今月の特集2

 先週、いよいよ『善き書店員』(木村俊介著)が発売となりました。
 この潔い迫力を醸し出している装丁は、寄藤文平さん。著者の木村俊介さんや代表の三島とは十数年来のお付き合いがあり、この本の世界観そのままの一冊に仕上げてくださいました。

 お話を聞かせてくださった6名の書店員のみなさんの、言葉の繰り返しや言い淀みなども含めて、声そのものがそのまま閉じ込められて、読者の耳元に届くような不思議な一冊となった本書。制作秘話や、タイトル「善き」に込められた想いを、うかがいました。

(聞き手:星野友里 写真:吉田美里)

「善き」という言葉に込めた想い ~『善き書店員』刊行記念インタビュー~

2013.11.19更新


ノーカットで載せたい

―― ロングインタビューをそのまま閉じ込めるという今回の本のイメージは、どのようにできていきましたか?

木村最初はそれこそ6人じゃなくって、たくさん方の話を密度濃く聞いていくという方向でしたよね。でもみなさんのお話を聞かせていただいていって、そして藤森さんの話を聞いたときに、ああ、もうこの形で書こうと思いました。
 自分の思いを全部一息に、辞めていった人の話、これまでの話、それを誰にも話したことがなかったという話をしてくださったときに、ノーカットで載せたいな、ああこれは本ができたな、と思いました。

―― お一人あたり40~60ページという大作になりました。

木村いつもだったらプロのライターとして必ずやる型を大きく崩して、自分の思い込みとか操作とかをできるだけ排して、声を一番大事にする。自分の新しい型を作れる本になったなって、すごくそれが嬉しくって。


人とじかに会うことと本との差ってなんだろう

―― いくつかのインタビューに同席させていただいて、相手の方が話しやすい場を、木村さんがつくられていることを感じました。インタビューで大事にされていることはありますか?

木村一番は、僕はこのインタビューをしている時間や書いている時間が、仕事という面だけでなく、自分の人生として、一番素晴らしいものだと思っているんですね。そう思って取り組んでいる、ということがあると思います。
 もう一つは、昔心臓が弱くて、あんまりいろんなところにも行けないしあんまり長く生きることも難しいなって思っていたので、生で話を聞くことのあこがれ、喜びがあると思います。本はすごくつらい時でも自分の体動かなくても読めますけど、そうじゃなくてせっかく会っているじゃないですか。そうすると、人とじかに会うことと本との差ってなんだろうと。

――人とじかに会うことと本との差。

木村取材者って、その人の有名なエピソードとかまとめやすい話を切り取って自分で主体的に操作したり、普通の人の話を聞くのでも、やっぱり最終的には自分の話にもっていったりとかすることが多いんですけど、自分はもうちょっとこう、人に会った感じを封印して、その本を読むとまたその人と会える、というふうにしていきたいんです。


しゃべりの潜る体力

木村だから話を聞いていても、一個の方向に押し込まないで、その人の使っている世界のルールというのを大事にしていくと、相手の世界に入り込めるんですね。こっちの聞きたいこととかいっぱいあるんですけどそういうのは捨てて、もちろん準備しないといけないのでちゃんと準備はするんですけど、捨てて、相手の中に入り込む。人の中に入ってその人になって、とにかくその人の過去を旅していくという気持ちです。

―― なるほど。

木村こう、なんていうんだろうな、実際問題しゃべりベタなんですよ。だから、テクニックがどうのこうのというよりは、相手に入ると、じわっと深いところに一緒に潜れる。呼吸はしているんですけど、結構深いところで話をしていると、ちょっと息が詰まるんですよね。すごく大事なことだから。そこの潜っているところをなるべく長くすることは、僕の望むところですし、好きなんですよ。そういうしゃべりの潜る体力はすごくあるんです。

―― 深い話になったときの、独特の緊張感、同席させていただいて感じました。

木村体力的に強い人でも、意外とそういう時に弱いところがあるので、人の本を読んで「ここもうちょっと描いてよ」っていつも思ってたから。最後にも書きましたけど、本当のところというのはもしかしたらその人の検証しきれない気持ちの中にあったりするから、そこをなるべく詳しく聞く。あと大事だなって思った話は、結構同じ質問を5回ぐらい、同じ質問じゃないんですけどずーっとしたりする。そこはやっぱりすごく大事ですよね。

―― そうですね。

木村その人が初めて話すことだからこなれてなくて当たり前で、何回も言い直してもらって、そうすると面白い。この本の中で同じ部分何回も言っているのはそのまま生かしてますけど、それが普段していることですよね。歩きながらよく同じこと思っているじゃないですか。その人がいつも移動しながらなんか考えていることをのっけたいなって思っていて。相手の中に一緒に入って、一緒に進んでいっている感じなんです。こう冗談交えながら少しづつ本当の話に近づけていけるといいね。なんかそういうふうなことを考えている感じです。

※明日は「手書き」について。なんと本書の原稿は「手書き」だったのです......!!

【お知らせ】
今週末11月23日(土)、鳥取県米子市の本の学校今井ブックセンターにて、『善き書店員』の出版を記念して、 著者・木村俊介さんとミシマ社代表・三島邦弘の対談イベント開催します!
お近くにお住まいの方はぜひ足をお運びください。

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木村俊介(きむら・しゅんすけ)

インタビュアー。1977年、東京都生まれ。著書に『物語論』(講談社現代新書)、『仕事の話 日本のスペシャリスト32人が語る「やり直し、繰り返し」』(文藝春秋)、『変人 埴谷雄高の肖像』(文春文庫)、『料理の旅人』(リトルモア)、聞き書きに『調理場という洗浄』(斉須政雄/幻冬舎文庫)、『少数気鋭の組織論』(斉須政雄/幻冬舎新書)、『芸術起業論』(村上隆/幻冬舎)、単行本構成に『海馬』(池谷裕二・糸井重里/新潮文庫)、『ピーコ伝』(ピーコ/文春文庫PLUS)、『イチロー262のメッセージ』シリーズ(ぴあ)などがある。

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