今月の特集2

 2013年8月、近藤雄生さんによる『遊牧夫婦』シリーズ・最終巻、『終わりなき旅の終わり』がミシマ社より発刊しました!

 『遊牧夫婦』『中国でお尻を手術。』『終わりなき旅の終わり』と、夫婦で世界中を旅してまわった近藤さん。その最終巻の発刊を記念して、2013年10月10日、トークイベントが行われました@スタンダードブックストア心斎橋店。
 お相手は、MBSアナウンサー・西靖さん。西さんは関西の情報番組「ちちんぷいぷい」のメインアナウンサーを務めており、なんとその番組のなかで「世界一周」の旅に出ているのです(それも2回も!)。

 5年半・世界を遊牧した近藤さんと、約一カ月でぐるっと世界を見てまわられた西さん。滞在時間はまったく違いますが、どちらも特別な旅であったのは同じはず。
 テレビで語ることのできなかった、本で書ききれなかった「とっておきの話」を含め、お二人の旅への思い、旅の思い出をぞんぶんに語りあっていただきました!

(構成:赤穴千恵、写真:新居未希)

近藤雄生×西靖 僕たちが旅で見た、ここだけの話 第2回

2013.10.29更新

話しても、わかりあえないことはある

西今、日本と中国や韓国との関係って正直そんなによいわけではなくて、どうやって仲良くしようかな、というところですよね。2年半中国に住んでいた近藤さんの経験から、仲良くなるヒントとかはありますか?

近藤難しい問題ですよね。日本を出る前に仕事で中国人の方とかかわる機会がけっこうあり、親近感を抱いていたこともあったし、むかしは「話せばわかる」と思っていました。だけど徐々に、「話してもわからない」ということがわかってきて。夫婦関係もそうだと思うんですけどね(笑)。それで思ったのは、大事なのはとにかく「違うんだ」ということを理解することなんです。その違いをいかに認め合えるか。「俺ら人間なんだから話せばわかるぜ」というわけではなくて、わからないこともやっぱりある。

西なるほど。旅をした経験からみると、隣同士でちょっと反発しあってる国ってけっこう多い気がしますよね。
 カナダのウェンディーズやマクドナルドのマークには、小さなメイプルリーフがあるんです。そこに、「アメリカと一体と思わないでね」というカナダ人の主張を垣間見たように思いました。また、「カナダの人達ってこう思ってるんだ」ってわかると嬉しい。カナダとアメリカがもめてるっていう意味じゃないですよ。
 でもやっぱり、お互いに「違う」からこそ国境線はあるという面もあるわけで、そういったところから自分の国に対する誇りやアイデンティティが生まれてくることもある。だから、「話してもわからないことがある」ということを前提に話をするって大事かもしれないですね。

近藤国際関係も、夫婦関係とか友人関係と根本は変わらないと思うんです。
 とくに中国人や韓国人って自分たちと外見が似ているだけに、無意識にすごく似たものを求めてしまうんじゃないかなと思うんですね。

西「話せばわかる」と思っちゃう。

近藤そこが難しいところだなとは思っていて。

西僕が「辺境ラジオ」というラジオ番組でお世話になっている内田樹先生が、国際関係における問題の先送りってよくないことのように言われているけれども、実は非常に優れた解決策のひとつだという意味のことをおっしゃってました。そう言われてみると、話し続けている間は、平和な状態が続くわけだし、どちらか一つの案を貫くとやはり均衡が崩れてしまう可能性も多分にある。結果として先送りになってしまうことは、けっして悪いことではないんですよね。

【近藤さんの旅写真】この写真(左)の、白い棒がベルギーとオランダの国境なんだとか。庭に国境が通っていて、鶏を庭で追っかけながら「ベルギーに入った! オランダに入った!」と行ったりきたりしてる、という図。国境が家の中にあるとは、驚きです。



旅で人生は変わらない

――(「どこの国がおすすめですか?」という質問をうけて)

西僕は、インドがとっても印象にのこっていますね。すんごい人が多くて、エネルギッシュで、想定外のこともしょっちゅう起こる。
 けれどもよく、「ガンジス河で沐浴すると人生が変わる」とかって言いますよね。僕も「旅に出て人生観が変わったか」という質問をけっこううけますけど、そんなときは必ず「変わりません」って答えています。僕ね、そんな簡単に人生観は変わらないと思うんです。旅に行った直後に「いやー人生変わったわー」って言ってるのは、ある種のショック状態なだけで、日本に帰ってきてコンビにでおにぎり食べたら忘れてしまう。

近藤たしかに。僕も大学4年生のときインドに一カ月間行って、そのときのことが長期の旅がしたいという思いにつながっていったと感じていて。そのとき僕は大学院に入る前で4月には帰国して色々と準備をしなければならない状態だったのですが、インドで様々な人をみるうちに、「4月になったら帰国して準備しないと人生のレール外れる」って日本の中の話でしかないってことに気づいた。もっといろんな生き方ってあるよなって思って。
 それがもっと長く旅をしたい、じっくり世界を見たいって思ったきっかけになりました。だからインドへの旅が自分にとっては大きな転換点となり、ある意味、その旅が自分の人生を変えたのかもしれない、という気はしてます。でも、それって旅から戻ってすぐにそう思ったわけではなくて、ずっとあとになって振り返ってみたとき、ああ、あのときの経験があったからいま自分はこういう生き方になっているのかもしれないなって気づくという感じでした。

