今月の特集2

 2014年も、残すところあと1カ月となりました。
 みなさんは、今年一年、どんな本に出会いましたか?
 小説やエッセイ、ノンフィクションに人文書、ビジネス書......きっとたくさんの、素敵な本たちに出会ったのだろうなあと想像します。一年間読んだ本たちを振り返るだけでも、「そう言えばこの本を読んだときは、こんなことを考えていたな」といろんなことが思い返されますよね。

 ミシマ社では毎年、年末に「今年の一冊!」を決めるふたつのイベントを開催しています。ひとつは、紀伊國屋書店梅田本店の書店員・百々典孝さんによる「百々ナイト」。そしてもうひとつが、メンバー内で「今年一番面白かった本」を紹介し合う「今年の一冊座談会」です(2013年の様子はこちら)。

 今回の特集では、全4回前後編に分けて、このふたつのイベントをお届けします。
 まずは、メンバ―内で開催した「今年の一冊座談会」からどうぞ。
 東京と京都をSkypeでつないで行いました! 後半は京都メンバーの「今年の一冊」をご紹介します。

2014年 今年の一冊! 座談会編

2014.12.12更新


『偶然の装丁家』矢萩多聞(晶文社)

『偶然の装丁家』矢萩多聞(晶文社)

 著者の多聞さんはミシマ社と縁が深すぎて、なんだか新鮮味がないと思うんですが(笑)、この『偶然の装丁家』は、自分にとっての本への意識を変えてくれた一冊です。
 僕はミシマ社に入るまで、書店員をしていました。そしてそれまでは、本を「商品」として扱っていて、「作られるもの」だという感覚がなかったんです。
 だからはじめてゲラの段階や、本という一冊ができる、完成までの道筋を見せてもらったというのがすごく新鮮で、本は「ある」ものではなくて「作られるもの」だったんだなということを改めて認識させてもらいました。

『島の美よう室』福岡耕造(ボーダーインク)

 あと、ちょっと反則なんですけど、もう一冊『島の美よう室』という本を持ってきました。沖縄には県産本という言葉があって、沖縄で作って、沖縄の人が買ってというように、沖縄のなかだけで完結しているという出版社がたくさんあるんです。そしてそういう出版社って、すごく本屋さんとの繋がりも深いし、著者・出版社・読者というところがすごい身近で一体化しているんですよね。この本の版元であるボーダーインクも、例に漏れずそのなかで本を作っている、沖縄の出版社です。
 この本は、離島で月に10日間だけ空いている美容室に訪れてくる人たちの写真集です。茨城にお住まいの美容師さんが、わざわざ毎月、沖縄の離島にやってくるんですよ。そして沖縄の面白いところは、書店員さんや周りのひとたちが、そういうことをしている人がいることを、すごくよく知っているんです。「ああ、あの人ね、こんなことやってるんだよ」という感じで本も紹介してくれる。その感じがすごくいいなあと思って、ご紹介しました。


『計画と無計画のあいだ』三島邦弘(河出文庫)

『計画と無計画のあいだ』三島邦弘(河出文庫)

 私、実は今年に入るまでほとんど本を読んだことがなかったんです。けれどなんか「本を読まなくちゃ!」という気分になって、たしか今年の初詣のときに、お祈りで「本を読みます!」と宣言したんですね。それで、今年のはじめから本好きの子に聞いていろいろ本を読むようになったなかで、ミシマ社から出ている『THE BOOKS』に出会いました。
 そうして『THE BOOKS』を見ながらいろいろ本を読んだりしているうちに、たまたまFUTABA+京都マルイ店でミシマ社フェアをやっているのに出会って、そこでこの『計画と無計画のあいだ』を手にとったんです。それで、この本を読んでいるうちにすっごくミシマ社が気になってしょうがなくなって、その日のうちにミシマ社京都オフィスの入口のところまで来て、覗いたりしました(笑)。突然行ったらだめだなと思って、その日は引き返して、その後デッチに応募して、今に至ります。ほんとに、今年のきっかけの一冊です。


『天の梯』髙田郁(角川春樹文庫)

『天(そら)の梯(かけはし)』髙田郁(角川春樹文庫)

 とっても迷ったんですが、もう、今年と言えばシリーズ完結作のこれだろう! と思い、この一冊にしました。今年でこの『天の梯』を含む、「みをつくし料理帖」というシリーズが完結したんです。半年に一回出る新刊をほんっとうに楽しみにしていて、「ああ、もう少しでみをつくしの新刊が出るなあ」と思うことが生きる糧になっていました。
 幼いころに両親を亡くした主人公・澪が、身寄りのないまま、大坂、そして江戸に出て一人前の料理人を目指す、という時代小説です。著者の髙田郁さんは、小説に出てくるお料理はすべて作っているという徹底っぷり。そんな誠実なお人柄が滲むような、あたたかくて切なくて、生きる力が湧いてくる作品なんです。江戸時代の、大坂や江戸の風土や食文化も知れるのも面白いし、料理以外にも恋愛や友情など幅広いので、時代小説を読んだことのない人や苦手な人にも、入口としてとってもおすすめ!
 私が初めてこのシリーズを手にしたのは、19歳のときでした。全10巻を5年に渡って刊行されていたので、それこそほんとうに、澪と一緒に成長してきたような気がします。読むたびに、自分の身体を内側から作るのは食べ物しかないのだから、食べることを大切にしよう、そしておいしく毎日を過ごそうと、心から思います。ほんとうに大好きなシリーズです。


『HHhH プラハ、1942年』ローラン・ビネ(東京創元社)

『HHhH プラハ、1942年』ローラン・ビネ(東京創元社)

 日本では2013年に発刊された作品です。1942年、つまり第三帝国・ナチス軍がチェコスロバキアを統治し、ラインハルト・ハイドリヒという有名な将校がプラハで総督となる。そこで「類人猿作戦」という有名な暗殺事件がおこるんだけれど、この小説は、その世界を描いていくノンフィクションであり、フィクションでもある。そこの境目がもはやわからないんです。
 小説っぽく書いたノンフィクションって、これまでもいっぱいあります。でも、それとはまったく違う。なにが決定的に違うかと言うと、ハイドリヒやナチス、ヒトラーの周辺をめぐる文献、映画、すべての考察をふまえて、適切な引用と不適切な事例を全部盛り込みながら、それを史実として描いているんです。そして、今までいろんな歴史映画や歴史小説たちに、ありもしないものを誇張して描かれてきたことによって、見る側が常に「あ、これは創作なんだろうな」と思ってしまう、それを許せないんだ! と、著者が一人称として本文のなかに突然登場してきたりする。
 とにかく、これが出た後と出る前ではまったく違う、と分けられてしまうくらい、インパクトのある本。ビネはフランス人なんだけれども、フランスを非常に批判的に見ながら、ナチス・ドイツを描いている点も面白い。読みものとしてもとにかく止まらないし、すごく面白いんだけれど、歴史的な考察としても非常にすぐれた一冊だと思います。哲学、歴史書、いろんなジャンルを、名著というものは横断するなと改めて感じた傑作です。



 いかがでしたでしょうか?
 ちなみに、メンバーの多数決によって読みたい本に投票される「大賞」は、三島さん推薦の『HHhH』でした。
 三島さんは「今年の一冊」開催8年目にして、なんと初の大賞受賞。ビネさん、ありがとうございます〜!!(by三島)

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