今月の特集2

『島の美容室』福岡耕造(ボーダーインク)

 京都オフィスのメンバー・鳥居が、年末に社内で行った「今年の一冊!」座談会に『島の美容室』という本を持ってきました。それは、沖縄の離島で月に10日間だけ開いている美容室に訪れてくる人たちを撮った写真集でした。綺麗な装丁に味のある写真、この本いいなあ......。そう思わず手に取ってしまう雰囲気を纏っています。

 そんな『島の美容室』を作っているのは「ボーダーインク」という沖縄の出版社。奥さんが沖縄出身ということもあり、社内一沖縄に詳しい鳥居曰く「沖縄には『県産本』という言葉があるんですよ」「ボーダーインクはミシマ社と一緒で、書店さんと直取引しているみたいだよ」。
 それからホームページを覗いていたら、どうやら10人に満たない少人数で、社内でみんなでお昼ご飯を作って食べたりしていて、ジャンルを問わずいろんな本を出していて......あれ、なんだかミシマ社に似てる!? それに、県産本っていったいなに?
 気になりすぎて、沖縄は那覇にあるオフィスに伺ってきました! 

(聞き手:平田薫・新居未希、構成・写真:新居未希)

沖縄で出版社をするということ 後編

2015.03.20更新

刊行した本はほぼ県内で売れる

―― 前回、「出した本の9割方が沖縄で売れる」とおっしゃっていましたよね。あの、これ、すごすぎてビックリしてしまったのですが...!

金城そうですね、刊行した本はほとんど県内に置いています。昔は2割か3割くらい、県外でも売れればいいなあと思っていたけれど、今はほぼ9割が県内ですね(笑)。だから、県外ではあんまり目にする機会がないのかなあ、とも思います。県外にも沖縄のことを知りたいと強く思ってくださっている方って結構な人数いらっしゃるので、「本屋さんで買えない」と言われたりすると、うーん、と思うことも。

新城けれど同時にここ数年でだいぶ、東京の出版社とかが出す沖縄の本っていうのが増えてきたなと感じます。ガイド本だけではなく、堅い本や柔らかい本を含めて。それで本土の読者の、沖縄本に対するニーズはある程度満たされている部分もあるんですよね。

―― たしかに、沖縄関係の本は書店さんでよく見かけますね。

新城あとは沖縄の出版社のなかで、若い出版社があんまりないんです。メンバーも、20年前からあんまり変わってない(笑)。変わるとしても息子が継いだ、ぐらいかな。全部小さい出版社だから、新人をどんどん入れていくという感じにはなれないんですよね。

池宮就活生が「社員募集していますか?」と電話してきてくれたりするけれど、ほとんど募集しているところはないんじゃないかな。しているとしたら、印刷所のなかで編集をする部署がある会社とか、そのくらいだと思います。

金城沖縄の出版社で新卒をとったところとか、聞いたことないよね。

新城鹿児島にある「南方新社」は、いま社長をやられている方が東京で広告代理店に勤めていて、地元に帰ってきてはじめた出版社だけれど、沖縄にはそういうのはほとんどないんだよね。
 僕が知っているのは、「南山舎」という石垣島にある出版社くらい。いい本たくさん出していて、すごくいい出版社だと思います。そこは東京の大宅壮一文庫で働かれていた方が、地元に帰って始められた出版社なんです。けれどそれくらいじゃないかな。

―― 若い人が沖縄で動き出したら、もっと面白くなりそうな気もしますね。



お餅やさんで売れる本

―― 沖縄県内だと、どれくらいのお店とやりとりされてるんですか?

金城書店だけだと、県内だと90店舗切るかなと思います。あとは書店じゃないところが40店舗くらいありますね。書店じゃないところっていうのは、カフェとか、お餅やさんです。

―― え、お餅やさんに本が置いてあるんですか!?

『よくわかる御願ハンドブック』(ボーダーインク)

新城『よくわかる御願ハンドブック』という沖縄の行事関係の本を置いてもらっているんです。沖縄の行事にはお餅がつきものなので、お餅やさんですっごく売れる。総部数はもうすぐで10万部なんですけど、この本は99%が沖縄でしか売れないですね(笑)。スーパーとかでもよく売れます。

―― じゅ、10万部...! すごい!!