西だから、「人生観を変えたい!」と思って旅にでると、気負いすぎていろんな小さなことを見逃してしまうかもしれないですよね。「人生観を変える」って劇的なことではなくて、小さなことの積み重ねだと思うんです。旅先で、おじいさんがおじいさんを支えている姿や誰かがお辞儀をしている姿とかちょっとしたことが、ちょっと心に隅っこに残っていたりして、のちのち何かの起点になっているかもしれない。それくらいのものだと思っていたほうがいいのではないかと思います。そして何年か経って振り返ったときに、はじめてそれに気づくのではないかなと。

近藤すごく正確に言い表してもらったと思います。

【近藤さんの旅写真】ギリシャ・アモルゴス島の教会



どうしていいかわからない状況に対処する

西さきほどお話に出た内田樹先生は、合気道をやってらっしゃいますよね。内田先生が武道をやっているキモは、「まったくどうしていいか見当がつかない状況にたいして、どう対処するかにある」とご著書で書かれていますけど、それって旅にもあてはまるんじゃないかと思うんです。異国で今までに経験したことのない状況になったとき、自分の手持ちの能力でなんとかするしかない。「なんじゃこりゃ!?」って状況に出会うことの方が、自分の中で新しい何かが開花する機会になるし、それが旅の醍醐味ですよね。

近藤僕も同感です。実際には何が起こるかわからない未知の状態であることを考えるだけでも楽しい。逆に言うと、その未知の状態に遭遇したいと思ったら、それに対処するだけの自分の能力、生活する力、食べていく力は養っておかなければいけないですよね。

西「あのとき自分はああしたな」って自分のとった行動を思い返してみるのも楽しいですしね。

近藤僕の経験でいうと、中国の昆明(クンミン)という街にいたときの話なんですが、そこは下水がきちんと整備されていない所が多くて、飲食店でも大きいほうをしちゃいけないトイレが多いんです。でも料理は辛いし、食べ終わった後にカフェでコーヒーを飲むから、必ずお腹の調子が悪くなるわけです。カフェでだらだらして夜十時くらいに、ものすごくお腹が痛くなって。でも公衆便所はしまっていて、カフェのトイレしかない。でもそこは、大きいほうはしちゃいけない・・・もう究極の選択です。困った挙句に僕は、手でキャッチして、ゴミ箱に捨てました(笑)。

西・・・さっき近藤さんと握手しちゃった。

会場(笑)

近藤そのとき僕は、30歳目前・年収30万円・無職の状態で、しかも中国のトイレでそういう状況になり、ものすごく落ち込んだんですけど、それと同時になんだか笑えてきてしまって。

西そういうピンチのときや危機的な状況で、人間って笑いますよね。でも、その方がいいんですよ。眉間にしわ寄せて「どうしよう・・・」って考えるよりも、笑いながら「わはは、コレ、どうする?」って言ってる方が、とりあえず心の活動が停止しない。そして、「未知のものに出会いに行く」というのが旅の醍醐味ですね。

近藤そうですね。取材をしていても、想定外のことがでてきた方が書くのは大変だけれど、やっぱり面白いものが書けますから。

西そんな想定外の出来事が沢山詰まった近藤さんの本3冊です。是非、みなさん読んでみてください!

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近藤雄生(こんどう・ゆうき)
1976年東京生まれ。東京大学工学部卒業、同大学院修了後、旅をしながら文章を書いていこうと決意し、2003年に妻とともに日本をたつ。オーストラリアでのイルカ・ボランティアに始まり、東南アジア縦断(2004)、中国雲南省で中国語の勉強(2005)、上海で腰をすえたライター活動(2006-2007)、その後ユーラシア大陸横断を経て、ヨーロッパ、アフリカへ。2008年秋に帰国し、現在京都在住。著書に『旅に出よう』(岩波ジュニア新書)、『遊牧夫婦』『中国でお尻を手術。~遊牧夫婦、アジアを行く』『終わりなき旅の終わり――さらば、遊牧夫婦』(以上、ミシマ社)。


西靖(にし・やすし)
1971年岡山県生まれ。大阪大学法学部卒業。1994年、アナウンサーとして毎日放送に入社。同社の夕方の人気番組である「ちちんぷいぷい」では、2011年から総合司会を務めている。2010年には毎日放送創立60周年企画の一環で「60日間世界一周の旅」を敢行。その様子は『西靖の60日間世界一周の旅』(ぴあMOOK関西)として発刊された。また2013年7月から1か月間、「世界中の子どもたちと触れ合い、ご縁をつなぐ」をテーマに、再び世界一周の旅に。
MBSラジオにて、内田樹、名越康文両氏と「辺境ラジオ」を不定期放送中。2012年には『辺境ラジオ』(140B)として書籍化された。

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