今月の特集2

左から)『佐藤ジュンコのひとり飯な日々』佐藤ジュンコ、『声に出して読みづらいロシア人』松樟太郎、『透明の棋士』北野新太/コーヒーと一冊


 5月23日、ついにミシマ社が気合を込めて送り出す新シリーズ「コーヒーと一冊」が全国で発売となりました。このシリーズのコンセプトを発表したとき、いち早く反応し応援してくださったのが、書店B&Bの経営者であり、ブックコーディネーターの内沼晋太郎さんでした。

 そこで発売に先立ち、5月22日、B&B(@東京下北沢)にて、内沼さんと代表三島による刊行記念トークイベントを開催させていただきました。本シリーズのコンセプトは「ミシマ社の話」でもご説明していますが、書店側の内沼さんから見た「コーヒーと一冊」のお話からは、私たちも気づいていなかった、本シリーズの新たな顔が見えてきました。
 
 今回はその「これからの『本』の話~読者、作家、本屋、出版社の共存をめざして~」の対談の一部を、ここに掲載させていただきます。どうぞお楽しみください。

(構成:星野友里、喜屋武悠生、写真:池畑索季)

「コーヒーと一冊」から考える、これからの「本」の話 内沼晋太郎×三島邦弘 前編

2015.06.15更新

※内沼さんが編集長を務める「DOTPLACE」にて、異なった視点からの記事も掲載中。

スマホに奪われている時間を取り戻す

三島「コーヒーと一冊」というシリーズを始めます、ということを今年の二月に正式にミシマガジンで発表したら、内沼さんがいち早く反応してくださって。

内沼「これだ!」って。さすがだなあ、と僕は興奮しました。

三島ありがとうございます。今回大きく三つの実験、というか志、思いを込めた本になっているんですが、まず一つ目。すべて100ページ前後で作るということを考えました。内沼さん手に取ってみてください。

内沼薄いし、軽い!

三島そう、軽いんですよ。僕の使ってる一番軽いタイプのiPhoneより断然軽いですからね。

内沼断然ですか!?(笑)

三島もう「本、重い」とか絶対言わせない(笑)。今回はスマホに奪われている時間をいかに取り戻すかっていうのがすごく大きな課題でした。

内沼僕も興奮したポイントはいろいろあるんですけど、まず短いってところで言うと、世の中のコンテンツってどんどん短くなっていってるんですね、この二十年の間で。

三島なるほど。

内沼たとえば、もともとブログだったものが、Twitterで140文字になったり、コミュニケーションもメールからLINEのようなショートメッセージになったり、みんなの生きるペースが、いいか悪いかはわからないけれど、速く、短くなっているわけです。だから当然、時間の単位が今まで二時間単位で区切っていた人がだんだん一時間、三十分単位で区切るようになったり。生活のスタイルが変わっていってるのに本の厚さがあまり変わってないんですよね。でも、一冊まともな本読むのって何日とか、新書一冊でも5時間とかかかったりするじゃないですか。

三島そうですね。

内沼その5時間かかるっていうのが、もう現代の人に合ってないんですよね。そこが、100ページっていうのがしっくりきてるってことじゃないのかなと思うんです。

三島それは言われてそうだなって思いました。あまり考えてなかったです・・・。

内沼あ、そうですか(笑)。

三島いや、たぶん考えてたんですよ(笑)。

会場


200~300ページの呪縛から逃れる

三島出版の人間、編集者の側も、200ページから300ページないと本は成立しないっていう固定観念にすごく縛られてたと思うんです。つまり、本当にその本が200ページ必要かという問いは抜きにしてきたんです。

内沼うんうん。

三島一瞬でわからない面白さっていうのもいっぱいありますが、それはある程度本を読み重ねた人たちがわかる面白さであって、まあまあ本が好きな人が全員その境地にいけなくていいように思うんですね。
 一度でも、「面白い」というところだけで作り切った100ページ前後の本というのを読み切ったら、本というものの捉え方、接し方が絶対変わるだろうなと思ったんです。 

