今月の特集2

 会社はクーラーがんがんで、一歩外に出ると暑すぎてうだる。
 電車に乗ると、一気に汗が冷えてしまって寒い。
 外はどうにも暑すぎて、クーラーをかけずにはいられない。けれど、クーラーをずっとかけていると、どうにも身体がしんどい......。
 外は暑いのに、身体が冷えるのはなぜなんだろう?

 2013年12月号のミシマガで特集した「暖ドリ!」に引き続き、今回はそんな身体の「冷え」をとり、快適に過ごす術をお伝えします。
 「冷えトリ」を伝授してくださった達人は、『超訳 古事記』(ミシマ社)の著者である鎌田東二先生。60歳を超えられた今でも、毎日のように山に登りそしてバク転をされているという鎌田先生なら、何かご存じにちがいない! そう思い、お話をうかがいました。

(構成・写真:新居未希、構成補助:安齊詩央里)

冷えトリ!〜快適に過ごす 冷えのとりかた

2014.08.28更新

たとえふんどし一丁になれなくても

―― 先生ご自身は、「冷え」は感じられるほうなのでしょうか?

鎌田非常に感じますね。冷房が嫌いなので、フンドシ一丁になって家の中で過ごすのが私の「冷えトリ」です!

―― おおっ!

鎌田けれど今はもう、フンドシ一丁で窓を開け放して生活する空間や、生き方自体ができなくなってきています。密閉しなくちゃいけない、というか。たとえば、ステテコ姿みたいなものさえ周りを気にするんですよね。「オジさんが縁台に卓を出して、団扇を扇ぎながら将棋を指す」とかいう風景は、めっきり見なくなってしまいました。

―― たしかに、映画のなかの風景のような気がします。

鎌田ああいう格好をすること自体が恥ずかしいっていう風潮になっているでしょう。でも考えてみれば、夕暮れどきに露台を出して、一杯飲んだりしながら涼むというのは、単に「体の涼しさ」というだけではなくて「心の涼しさ」なのではないかな、と。心を和ませる、解放させる......そういう力と文化があったと思うんですね。

―― 現代では、そういうものが本当になくなってきていますよね。

鎌田昔ながらの「中間地点」みたいなものが、本当に切り詰められてきて、非常にタイトになっています。ここからここまでは隣の家のもので、少しでも侵犯するとクレームになったり、いざこざになったりする。そういう境界意識が非常にはっきりしているんですね。だから人間関係や身体的な距離の中間地帯で、面白いことがなくなってきた。「冷えとり」でも、身体に着目するよりも、人間関係や生き方の「冷やし方」のほうが大事じゃないかと思います。

―― 人間関係の「冷やし方」...。

鎌田「計画してなにかが起こる」というイベント的なことではなくて、自然発生的に起こってくる、子どもの遊び場に近いような中間地帯を、それぞれの地域がどうやって作っていくかというのが、「社会的冷えトリ」には重要だと思います。そういうものがあった上で、身体の冷えとりみたいなものとか、心のあり方みたいなものの相互作用が上手くいくと思うんですよ。自分の身体や健康の問題だけに終始するのは、本末転倒というところがありますね。


「暑さを鎮める文化」を取り入れる

―― それにしても、京都ってほんとうに暑いですよね。

鎌田そうそう、暑いだけではなくてさらに蒸すし、どうしようもないんだけど、だからこそそこで涼むための文化的知恵っていうのを生み出しているんだよね。扇子なんて見事なものじゃないですか。香を加えているので、風を送ると白檀とかの香りがサァッとする。これはすごい効果的だと僕は思うんですね。京都のひとはそういうものを生み出して、この暑さのなかに、涼風を送る工夫をしてきた。

―― おお、なるほど。

鎌田団扇は、いちばん手近ですよね。祇園祭とかでも配ってくれる。けれど、いまは多くがプラスチックの団扇になっているでしょう。プラスチックの団扇と、竹の団扇は全然違う。竹の団扇になるだけで、涼しさを感じますよ。

―― たしかに......。

鎌田食卓でも、プラスチックと竹の両方のお箸を出したとしたら、間違いなく竹のお箸のほうが涼しさを感じる。それでそうめんなんかを食おうもんなら、もうそれだけで涼しいでしょ? 体を直接的に冷房で冷やすというのではなく、「文化的に鎮める」やり方が京都は発達してる。そういうものを生活のなかにもう一度、自分に合った流儀で取り入れるというのが大事なんじゃないかな。

―― おお〜、なるほど。

鎌田畳なんかもそのひとつだと思っているんですよ。男性だったら、上半身裸で横たわったりするでしょ。けれど夏に、絨毯の上で寝転がることなんてできないよね。フローリングにクーラーだと体が急速に冷え過ぎてしまう。ヒヤッとしすぎるわけですよ。だけど畳の上だったらね、気持ちがいいんですよ。畳っていうのは汗をかいていても、それを上手く散らしてくれる隙間がいっぱいあるんだよね。

―― そういう隙間は、フローリングや絨毯にはないですね。

鎌田ただし、裸で畳に寝転がってると痕が残るけどね。編み目がいい感じのメッシュに......それもちょっとした入れ墨ということで、文化として楽しんで(笑)。


水のサンドウィッチ!

