今月の特集2

 2014年も、残すところあとすこしとなりました。
 みなさんは、今年一年、どんな本に出会いましたか?
 小説やエッセイ、ノンフィクションに人文書、ビジネス書......きっとたくさんの、素敵な本たちに出会ったのだろうなあと想像します。一年間読んだ本たちを振り返るだけでも、「そう言えばこの本を読んだときは、こんなことを考えていたな」といろんなことが思い返されますよね。

 ミシマ社では毎年、年末に「今年の一冊!」を決めるふたつのイベントを開催しています。ひとつは、紀伊國屋書店梅田本店の書店員・百々典孝さんによる「百々ナイト」。そしてもうひとつが、メンバー内で「今年一番面白かった本」を紹介し合う「今年の一冊座談会」です(その様子はこちらから)。
 今回はそのうちのひとつ、毎年恒例「第3回百々ナイト」の様子をお届けします!
 前編はこちらからどうぞ。

(構成・写真:新居未希)

2014年 今年の一冊! 百々ナイト編

2014.12.30更新


第3回百々大賞はこの作品!

三島ではお待ちかね、第3回百々大賞の受賞作を発表したいと思います!

『サラバ!(上)』西加奈子(小学館)

百々はい。今年の百々大賞は、西加奈子『サラバ!(上)(下)』です。この本は今年のなかで、断トツでした。西加奈子さんのデビュー作『さくら』を担当した、小学館の石川さんという方がこの『サラバ!』の編集担当なんですね。この石川さんはすごくヘンで面白く、なおかつ情熱があって敏腕。『世界の中心で愛を叫ぶ』や『のぼうの城』など、そうそうたる作品を担当されている方なんですよ。
 そんな石川さんが、「傑作です、間違いありません。編集者をこのまま続けていてもこれ以上の作品に出会える気はまったくしません。それぐらいものすごい作品です」と、書店員に渡すプルーフ(校正刷りを冊子にしたもの)にコメントしていたんですね。普通は、特定の作家に対して編集者はこんなことは書きません。ほかにも自分が担当している作家はたくさんいるし、その人たちの耳に入るといい印象はないですよね。でも書いちゃう、というぐらいの心意気だったんです。僕はこれを読んで若干引きました(笑)。石川さんがここまで言うと逆に読めないな、と。だからこそ、最初はマイナスイメージからのスタートだったんです。だけどすごかった。

三島うんうん。

百々僕は人にあまり小説を勧めたくないタイプなんです。小説には好みがあるから。最初に紹介した『ピクサー流』だったら、ビジネスマンは絶対読んだほうがいいと言い切れます。答えがわかっている本だから。何かが絶対得られるはずから。読んで損したというのはないし、自分にあわないというのも少ないと思います。
 けれど、小説は答えがないでしょう。みんがみんないいと言う本は、だいたい面白くない。やっぱり自分のなかで尖っていないといけない。でも、今回僕がこれを推したいのは、誰が読んでも心を打つと確信しているからです。

三島おお〜!

百々人生を変える本というものがあるとすると、年をとるにつれて、そういう本との出会いはなくなっていきます。年をとるとだいたい、小さい頃の「そんな世界があったの」という喜びから、だんだん「ああ、あれの延長ね。わかるわかる」となってくるんですよね。
 僕もいま43歳なので、この歳になると小説から得られるものはほぼないし、あったら逆に怖い、と思っていたりしたのですが、これはまさに年下の女性作家に「生きるとはどういうことか」を教えられた本でした。人は、どうやって生きていくのか、その指針ってなんだろうかと。そういうものを小説から学ぶとまったく思っていなかったので、本当にびっくりでした。本で泣くということはあまりないのですが、これは...じわじわ、最後の1行でダーーーッです。

一同 (笑)

百々いや、小説を説明するのは本当に難しい。小説を大賞にもってきたくなかった僕の予感は的中しましたね(笑)。

三島百々さんが本にここまで言うのは、ほぼないと思います、ほんとに。ふだん、「泣く」とか言わないですよね。

百々書店のPOPとか推薦文で、「号泣した」とか書くのってかっこ悪いじゃないですか。限られた文字数しかないのに、自分が泣いた話書いてどうすんねん、と。だからいつもは、人に勧めるときに自分が泣いた話するのって、めっちゃかっこ悪いと思っているんです。けど、この作品の持つすごさを何と伝えたらいいのかわからない。


このサイズじゃないと知り得ない世界がある

百々西さんはイラン・テヘラン生まれの大阪育ちなんですが、そんな西さんが育ってきた舞台が全部この小説の後ろにはあるんですね。主人公・歩、複雑なお姉ちゃんや両親がどういった性格であるかというのって、普通の小説は簡単なエピソードをつなぎあわせて、「だいたいこういうキャラクラーなんだな」と読者が思う。けれど『サラバ!』では、そのための膨大な材料が散りばめられていくんです。全部点でしかなかった主人公たちの性格を形作るうえでの材料たち、こういう事象があったからこういう思考をもってるに違いないなという無数の点が、最後の最後でビシビシと活きてくる。小説なのに答えがあるんです。

三島なるほど、わかりました! ずばりドストエフスキーですね。

百々そうそう、ドストエフスキーや、芥川龍之介ですね! 思春期のいろいろ悩んだ年頃に読む芥川龍之介とかドストエフスキーで、「おっ」となる感覚にぴったりです。中学生のときにドストエフスキーを読んで、あれ、なんで俺のこと書いてるの、と思ったあの感じ。それがまさにこれです。
 こう言ったら失礼ですが、ノンフィクションや大河小説を力強い筆圧で描く男性作家の本で上下巻は普通にありますが、女性の現代作家の小説で上下巻だと、なんだか違和感がある。一冊にしたほうが売れるんじゃないかとか、本当は編集次第でもっと削れるんじゃないかとか思ってしまいます。でもこれは、上下巻必要です。これ以上短いと、薄っぺらな物語になる。このサイズじゃないと知り得ない世界。どこも削るところがないんです、こんなに長いのに。石川さんが大絶賛したのがよくわかって、逆に悔しい。これを読んでないと人生がマイナスになると思います。僕がこんなに小説を勧めることはもうないです。

三島俄然読みたくなりました。ずっと前から読み始めてたはいんですけど、それこそドストエフスキーのように、親族はいっぱい出てくるし、取引先の人とか、おばちゃんとかとにかくキャクターがたくさん出てくるので、これは腰を据えて読まなあかんなと思ってたんです。でもこの世界に一度馴染んでしまうと、すごい勢いになるだろうなあ。

百々たしかに上巻では登場人物がいろいろ出てきますから、細かく整理して読まなくちゃならないのでちょっと時間がかかりますね。けど、下巻は一気に読めます。

三島第3回は、これまでの百々大賞のノンフィクション系・科学系の流れを完全に断ち切っての、まさかの小説でした。

百々僕はジャンル問わず雑多に読むんですが、人に勧めるときは小説は選ばないだけなんです。あらすじ言うわけにいかないので、勧め方が難しいんですよね......。これもあらすじを言うわけにはいかない本なので難しいんですけど、でもとにかく、素晴らしいです!

三島百々さん、今年もありがとうございました。ということで第3回百々大賞は、西加奈子さんの『サラバ!』でした。この年末年始にぜひ!

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