今月の特集2

最近、ドラマやCMでもよく耳にするようになったクラシック音楽。身近にはなったものの、「クラシックに興味はあるけど、どこからはじめればいいかわからない」、「クラシックって敷居が高そう」と思っている方、結構多いのではないでしょうか?

 今回は、同じ気持ちをもつミシマ社メンバーが「クラシック入門」と題して、音楽の書籍を数多く出版されているアルテス・パブリッシングの鈴木さんと木村さんにお話をうかがってきました。

(聞き手:平田薫・赤穴千恵・繁定秀憲・廣瀬覚・吉田瞳、文:赤穴千恵、平田薫 写真:星野友里)

本を読むようにクラシックを聴いてみよう 第2回

2013.07.16更新

本を読むようにクラシックを聴いてみよう

第2回 クラシックの「文法」って?

前回、「クラシックの聴き方、教えてください!」とアルテスパブリッシングの扉をたたいたミシマ社メンバー。しかし木村さんと鈴木さんいわく、「クラシックはわからなくて当たり前」。なんと!今日は実際に曲を聴きながら、クラシックのおもしろさをひもといていきます。


サビまで10分耐える

本を読むようにクラシックを聴いてみよう

平田クラシック入門の扉が遠のいていく気がするんですが......とっかかりってどうつかめばいいんでしょう?

木村もちろん、ポピュラー音楽のようにキャッチーなメロディをもつ曲もクラシックには沢山ありますから、最初の入口はそのメロディでいいと思うんです。

鈴木平田さんが借りたベスト盤には、聴いたことのない部分も収録されていたでしょう?

平田そうなんです、だからテレビドラマで流れていたところを聴くまでに......

木村10分も15分も待たなきゃいけない。

平田そうなんです! 知っている旋律が始まるまでの間、聴いたことのない旋律が流れていて、「私が聴きたい曲はコレであっているのかな」と不安になっちゃいました。

鈴木もちろん、クラシック音楽には何百年と残ってきた、思わず口ずさみたくなるメロディが山のようにあります。でも、そのメロディを聴くことだけが、クラシック音楽の本領ではないんです。だから、今までに聴いたことのない旋律であっても、耐えて聴くしかない(笑)。というか、耐えたほうがあとの楽しみも倍になるんです。

平田わかりやすいメロディを繰り返してくれるポピュラー音楽に慣れきっている私たちの耳には、クラシックの複雑な旋律を長い時間聴いているのってちょっぴり辛くなっているのかもしれません。


哲学書を読むように

木村僕は、クラシック音楽は「言葉」だと思うんです。だから、「クラシックがわかる」は、ある意味「外国語を勉強して、わかる」にちょっと近いなと。ずっと聴いていると、その音楽の「文法」がだんだんわかってくる。逆に「文法」がわからないままだと、抽象的な音楽がずっと続くので、どこに注目していいかわからない。でも、なにかしらしゃべってはいるわけだから、それを理解しようとするのはまさに「勉強」なんですよ。

赤穴「文法」というのは、具体的にいうとなにを指すのでしょうか?
 
木村その作曲家がなにをしたいのかってところかな。メロディひとつをとっても、その作曲家のクセがあるんですよね。それが繰り返し聴いてるうちにだんだんわかってくる。だから、本を読むような感じに近いかもしれない。

鈴木ああ、それいいね。まさに哲学書を読むようなものだよね。はじめは何が書いてあるのかさっぱりわからなかった哲学書でも、繰り返し読んでるうちに「あ、こういうことかな」ってちょっとずつわかってくる、みたいな。

木村本を読んでいても、「これはいまの自分に必要なことかもしれない」って分かる瞬間があるじゃないですか。そういう瞬間がクラシックを聴いている中でつかめてくると面白くなります。その瞬間をもとめていくのが醍醐味って感じかな。


ベートーヴェンの「こだわり」

本を読むようにクラシックを聴いてみよう

鈴木たとえば、そうですねえ......ベートーヴェンの『運命』を最初から最後まで通して聴いたことはありますか?

平田うーん......学校の授業で聴いた気もしますけど。

鈴木やっぱり、一回は曲を最初から最後まで、ほかになにもしないで集中して聴いてみたらいいと思うんです。それでまったくなんにも感じなかったら、その時はその曲には縁がなかったと思うしかない(笑)。

木村じゃあ、「運命」の第一楽章を聴いてみますか。


♪ベートーヴェン「交響曲第五番ハ短調『運命』」
ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

鈴木ベートーヴェンはリズムが面白いんですよ。リズムのつくり方がものすごく凝っててうまくできてるんです。

平田リズムといわれると、打楽器のイメージが強いんですけど、クラシックでいうリズムというのはどういうものでしょうか。

木村リズムってのは、ここでいうとはじめから繰り返される「ンタタタター♪」のことです。このリズムで曲全体ができている。

鈴木「ンタタタター♪」っていう4つの音でできてるパターンとリズムという単純な仕掛けで、飽きさせずにしかも大感動させる40分の曲を作れるところがすごい。

木村メロディともいいがたいんだけど、「ンタタタター♪」の動きが40分の中でいろいろな形に変形されていくわけです。このリズムについ「くどすぎ!!」って言いたくなるくらいこだわっている。

鈴木ほんとに、手をかえ品をかえといったかんじですよね。一気に飛ばして、『運命』のエンディングを聴いてみましょうか?

