今月の特集2

 最近、ドラマやCMでもよく耳にするようになったクラシック音楽。身近にはなったものの、「クラシックに興味はあるけど、どこからはじめればいいかわからない」、「クラシックって敷居が高そう」と思っている方、結構多いのではないでしょうか?

 今回は、同じ気持ちをもつミシマ社メンバーが「クラシック入門」と題して、音楽の書籍を数多く出版されているアルテス・パブリッシングの鈴木さんと木村さんにお話をうかがってきました。

(聞き手:平田薫・赤穴千恵・繁定秀憲・廣瀬覚・吉田瞳、文:赤穴千恵、平田薫 写真:星野友里)

本を読むようにクラシックを聴いてみよう 第1回

2013.07.15更新

本を読むようにクラシックを聴いてみよう

第1回 どうしてクラシックは敷居が高い?

平田最近クラシックを聴きたくなって、「ベストヒット」と銘打ってある有名なクラシックの曲を集めたCDを借りて聴いています。クラシックは聴いていて気持ちがいいんですが、ふだん聞きなれているJ-POPと比べて、曲名でも「○○調○番」なんて難しい印象で、どう楽しんでいけばいいのかわからない状態で。今日は、「クラシック入門」ということで、クラシック音楽を楽しむためのヒントをお伺いしたいと思うのですが、お二人は普段から、クラシックを聴いてらっしゃいますか?

鈴木僕はふつうにロック少年だったのに、高校を卒業するころ急にクラシックにはまって、18歳から20歳までの2年くらいは、クラシックだけ聴いていました。バイトを始めてお金もあったので、レコードもたくさん買えたし、クラシックの専門雑誌も読んだりして。

木村2年って長いよねぇ。

鈴木それがおかしいんだけど、ジョン・レノンが殺されたショックでまた急にロックに戻っちゃって。

木村クラシックなんか聴いてる場合じゃない!と。

― 一同(笑)

鈴木うーん、自分でも理由はわからないんだけど。だから、クラシックはそんなにディープに聴いているわけではないし、30年前の演奏家はまだしも、最近のことはよく知らなくて。木村君もそんなにたくさんは聴いてないよね?

木村じつはそんなに。(苦笑) 音楽専門の出版社の中でも役割分担があって、僕はクラシック関係の中でも、音楽を勉強する人向けの本の担当でした。音楽の辞書とかね。親はクラシックしか聴かない人だったので、レコードはいっぱい家にあったけど、僕自身はもちろん歌謡曲も好きで、中学からバンドもやっていました。高校・大学では合唱部にも参加して。だから、クラシックを聴く一方で、ポピュラー音楽やジャズも聴いていたという感じかな。とにかく雑食ですね。

鈴木そこは共通してて、二人ともとにかく雑食。まったく聴かないっていうジャンルはないんです。

木村ひとくちにクラシックといっても、いろんなものがありますよね。自分が最初に何を聴いたのか、あんまり憶えてないんだけど......

鈴木僕は案外中学校の音楽鑑賞会でオーケストラを生で聴いたのが大きかったかも。アルテスの事務所でも音楽をかけてる時間はけっこうあって、ヒップホップもエレクトロニカも、最近の日本のロック・バンドもかけるけど、クラシックはかけるとしたら、バッハより前の古い音楽が多いかな。「古楽」って呼ばれてるようなところ。

木村「クラシック」っていう言葉が指す範囲もむずかしくて、「バッハってクラシックなの?」って訊いたらみんな「そりゃそうでしょう!」と思うかもしれないけど、厳密にどこからどこまでがクラシック音楽なのかを決めようとすると、なかなか大変な問題になってくるんですよ。

単純な繰り返しはダサい

本を読むようにクラシックを聴いてみよう

平田そもそもクラシックの知識をもっていないとクラシック音楽は聴けないのでしょうか?

鈴木知識が必要だと思われてるのはクラシック特有だよね。長ったらしい曲名がスラスラ言えるとえらそうに見える(笑)。

木村でも、聴いて楽しむだけならとくに知識はいらないと思いますよ。じゃあ逆に、クラシックとふだん皆さんが聴いてるポピュラー音楽ってどこが違うと思います?

平田人の歌でメロディがうたわれているか、楽器でメロディが演奏されているかっていうところでしょうか?

木村うん、それもそうですね。クラシックもポピュラー音楽も音で構成されているというのは同じです。じゃあ、何が違うのかというと、ポピュラー音楽が"ポピュラー"といわれるのは、"わかりやすい"からです。ポピュラー音楽は「繰り返し」が多いんですよ。Aメロ、Bメロ、発展すればCメロ、Dメロまであるけれど、どれも全部憶えていられるでしょう?

