今月の特集2

 自分たちの「世代」を考える――。
 特集1では、「音楽、建築、出版」という表現の分野における、自分たちの役割について語りあいました。

 今回は「ぼくたちの世代」の「家族」について。
 作家・早見和真さんにお話をうかがいました。早見さんは、1977年生まれのまさに同世代。映画にもなった『ひゃくはち』でデビューされ、5月24日より公開の『ぼくたちの家族』の原作者でもあります。
 実は、『ひゃくはち』『ぼくたちの家族』の原作者、プロデューサーは同級生。おふたりは『ひゃくはち』でデビューしたのです。
 自分たちの世代が直面してきたこと、これから直面せざるをえないことを、血の通った言葉と映像で、必死に伝えようとしている――。

 早見さんたちのメッセージは、「同世代」を考えるとき、けっして無視することができない。
 そういう思いで、インタビューに臨みました。

(聞き手:三島邦弘、構成・写真:新居未希)

僕たちの世代② ――家族を考える・早見和真さん

2014.05.23更新

「先生、なんだって?」
「まだ詳しくはわからないっていうんだけど」
一瞬ためらったが、隠すわけにもいかないと口を開いた。
「この一週間が山だって」
「一週間って、何がだ?」(『ぼくたちの家族』P70)


ぼくたちの「世代」の家族

早見3年前に単行本が出たときから、売り方をほんとうに悩んでたんです。お涙ちょうだいの闘病ものって思われたら、その時点で負けてしまう。でもどう売っていいのかわからないっていう悩みを抱えてたところに、1年前から石井さん(石井裕也監督)が「早見さん、この映画どう売っていいかわかんないんですけど」って言ってきて。そしたら、今いっぱい取材を受けている妻夫木くん(浩介役)が同じ悩みを抱え始めて(笑)。

―― (笑)。

早見「取っ掛かりをどうするか」っていうのを、この前もずっと話していました。観てくれた、読んでくれた人がおもしろがってくれるのには、自信があるんです。でも、そこまでの過程が本当に難しい。

―― その1つの取っ掛かりが、僕は「世代」かなと思っていて。この"ぼくたちの"という言葉に託した思いっていうのをお伺いしたいです。

早見おっしゃるとおり、ぼくたちの「世代」の家族なんですよね、僕が託したかったのは。でも、親父たちにしてみれば、ぼくたちの「作った」家族、なんですよ。きっと。

―― なるほど。

早見ぼくたちの「作り上げた」家族。ここにカギカッコで入る言葉は、それぞれ絶対あるはずなんです。

―― ぼくたちの、と家族、を繋ぐ言葉が必ずあると。

早見はい。それは、もうみなさんに期待した部分でした。

―― それは面白いですね。原作はタイトルが『砂上のファンファーレ』で、文庫版・映画では『ぼくたちの家族』なんですよね。

早見でも、やっぱり案の定どストレートすぎるとか、タイトルは前のほうがいいみたいなことを言われたりしますけどね(笑)。

―― あれ、そうなんですか。

早見現に監督である石井さんが「砂上のファンファーレでいいですよ!」って最後まで抗ってたり(笑)。

―― へえー!





 家族のありがたみなんて少しも感じなかった。家族といることで感じる孤独もあるのだとはじめて知った。その夜のことが、前触れもなく脳裏をかすめた。
 久しぶりに四人揃った家族だというのに、ここにいる一体誰が、家族のために救いになり得ているのだろう。(P86)


「家族とは○○だ」という言葉なんて、この世にはない

早見でも、信頼しているプロデューサーは「もっとマスに向けたものにしたい」と。というか、そもそもこの作品は『ピース!』っていうタイトルで連載してたんですよ。家族の「欠片」と「安穏」という二つの意味を込めて。でも、タイトルを付けるたびに「これが正解じゃないのかなぁ」と不安に思って......。それはまさにこの物語をうまく伝えられないのと一緒で、「家族とはなんぞや」っていう答えを見つけられてないからだと思うんですよね。

―― でも、だからこそ響いてくるなあと思うんです。

早見だとしたら嬉しいですけど。

―― わかりやすくしてしまっているからこそ、実際のリアリティーからは離れてしまっているものも当然、あるわけで。作者の早見さんの、答えがないからこそ紡ぎあげてきた言葉の積み重ねで、その時々の見える答えっていうのを提示してくださってるのかなあと思います。

早見そうですね。「家族とは助けあいだ!」とか「絆だ!」だっていう内容なら、たぶんタイトルは簡単に作れた気がするんです。

―― はい。

早見強引にこじつけるつもりじゃないんですけど、僕はそこが親父たちと自分たちとの世代の明確な違いだと思っていて。親父たちって、やっぱり「家族とはこうあるべきだ」みたいな共通幻想がある人たちなんですよね。石井さんは、それに対して「家族なんて壊れていて当たり前」っていうことを文庫の解説で書いているんですけど、僕の答えもそこに近くて、ただ「こうあるべき」という共通幻想が存在していないだけという気がしているんです。

