今月の特集2

 2014年も、残すところあと1カ月となりました。
 みなさんは、今年一年、どんな本に出会いましたか?
 小説やエッセイ、ノンフィクションに人文書、ビジネス書......きっとたくさんの、素敵な本たちに出会ったのだろうなあと想像します。一年間読んだ本たちを振り返るだけでも、「そう言えばこの本を読んだときは、こんなことを考えていたな」といろんなことが思い返されますよね。

 ミシマ社では毎年、年末に「今年の一冊!」を決めるふたつのイベントを開催しています。ひとつは、紀伊國屋書店梅田本店の書店員・百々典孝さんによる「百々ナイト」。そしてもうひとつが、メンバー内で「今年一番面白かった本」を紹介し合う「今年の一冊座談会」です(2013年の様子はこちら)。

 今回の特集では、全4回前後編に分けて、このふたつのイベントをお届けします。
 まずは、メンバ―内で開催した「今年の一冊座談会」からどうぞ。
 東京と京都をSkypeでつないで行いました!

2014年 今年の一冊! 座談会編

2014.12.11更新


『寄生虫なき病』モイセズ ベラスケス=マノフ(文藝春秋)

『寄生虫なき病』モイセズ ベラスケス=マノフ(文藝春秋)

 今年の3月に出たサイエンス・ノンフィクションです。著者のマノフさんはサイエンスライターであると同時に、自身が自己免疫疾患をお持ちで、髪の毛も眉毛も生えてこない重度の疾患の持ち主。マノフさんのような自己免疫疾患やアレルギー疾患は、先進国を中心に近年増える一方なのですが、増加の原因も、治療や予防の方法も、決定的なことはわかっていないんです。そこでマノフさん自ら「寄生虫療法」に挑戦する。まだ効果も実証されておらず、一部では危険視もされている「寄生虫療法」、その結果やいかに......というのが本書の見所です。
 それからこの本は、ぼくらの身体観を転換させるパラダイムシフトの書でもあるんです。これまでは、「健康な身体」という静的なものを想定して、それを破壊する病原を見つけようという「犯人探し」が続いてきた。でも、この本が示しているのは、人類の歴史とともにぼくらと共生してきた細菌や寄生虫の「不在」によって、免疫機能が暴走しているということです。ぼくらの身体は、体内の微生物も含めた一つの生態系として、動的な「超個体」を形成している。だからそのバランスを取り戻す必要があるんだと。ちなみに英語の原題は"an epidemic of absence"(不在による病)。
 全400頁以上あるうえに、かなり学術的なことも含まれているのですが、自己免疫疾患やアレルギーについての様々な事例とともに、治療への光明をも示してくれる。驚きの一冊です。


『書物の運命』池内恵(文藝春秋)

『書物の運命』池内恵(文藝春秋)

 イスラム学者の池内先生の書評集です。書評が集まっているんですけれども、一冊として全体のストーリーを持っていて、読んでいて知的アドレナリンが湧いて出た本でした。この本のなかで紹介されている本があまりにも全部読みたくなってしまったが故に、図書館の予約がいっぱいになってしまったりもして(笑)。しかも、ここから読んだ本からまた派生して、さらに別の本まで読みたくなるという連鎖も起こりました。
 自分ではあまり手を伸ばしにくい海外の著者の本とかへも目配りなど、世界の見方をバランスよく案内してもらっているような感覚で、世界を広げてくれた感じがします。今年刊行された本ではないのですが、かなり影響を受けた一冊でした。


『定本 日本の秘境』岡田喜秋(ヤマケイ文庫)

『定本 日本の秘境』岡田喜秋(ヤマケイ文庫)

 これは昭和30年に出たものが、一回復刊されて、また復刊されたという再復刊の本です。昭和30年代というと高度経済成長期で、そのなかでも取り残されているような、山の奥深くにある秘境や、電気やガスが通っていない集落へ著者の岡田喜秋が旅した紀行文です。著者がこの本を書いたのが、当時20代後半から30代はじめくらいの頃なんですが、本当に文章が名文なんです。なんというか......すっごく味があるんですよね。宿の人との会話がごく短く入っていたり。そういうところからその地で暮らす人の息吹が感じられたりして、自分も実際に旅をしたような感覚になる。こんな若さで、こんな深い文章が書けるんだなあというのにとても感銘を受けました。
 日本が経済的に豊かになっていく過程で、無くなっていってしまったような営みが、たしかにあったのだということがすごくわかりました。こういう文献が本屋にいけば手にとれるということが本当の豊かさなんだとおもいます。私、最近はあんまり旅には出られていなかったのですが、この時代の日本へ旅に出たような気分になれました。


『僕は自分が見たことしか信じない 文庫改訂版』内田篤人

『僕は自分が見たことしか信じない 文庫改訂版』内田篤人(幻冬舎文庫)

 「今日の一冊」にも書いたし、ほんとうにさんざん騒いでいたんですが、もう今年の一年と言えば、これしかない。そう、2014年と言えばサッカーワールド杯、ワールド杯と言えばウッチーですよね! この本にはプロになるより前の高校生のときの話から、シャルケに移籍するところまでの話がガッツリ書かれています。私、ウッチーと同い年なんです。高校生のときの話とか、もう、自分と一緒なんですよね。友だちと遊んで、部活して、勉強もして、ほかと変わらない一人の男の子が、最前線でこうやって身体をはってがんばっているんだということに、とても感銘を受けました。
 本の中に、内田選手のことをよくインタビューしているライターの方の言葉が出てくるんです。内田選手は、たとえば身体で当たっていくことを「ガシャガシャ当たる」と独特な表現をしたり、自分の言葉でしっかり話すんだそうです。そして、「シャルケのために自分は血を流したい」というような、ちょっと現代離れしたようなことを言ったりもする。言葉を扱う仕事をしている身として、それがすごく心に残ったというか...プロのサッカー選手だし、私とは職種もレベルも全然違うんですけど、同じ27歳としてすごく刺激を受けた一冊でした。


『24頭の象』和田誠(トムズボックス)

『24頭の象』和田誠(トムズボックス)

 なんで「今年の一冊」かというと、もう、和田さんにサインをもらったからなんですけど(笑)、すごくすてきな画集です。好きすぎるあまり、なんだかあんまりうまく説明できる気がしないので、ほんとに一度見てみてほしいんですが...!
 象がずっと、ひとコマ漫画で描かれてあるんですけど、うーん、あえて言うなら、このひとコマ漫画はすごく共感を得ると思います。「ああ!」とみんながきっと思うようなことがいっぱい描かれてあって、けれどそれをこういうふうに優しく描けるのは、やっぱり和田誠さんしかいないと思うんです。これを見ていると、自分が「いいな」「好きだな」と思うものをそのまま描いたりしたらいいんだなあと、元気ももらえる一冊です。


*明日は、京都チームの「今年の一冊」をお届けします!

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