(動画の46分くらいから)

鈴木ね? くどいでしょ(笑)

― 一同爆笑

木村彼のこだわりは、『運命』でいえば、「ンタタタター♪」という単純なモチーフ、4つの音だけで15分くらいはもたせましょうってところにある。「こだわり」は作曲家によって違うけれど、そこがわかってくると面白いんです。

鈴木ベートーヴェンのこだわりは、「少ない音で仕掛けをつくっていくこと」なので、わりと単純だしわかりやすいほうかな。まぁ、いかにも「クラシックでござい」って曲だし、あまりにも有名だから、今さら?って思うかもしれないけど、やっぱり入り口としては最高の曲のひとつですよね。


水戸黄門もクラシック

平田私、バンドでベースをしていたので、低音が響く曲が好きなんですけど、クラシックでもベースラインが楽しめる曲はありますか?

鈴木低音の楽器だけの曲もありますよ。チェロのソロとか。


♪/バッハ「無伴奏チェロ組曲第一番プレリュード」演奏者ミッシャ・マイスキー♪

平田すごく気持ちいいです!!

木村ひとつのチェロを弾きながら、一番上の音でメロディを、下の音でベースラインを感じさせながらすすんでいきます。和音はひいてなくて、全部「タララララ♪」とアルペジオ(和音の各音を同時ではなく、下または上の音から順に弾く演奏法)です。

鈴木シンプルだけど、とってもいい曲ですよね。打楽器のリズムが響く曲だと、これもあまりに定番だけど、『春の祭典』とかはどう?


♪ストラヴィンスキー「春の祭典」カラヤン指揮 ♪

木村聴いてみてどうですか?

赤穴管楽器がひゅーん、ひゅーんといきなり吹いてきて、どこを聴いていいかあたふたします!

木村これは初めて演奏されてから今年でちょうど100周年を迎える曲です。当時パリで活動していたロシア・バレエ団のプロデューサーのディアギレフが、ストラヴィンスキーに指示して作らせたバレエ曲なんですけど、これが初演当時大スキャンダルになった。というのも、音楽というより騒音のように聞こえるし、バレエの振り付けも「生贄」がテーマで野蛮な印象が強い。こんなの芸術じゃないという評価でした。でも今ではこの曲が、ある意味「現代音楽」の先駆けとなったと言われています。

鈴木拍子がとても複雑で、1小節、2小節ごとにかわるんです。でもかっこいいですよね。

平田いま、鈴木さんがおっしゃった「かっこいい」ってどんな感じですか?

鈴木あぁ、なんだろう? リズムの切れとかかな。金管楽器もものすごくダイナミックだし。この曲は、プログレッシブ・ロックの人たちには「神曲」ですね。

木村次もリズムの曲です。


♪ラヴェル「ボレロ」カラヤン指揮♪

木村ボレロは「タン・タタタタン♪」というスペイン独特のリズムのことです。水戸黄門の主題歌もこのボレロなんですよ。

平田あッ!!たしかに!!

木村この曲はたった二つのメロディだけでつくられているんです。二つのメロディが交互に繰り返されて、だんだん楽器の数が増えてくるんです。最後クライマックスで転調して、ガーンと盛り上がっておわるタイプの曲ですね。これにしたって、最後の盛り上がりまで16分間我慢して聴いとかなきゃいけない。

鈴木でも、我慢する甲斐はありますよ。

平田15分とか1時間とか曲の全部を、ずーっと楽しみながら聴いているわけじゃないんですか?

鈴木ぜんぜんそうじゃないことも多いです(笑)。「運命」はまだダレないほうですけど、最後の5分のクライマックスまで80分間ずーっと我慢し続けて、その苦行に耐えた者だけが、最後のカタルシスを味わえる、なんていう曲もあります。


眠たくなってしまうような長い曲にも、ちゃんと作曲家のこだわりや工夫がはりめぐらされている。だんだんとクラシックの聴き方がわかってきた第2回でした。明日は、いろいろなストーリーをもつ名曲たちを紹介してもらいます。

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鈴木茂(すずき・しげる)

1960年東京生まれ。吉祥寺在住。
1984年、音楽之友社に入社。クラシック、ジャズ、ロック、ブルース、ソウル、ボサノヴァ、アフリカ音楽、レゲエ、アイルランド音楽などなどの雑誌・ムック・書籍の編集に携わり、2006年1月に退社。同僚だった木村と共同で翌年に株式会社アルテスパブリッシングを創業し、現在に至る。『みんなのミシマガジン』では「みんなのミシマガミュージック」を連載中。
Twitter:@suzukisgr


木村元(きむら・げん)

1964年京都生まれ。
音楽之友社で200点を超える音楽書を担当したのち、
2007年4月に鈴木茂とアルテスパブリッシングを創業。
おもにクラシック音楽関連書の企画・編集および総務全般を担当。
古い音楽と新しい音楽が大好き。
でもいちばん好きなのはスティール弦のギターの音。
日本音楽学会会員。
Twitter:@kimuragen

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