内沼なるほど、それは作り手にとってもいい話ですよね。つまり、いままではたぶん新書とか作ってる人でも、正直言うとメインの主張は50ページあれば十分なんだけど、このシリーズは180ページのシリーズだから、どう商品にするかってことを考えていたわけじゃないですか。

三島そうです、そうです、水増しです(笑)。

内沼電子書籍が出始めた頃に、いろんな人が言ったことの一つに、紙の本の180ページとか300ページとかの呪縛から逃れられるのが、電子書籍のいいところだっていうのがあったんですけど、それを紙で軽やかにやったのが、このミシマ社の『コーヒーと一冊』であるということだったと思うんですよね。

三島すごいねえ、そうだったんだ(笑)

会場


面白い新人が活躍しない出版に未来はない

三島二本目の柱についてお話したいんですけど、今回のシリーズの著者、佐藤ジュンコさん、北野新太さん、松樟太郎さん、みなさん新人です。創刊全員新人ってこれ前代未聞だと思うんです。

内沼そうですね。

三島今回なぜ新人を並べたかというと、今活躍されている書き手のみなさんも誰もが最初は新人だったわけです。出版社側が余裕なくなってくると、誰もが売れる企画に走りがちになるんですよ。でも、それこそが自分たちの首を絞めてるわけであって、十年後、二十年後の新しくて面白い書き手たちがどんどん出てきて活躍していかないと出版に未来なんてないわけです。小さいけどそのための一つの場にしていきたいなと。

内沼うんうん。

三島ただ、たとえば今回の3人をいきなり普通の単行本でできるかといえば、これまでの発想だったら「将棋ノンフィクションだから300ページはほしいかな」とか「このロシア人のようわからんの200ページかあ」とか、思うわけです。

内沼いや、ほんとそういうことですよね。100ページだから活きる人たちだったかもしれないってことで、とくに松樟太郎さんなんかは、この本が300ページあるとちょっと・・・。

三島この形を発明してなかったら無理だったと思うんですよね。才能あるこの人たちの面白さが最大限に発揮されるのは、けっしてこれまでの本の形じゃなかったというのを、作ってみて実感しています。

内沼100ページだとすごくいい。たぶんそれって、テレビ番組だと流行らなかったけど、YouTubeになったら才能を発揮する人が出てきてユーチューバーになったりするように、新しい枠組みがあると新しい才能が生まれるということなんだと思います。VINEの6秒の動画だからできる面白いこととか、140字のつぶやきになった瞬間に新しいTwitter有名人みたいな人が出てきたりするわけじゃないですか。たぶんそれと似ていて、200ページの本でも活躍できないし、1000字のコラムでも活躍できない人。だけど、100ページの本だったら大活躍できる人っていうのが、もしかしたらいるかもしれなくて、そういった人を発掘するシリーズになるのかなってことも思いますよね。

三島そうなると嬉しいです。

<つづきます>

  

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内沼晋太郎(うちぬま・しんたろう)

ブック・コーディネイター/クリエイティブ・ディレクター。1980年生まれ。numabooks代表。一橋大学商学部商学科卒。卒業後、某外資系国際見本市主催会社に入社し、2カ月で退社。その後、東京・千駄木「往来堂書店」のスタッフとして勤務するかたわら、2003年、本と人との出会いを提供するブックユニット「ブックピックオーケストラ」を設立。2006年末まで代表を務める。
のちに自身のレーベルとして「numabooks」を設立し、現在に至る。本にまつわるあらゆるプロジェクトの企画やディレクションを行う。2012年、東京・下北沢に本屋「B&B」を博報堂ケトルと協業で開業。ほか、読書用品ブランド「BIBLIOPHILIC」プロデューサー、「DOTPLACE」編集長なども務める。著書に『本の逆襲』(朝日出版社)など。

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