今月の特集2

 会社はクーラーがんがんで、一歩外に出ると暑すぎてうだる。
 電車に乗ると、一気に汗が冷えてしまって寒い。
 外はどうにも暑すぎて、クーラーをかけずにはいられない。けれど、クーラーをずっとかけていると、どうにも身体がしんどい......。
 外は暑いのに、身体が冷えるのはなぜなんだろう?

 2013年12月号のミシマガで特集した「暖ドリ!」に引き続き、今回はそんな身体の「冷え」をとり、快適に過ごす術をお伝えします。
 「冷えトリ」を伝授してくださった達人は、『超訳 古事記』(ミシマ社)の著者である鎌田東二先生。60歳を超えられた今でも、毎日のように山に登りそしてバク転をされているという鎌田先生なら、何かご存じにちがいない! そう思い、お話をうかがいました。

(構成・写真:新居未希、構成補助:安齊詩央里)

冷えトリ!〜快適に過ごす 冷えのとりかた

2014.08.29更新

*前編はこちら

お手本は『となりのトトロ』のお父さん

鎌田騒がしい人は暑苦しいじゃないですか。静かな人は「涼やかな人」になる。立ち振る舞いを静かにするだけで、冷えは生まれると思いますよ。反対に、立ち振る舞いを騒々しくするだけで暑くなるし、暑苦しくなる。

---- ああっ、それは本当にそうかもしれません...!

鎌田言葉遣いでもそうですよね。暑苦しい言葉遣いと、涼しげな言葉遣いがある。だから「冷えトリ」というのは、言葉でもできるんです。涼しい言葉がけは、とくに子どもなんかにはとても重要なことだと思います。
 親はだいたい、子どもに熱い言葉を投げかけやすいですよね。「こうしなさい」「ああしなさい」「危ない!」と、言葉自体がものすごいヒートアップしている。熱い言葉を子どもに投げかけても、熱い子どもの心には届かず、弾いてしまう。スッと入っていくためには、涼しげな、優しい涼しげな言葉をかけてあげなきゃいけない。

---- 単に注意するだけではなくて。

鎌田いつも僕が関心するのは『となりのトトロ』に出てくる、メイのお父さんなんです。メイが森で迷って、トトロに会いますよね。でも、みんなそれを信じてくれない。もう一度森に行ってみたけれど、トトロには会えず、お姉ちゃんにも笑われてしまう。それでムキになって泣きそうになっているところに、お父さんが「うん、誰もお前をウソつきと思ってないよ」「お前は森の主に会ったんだ、それはとてもスゴいことなんだ。でも毎回会えるわけじゃない」と非常に上手く子どもの心を冷やしてくれてるんですよね。ここでお父さんがヒートアップして「そんなん、夢でも見てたんだろ!」とか言ったら、子どもは不良になる!

----(笑)。

鎌田わからないものに対してすぐ否定するという態度は、ますます相手を加熱させるだけ。穏やかな心にするためには、違うテンション、違う時空間を見せたり指し示して、連れ出すことが必要なんです。そうすると熱くたぎっていた心がフッとなくなって、目がクリクリッと輝いて、晴れやかな心の状態になる。そこへ風がサアッと過ぎていくような、異界の風が吹いて来るような、そういうものが人間の心を健やかにする。人間関係の作り方のゆとりや上手さが、いろんな意味での「冷えトリ」や、熱くなりすぎないことにつながる。

---- いまは、焚き木にさらに薪をくべている感じがしますよね。

鎌田そう、暑苦しい言葉の上書きを重ねてるのが、現代文化なんですよ。熱いのをさらに熱くして、ネット上でも炎上して(笑)。「熱くすることしか考えない人しか動かない」「熱くすることがイベントだ」みたいな感じがあるけれど、そうじゃないと思うんだよね。こう、心のなかに深く沈潜する作用は絶対必要なんです。


ヒートアップとクールダウンのバランス

鎌田神道的にいうと、「魂振(タマフリ)」と「鎮魂(タマシズメ)」というものがあります。いまは異なる名前で呼ばれていますが、古代から「鎮魂」という漢字を書いて上の2つの呼び方がなされていました。タマフリは、活力を引き起こし活性化させる、現代の言葉で言うと、ヒートアップさせるようなところを持っています。タマシズメは、クールダウンして静かに落ち着いた状態。そういう、両方のバランスを取るのが大事ですよね。

---- ヒートアップしすぎてもいけないし、クールダウンしすぎてもいけない。

鎌田そのためには、音楽もいいです。風鈴もそうだけれど、風に揺れて自然な音がシャラシャラと鳴るものに、涼しさを得ることができる。僕の家は比叡山が近いものですから、鳥のさえずりや虫の鳴き声がよく聴こえます。心を鎮める効果がとてもありますよね。家庭のなかで川のせせらぎのCDをかけておくとか、自然の響きを取り入れるのも一つでしょうし。自分好みの、静かな音楽をかけるっていうのもいいと思います。いろんな工夫ができるはずです。

---- 聴いてるだけで涼やかな感じになれますね。

鎌田僕たちの研究では「心身変容技法」というのをやっています。瞑想、修験道とか、体と心をどういうふうに変化させることができるのか、ということを考えているものですから、「冷えトリ」はまさに日常のなかでの心身変容文化です。日本は、衣食住のあらゆるところにうまく涼しさを演出する工夫がなされていていますよね。そういうものを、もう一度体系的に捉えていく必要があると思います。


*「冷えトリ」だけでなく、日本文化の豊かさも思い出させてくださった鎌田先生には、暑さで項垂れていたメンバーもいっぱいエネルギーを注入してもらいました。自転車で去って行く後ろ姿も颯爽としていて......みなさまもどうぞ爽やかにお過ごしください!

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鎌田東二(かまた・とうじ)

1951年、徳島県阿南市生まれ。國學院大學文学部哲学科卒業。現在、京都大学こころの未来研究センター教授。京都造形芸術大学客員教授。石笛・横笛・法螺貝奏者。フリーランス神主。神道ソングライター。
著書に『神道とは何か』(PHP新書)、『聖地感覚』(角川学芸出版)、『神と仏の出逢う国』(角川選書)、『究極 日本の聖地』(中経出版)など多数。

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