今月の特集2

 今週発刊しました『逃げない・めげない カイシャ道』(藤井大輔著)。
書いて生きていく プロ文章論』の著者であり本書ができるきっかけをつくってくださったライターの上阪徹さんをゲストにお迎えし、お二人が考える「カイシャ」についてのお話をお届けします。

 最終回の今回は、引き続き仕事との距離の取り方や「カイシャ道」の歩き方などのお話です。どうぞお楽しみください!

(聞き手:星野友里、長谷萌 構成補助:野津幸一)

藤井大輔×上阪徹 カイシャって、どうでしょう。 〜『逃げない・めげない カイシャ道』刊行記念対談〜第3回

2014.02.19更新

「好き」という軸がいちばん危ない

藤井仕事に寄り添いすぎるより、むしろ仕事として対象化しているほうが、「ぶれない軸」みたいなものができてくるのかもしれませんね。「好き」ってなっちゃうと、軸がブレまくるから、いちばん危ない軸だな、と思うんです。

上阪それこそ他の著書の方の本づくりをするのが、ブックライターの仕事ですが、文章好きな人の中には、取材中相手が言ってないことまで自分で書いちゃう、なんてケースもあるようなんですね。それでトラブルが起きたりする。文章はすごい上手だけど、「言ったこと書いてないよ」とか「書いてあるけど言ってないよ」なんてことが起きたら著者との信頼関係は築けない。自分で書きたいことがあるなら、やっぱり自分の本で書かないといけないわけですよね。
 僕は、自分で書くことにあまり興味がないんです(笑)。だから、全面的に著者に寄り添う。文章書くのは好きじゃないし、いまだに苦手意識があるから、自分の文章を読んで「うまい」と思ったことなんて一度もないし。とにかくわかりやすい文章で、読者に伝わればいいと思っているんです。それが、委ねられている自分の仕事だと思っているから、「素敵な文章を書く」とか「感動させる文章を書く」みたいな意識はまったくないですね。この感覚は、ブックライターとしては逆によかったのかもしれない、と思います。

藤井いやー、おもしろいですね。僕も『R25』の編集長になったとき、よく取材で「いつからそういう、編集みたいなものに興味を持たれたのですか」とか、「クリエイターになりたかったんですか」という質問を受けたのですが、「いや、そんなこと思っていたらリクルートになんか就職していませんよ!  僕、銀行員になろうとしていたんで!」みたいな(笑)。

上阪(笑)。

藤井あと、「文章はよく書かれるんですか」というのもよく聞かれたんですけど、僕も文章キライなんですよ。自分で書いたものを読んでいても、「なんてへたくそな文章なんだろう!」と思うんです(笑)。「恥ずかしいな~」って。

上阪この前講演をやったとき、アンケートを読んでドキっとしたんですが、そこに「上阪さんって、結局はビジネスマンなんですね」って書いてあったんですよ(笑)。

藤井なるほど(笑)。

上阪「この人、ライターってよりはビジネスマンだ」って。 あと、ITエンジニアの人が、「これ、うちのプロジェクトマネジメントと同じです。上阪さんのブックライティングって、プロジェクトマネジメントですよ」って書いていて。たしかにそうなんです。たまたま仕事が文章を書くという形をしているだけで、僕はあくまでビジネスをやっている認識なんです。

藤井あー。たしかにそうだ、構造化されていますもんね。


ライターはなぜ締め切りを守らないか

上阪締め切りを守らないライターさんって、いるじゃないですか。どうして締め切りを守らないのかというと、彼らは、文化的活動をしているつもりでいると僕は思っているんです。文化的活動と経済的活動は違っていて、文化的活動は芸術に近いわけですね。締め切りという概念とはあまりそぐわないわけです。一方、経済的活動は誰かのお金がかかっていて、切った張ったがある。文章を書いてお金をもらうビジネスになっている。締め切りを守らないライターさんというのは、この二つを都合よく行き来しているんじゃないかと思っているんです。

藤井そうか、それでちょっと面倒くさいときは「文化的活動」(笑)。

上阪そうそう。でも、どっちがいいのか、悪いのか、という話ではないです。それで仕事を出している編集者が認めているなら、僕には何の文句もない。ただ、僕は経済的活動という感覚しかないというだけです。文化的な部分はほとんどない。

