今月の特集2

『シェフを「つづける」ということ』井川直子(ミシマ社)

 2月に発刊となった『シェフを「つづける」ということ』(井川直子著)。ノンフィクション作家の星野博美さん、ブックディレクターの幅允孝さん等々の素敵な書評が相次ぎ、書店員の方々の支持も熱く、じわじわとその熱量がひろがっています。
今月6日、本書の発刊を記念し、代官山 蔦屋書店にて、著者の井川直子さんと、『料理通信』副編集長の曽根清子さんによるトークイベントが行われました。
井川さんが2006年から『料理通信』で連載されている「新米オーナーズストーリー」をずっと一緒に9年つづけているというお二人が、お店で働き、生きていくということについて、そして「つづいている」お店の共通点について、具体的な例をあげながら語ってくださいました。
料理店にかぎらず、自分の仕事を「つづける」ことを見つめるヒントがたくさん詰まったその内容の一部を、ここにお届けしたいと思います。

(構成:星野友里、構成補助:田渕洋二郎、写真:池畑索季)

お店で働き、生きていくということ 井川直子×曽根清子 前編

2015.04.24更新

「つづいている」お店の共通点

曽根今回、この本もトークショーもテーマが「つづける」ということなのですが、この本を読んで、たとえば「自分は中国でやっていく」や「単独経営でいく」など、シェフたちの「覚悟」というものをすごく感じました。そしてこの本では覚悟ができるまでの挫折というものも描かれていますよね。挫折を、悪い意味ではなく、「たくさんありすぎる選択肢を淘汰していくこと」と捉えることによって、一層覚悟が強くなっていくプロセスになっているように感じました。

井川そうですね。星の数ほど新しい店が生まれていって、つづけていけるのはひとにぎりという世界で、この『シェフを「つづける」ということ』と「新米オーナーズストーリー」に登場いただいたシェフたちのお店は、残っている確率がかなり高いですよね。それはなぜなんだろうと思って、共通点を考えてみたんですけれども、こういうお店に共通するのは「危機感」ではないかって思ったんですね。「なんとなくこういうお店やれたらかっこいいだろうなあ」ということではやっていない。

 それと、「思想」があるなと思ったんです。思想っていうのは少し硬い言い方なんですが、「伝えたい思い」と言い換えてもいいかもしれないですね。自分が何を世の中に伝えたいのか、明確にわかっている方が多いように感じました。あと「アイデンティティ」。自分のルーツはどこなのか。「自分のセールスポイント」ということではなく、自分の育ってきた根っこのようなものがなんなのか。それを深く掘り下げている人が多かった。

 そして、仕事をするときにその意義があるのかどうか、世の中に出していく意義はあるのかなということをこのシェフたちは突き詰めて考えてらっしゃった。たとえばお店を取材していて「気軽なお店を作りたいんです」っておっしゃる方が多いんですけれども、「気軽」っていうのはどういうことなのか。誰にとってのどういう「気軽」なのか。Gパンの気軽なのかそれともお財布の気軽なのか。雰囲気の気軽なのか。細かいことまで突き詰めて具体的に考えていらっしゃる、そんな共通点を感じました。


お店がお客さんを選ぶ(ロマンティコ /白金台)

井川ここからは、今まで95回にのぼる連載「新米オーナーズ」のなかから選んだお店をご紹介しながら、お店をつづけるということについて、引き続きお話しさせていただければと思います。第1回目は、『シェフを「つづける」ということ』の中に出てくる、「Ostu」の宮根正人シェフのお師匠さん・中山シェフが独立されたときのお店でした。

曽根私の最初に印象に残ったのは、シェフの鍋のかけ方が異常に几帳面だったことでした。目に入るのはつや消しのボールだったりとか。あとそのボールの置き方も美しいんですよね。なんだろうこの人は!って思って。

井川中山シェフは38歳で独立されたんですけれども、水面下では10年前から店作りが始まっていたっていうんですね。まずお店を出したいなって思った街に引っ越すことから始めて、夜飲みに行ったり、散歩に行ったり、食べに行ったりして、客層と街の雰囲気を把握していく。5、6回引っ越して、その蓄積もあって今、ドンピシャの白金台にお店があります。

 私はこの中山シェフから「東京では街にも流行りがある」という言葉を教えていただきました。青山が流行っていたと思ったら、代々木上原になって、中目黒になって、恵比寿になってという。人が歩いたところはまた静かになっていくと仰っていました。

曽根 でもこの中山シェフは今流行りの街に店を出すというのではなくて、どういうお客さんに来てほしいか、ということをすごく明確にイメージしていたんです。だから自分が来てほしいお客さんが飲み歩いてるエリアを肌で探すために引越しをしていた。いざここだって白金台に定めてからも、あえてちょっと緊張感をもたせていたり、細部を重ねることによって、そういうお客さんでないとむしろくつろげないような環境をつくっています。

 そうすることによって今はコアな中山シェフのファンのようなお客さんがついていて、お互い幸せな関係になっていますね。お店をつづけていく上で、自分の好きなお客さんで満たすというのはすごく大事なことだなぁって思いました。

井川お店がお客さんを選ぶという(笑)

曽根選びまくってますねぇ(笑)


街を愛し、愛されるお店(コンフル/駒澤大学)

曽根 こちらは大手の飲食店で店長を勤めていたという、27歳のサービスマン・倉田さんが開いた駒澤大学にあるお店です。

井川曽根さんと1軒目のお店に試食に行った後、この店気になるから、一杯だけ飲んで行こうと立ち寄ったお店で。私たちが飲んでいたら隣の席のおばあちゃまが、帰り際の私たちに「ありがとうございました」って言ってくださったんです。お店の人のご親戚かなって思ったんですけど、常連さんだったっていう。近所の方にこんなにも愛されてるんだなぁって、思いました。

 これは2009年の時の取材だったのですが、このころはまだ、自分のお店がどれだけ繁盛するか、という感じでがんばる方が多かった時代でした。けれどもその頃から、この倉田さんは「点ではなく線で生きていく」という覚悟をされている方でした。街自体が元気でなければ、その街に人は来てくれないという発想から、同業者異業者問わずオーナーさんたちの集う会というのを作っていましたね。

曽根シェフと共同経営で開いたお店が一度閉店しちゃってるんですよね、駒澤大学で。でもうまくいかなかったのを土地のせいにしたくない、だからここでもう一回がんばって街の人に喜んでもらえることをしてみようっていうので、作ったお店なんです。そのときに自分のお店だけじゃなくて美容師さんとか街の人たちと盛り上げていこうって。

 挫折をしたそのときに理由を考えて、そこから発見して流れを作っていって。こうやって強い店になっていくんだなあというふうに思いました。

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・・・料理店のお話だけれど、いつの間にか、自分の会社、仕事に引きつけて考えさせられてしまうお話の数々、明日の後編へと続きます!

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