今月の特集2

最近、ドラマやCMでもよく耳にするようになったクラシック音楽。身近にはなったものの、「クラシックに興味はあるけど、どこからはじめればいいかわからない」、「クラシックって敷居が高そう」と思っている方、結構多いのではないでしょうか?

 今回は、同じ気持ちをもつミシマ社メンバーが「クラシック入門」と題して、音楽の書籍を数多く出版されているアルテス・パブリッシングの鈴木さんと木村さんにお話をうかがってきました。

(聞き手:平田薫・赤穴千恵・繁定秀憲・廣瀬覚・吉田瞳、文:赤穴千恵、平田薫 写真:星野友里)

本を読むようにクラシックを聴いてみよう 第3回

2013.07.17更新

本を読むようにクラシックを聴いてみよう

眠れぬ夜もクラシック

木村じゃあ、次全然違うタイプの曲聴きましょうか。事前のアンケートで、ピアノ聴きたいって人いたよね。


♪ドビュッシー「月の光」♪サンソン・フランソワ(ピアノ)

赤穴癒されるメロディですね。

鈴木弾いてるのはサンソン・フランソワなの? 曲を聴くと誰が演奏してるかが気になるんですよね。

平田聴くうちに演奏家の好みって出てくるものですか?

鈴木やっぱり好みは人それぞれにあるし、自然にでてくると思いますよ。ロマンチックに弾く人もいれば、あまりメロディをうたわせずクールに弾く人もいますから。ピアノ自体もメーカーによって音色が違いますし、自分の好きなピアノの音も聴くうちにわかってくるはずです。

木村誰かジャズが好きな人っていたよね?

慶瀬はい、僕です。昔からバイオリンをやっているせいか、クラシックは集中して聴いてしまうので、なにかしながら聴くことができないんです。ジャズみたいに、作業しながら聴くことができるクラシックの曲があったら教えていただきたいです。

木村ありますよ。このゴルトベルク変奏曲は、不眠症で悩んでいる伯爵のためにバッハが作った眠るための曲です。


♪バッハ「ゴルトベルク変奏曲」 グレン・グールド(ピアノ)

鈴木これはあまりにも有名な、超ウルトラ名演ですね。

木村次は、レオンハルトがチェンバロで演奏した同じ曲を聴いてみましょう。


♪バッハ「ゴルトベルク変奏曲」 グスタフ・レオンハルト(チェンバロ)

木村バッハの時代以前の音楽を「古楽」といって、当時の弾き方・楽器を再現しようとするのが最近は主流なんですが、レオンハルトはその先駆けのような人です。バッハは細かい弾き方まできちんと楽譜に書いているわけではないので、その当時の弾き方を歴史的に考察して演奏しようとしたんですね。

鈴木当時はもちろん録音機材なんてないから、テンポや表情の付け方とか音の大小とか、そういう弾き方については研究もされてますけど、想像をふくらませるわけです。

木村当時の楽譜は記号の使い方もてきとうだったり......ジャズみたいにメロディとコード進行しかないものもあるんですよ。そうなると、演奏する側はどうにか解釈して再現するしかない。こういったバッハ以前の音楽を研究する人って増えてるんですよね。

平田 これ、眠れる曲なんですか?

鈴木グールドの演奏だと眠れないかも(笑)


作曲家は「大工さん」

木村まぁ、クラシックは集中して聴くだけのものでもないんですよ、という例ですね。これもバッハですけど、聴いてみましょうか。


♪バッハ「ブランデンブルク協奏曲」 ニコラウス・アーノンクール指揮/ウィーン・コンツェントゥス・ムジクム

吉田あ! この曲好きです。

鈴木なんかワイングラスを傾けてそうな優雅な感じが。

― 一同(笑)

木村当時は、今みたいな大きなオーケストラではなくて、小さい楽団が、こういった曲を宮廷のパーティで生演奏していたんですね。この曲は、バッハがブランデンブルク辺境伯のところへ転職したいと思ってつくった曲ともいわれています。

繁定え!そうなんですか?