鈴木たとえば、あの有名なベートーヴェンの『運命』にも決まった・サビ・みたいなものはあるんだけど、一曲40分ぐらいの中で、その・サビ・が次に出てくるのは10分後、なんていうことが往々にしてあるわけで、一生懸命「今のメロディ、覚えとこう」って意識して聴いてないと忘れてしまうんですよね。

木村単純な繰り返しっていうのは、クラシックの世界では、たぶんダサいんだよね。ひとつの覚えやすい旋律があったとしても、それがいろいろに変形させられて出てくる。逆にポピュラー音楽であれば、テンポもビートも同じものをずっと繰り返していくことで陶酔させていくんです。

鈴木ノリを作り出すっていうか。

木村クラシックにも踊れる曲というのはあるけれど、ポピュラー音楽のように単純にノッて踊れない。静かにじっと聴いてなきゃ、というイメージがある。ポピュラー音楽は、ドラムとベースでリズムを作って、その上にメロディをのせている、というのがすぐ分かりますよね。
 でもオーケストラだと、それぞれの楽器の役割を聴き分けることが難しいですよね。クラシックはポピュラー音楽のように伴奏とメロディにはっきり分けられないことが多いんです。それぞれが勝手なことやってるけど、全体としては一体となっているから。どこに着目するかを決めて聴いていけば、だんだんわかってくるんだけど。


わからなくて当たり前

本を読むようにクラシックを聴いてみよう

鈴木クラシック音楽って、世界のほかの音楽と成り立ちがまったく違うんですよね。ロックでもサンバでも民謡でも、人々の生活の中から自然にうまれてきて、そこで人気のある音楽が残っていった。でもクラシックはそういう一般庶民がつくって伝えてきた音楽ではないんです。

木村クラシックのルーツは、たどっていくと教会のグレゴリオ聖歌です。だからキリスト教が根底にある。これが理解のハードルを上げているひとつの原因ですよね。そして、聖歌をどこの教会でも歌えるようにするために、楽譜が生まれた。これは大発明でした。

鈴木楽譜が昔から残っている音楽ってほかにはほとんどないよね。

木村なぜ楽譜を残すのかというと、誰がやっても同じように歌えなきゃいけないから。楽譜があるからこそ、何百年も前に作られた音楽を現在でも演奏できる。楽譜が発明されたことで、「作曲する」人と「音を出す」人の分業体制が生まれた、と思っているんです。せっかく曲をつくっても、楽譜がなければその作曲家自身か、せいぜいその作曲家の演奏を実際に聴いておぼえてる人しか演奏できないけど、楽譜が残っているから、日本にいてもヨーロッパの、しかも何百年も前の作曲家の曲を演奏できる。そして、どう演奏するのがいいかということを考える余地ができてくる。だから演奏する人によって、同じ曲でも違ったものになるんです。

鈴木だからクラシックはややこしいんですよね。ビートルズだったら、ジョン・レノンとポール・マッカートニーが作曲して、演奏者はあの4人と非常にわかりやすい。でも、オーケストラだったら演奏者だけで何十人もいるわけで。オケによっても演奏は異なるし、同じオケでも指揮者が変わるとまた違った演奏になる。同じベートーベンの『運命』でも、いろんな演奏を聴き比べてみると、それぞれずいぶん違うんだな、ってすぐ分かりますよ。

木村「どの曲を聴くか」と「どの演奏を聴くか」がかけあわさってくるからややこしい。

鈴木作曲家と、曲目と、指揮者と、演奏家・演奏団体と、4つの要素がそろってはじめて、ひとつの「この演奏」って言えるようになる。

木村それに同じ演奏家でも、何十年か経ってから同じ曲を演奏してることもよくありますし。

鈴木そうだ、「何年の録音か」も加わってくるね。この年のが名演なんだ!ってね。とにかく複雑。

木村それで敷居がどんどん高くなるんですね。

鈴木クラシックは本質的に難しい音楽で、とっつきにくいし、ちゃんと集中して聴かないとわからなくて当たり前だと思ってるんです。その前提をわかったうえで聴いたほうがいい。一回聴いただけではさっぱりわからない、そこにクラシックの本領があるんです。


 わからなくて当たり前。そのわからないところにクラシックの面白さが隠れている。目からウロコの第1回、明日はその「わからなさ」をどう読み解くかに迫ります。

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鈴木茂(すずき・しげる)

1960年東京生まれ。吉祥寺在住。
1984年、音楽之友社に入社。クラシック、ジャズ、ロック、ブルース、ソウル、ボサノヴァ、アフリカ音楽、レゲエ、アイルランド音楽などなどの雑誌・ムック・書籍の編集に携わり、2006年1月に退社。同僚だった木村と共同で翌年に株式会社アルテスパブリッシングを創業し、現在に至る。『みんなのミシマガジン』では「みんなのミシマガミュージック」を連載中。
Twitter:@suzukisgr


木村元(きむら・げん)

1964年京都生まれ。
音楽之友社で200点を超える音楽書を担当したのち、
2007年4月に鈴木茂とアルテスパブリッシングを創業。
おもにクラシック音楽関連書の企画・編集および総務全般を担当。
古い音楽と新しい音楽が大好き。
でもいちばん好きなのはスティール弦のギターの音。
日本音楽学会会員。
Twitter:@kimuragen

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