今月の特集2

 2013年8月、近藤雄生さんによる『遊牧夫婦』シリーズ・最終巻、『終わりなき旅の終わり』がミシマ社より発刊しました!

遊牧夫婦』『中国でお尻を手術。』『終わりなき旅の終わり』と、夫婦で世界中を旅してまわった近藤さん。その最終巻の発刊を記念して、2013年10月10日、トークイベントが行われました@スタンダードブックストア心斎橋店。
 お相手は、MBSアナウンサー・西靖さん。西さんは関西の情報番組『ちちんぷいぷい』のメインアナウンサーを務めており、なんとその番組のなかで「世界一周」の旅に出ているのです(それも2回も!)。

 5年半・世界を遊牧した近藤さんと、約一カ月でぐるっと世界を見てまわられた西さん。滞在時間はまったく違いますが、どちらも特別な旅であったのは同じはず。
 テレビで語ることのできなかった、本で書ききれなかった「とっておきの話」を含め、お二人の旅への思い、旅の思い出をぞんぶんに語りあっていただきました!

(構成:赤穴千恵、写真:新居未希)

近藤雄生×西靖 僕たちが旅で見た、ここだけの話 第1回

2013.10.28更新

不安感むき出しの旅行記

近藤さんがたどった道のり


西近藤さんの本、3冊すべて読ませてもらいましたが、すっごく面白かったです! たとえば、紀行文とか旅行した記事やエッセイ、あるいは山岳小説の中で「ある状況にぶつかったときに、どう筆者が切り抜けたか・考えたか」が書いてありますよね。それは、あくまで「自分」というブレない軸があってのことなんです。でも、その「自分」が3冊を通してこんなにブレまくってる人って・・・

近藤あはは! そうですか。

西こんなに不安感をむき出しにして書いてある「旅ものの本」って、めったにないと思います(笑)。場面場面で常に迷っていらして、それを僕はびんびんと感じていました。けれども考えてみると、26歳でご夫婦で旅に出て、迷わないわけないんですよね。「オーストラリアにたいして近藤雄生はこう思った」ってバチッと決まっているわけじゃなくて、「こうかな? こうかな?」と迷いながら書いてるところが、僕にはすごくはまりました。

近藤なるほど〜。僕の場合「夫婦で旅をする」ところが一つの特徴ですよね。日本では一度も一緒に生活をしたことがなかったのに、結婚直後に海外で二人で生活をはじめたわけですが、結婚した二人がどう変化していくか、どう悩んだかってところを赤裸々に書かないと、この本はおもしろくならないなあと思っていました。


ずっと一緒にいるって、どんな感じ?

 
近藤さんが旅先で撮った写真たち

西夫婦で旅をするというのは、きっと大変なことだろうと思うんですよ。ずっと一緒に居るわけですよね? 僕、むかし彼女と東京ディズニーランドに行って、むちゃくちゃケンカしたことがあるんですよ。

近藤(笑)。どういうケンカだったんですか?

西テーマーパークがあまり得意ではないというのもあるんですが、この世で苦手なものが3つありまして。それが「渋滞」「行列」「パクチー(香菜)」なんです。...そういったら、「パクチー」以外のふたつはディズニーランドにあるわけなんですね(笑)。まあその当時は、彼女が「行きたい!」っていうから行ったんです。当然、乗り物に乗るのに並び、人ごみにも揉まれますよね。そんななかでも機嫌が悪くならないように、僕にしたら一生懸命努力してるわけですよ。それでもちょっとした表情とか、会話の間合いとかで伝わっちゃうんですね。「来たくなかった?」「そんなことないよ!」と揉めはじめ......まあそうなったら終わりですよね。

近藤あらら(笑)。それは、その後どうなったんですか?

西それはもう、いま僕が結婚していないということは・・・そういうことです(笑)。
で、今後の人生のために教えてほしいのですが、「俺はこっちに行きたい」「私はここに残りたい」と二人の意見が分かれるときは必ずありますよね。そういうとき、うまくやるにはどうすればいいんでしょうか?

近藤それは僕にとっても永遠の課題です。実は夫婦二人とも、趣味も行きたいところも全然違うんですよ。たとえば、オーストラリアで野生のイルカが来るビーチがあるんですが、妻は動物好きなので、そこでの生活が気に入っていたんです。けれども僕は正直、全然興味がなくて。でも逆にすごく思ったのは、自分が興味ないところに行くと新しい世界がみえてくるんだなあと。

西それ。その台詞、だいたいみなさん言うじゃないですか! 「興味なくても行ってみたらおもしろい」みたいなこと。でもそれって、なかなか難しい。他に自分のやりたいことがあったり、行きたいところがあったりしたらなおさら難しいと思います。たとえ自分の興味ないところでも話にのっかるところが、すごいなと思うんですよね。

近藤ケンカしながらですけどね。僕が旅の指揮をとったと思われがちですけど、実際は妻の方が行きたいところが明確な人なんです。彼女がいろいろ調べて、「次はインドネシアの○○へ行こう」って決めて、僕はあまり調べないでついて行くことが多々ありました。僕の旅の目的は、現地で取材して記事を書き、物書きとして食べていくことだったので、現地に着いたら、人に会って話を聞いたり、ネタを見つけるために動いてました。妻が次の行き先を決めて、着いた先で積極的に動くのは僕というように旅ができていった感じですね。そういう点でいえばバランスがとれていたのかもしれないです。

西次の目的地について、どのくらい調べて行くんですか? あるいは、どの程度無知な状態で行くんですか?

