今月の特集2

ちくわぶ論争、「京都でハモ? それがどないしてん」など物議を醸しつづけた、伝
説の連載『飲み食い世界一の大阪 そして神戸。なのにあなたは京都へゆくの』。

書籍化されてからはや半年がたち、来月、満を持して、江弘毅氏の新連載(「誰も〇×しない世界一の大阪(仮)」)がスタートします。
今回の特集では新連載開始を記念して、『飲み食い世界一の大阪』発刊を記念しての「3都巡業」を一挙掲載!!
(本当は、5都巡業したのですが、「ディープ過ぎ」「危険過ぎ」のため、掲載をあきらめました。残念・・・。ものすごく面白いので、知りたいサポーターの方は、ご一報ください。こそっとお教えします!)

第2回の今日は、平川克美さんとのご対談(2013年1月18日@三省堂書店神保町本店)。

平川『飲み食い世界一の大阪』、それにしても不思議な本だねぇ。
おれ、江さんと普通に喋ってるときは、何言っているのかよくわかんないだよ。だけど、これはすごいわかったね。

――街場を知り尽くすふたりの「街の小商いとうまいもの屋」とは?

(まとめ:デッチ・池畑索季)

江弘毅の言いっぱなし三都巡業 第2回「東京・大阪 街場語り〜街の小商いとうまいもの屋」×平川克美さん編

2013.05.28更新

江弘毅の言いっぱなし三都巡業 第2回「東京・大阪 街場語り〜街の小商いとうまいもの屋』×平川克美さん編

鮨屋はコミュニティ

鮨屋って怖いところですよ。値段も書いてないし。それで「高い!」てなっても「マグロ一貫いくらや?」って聞かれへん。「二度と来るかい!」て言うて、周りで「あんな店、絶対行ったらあかんぞ」みたいな。

コミュニティなんですね、鮨屋って言うのは。鮨は近所のが一番うまいですやんか。そんな1キロ離れたとことか、クルマ乗って地図見て行って食う鮨ってね。鮨てそんなんちゃいますやんか。

平川昭和の初期は東京の人なんかはあんまり動き回れなかったんだよ。せいぜい生活の範囲が半径1キロ以内で、大体一生が終わると。僕の両親も基本的には家で、旅行なんてのには行かないわけですよ。

半径1キロから外に出ない。だからその中でうまいものもあるし、基本的にはその中で人生が終わる。これは見直す必要があるような気がしていて。とにかくね、大きすぎるんだよ。例えば、海外旅行者が減ったとかメディアが言うじゃない。あれは本当に浅薄だなって思うわけ。

実のある生活って言うのはだいたい半径1キロ以内、もっと狭いところにしかないのね。だからそれを内向きだとか言うなと。もっともっと内向きになるべきだと。そういうんで僕は最近、なるべく隣町のことを書こうと思って、「隣町観光公社」って言うのつくったんだよ。

隣町って言うのは?

平川隣町って言うのは、まさにいま自分が住んでいる隣の町。しょっちゅう歩いているんだけど知らないわけよ。

それ距離とかはどれくらい。

平川1キロ以内かな。隣町を実際に歩いてみたら、本当に知らないんだけど、面白いんだよ。隣町の中にあるものは大体あるんだよ。四周隣町を隈なく歩けばね、別に遠くまで行かなくてもいいわけ。


客が店を育てる

ただ現実問題、昔、岸和田の家の近所にあった鮨屋三軒も、もう今は無いですし。よう言われるんですよ、「江さんこんなこと書くけど、わたしは顔見知りの店ないから、あんたらが書いたMeetsとかで店をさがしてるんです」みたいなことを。だけど元々あったはずなんです。いつの間にかなくなったっていうのは、そこへ行かへんようになったからなんですね。

平川動きすぎるからね。

江弘毅の言いっぱなし五都巡業

そうなんですよ。岸和田のそこの鮨屋で食うとけば良いのに、ある日突然、「ミナミのここの鮨屋ごっつうええで」っていう情報を得て、そこへ行くわけですね。

でも、京都はまだそんなことないと思ってて、京都の人って平気で5円高いガソリンを「知り合いやから」って入れに行くんですね。僕ら「なんでぇ?」って言うんやけど、そしたら「昔の付き合いやから」って。それはつまり、贈与的な付き合いですね。交換経済じゃないですね。ところが岸和田の鮨屋を、「ミナミのこっちに行くほうがうまくて安くて、あんな田舎臭い、漁師食うような鮨やんけ」てなってしまった。

だけどそこへずっと行っていたら、コミュニケーションが濃密になる。10年20年行ってたら客との関係性が家族みたいになるから、言うわけですわ。「今日はタコ食いたないわ。もうイカでもスミイカやめて、ケンサキにしてくれや」みたいな。

そこから店も変容していって、その下の代が後継いだ時に、「おやっさんの世代は良かったけどアイツは出来悪いわ」って言うことで平気でガーって言いますよね。「お前もうちょっとちゃんとせんかい!お前のトコの親父さんやったら...」言うことで、二代目も腕上がるわけですわ。


カスタマイズ?