藤井なるほどー。おもしろいですね。

上阪すいません、話をまた戻しちゃいますが、さっき話していた「好きなことは飽きる、嫌いなことは慣れる」というのは、けっこうキーフレーズだと思うんです。僕はサラリーマンをしていて、これがよくわかった。たとえば嫌いな仕事をさせられることもある。そのときに「いずれ慣れるからやってみよう」と思えるかどうか。「おもしろいところが見つかるかもしれないし、もしかしたら自分に合ってる仕事かもしれない」っていう考え方ができるかどうか。これは、かなり重要かもしれないな、と思いますね。

藤井そうですね。やってて慣れてくると、だんだん「なんか、やってみてもいいかな」って気分になってきますし。「慣れる」ところから始めると、「得意」という引き出しが増えて、またそれを自分の力にしていける。本当に、成長させてもらえるというか、糧になるというか。むしろ「好き」って意外と強みにならないのかなって感じがするんですよね。

上阪実は自分のことを知るのがいちばん難しいんですよね。だから、「自分が好きだと思っていることが、本当に好きなことなのか」っていうことも含めて、一回疑ってみたほうがいいような気がするなあ。

藤井本当にそうだと思います。

上阪たとえば、「車が好き」っていう人がいたとして、その人は本当に「車」が好きなのか、わからないと思うんですよ。走るのが好きなのか、メカが好きなのか、丸みを帯びたフォルムが好きなのか。

藤井それか単純に、一瞬の虚栄心みたいなのが好きなのか。

上阪そうそう。ひとくちに「車」と言ってもいろんな基軸があるわけで。そこまで深掘りして分析する必要があるかっていうのは別にしても、そんなに「好き」ってことにこだわる必要があるのかな、と思う。


想像しない。考えない。

上阪これもこの前の講演で、いろんな人が印象に残ったと言ってくれた話なんですが、僕は「自分の本を出したい」と思ったことは一度もないんです。 ところが、自分の本を出せてしまった。どうしてかとひもとくと、おもしろいんですよね。僕は失業して、ゼロからライターを始めたので、とにかくお仕事をいただけるのがありがたかった。だから、仕事を選ばずなんでも受けていたんです。そうやって来る仕事をすべて受けていたら、広告の仕事が雑誌に広がり、書籍に広がり、自分の本を出さないかと言われ、本当にクモの巣みたいに、一本の糸がいろんなところにつながっていったんです。それで、気がついたら「あれ、僕、人前で講演してますね」みたいになってて(笑)。ほんとに夢にも思ってなかったわけです、今の状況を。だから、下手に「オレはこうなるんだ」と若いうちに決めて、それに合わせて進んでいたら、今の自分はこんなふうには絶対になっていなかっただろうな、と思うわけです。
 思ってもない未来を描くには、むしろ想像しないほうがいい。未来を考えない。そのほうがいいんじゃないかな、と。流されるままに流されていったほうがいい。会社員の人も。そういう生き方もあっていいと思うんです。
 実は、大きな会社の社長さんなんかも意外にそうですよ、希望して部署を異動した、キャリアを選んだ、みたいな人なんてほとんどいないです。大きな会社の社長さんとか。みんな流されてきてるんですよ。

藤井そうですね。僕の近くにも「難しい仕事も、無茶ぶりしとけば、あいつだったらどうにかしてくれる。ただ、利益は上げないんだよな~」みたいな人がいて、「でも、たぶんあいつは出世するな」って言ったりしていましたね。

上阪今は「自分でキャリアをつくっていく」とか、「自分で未来のビジョンをつくる」みたいな考え方が主流でしょう。もちろん方向性があるのはいいと思うんですけど。

藤井絵を描いて実現できるタイプの人と、そうじゃないタイプ、いろんな他者からの期待に沿うようにやっているうちに、苦手も得意も全部受け入れて伸びていく、みたいな人もいると思うんです。で、後者のほうが圧倒的に多いと思うんですよ。9割方そうじゃないかと。でもビジネス書って1割方の人に向けて書かれているものが多い気がするので・・・。

上阪たしかに未来が見えたほうが安心するのかもしれないけど。僕けっこう上場企業の社長さんとかにインタビューすることがあるんですけど、笑っちゃうのが、多くの人が「実はこの会社は第一志望じゃなかった」って言うんですよ。