近藤僕は極力目的地については無知でいたいほうです。でも、あまりに無知だとどこに行ったらいいかわからないまま終わっちゃうときもありますよね。だから、街の名前や街になにがあるとか、基本的なことは抑えてたかな。


六十日間世界一周

西そういう意味だと僕は近藤さんとはまったく違った旅だったと思います。「ちちんぷいぷい」というテレビ番組の企画で「六十日間世界一周」をしたのですが、このスピードだと一つの国に滞在する期間が長くても三日くらいしかない。
 「サラリーマンのままこんなに世界中を旅できるなんてしあわせやな〜」と会社では言われていたのですが、自分のペースで旅をしている人からみると「それは罰ゲームなの?」という早さなんです。そういうスピードで旅をすると、ある程度は土地のリサーチをしておかなければいけないってことになってしまう。本当はその国に着いて、荷物を降ろして「さあ、どんなところなのかな」という時間が楽しいんですけど、なかなかそういう余裕がない。
 それに加えて、「次に行く国や現地でのお題については何も知らされないまま、とりあえず飛行機に乗る」というルール厳守だったんです。何も情報がないことが不安で仕方なくて、空港着いたらタクシーの運転手やホテルの従業員、現地での通訳の人に「コーラ何円ですか」から始まり「いま何が流行っているんですか」「この映画は本当に流行ってるんですか」とか聞きまくってました。

近藤西さんは、わりときちっと下調べしてから行きたいタイプなんですね。

西きちっとはしていないんですけど、きちっとしていたいタイプですね(笑)。だから番組の「何も教えない」というルールは、僕の何も知らない状態への不安を克服しろという愛のムチだと思ってました。飛行機の中でスタッフが「どこに行くかはいえませんけど、とりあえずこの書類にサインしてください」って渡してきたのをみて、「ロシア語やん! ってことはロシアやん!」なんてことはありましたけど(笑)。

近藤そうそう、ロシアでのお題に「一カ国一恋」ってありますよね。これってロシアだけのお題だったんですか?

西これは今だからいえますけど、企画倒れに終わったんです。当初は日本を出発するときに「それぞれの国で必ず恋をしなさい」って言われたんですけど・・・できるわけないじゃないですか。

近藤すごいお題ですよね。西さんはお題に対して積極的ではなかったんですか?

西僕、実はかなり人見知りするんです。本にはロシアで美人の方と一緒の写真が載ってますけど、声かけるまでに、すごくモジモジしてしまうんです。もう、拷問ですよ(笑)。いや、美人が拷問というわけではないんですけどね、もちろん。
そういえば、ロシアって美人が多いですよね!

近藤そうそう。僕は妻とふたりだったのであんまりそういうのはね、できなかったんですけどね...(笑)。


「すべてを理解する」ことを諦める

西ひとつの国を客観的にみることなんて絶対にできないよな、と旅をしていて感じたのですが、近藤さんはいかがでしたか。

近藤僕は旅をしながらライターをしていたので、その国や国民の表面的なことしか見えていないのに、記事ではさも理解したかのように書かなければならない。途中からそれに気がついて、こんな「薄っぺらな理解のまま書いていていいのかな」という葛藤が生まれてきました。
 それに加えて、僕は大学院を卒業し、結婚して旅にでたので、日本で物書きとしての経験はゼロだったんですね。日本では何も書いたことがないのに、世界に出てからなにかをわかったように書かなければいけない。そのことにすごく、違和感を感じたんです。それが日本に帰ろうと思ったきっかけの一つでしたね。

西僕も、近藤さんのような「一面しか理解できていないのに、伝えていいのか」という葛藤は常にあります。たとえばバングラディシュに取材に行きましょう、となると、ジュート産業が盛んで、貧富の格差がどんどん拡大していて、カレー味のものを食べていて...というようなことはデータとしてあがってきますけれど、そうするとそういう面から入っていかざるをえないじゃないですか。「そういう面から入ったんじゃ見えない面がある」というのは、わかるんです。できるだけ多面的に見なきゃとも思いますよ。だけど、その国のことを客観的に俯瞰して、すべて理解したら書けるってものでもないような気がしていて。