平川近所にもスタバとかあるんだけどさ。もう、全く許せないよね。

スタバをちょっと鬱陶しいなぁって思うのは、「カスタマイズ」とか言うとこなんです。ダブルなんちゃらとか。牛乳の代わりに豆乳入れたりとか。それが...

平川豆乳は飲んでくださいね。僕のスポンサーだから。

会場(笑)

そんなの自分の家でやっとけよ。カスタマイズっていうのは、客と対面関係にあって、「この人、今年糖尿病にならはったから、ちょっと軽いもん出そう」みたいな、人間関係があって初めてカスタマイズっていうか。カスタマイズを情報化数量化して、万人がそれを求めてそれに応じてたら、そんなんサービス業なんて成り立たへんやないですか。サービス業の基本、水商売の基本って、自分だけがえこ贔屓されたみたいな気分。それがいまキャバクラでも、45分いくらで万人がオッケー。これって水商売じゃなくて風俗じゃないですか。それと同じレベルなんですね、スタバって。せやから、そんなん家でやっときーって。

平川なんかすごい論理の飛躍があったようだけど。

会場(笑)

平川僕はね、良い喫茶店を実は見つけたんだけど、うちの隣なんだよ。
うちの隣の名前も知らないコーヒー屋で毎朝コーヒー飲んでから会社に行ったりするわけだよね。飯屋もいいところ見つけたんだよ。

僕は多分、生活圏内だと30m以内でやれると思うんだよ。

それってね、まちづくりなんですね。


関係の断絶

でも、スタバもそうなんですけど、コンビニって物理的に人と人が出会っても、人間関係ができない。コミュニケーションすることをコストだと考えて、どんどん削って、「客と無駄話しちゃいけません」って。

「いらっしゃいませ、こんにちは」っていうのは、徹底的に「あなたとは話をする用意はありません。ただ挨拶はしたし、あんた万引きせえへんように見張っておきますよ」みたいな。
そんな殺生な。

平川等価交換自体が、そういうものなんだよね。返礼って言っていたものをお金で返すことが、要するに関係の断絶なんだよ。

そうでしょ。せやから、バーコードでピッピッピってやるだけなんですよ。

平川だんだん技術が進歩して、文明が進歩して行くにしたがって、人と人とが対話することはどんどん少なくなっていく。だから、しばらく電車に乗ってないとさ、切符買えなくなるんだよね。

あぁ、ありますね、それ。


煮え湯を飲まされる

平川俺この間、銀行のATMに行って、カード入れて、こう画面のボタン押してたんだけど、反応しないんだよ。
反応しないもんだから、こうグリグリやってさ。
でも反応しなくて、3回目くらいで、電話をしてくれって機械が言ってきたんだよ。
それで電話をしたら、「何度もやりましたね」って。
だから、「何度もやってないよ。機械が反応しないんだよ」って言ったんだよ。

こわっ。

平川そうしたら、「そのカードはダメです」と。犯罪対策でダメになったと。

それが正月を挟んでの話で、新しいカードも一週間来ないって言うんだよ。
「え、一週間来なかったら、お正月カネどうするんだよ」って話になっちゃって。
そうしたら小田嶋さん(コラムニスト)がそれに反応してくれて。
小田嶋隆さん、今日来てるみたいだから、ちょっと前に来てもらって何か言ってもらった方がいいと思うんだけど。

小田嶋さん、すんません。

――平川さんから小田嶋さんへ、突然のキラー(?)パス。マイクを渡される小田嶋さん。

江弘毅の言いっぱなし五都巡業

小田嶋最後はここだったんですね。
私もね、ATMでお金振りこんだことなくて、一度振込に行ったんですよ。
でね、2万いくらかな、振りこんでくれって画面の中のお姉さんが言うから、ガサって全部入れたら、お札入れる所に、小銭から全部入れちゃって、壊れちゃったんですよ。