―― なるほど。

早見どうあれ家族は家族でしかなくて、それってまさに「ぼくたちの世代」の認識なんじゃないかなあと。

―― 本当にそうですね。



 
©2013「ぼくたちの家族」製作委員会


 両親や上司が目を細めて回顧する時代は、本当に人を幸せにしたのだろうか。できることならけりをつけといてほしかった。本人たちが素晴らしい時代だったと自慢げに語るのなら、負の要素もまとめて解決しておいてほしかった。(P112)


「もうどうにかなんてならないとこまで、俺らは追い込まれてるんじゃないの」

―― ぼくたちの世代って、自分のこと、親、そしてその後と、色々と先延ばしにしてるところがあると思うんです。この映画の持ってるひとつの大きな意味は、「もうそこから逃れられないんだ」ということではないかな、と。

早見うん、うん。

―― 踏み込んで真剣に考え、背負い、動かしていくというアクションを起こさないと、次の世代の人からも僕たちは見放されてしまうというか。「家族のこともちゃんと考えられない人たちと一緒に仕事できない」というところまで含まれている気がします。

早見石井さんも似たようなことを言ってましたね。これはぼくたちの「家族」の話でありながら、「人生」であり、「政治」であり、「社会」の話でもあると。「」の部分はいかようにも置き換えられて、その本質が何かというと、逃れられないものを受け入れて、立ち向かっていくことなのだと。これはいわば自分たちの世代に突きつけられた「試練」の話であって、最初に原作を読んだときに石井さん自身が「覚悟を問われた気がした」と言っていましたね。

―― はい。

早見そう言えば僕もこの小説を書いてるときに、「どうにかなるさ」っていう言葉って、すでに死語なんじゃないのかなって感じたのを覚えています。「もうどうにかなんてならないとこまで、俺らは追い込まれてるんじゃないの?」って。だから小説のなかでも、いまだに「どうにかなる」と思っている太平楽な若菜家の面々と、「絶対にどうにかなんてならない」っていう浩介の妻の深雪とを対峙させた。そこは意識しましたね。




©2013「ぼくたちの家族」製作委員会


「一つ訊きたいんだけど、そんな状態になってまで二人は何を守りたかったわけ?」
 素朴な興味といったふうに俊平が訊ねた。
「何って、それは」
 父がかわいそうにも思えた。浪費したわけでもなく、ギャンブルに手を出したわけでもない。自分が生きてきた時代の「当たり前」の感覚を疑わず、ほんの少し、望んだものが身の丈に合わなかっただけなのに。(P122)


あのとき当たり前だと思ってたことを信じてちゃだめだ

―― 途中、「時代の感覚で生きてはいけない」というような台詞がありましたよね。それがすごく印象的でした。

早見それは結構、僕の持論でもあるんです。今の価値観で過去のことを裁いたりしているのを見ていると、なんだかいびつな感じがしちゃうんですよね。

―― うん、うん。

早見それと同じように、「ぼくたちの世代」ってフリーターがもてはやされたというか、一目置かれた世代じゃないですか。「就職することが愚か」みたいな文化があった。でも今フリーターって、めちゃめちゃな言われようですよね。

―― たしかにそんな時代、ありました。空気として、「就職活動なんかするんだ~」という(笑)。

早見なんなんでしょうね(笑)。でも本当そうなんですよね。あのとき当たり前だと思ってたことを信じてちゃだめだ、っていうのはたぶん正しい気がするんですよね。

―― ほんとうにそう思いますね。

早見「これはこうだからこうしてればいい」っていうのは、親父たちの考えだと思うんです。いい会社に就職さえしてしまえば、そのうち家族ができるのだろう、家を買えるのだろう、そして幸せになるのだろうって。つまりは「どうにかなるさ」の人たちです。でも僕たちはそうじゃなくて、その「前提」みたいなものを結構な割合で覆されてきた。なのに同世代でも上と同じようなこと言う人とかがいて、それは不気味に見えます。

―― 思考停止していいのか、と思いますよね。

早見自分で考えて、悩んで、選択するしかもう道は拓けていないと思うんです。やっぱりこじつけになるかもしれませんけど、『ぼくたちの家族』の兄弟二人にはその部分も託しました。きっと伝わってくれることを信じています。

お便りはこちら

みんなのミシマガジンはサポーターの皆さんと運営しております。

早見和真(はやみ・かずまさ)

1977年横浜生まれ。大学在学中からライターとして活動を始め、2008年に『ひゃくはち』で作家デビュー。著書に『スリーピング★ブッダ』(角川書店)、『6 シックス』(毎日新聞社)などがある。



ぼくたちの家族
5月24日(土)より、新宿ピカデリー他
全国ロードショー
配給:ファントム・フィルム
©2013「ぼくたちの家族」製作委員会

バックナンバー