鈴木バッハは自分のアーティスティックな衝動だけで曲をつくったわけじゃなくて、注文を受けてつくってたんです。大工さんみたいな一種の職人なんです。

木村そう。僕は、バッハ・モーツァルト・ベートーベンあたりまでは「理系」の音楽だと思ってます。つまり、まさに建物を設計するように作曲している。

本を読むようにクラシックを聴いてみよう

鈴木人間の悲しみとか悩み、苦しみ、恋や愛憎といった感情を表現したくて曲をつくるようになるのはもっとあとの時代になってからですね。

木村モーツァルトの時代くらいからフリーの音楽家がでてきて、彼らはつくった曲を権力者に献呈して、パトロンになってもらって生計をたてていました。そういう王侯貴族の力が衰退してくると、作曲家は演奏会を開いて生計をたてていくようになります。そうなると、音楽のつくりが変わっていったんです。

鈴木たくさんの人にアピールしなければならないし、自分の個性も認識してもらって、人気を得る必要がでてきたんですね。だから近代以降は、人間の感情に訴えかける曲がつくられるようになるんです。


お二人のおすすめの曲

本を読むようにクラシックを聴いてみよう

吉田クラシック入門からいうと、やっぱりBGM的な役割だった曲からはいるほうが初心者のとってはいいのでしょうか?

鈴木うーん。それは意見がわかれるところだけど、必ずしもそうとは限らないと思いますよ。自分がいつどんな音楽に、どんな風に反応するかは、自分でもわかりませんから。とにかく、いろいろ聴いてみれば、どこかでピンとくる瞬間がくるはず。そうすれば、きっとクラシックを楽しめるようになると思うんです。

平田先ほどお二人がおっしゃった「クラシックを聴くことは本を読むような感じ」という言葉で、すとんと腑に落ちた気がします。他人からおススメされた本を読むように、お二人のおススメのクラシックも聴きたいのですが、紹介していただけますか?

鈴木これがまたなかなか難しいんですけど、まずモーツァルトかな。人類史上こんなにすごい芸術家はいないんじゃないでしょうか。なかでも好きなクラリネット五重奏曲の古典的な名演(①)をあげておきます。
 ②は『のだめカンタービレ』でおなじみになったベートーヴェンの曲で、録音されたのが1950年なので、音質があまり良くないし、今となっては古めかしい演奏なんですけど、ベートーヴェンの交響曲ではこのフルトヴェングラーの指揮にいちばん心を揺さぶられました。

① モーツァルト:クラリネット五重奏曲 レオポルド・ウラッハ(クラリネット) ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団
② ベートーベン:交響曲第7番イ長調作品92 ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ウィーン・フィルハーモニー楽団

木村じゃあ僕はこれ1曲にしておきます。


モーツァルト:ピアノ協奏曲第23番イ長調K(ケッヒェル)488 アンドラーシュ・シフ(ピアノ)/シャーンドル・ヴェーグ指揮カメラータ・ザルツブルク

 モーツァルトのピアノ協奏曲の中でも最高傑作だと思います。どの楽章もいい。モーツァルトは当時フリーランスだったので、自分でお客さんの予約を募って演奏会を開いていたんです。自分のピアノの腕前が映えるようなピアノ協奏曲をたくさんつくったんですね。

鈴木あと、参考書も1冊お薦めしておきます。京都大学の岡田暁生さんが書いた『西洋音楽史』(中公新書)。クラシックとは何かが、現代の人に分かりやすく説明されてる名著です。新書だから買いやすいし、入門にはベストの本だと思います。

木村同じ岡田さんの本で『音楽の聴き方』(中公新書)もあります。クラシックは言葉で記述しやすい音楽なので、本を読めばわかることも多いんですよ。ぜひ読んでみて下さい。

一同今日はありがとうございました!!


鈴木さんと木村さんのお話を聴いて、俄然クラシックに対してやる気がでてきたミシマ社メンバー。入門の扉は開けたも同然です! 次回は、メンバーが鈴木さん、木村さんのお話を手がかりにクラシックのCDをもちよって、座談会を開きます。乞うご期待!!

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鈴木茂(すずき・しげる)

1960年東京生まれ。吉祥寺在住。
1984年、音楽之友社に入社。クラシック、ジャズ、ロック、ブルース、ソウル、ボサノヴァ、アフリカ音楽、レゲエ、アイルランド音楽などなどの雑誌・ムック・書籍の編集に携わり、2006年1月に退社。同僚だった木村と共同で翌年に株式会社アルテスパブリッシングを創業し、現在に至る。『みんなのミシマガジン』では「みんなのミシマガミュージック」を連載中。
Twitter:@suzukisgr


木村元(きむら・げん)

1964年京都生まれ。
音楽之友社で200点を超える音楽書を担当したのち、
2007年4月に鈴木茂とアルテスパブリッシングを創業。
おもにクラシック音楽関連書の企画・編集および総務全般を担当。
古い音楽と新しい音楽が大好き。
でもいちばん好きなのはスティール弦のギターの音。
日本音楽学会会員。
Twitter:@kimuragen

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