今月の特集2

(上)内沼晋太郎『本の逆襲』(朝日出版社)(下)木村俊介『善き書店員』(ミシマ社)

 2014年5月7日、内沼晋太郎さんの『本の逆襲』(朝日出版社)と木村俊介さんの『善き書店員』(ミシマ社)のダブル刊行記念トークイベントが、B&Bにて行われました。
イベントのタイトル「インタビューについて私たちが知っている二、三の事柄、そしていまなぜ書店員?」は、内沼さんが考えてくださいました。そのこころは・・・。


内沼実は、『善き書店員』ってタイトルをみた当初は、申し訳ないのですが正直読む気がしなかったんです。というのも、「書店員という仕事は無条件に素敵なものである」と謳っているのかなって誤読してしまって。
 僕の『本の逆襲』では、もちろん書店員は素晴らしい仕事なんですけど、一方で変わっていかなければいけない部分もあるので。でも読んでみると、とっても面白くて、むしろインタビューということに焦点を当てたほうがきっと面白い話ができるだろうと思いました。

 インタビュアーという肩書きで仕事を続けられる木村さんと、イベント等でゲストの話の聴き手をされることが多い内沼さん。インタビューについてを中心に、最近考えていることについて、書店について、お二人のお話はお互いの言葉をきっかけに次々と展開し、まだ何時間も聴いていたい・・・という雰囲気の中で終わりました。

 本当は全編をお伝えしたいところですが、今回のミシマガジンでは木村さんのインタビューについての語りを中心に、まとめさせていただきました。『善き書店員』や他のご著書において、聴き手としての存在を消し、話し手の「声」が再生されるような原稿になるように心がけられているという木村さん。今回は内沼さんを聴き手に、そんな木村さんの話し手としての語りを、できるだけそのままに、みなさんにお届けしたいと思います。どうぞお楽しみください。

木村俊介×内沼晋太郎 インタビューについて私たちが知っている二、三の事柄、そしていまなぜ書店員?

2014.06.03更新

自分では言いたいとも思っていない人の面白さ

木村「聴き出す」ことについての自分のポイントは、相手の話をできるだけ止めない。沈黙が意外と長くみえても、そこでなるべく補助線をひいたりしない。「ってことは、〜ってことですか?」って言っちゃうと相手は親切だから、こちらの質問に寄ってきちゃうことがあるんですよね。本当はまだ煮えてないことを聴きにいっているのに、そうするとその人が公でしゃべったり、友だちとしゃべるレベルに収束してしまう可能性があるので。だからけっこう待ちの状態なんです。

 今ってみんなSNSで誰にでも伝えられるし自己表現できる、いわば伝えるもの同士が争ってるような時代ですよね。そこでは1、2分で伝えられる、わかる伝え方が流行ってくる。そこには言いたいことがある人が集まってきます。

 でも実際に僕が町工場の方だったり、料理人、介護の現場の方とかのお話を聴いてきて思うのは、自分では言いたいとも思っていない人の面白さや、あるいは言いたいと思っている人の中でも言いたくないところ、誇らないところによさがあるんですね。自分のみせたい自己イメージ像がSNSやネットで増えているだけであって。実は人間の本質みたいなところについては、みなけっこう飢えていて、新聞にものっていないし、やればやるほど声の可能性が光ってくる。

 お話を聴いている人とは、一期一会でもうこの先会うこともないかもしれないし、僕が話しているこのしゃべり方に今までの自分が背負ってる文化が反映されているように、声自体が履歴書なんです。みんなのどんな一言にも何かが反映されているんだという考え方をすると、偶然のなかに飛び込めるんです。

 反対に、取材なんかでよく「これとこれは聴いてください」って言われたりしますけど、それはなるべくやらないほうがいい。なるべく全部の言葉にその人の今や過去が反映されていたり、将来のなにかが見えてくるかもしれないと思って聴くと、何がおこるかわからないことを楽しめるので。


自分の体調とか元気さとか感動は相手の言葉に託すことができる

木村で、やっぱりそのためには最初のステップとしてきちんと本を熟読したり、リサーチをしていく。だんだん慣れてくると、今度は自分がいかに元気であるかとか、なんて言ったらいいんだろう・・・ちょっとしたやり方で納得をしているかとか、そういうことが問われるようになってくる。

 今まで書いてきた6冊は全部インタビューで、相手の言葉だけで書いているので、僕自身は「おわりに」とか、終章のところでしかでてこない。とはいっても、自分の体調とか元気さとか感動は相手の言葉のなかに隠されるし、託すことができる。

 人にじかに会っているってことをすっごく大事にしたいなというのが僕の方針です。一番最初に書いた本(先述の埴谷さんの本)は、もう亡くなった作家さんの話だったので、君があの人に会ってたらどんな話をしただろうねって何人もの人に言われて、できれば同時代の声を拾おうと思ってやっています。


本自体が音声の再生機になるようにつくる

内沼面白いですね。「聴きだしたものをまとめる」についてはどうでしょうか。

木村テープ起こしっていうのはこの業界では非常に嫌われていて、人に頼んだり下っ端がやらされたりということになってしまう。でも録音されたものをどう聴くかってことが、ものすごく奥が深い。「これも本なんだ」という感覚に近いと思います。

 本も何回も読まなきゃわからないですけど、音声も何回も聞き直すと、こんな話してたんだって。その人に1時間半しか会ってなくても、その声を何回も聞き直すことで、その人がどういう人間かってことがようやくわかるんですよね。一回くらいしか会ってないのに、沢山その音声と付き合うことで、自分はとても人に会えたなって感覚になる。