近藤うんうん。そうですよね。

西あるアメリカ人が一カ月間日本に滞在して、一日三食すべて日本食を食べて過ごし、それを本にまとめるとする。日本人からしたら、たった一カ月で日本食について語るってちょっとなぁ、という気もしますけど、彼にとってはその九十食がすべてで、それに基づいてとにかく書かなければならない。だから僕はどこかで、「すべてを理解する」ということを諦めました。

近藤すべてを理解することが前提になってしまうと、結局何も発信できなくなってしまいますからね。


外国人だから見えること

近藤逆に、外国人だから見えることって絶対あると思うんですよ。たとえば中国にいるときに、ポリープの手術で入院したんですが・・・

西うわあお。

近藤夜に、病院の人が「奥さんも寝てく? 泊まっていきなよ」って言ってくれて、妻も病院に泊まらせてもらったんです。日本ではありえないですよね、まず。そして僕大腸を手術したのに、その日の晩御飯が近所の屋台でつくられたようなギトギトの中華だったり。

西それは・・・すごい。

近藤さんが中国で入院していた病院

近藤そのとき友達がお見舞いに来ていて、また病院の人が「友達も食べていきなよ」って友達の分までチンジャオロースとか辛い料理数品を用意してくれて、これでいいのかなぁと思いながら食べたんですけど、案の定、翌日から40度の高熱が3日くらいとまらなかった。

西えええ。

近藤しかも中国って、医療サービスはすべて前払いなんですよ。救急車もお金を払えなかったら乗せてもらえないし、手術や検査も受けさせてもらえない。この大腸内視鏡検査のときも、「痛いか痛くないか選べる」っていうんですよ。麻酔があるかないかどうかってことなんですけど(笑)。内視鏡検査の料金を払ったら、レシートみたいなぴらぴらの紙をもらえるんです。
 そして順番が決まってないから、検査室の前に患者さんがたまっていて、先生がでてくるたびに「次はどの人にしようかな」って決める。だからみんな、必死に「先生! 次は自分!」ってぴらぴらの紙を見せながらアピールするんです(笑)。

西えー!?

近藤僕はそれまで日本の医療が当たり前だと思っていたけれど、中国で実際に内視鏡による大腸ポリープ切除の手術をして、その当たり前が覆されてしまった。それと同様に、外国人である僕が中国の人たちに「麻酔が効く・効かないを選ばせるなんて、ないでしょ」って言うと、中国の人は「そうなのか」と新しい発見がある。比較対象がでてきてはじめてわかるんですよね。

西違うスタンダードをとりあえずは持っているから、一旦はその「自前の基準」で海外の国を見るしかないですもんね。
 そういえば、僕もこの夏にペルーで面白い体験をしました。空港で税関申告って、日本だと該当する人は税関のところで検査をうけますよね。ペルーでは、税関のところでボタンがあるんですよ。で、それを「押して」って指示されます。するとランプが点いて、青だったら「オッケー、行ってよし!」。何人かに一人、赤いランプがつくんです。赤色がついたら止められて、「はい荷物あけてー」ってみっちりと荷物検査される。

近藤それ、抽選ってことですよね(笑)。

西こういう体験をすると、日本のスタンダードが常に「正しい」というわけではないなぁと思いますよね。


*明日も引き続き、第2回をおおくりします!

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近藤雄生(こんどう・ゆうき)
1976年東京生まれ。東京大学工学部卒業、同大学院修了後、旅をしながら文章を書いていこうと決意し、2003年に妻とともに日本をたつ。オーストラリアでのイルカ・ボランティアに始まり、東南アジア縦断(2004)、中国雲南省で中国語の勉強(2005)、上海で腰をすえたライター活動(2006-2007)、その後ユーラシア大陸横断を経て、ヨーロッパ、アフリカへ。2008年秋に帰国し、現在京都在住。著書に『旅に出よう』(岩波ジュニア新書)、『遊牧夫婦』『中国でお尻を手術。~遊牧夫婦、アジアを行く』『終わりなき旅の終わり――さらば、遊牧夫婦』(以上、ミシマ社)。

西靖(にし・やすし)
1971年岡山県生まれ。大阪大学法学部卒業。1994年、アナウンサーとして毎日放送に入社。同社の夕方の人気番組である「ちちんぷいぷい」では、2011年から総合司会を務めている。2010年には毎日放送創立60周年企画の一環で「60日間世界一周の旅」を敢行。その様子は『西靖の60日間世界一周の旅』(ぴあMOOK関西)として発刊された。また2013年7月から1か月間、「世界中の子どもたちと触れ合い、ご縁をつなぐ」をテーマに、再び世界一周の旅に。
MBSラジオにて、内田樹、名越康文両氏と「辺境ラジオ」を不定期放送中。2012年には『辺境ラジオ』(140B)として書籍化された。

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