今月の特集2

 先週、いよいよ『善き書店員』(木村俊介著)が発売となりました。
 この潔い迫力を醸し出している装丁は、寄藤文平さん。著者の木村俊介さんや代表の三島とは十数年来のお付き合いがあり、この本の世界観そのままの一冊に仕上げてくださいました。

 お話を聞かせてくださった6名の書店員のみなさんの、言葉の繰り返しや言い淀みなども含めて、声そのものがそのまま閉じ込められて、読者の耳元に届くような不思議な一冊となった本書。制作秘話や、タイトル「善き」に込められた想いを、うかがいました。

(聞き手:星野友里 写真:吉田美里)

「善き」という言葉に込めた想い ~『善き書店員』刊行記念インタビュー~

2013.11.20更新


全部を一番最初っから手書きで書下ろしで潜っていく

―― 実は本書の原稿、すべてみっちりと、木村さんの手書きで入稿いただきました。ただならぬ気迫が溢れていて、原稿をいただいたときにドキドキしました。

木村パソコンだとやっぱり、いつでもできちゃうので、やっぱりこっちが操作している感じになるんですよね。もともと僕は手書き主義に近い状態で、テープ起こしだけは自分で打ち込んでそれをもとに手書きでやったりしてたんです。でも、全部を一番最初っから手書きで書下ろしで潜っていくみたいな感じっていうのは、今回が初めてで、そのことに意味があったんですよね。

―― やってみて、いかがでしたか?

木村前に聞いた人の話が重しとして乗ってきた状態になるので、こっちもどんどん大変になって、ちょっとずつ時間がかかるようになっていきました・・・。でもそういうことに意味があって、新しい型を見つけさせてもらいました。


ノイズだと思っていることがノイズじゃない

木村つまり、ラップみたいなもので、ノイズだと思っていることがノイズじゃない。同じ単語が何回も出てくることに、必然性を感じたんです。それは、こなれてないんじゃなくて、その人の世界がすごく出てる。避けられないものなんですよね。同じ単語が何回も何回も出てくる。
 たとえば、「という」という言葉でもそうですけど、「という」って何回書いてんだっていうぐらい、この本には出てきますが、でもその「という」のつなぎで少しずつ深めていくんですね。話を。喋っているとそうでも、本を書いていく中では不自然に見えがちなんですが、それを今回、全部こう頭から読んでみると、やっぱり耳で聞いていた感じで、気にならなくなると思うんです。そうだといいなと思っているんですけど。
 だから、そういう意味で普段僕らが添削しちゃうような感じで、人の声をまとめるっていうのじゃないやり方が、今回できたなと思います。 

―― 自分の言葉を手書きするというのはわかるのですが、聞いた言葉を頭から手書きで書いていくということが物理的にあまり想像ができないんですけど、どういうふうにされていたのでしょうか?

木村聞きながらですよね。そうなんですよ。やっぱりそれが重要だったんです。聞いているものを一回直してから書いちゃうと、自分の意図が強く出すぎるんですよね。それが手書きであってもです。
 だから、声の熱をいきなり書くというのは指先とつながっている感じがして、手でちゃんと届けてるって感じがしました。聞きながら推敲するみたいな感じで。
 実はなんだかんだ言っても17年ってかかってますけど、もう大体のことはやっているんですよね。取材にまつわるようなこと。だからつまり聞いた時の声の字面っていうのが想像しやすくなっているから、なるべくそれを生かしながら、なんていうんだろ、手癖に落とさないようにするには聞いたまま書く。

木村俊介さん

木村さんの手書き原稿一部



手でやる人と機械でやる人

木村フリーハンドの良さというか 最初から完成形に近いっていうんじゃなくて、すごく時間もかかるし、でもその分、自分の強く思ったものを書きやすいなぁと思いました。やっぱり一生懸命喋ってくれたことを、こちらも同じくらい時間をかけて咀嚼しながらやってる感じがして。嬉しかったですけれども。

―― 読み手にもそれは伝わりますよね。

木村料理人でもやっぱ手でやる人と機械でやる人と、すごく大きな分かれ目なんですよね。で、なるべく濃く強くその人のなんていうんだろう、思いを聞くために、手書きがもしかしたら出やすいし、あとやっぱり長く仕事をしている方で、結構手書きの方とか手で仕事をしている人が多いとか・・・飽きないんですよね。
 途中でたくさん出して飽きちゃう人とそうじゃない人がいて、手でやる人は生産量はそんなに多くないんですが、続く。なんでかっていうとすごい時間がかかるから、最初に思っていた考えじゃないものがすごく入り込んできて、途中でやっぱりいろんなこと思うんですよね。疲れるから休んで、なんもしていないように見えて整理していたり。

―― なるほど、手を動かしていると長く続く。

木村今までにも、何回も実験しているんですよね。同じ連載でも、手で書いたときとそうじゃないときと。やっぱり、手で書くと厚みがちょっとあるんですよね。厚みっていうか、ちょっといびつな感じの文章にはなりがちなんですけど、より癖が残るんですよね。だからちょっと不定形なままなんだけど、それが大事なんだと。直すと、そこが本当は良かったものなのに、という可能性もありますよね。

※明日はいよいよ、本書のタイトル「善き」という言葉に込められた思いについてうかがいます。

【お知らせ】
今週末11月23日(土)、鳥取県米子市の本の学校今井ブックセンターにて、『善き書店員』の出版を記念して、 著者・木村俊介さんとミシマ社代表・三島邦弘の対談イベント開催します!
お近くにお住まいの方はぜひ足をお運びください。

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木村俊介(きむら・しゅんすけ)

インタビュアー。1977年、東京都生まれ。著書に『物語論』(講談社現代新書)、『仕事の話 日本のスペシャリスト32人が語る「やり直し、繰り返し」』(文藝春秋)、『変人 埴谷雄高の肖像』(文春文庫)、『料理の旅人』(リトルモア)、聞き書きに『調理場という洗浄』(斉須政雄/幻冬舎文庫)、『少数気鋭の組織論』(斉須政雄/幻冬舎新書)、『芸術起業論』(村上隆/幻冬舎)、単行本構成に『海馬』(池谷裕二・糸井重里/新潮文庫)、『ピーコ伝』(ピーコ/文春文庫PLUS)、『イチロー262のメッセージ』シリーズ(ぴあ)などがある。

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