 それにまとめの仕方によってもいろんなことに気づくんですよね。語りは、すごく崩れてるものだから面白い。人ってほんとに何回も同じ話をするんですけれど、それがどんな意味があるのかすごく考えさせられたり、その人の声の調子や声の弱さとか強さや小ささとかも、どう文章に反映するかっていうことも考える。

 僕は音声が好きだから、英語で朗読されているシェイクスピアとか『失われた時を求めて』のオーディオブックをもっていて聴いているんですけど、プルーストであれば150時間以上聴かなきゃいけない。だけど『善き書店員』は、音声があればいいのにって思ったときに、本にまとまっているんですよね。

 音声の特徴を文字のなかに残すと、この本自体が再生機になって、持ち運びができるというところが、誰も追求してないポイントなんですけど、そこが自分のまとめのいいところだと思っていて。地の文で押したり、話を聴いて、それをまとめることで得られた発見ってこうですよって伝えるだけではないやり方でやっています。


かみ合っていないところがかみ合っている

木村あともう一つ学生さんに伝えるときに注意するのは、テープ起こししたものを僕の場合だともとの量から4分の3くらいに圧縮するんですけど、パソコンで作業すると、主従が逆になっていってしまうんですよね。たとえば、「この言葉は重複しているから削る」とか、「こうつなげるとドラマチック」とか、僕はしないんですけど、果たしてほんとうにそうなのかなって。

 経歴もなにも知らない状態でインタビューをはじめて、その人の過去の話をするかしないかも含めて、そのままの順序でいったほうがいい可能性もある。そういうことを考えると、最近というかずっと、録音した音声を手書きにしています。テープ自体は何遍も繰り返し聴くんですけど、書くときにテープ起こししながら書くと、声が死んじゃうんですよ。それで自分ではこう書きたいなと思いながら、何回も何回も聴いて、書くときには原稿を直接ノートに書いていっています。

 それにはきっかけがいくつかあって、ひとつは羽生善治さんと保坂和志さんの対談をまとめさせていただいたときの経験です。そのときは僕25歳くらいでまあまあ技術に自信があって。その頃まとめさせてもらった『海馬』が20万部いっていましたし、自分ではけっこうやれているなと、ちょっとまだ操作に寄ってたんですよね。

 その対談も誰が読んでも面白いなって感じにまとめたんですけど、保坂さんに「やりたいことはわかる。けれども、自分は羽生さんと会った時間を大事にしたいから、羽生さんと僕がしゃべった通りにできればしてほしい」って言ってもらって、ものすごく考えさせられたんです。

内沼なるほど、なるほど。

木村それが面白いのかってことも含めてですよ。で、それがほんとうは面白くない可能性もあるじゃないですか。それけっこう考えたんですよ。でも結局本という形には日の目をみなかったんですけれど、実際にしゃべった通りの形でやったら・・・なんて言えばいいかなぁ、色々かみ合ってないところがかみ合ってるなと思ったんですよ。それで自分のやり方ができてきたという感じで。

内沼すごく面白いです。

*3日目は内沼さんのインタビューのお話や本屋さんのお話もうかがいます! コチラからどうぞ。

お便りはこちら

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木村俊介(きむら・しゅんすけ)
インタビュアー。1977 年、東京都生まれ。著書に『物語論』(講談社現代新書)、『仕事の話 日本のスペシャリスト32 人が語る「やり直し、繰り返し」』(文藝春秋)、『変人 埴谷雄高の肖像』(文春文庫)、『料理の旅人』(リトルモア)、聞き書きに『調理場という戦場』(斉須政雄/幻冬舎文庫)、『少数精鋭の組織論』(斉須政 雄/幻冬舎新書)、『芸術起業論』(村上隆/幻冬舎)、単行本構成に『海馬』(池谷裕二・糸井重里/新潮文庫)、『ピーコ伝』(ピーコ/文春文庫 PLUS)、『イチロー262 のメッセージ』シリーズ(ぴあ)、『仕事の小さな幸福』(日本経済新聞出版社)などがある。


内沼晋太郎(うちぬま・しんたろう)
ブック・コーディネイター/クリエイティブ・ディレクター。1980年生まれ。numabooks代表。一橋大学商学部商学科卒。卒業後、某外資系国際見本市主催会社に入社し、2カ月で退社。その後、東京・千駄木「往来堂書店」のスタッフとして勤務するかたわら、2003年、本と人との出会いを提供するブックユニット「ブックピックオーケストラ」を設立。2006年末まで代表を務める。のちに自身のレーベルとして「numabooks」を設立し、現在に至る。ブック・コーディネイターとして、異業種の書籍売り場やライブラリーのプロデュース、書店・取次・出版社のコンサルティング、電子書籍関連のプロデュースをはじめ、本にまつわるあらゆるプロジェクトの企画やディレクションを行う。2012年、東京・下北沢にビールが飲めて毎日イベントを開催する本屋「B&B」を博報堂ケトルと協業で開業。その他に、読書用品のブランド「BIBLIOPHILIC」プロデューサー(「red dot award communication design 2012」を受賞)、これからの執筆・編集・出版に携わる人のサイト「DOTPLACE」編集長なども務める。著書に『本の逆襲』(朝日出版社)、『本の未来をつくる仕事/仕事の未来をつくる本』(朝日新聞出版)。

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