藤井そうなんだ。

上阪「なんでこの会社に?」って聞くと、けっこう「いや、本当はこの会社に来る予定じゃなかったんですよ」って返ってくるんですよね。そういう人がすごく多い。たまたま友だちに説明会に連れて行かれた、とか。それが社長になっちゃうっていう面白さ。

藤井「三年はいようか」「五年はいようか」「マネージャーになるまでやってみようか」みたいな感じで。「せっかくなら執行役員までいってみるか」とか言って。与えられた仕事を、厳しいものもありながらも耐えていくと、次の景色が見えてくる、みたいな。

上阪そういうことの繰り返しなんだろうな、と思いますね。会社も人生も。もっというと、やっぱりそのくらいの懐の深さじゃないと、社長にはなれない気がします。


自分の中に、キレイゴトを持て

上阪そうそう。本にもあるけど、やっぱりキレイゴトを持ってないと、生きていくのは難しい、というのも共感しましたね。キレイゴトって、みんななかなか言わないけど一番大事なこと。

藤井そうですね。さっきの「こういう自分でありたい」みたいな目標とは少し違って、目的というか、「なんのために俺ってこれをやってるんだっけ?」みたいなものはあったほうがいいかなと思いますね。そういう意味でいくと、上阪さんのキレイゴトってのはやっぱり・・・

上阪それはもちろん「読者のために」ですよ。そこは首尾一貫しているので。関わる方みなさんの役に立つってことで、きわめてシンプルに。
『成功者3000人の言葉』という本の中で、「誰かの役に立つことを『仕事』と言う」というフレーズを使っていて、それが好きでこれもよく講演でも語るんですけど、この前もそれをばーんと言ったら、「あ、それは気づかなかったー!」みたいな感じのリアクションをしている人がたくさんいて。やっぱりシンプルに、人の役に立ってこそ仕事だし、お金がもらえているわけです。そこの根源に気づかなきゃいけないっていうか。

藤井あー。でも僕は、なかなか見つからなかったんですよね。『R25』がけっこう厳しくなっていったときに、やれネットだ、とかグローバルだ、みたいなところに自らを当てはめにいって、やってみるんですけど、全然燃えないんです(笑)。本当に燃えなくて。

上阪あはは(笑)。見つからなかったんでしょ? 何をやっていいのか。

藤井そう。ぽっかり穴が開いちゃって。僕の講演の満足度ってだいたい高いんですけど、その頃はもう全然ダメでしたね。すっごい低くて。喋っている自分が迷っているので、自信持ってなくて、「なんかつまんなかった」みたいな(笑)。

上阪そうかあ。あの成功体験もあるもんね。あの高揚感から一気に環境が変わり、システムとかもよくわかんない世界で。見えないもんね、何をどうすればいい、みたいなものが。

藤井そうですね。喪失体験みたいなのはあった気がします。「ネットって要は、リアルなものでやっていたことを置き換えて、人の仕事を奪って機械にやらせてるってことなんでしょ」って思ってしまって。

上阪そこからの切り替えに時間かかりますよね。

藤井すっごく大変でした。でも今はむしろ介護みたいな人のいる現場に、ITとかシステムを導入して、より「質」のほうには人間を、「処理」のほうには機械やシステムを、みたいなのがだんだんわかってくるんですけど。
 
上阪なるほど。そういう基軸の移動、みたいな話も含めて、この『カイシャ道』は書かれているから・・・いいんじゃないですか(笑)。

藤井ありがとうございます(笑)。

上阪創刊当時に『R25』を読んでいた層が、ちょうど今、悩んでるんじゃない? 当時25で、今35ぐらいだから、ドンピシャじゃないですかね。上から下から挟まれて悩んでる、かつての『R25』世代の人たちに贈る応援歌、みたいな意識を本から感じました。

藤井ありがとうございます。僕も、最初書いているときは目線がよくわからなかったんですけど、最後にまとめるときは、20代30代の会社員の人に、「逃げずに、めげずにやっていくうちに、自分自身が大きくなって、可能性が広がっていく。だから、がんばれ」という感じになりました。

上阪エールを贈るって感じ。とってもいい本だと思います。

藤井ありがとうございます。


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 藤井さんからのエールが詰まった『逃げない・めげない カイシャ道』は、2月12日より、全国の書店で発売中です! ぜひ本屋さんでお手に取りご覧ください!

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