今月の特集2

 先週、いよいよ『善き書店員』(木村俊介著)が発売となりました。
 この潔い迫力を醸し出している装丁は、寄藤文平さん。著者の木村俊介さんや代表の三島とは十数年来のお付き合いがあり、この本の世界観そのままの一冊に仕上げてくださいました。

 お話を聞かせてくださった6名の書店員のみなさんの、言葉の繰り返しや言い淀みなども含めて、声そのものがそのまま閉じ込められて、読者の耳元に届くような不思議な一冊となった本書。制作秘話や、タイトル「善き」に込められた想いを、うかがいました。

(聞き手:星野友里 写真:吉田美里)

「善き」という言葉に込めた想い ~『善き書店員』刊行記念インタビュー~

2013.11.21更新


その仕事にかけるべき労力以上に注いじゃっている

―― この本の「はじめに」で、こういうふうに書かれています。

「職業的なインタビュアーとしての私が興味を持ったのは、ほんとうに一般的な、そこらへんで普通に働いているみたいな人たちが、具体的に体を動かしてきたうえで大事にするようになっていくなにがしかの「善さ」である。」

―― 木村さんは今までも料理人の方たちや漫画家の方たちなど、体を動かす方へのインタビューを多くされています。手書きのお話などをうかがっていると、インタビューライターもまさに肉体労働だなと思うのですが、その方向に、木村さんの興味が向かう理由をうかがいたいと思います。

木村これは結構この本の中でも中心になっていると思います。時給分だけ体を動かす、という考え方もありますし、今はもしかしたら、小さく生んで、大きく育てるっていうのが流行りなのかもしれないです。ただ、僕がすごく好きになる人たち、今回この本にも出ていただいた人たちって言うのは、時給の何倍も働いていると思うんですよね。僕はそこがすごいなぁ、というふうに思って。お金として投資したように跳ね返ることをリクープするというようなのですが、リクープしていない人にすごく興味があるんです。
 もちろん生活ができているんですけど、でもこの人は明らかにその仕事にかけるべき労力以上に注いじゃっている。でそれを注がざるを得ないところに追い込まれている。なんでかっていうと、やっぱりそれは信じているものがあるからかもしれませんし、そこにしかいられないっていうのもあるかもしれない。


心の主観でしかない善さ

木村ちょうどこの間、NHKの「NEWS WEB」という番組で、たまたま正規雇用と非正規雇用のお給料の話になって、そこで2分ぐらいコメントすることがありました。その時に平均給料とかの話も重要なんですけど、普通の人って言われている人たちに取材していると、やっぱりそれが好きだからとか、いい人がいるとか、その人に会えたとかなんかそういうことが大事だなと思う。心の主観でしかない善さというか、やっぱりそれが数値的に比較できるものではないからニュースでは取り上げられにくいんだけど、でも、明らかにお話ししていると一番そこが働く面で重要なんだなっていうふうに思っていて。

―― 「良さ」ではなく「善さ」。

木村「良い」だと比較できちゃいますよね。人がいるっていうのは、どんな悪であっても、その人なりのなんかルールってあるんですよね。そのルールを聞いている感じだから、それは客観的じゃないから、「良い」じゃ表せない。比較できないんですよね。その人はそうとしか生きられないですし。

―― そうですね。

木村善い仕事って、善いってどういうことなんだろうっていう、そういう言葉ではないかもしれないんですけど、考えながら働いていらっしゃる方がいっぱいいて。ただそれはやっぱり大事なものであるからこそ、弱いところでもあるから、友だちには言えないんですよね。


インタビューの中心

木村・・・なんていうんだろ、否定されたら自分が崩れちゃうくらい大事なことだから。それに、伝えると伝えた時点で同業者を否定することになりかねないっていうぐらいのことになるから、やっぱなかなか本当のことって言えないんですよね。すごく大事な話って、ふとすると他の人を傷つけることになりかねない。
 で、皆が「良い」って言っていることっていうのは伝えやすいから、ツイッターとか短い文章でやり取りしている世界がすごく多数派になっている中では、同じ話だけが常に同じ処理の仕方とか、同じギャグの付け方とかキャラの出し方だけで続いてて、でもやっぱりどこに行ってもどこにも行けてないっていう感じになるんですよ。

―― なるほど、たしかに。

木村やっぱり大事な話を聞きたいし、それは絶対他の人の中でも共鳴して響き合うし、そういうじわーっとした話、結論がこうですとかこういうコツを見つけたとかそういうんじゃなくて。僕は今回すごく・・・ああ本当の話できたな、と思えたんですよね。その人がどう「善い」って思ったか、その気持ちを聞くことがインタビューの中心なのかなって発見させてもらいました。

―― お話をうかがっていて、やっぱりタイトルは『善き書店員』だったんだなとあらためて思いました。

木村僕の場合は方法として、それぞれの人の言葉を客観的にというか、インタビュアーである僕自身は存在しないという形で載せます。それぞれの人がそれぞれの人の話をしている、そしてそれを聞き続けて何を見つけたかっていう部分、その思いだけをちょっとタイトルに載せさせていただきたくて、わかりにくいかなとは思うのですが、「善き」をつけさせていただきました。僕が一人称で書く書き手だったら、「善き」はいらないと思いますが、今回僕はぜひそうしたかったなぁって思うんですよね。

―― 本当にたくさんの人たちに読んでいただきたいですね。

木村ええ、そうですね。これが届いたらすごくうれしいですよね。こんなことあんまりやったことがないので。

【お知らせ】
今週末11月23日(土)、鳥取県米子市の本の学校今井ブックセンターにて、『善き書店員』の出版を記念して、 著者・木村俊介さんとミシマ社代表・三島邦弘の対談イベント開催します!
お近くにお住まいの方はぜひ足をお運びください。

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木村俊介(きむら・しゅんすけ)

インタビュアー。1977年、東京都生まれ。著書に『物語論』(講談社現代新書)、『仕事の話 日本のスペシャリスト32人が語る「やり直し、繰り返し」』(文藝春秋)、『変人 埴谷雄高の肖像』(文春文庫)、『料理の旅人』(リトルモア)、聞き書きに『調理場という洗浄』(斉須政雄/幻冬舎文庫)、『少数気鋭の組織論』(斉須政雄/幻冬舎新書)、『芸術起業論』(村上隆/幻冬舎)、単行本構成に『海馬』(池谷裕二・糸井重里/新潮文庫)、『ピーコ伝』(ピーコ/文春文庫PLUS)、『イチロー262のメッセージ』シリーズ(ぴあ)などがある。

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