ってその隙間に来る魚だけ狙ったりとか、変化してくるでしょ。
大海原やったら、変化の度合いって波打ち際に比べたら少ないと思います。
まぁ、あんまり俺知らんけど。多分そうなんちゃうかな、って適当に言うんやけどね。
回遊魚ってどれも同じ顔してるやん?群れるし。

だから心折れてもね、「行きがかりじょうや」って言うてたら、勝手にそういう形になるんですよ。
いびつな形で生きて行けるんですよ。

談志師匠が『人生成り行き』っていうような本書いてはるけど、
「成り行き」より「行きがかりじょう」の方がハードボイルドで格好いい。

「成り行き」って成り行き任せって感じやけど、
「行きがかりじょう」は「仕方ない、つらいけどやらなしゃあない」みたいなね。
ちょっとハードボイルドでしょ。


  【終】

――おまけ――

ランチの穴埋めで文庫1万部


バッキー(自身の本を指して)
これはね、元々はね、これの前に百練文庫ってあるんですよ。
でそれはね、なんでつくることになったかって言うたら、
百練(※バッキーさんの営む飲食店)の昼の営業があってね、
昼の定食が600円なんです。どうしても昼がね、採算なかなか合わないんです。
ほんなら昼の定食と同じ単価で同じような原価のものをつくって、
売って回ったりしたら昼の売上が増えるやんか。
それで文庫つくったんですよ。600円で。

ほいでね、定食の原価と同じくらいにしようと思ったら、
ものすごい量つくらなあかんかってん。そやし、初版1万部つくったよ。
ありえへんでしょ。でも物凄いスピードで売りましたよ。

鞄にいつも20冊くらい入れて、もう会う人会う人に売るんですよ。
だいたい錦市場の人はほとんど買うてはるしね。
今は一冊ずつしか売ってないけど、その時は束で買うてもらってたからね。
江(※江弘毅氏)なんかも20冊くらい買うてくれたんかなぁ。
それがほら、仰山つくったから制作費もごっつ掛かってねぇ。
それをつくったことによって、こういう本で読まはった人が、
またお店に来はるとか、文庫のメディア性みたいなものを物凄い感じたねぇ。
文庫ってね、ほかされないんですよ。
パンフレットみたいなものはほかされる可能性あるけど。
例えば、A4のパンフレットつくったとするでしょ。
今は印刷代安いからいいけど、昔はA4のパンフレット8頁とか16頁つくったら、
すぐ100万くらい掛かるんですよ。

でもA4のカラーのあんなんつくっても、中身読まないんですよ。
文庫の形になると読むんですよ。なんか知らんけど。ほかしよらへんねん。

そやしね、ブックオフとかいっぱいありましたよ。その当時。
「俺の本いっぱいあるやん」って。
それはなんでかって言ったら、京都ばっかりに俺売りに行っているから。
三条のあの辺とか仰山あったわ。頭おかしいやんな。

文庫ってオモロイなぁって思ったねぇ。

―― 1万部捌けましたか?

バッキー捌けましたね。
あと1000部くらい残ってるかな。

―― 実売9000部ってすごいですね。

バッキーいや、実売6000部くらい。
3000部くらいは、一刻、百練のお土産にしてたんですよ。
だから6000部は売れたと思うね。

でもそんなんは、「学区民運動会に広告入れてくれ」っていうのと一緒ですよ。
あるでしょ。運動会のプログラム表に数千円で入れてる広告。
あんなん効果なんか全くないやろ、言ってしまえば。
そやけど頼まれたら、「はぁわかりました」とか多分言うてはんねん。

その分ボクが消費してるんですよ、やっぱりね。
本を買うてもらって、代わりにそこでコーヒー頼んだりしてるんやろな。

右)百練文庫のあとに出された『行きがかりじょう、俺はポンになった。』
左)『続・行きがかりじょう、俺はポンになった。』
共に百練またはミシマ社の本屋さんで販売中。500円。





【感想】「バッキー×就活座談会を終えて」

「なんか息苦しい」
"就活"に飲み込まれ、悶々と過ごす日々。
ある日、そんな僕を見かねた代表・三島が言いました。

「そんな悩んでるくらいやったら、バッキーさんに話聞いたらええやん」

「バッキーさん」の素性も知らぬまま、
恐れ多くも就活生代表としてバッキーさんからお話を伺うことに。
でも、いざお話を聞いてみたら、その話のなんと面白いことか。
「どう就活を乗り越えるか」などという問題がちっぽけに思えるほど、
バッキーさんは野性的に、せこく、でもとてもおおらかに生きていました。

みんな大海原を目指して、その荒波に揉まれて、
どんどんしんどくなっていく就活生たち。
互いに咎めあって、まるでゲーム。

先のことに保険を掛けようと必死になるあまり、その瞬間その瞬間に生まれてくる生き生きした感情を、台無しにしてしまったりもします。
でも、本当はもっと柔らかい場所もあって、自分の思った通りとは行かなくても、
ワクワクしながら生きられる場所がきっとある。

「人生行きがかりじょう」

バッキーさんの言葉は、僕にとって大切なお守りです。
この記事を読んで下さった就活生の皆さんも、
悩んだ時、苦しくなった時は思い出してみて下さい。

(デッチ・池畑)

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バッキー井上(ばっきー・いのうえ)

本名・井上英男。1959年京都市中京区生まれ。画家、踊り子などを経て、現在の本業は錦市場の漬物店「錦・高倉屋」店主。そのかたわら、日本初の酒場ライターと称して雑誌『Meets Regional』(京阪神エルマガジン社)などに京都の街・人・店についての名文を多く残す。独特のリズムと感性をまとった店語りは多くのファンを持つ。

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