それで、5分くらい待って、すんごく機嫌悪いおじさんが出てきて、2万いくらか俺にくれて、「もう一度やってくれ」って言って、違う機械で入れて無事に済んで。

うちに帰っておふくろに話したら、「お前もかい?」って。

会場(爆笑)

小田嶋うちの母も壊していたっていう。まぁ、それだけの話なんですけど。

平川それは「煮え湯を飲まされた」っていうことだよね。近頃のATMっていうのは、煮え湯が出てくるのかと。「あそこに即席ラーメン持っていったら、煮え湯が出てくるよ」って。

まぁそんなところで、そろそろ終わりかな。

会場(爆笑)

ありがとうございました。

平川克美さんより、対談を終えて一言

 江弘毅は、何を論じあっても「それはだんじりで言うたら・・・」とすべての話題を岸和田の「だんじり」の喩えで言い換える、全身「だんじり」男である。
 わたしは、「だんじり」という祭りを実際に見たこともなかったし、それがどのような感興をもたらすものなのかも知らなかったので、江弘毅のだんじりの喩えによって話がさらに分からなくなっていく様子が可笑しくてならなかった。
 なるほど、喩え話とは話を分かりやすくするためだけではなく、話が路頭に迷いだすきっかけにもなるのかと感心したものである。

 世の中、分かりやすいことなどひとつもない。
 ただ、分かりやすいように枝葉を刈り取り、曲がった幹をまっすぐに削り、表皮まで剥ぎ取って分かりやすそうに見せているだけなのだ。
 この日の対談でも、江さんの話は随分飛躍があり、わたしはその理路をどうやって追っていけばよいのかときどき路頭に迷った。
 しかし、わたしもまた相手の言葉から、あらぬ方向へ迷いだすことにかけては人後に落ちない自信がある。別に威張って言うほどのことではないけれど、よく皆から「話の腰を折る名人」と揶揄されもする存在である。
 この二人の対談だから、お聞きいただいた皆様には、話の理路はほとんど理解不能なことになるに違いないとはなからあやまりたい気持ちであった。

 しかし、この日のお客さまは、例えば小田嶋隆さんのように、理解不能な会話だけを選択的に聴き取り、本質的な問題をその混沌の中から拾い上げる能力の持ち主ばかりだった。
 かくして、コントロールの悪すぎるピッチャーが完封勝利をあげてしまうことがあるように、わたしたちのどこに飛んでいくのかわからない話が、意外に面白いゲームを作り上げたような気もしている。
 これほど噛み合わない言語を語る二人が、いい感じで話し合っている。確かこんな感想がありましたが、わたしも大変に楽しめた対談でありました。


会場の盛り上がりっぷりが、文面からでも伝わってきますね・・・!


*明日は、京都にてバッキー井上氏と行われた「飲み食い世界一の大阪? いや、京都やろ?(おまえが店知らんだけちゃうか)」編をお送りします!

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江弘毅(こう・ひろき)
1958年、大阪・岸和田生まれの岸和田育ち。
『ミーツ・リージョナル』(京阪神エルマガジン社)の創刊に携わり12年間編集長を務める。現在、編集集団「140B」取締役編集責任者、神戸女学院大学非常勤講師。
著書に『「街的」ということ』(講談社現代新書)、『岸和田だんじり祭り だんじり若頭日記』(晶文社)、『ミーツへの道』(本の雑誌社)、『街場の大阪論』(新潮文庫)、『「うまいもん屋」からの大阪論』(NHK出版新書)、『飲み食い世界一の大阪〜そして神戸。なのにあなたは京都へゆくの〜』(ミシマ社)など。

飲み食い世界一の大阪

平川克美(ひらかわ・かつみ)
1950年東京生まれ。早稲田大学理工学部機械工学科卒業。渋谷道玄坂に翻訳を主業務とするアーバン・トランスレーションを内田樹らと共に設立。現在、株式会社リナックスカフェ代表取締役。また、株式会社ラジオデイズにて音声コンテンツダウンロードサイト「ラジオデイズ」を運営。2011年からは立教大学ビジネスデザイン研究科の特任教授に就任し、ビジネスから教育へと活動の場を広げている。

著書に『ビジネスに「戦略」なんていらない』(洋泉社新書)、『株式会社という病』(講談社現代新書)、『俺に似たひと』(医学書院)、『移行期的混乱―経済成長神話の終わり』(ちくま文庫)、『移行期的乱世の思考』(PHP研究所)、『小商いのすすめ』(ミシマ社)など。

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