鎌田僕は冷房がいちばん体に悪いんだと思うんだけど、これだけ暑いと、冷房をしないと体力も落ちてしまうので仕方ない部分もあるんだよね。でも、首筋は冷やさないようにしなきゃいけない。

―― 首筋を。

鎌田首筋から肩にかけてはすごく重要な部位だから、冷房のときにTシャツ一枚なのはあまり身体によくないよ。冷房の風は上から来るから、首筋に直撃することがあるんですよね。すると、体力を消耗してしまう。だから襟のあるものを着たりちょっとタオルを当てることで、身体を守ることになる。
 それから膝ね。半ズボンとかで座ると膝が丸出しになって直撃しちゃう。歳がいけばいくほど膝を悪くするので、長時間冷房のなかでは長いズボンのほうがまだ良いですよ、膝を守るためには。

―― 首筋と膝ですか...意識したことなかったです。

鎌田健康的には発汗させる必要もあるので、一日に何回かは大汗をかいてもいい。そして、こまめに着替えをする。洗濯物の量は多くなるけど、そちらのほうが良いと思います。僕はよく山に行くのですが、汗びっしょりになって帰ってきて、まず水のシャワーを浴びます。そして水で全身を冷やして、お風呂に入って温まる。最後にまた水のシャワーを浴びる。最初と最後を水で挟む、水のサンドウィッチだね(笑)。

―― み、水のサンドウィッチ!

鎌田これが、夏の対策としては結構いけるんですよ。身体が熱いまま上がって、冷房の効いているところに、すぐに入ってしまうとダメなんですね。身体が温まって緩んでいたものが、冷やされて急激に締まる。リラックスしているところに、緊張を強いられるような状態になるんです。その速さに、身体はついていけない。だからお風呂で水を被っておくと、夏はそんなに冷たく感じないんですよ。

―― おお、以前「暖ドリ」で三砂ちづる先生がおっしゃっていたことと、通じる気がします...!

鎌田私は滝行をするんですが、滝に打たれたあとは体がとてもポカポカと温まるんですよ。滝に打たれると物理的に体は冷えていくんだけど、そのときに体の中で反作用みたいなのが起こって、体の内側から熱を出して、冷えるのを防ごうとしているんだと思うんですね。だから出たあと、体の中から本当にポカポカした状態が続いて、けっこう気持ちいい状態なんです。生理学的なメカニズムはよくわからないから、ぜんぶ実感で話してるけど(笑)。

―― へ〜!

鎌田滝がすごく激しいので、死にそうになりますけどね(笑)。外側が冷たくて内側が温かいっていうのは心地よいんだけど、外側が熱くて内側が冷えている状態は、あんまり好ましくない。内側が温かいと、身体が落ち着いているんですよ。冷えているとすごい寒々しい感じがある。懐もそうだよね(笑)。

―― いや、間違いないです(笑)。

鎌田外側を冷やして、内側から温まる。そうして体をスキッとさせる。最初はたしかに寒いし冷たいけれど、そのあとに体の芯からポカポカとしたものや、透明感や、清澄感が出てきて、体がフワッと軽くなるような心の状態はとてもいい。
 滝場に奉られている神様は、不動明王が多いんです。火と水という2つの要素を不動明王は体現しているんですけど、それが不動心につながるわけです。暑いと騒がしくなって、落ち着きがなくなったりするんだけど、不動の状態は、静けさというだけで涼しいんですよ。

*つづきます

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鎌田東二(かまた・とうじ)

1951年、徳島県阿南市生まれ。國學院大學文学部哲学科卒業。現在、京都大学こころの未来研究センター教授。京都造形芸術大学客員教授。石笛・横笛・法螺貝奏者。フリーランス神主。神道ソングライター。
著書に『神道とは何か』(PHP新書)、『聖地感覚』(角川学芸出版)、『神と仏の出逢う国』(角川選書)、『究極 日本の聖地』(中経出版)など多数。

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