池宮実用書だから重い本は買いたくないし、わかりやすくて手に取りやすい、いやいや行事をやってる人も手に取れるような(笑)、そんな本を目指しました。

金城この本を出してから、行事ごとについての電話がすごくかかってきたりします。だんだん答えられるようになってきたね。「今度、こういう都合で◯◯ができないんだけど、どうしたらいい?」「うちのおばあちゃんはこんなんじゃないって言ってるけど...」「それはおばあのいう通りにやったらいいさ〜」みたいな感じで(笑)。

新城しきたりの本なんだけれども、そういうものはやっぱり家によっては違うものだから、「これはダメ」「こうしないとダメ」ということではなくて、最終的には気持ちです、っていう思いを込めています。買ったからと言ってもこの通りにやらなくていいし、絶対なんていうものはないんです。

池宮そうそう。けれども何もないと、初めてやる人はまったくわからないから。

新城かならずこうじゃないといけないっていうこと、そうしないと祟られる、なんてことはないんですよね。ほかにも読者は「これが沖縄だ!」っていう本を買いたがるんだけれど、あんまり「これが沖縄だ」なんて言い切れない。これも沖縄だし、これも沖縄だよね? って思っています。



1店舗で3000部!

―― たとえば県産本でも、ブームというか波のようなものはあるのでしょうか?

新城ボーダーインクは、その波を作ってきたほうかなと思います、いや、作ろうとしてきた、かな(笑)。

池宮ないジャンルを出すのが好きなので、沖縄の怪談の本とかも出しましたよ。

『読めば宮古』さいが族(ボーダーインク)

新城『読めば宮古!』という本も作りました。宮古島の人が宮古島のことについて、ちょっとサブカル的な視点で書いた本なんですが、宮古島ではかなり売れました。宮古島って人口50000人くらいの島なんですけど、発売直後に宮古島のひとつの書店で1カ月に3000冊売れたんですよ。翌月もそれくらい売れて。

―― えええ、1店舗で3000冊!?

新城宮古島で、ハリー・ポッターの何倍も売れたという(笑)。

新城けれど20年、30年、50年と長きに渡って売れるという本は、とくに地域出版では難しいなあと感じます。ひとまわりするとまた新しい層が出る、という感じではないんですよね。
 あと沖縄ではいま、街角の本屋さんが本当に壊滅的に減っています。観光地として有名な国際通りにも、一時期書店がひとつもなかったときがあったくらい。いまは宮脇書店さんが入ってるんですけどね。ここ10年で、那覇市内でも20店舗くらい無くなってるんじゃないかな。かなり危機的状況が続いていると思います。

池宮面白いのが、そういう小さな書店ではめだって沖縄の本は売れてるわけではないんです。この前「町本会」で書店さんたちが集まったときに、ジュンク堂で沖縄の本がすごく売れるって言っていたら、「そうなの!?」って驚いてました(笑)。やっぱりわざわざ本を買いに来る人と、いつもの買い物ルートに本屋があって寄り道で雑誌や本を買ったりする層は、違うんだろうなと思います。

新城それと県産本を買っている人の年齢層が、だんだんあがってきている気がしています。今までは20代の若い人、学生さんとかから80代のおじいちゃんまで幅広く買ってくれていたし、そうあってほしいなと思っていたんだけれど、今は40〜60代の人が買っている。若い層の人は、沖縄のカフェの本だったり県外から出ているようなガイドブックを買ったりしていて、県産本の読者層は年齢があがったなあ、と思っています。さらに街角の書店が減っちゃうと、そういう若い人たちからもどんどん本が遠のくなあ、と......。

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 ・・・と、まだまだ話は尽きなかったのですが、インタビューはこのへんで。
 街の本屋さんが減っている現状をこんなにも知っているのも、そして嘆くのも、ボーダーインクさんは本をすべてのお店に直接納品して、月に1回必ずお店に伺って、在庫数をチェックしているからなんです。お店のひとが「県産本ってね」「ボーダーインクさんのこの本は...」と詳しいのも、そうして出版社とお店との距離が近いからなんだな、としみじみ思いました。

 地方での出版のあり方はそれぞれ違えど、ボーダーインクさんは沖縄で、私たちは京都と東京で、書店さん、読者の方とともに歩む。その思いは同じでありつづけたいと思いました。

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