今月の特集2

左から)『佐藤ジュンコのひとり飯な日々』佐藤ジュンコ、『声に出して読みづらいロシア人』松樟太郎、『透明の棋士』北野新太/コーヒーと一冊


 5月23日、ついにミシマ社が気合を込めて送り出す新シリーズ「コーヒーと一冊」が全国で発売となりました。このシリーズのコンセプトを発表したとき、いち早く反応し応援してくださったのが、書店B&Bの経営者であり、ブックコーディネーターの内沼晋太郎さんでした。

 そこで発売に先立ち、5月22日、B&B(@東京下北沢)にて、内沼さんと代表三島による刊行記念トークイベントを開催させていただきました。本シリーズのコンセプトは「ミシマ社の話」でもご説明していますが、書店側の内沼さんから見た「コーヒーと一冊」のお話からは、私たちも気づいていなかった、本シリーズの新たな顔が見えてきました。
 
 今回はその「これからの『本』の話~読者、作家、本屋、出版社の共存をめざして~」の対談の一部を、ここに掲載させていただきます。どうぞお楽しみください。

(構成:星野友里、喜屋武悠生、写真:池畑索季)

「コーヒーと一冊」から考える、これからの「本」の話 内沼晋太郎×三島邦弘 後編

2015.06.16更新

※内沼さんが編集長を務める「DOTPLACE」にて、異なった視点からの記事も掲載中。

本屋さんに、一冊で二冊分の利益が入る

三島最後に三つめの柱としては、「本屋さんに元気を」ということを掲げました。最初僕がウェブにアップしたときは「本屋さんに利益を」って書いてあったんですけど、「ちょっと露骨すぎませんか?」と言われて表現を変えました(笑)

内沼ありがとうございます。うちも本屋さんですから。

三島本屋さんがいないと僕らも本を作れないし、本屋さんとこれからの時代をどうともに歩んでいくかということを本当に考えないといけない。大きな話で言うと、いま日本史上初の人口減に入っていますが、そういう状況の中で薄利多売という形では限界がある。じゃあどうしたらいいか? 出版全体の問題として委託制度があり、返品状況は40パーセント。

内沼本屋は10冊仕入れたら4冊は返品している。

三島次のモデルはで本屋さんの利幅を増やさないといけない。どうやったら増えるかというと、買い切りだと。買い切ってもらって、その分、本屋さんの利幅を通常の倍近くにしていきたいなと。そのために今回僕たちは「六掛け・買い切り」という取引条件でやっています。

内沼普通、書店に委託で入ってくるときは、ほぼ二割ぐらいしか利益がないんですね。1000円の本売ったら200円しか入ってこない。その代わり、余ったら返せる、というのが普通の本屋さんなんですけど、この本は余っても返せないけど、つまり買い切りだけれども、1000円の本売ったら400円書店に入る、というものを作ってくださったということですね。

三島そうです。ですから、一冊で二冊分の利益がある。
数を売っていこうというところからスタートしてしまうと、全部がおかしなことになってくるわけですよね。山積みして、ある程度売って動かなくなったら全部返品しちゃえばいいとなると、すごくいろんな無駄が生じている。


書店員にも「一冊入魂」させてくれる

三島実際に聞いた話だと、書店では返品作業で一週間の内、一日潰れてしまったりするとか。その作業って時間も無駄だし、なんの昂揚もないし。

内沼むしろ返品の作業って書店でやってると、悲しい気持ちになる。

三島出版社にとってもなにひとついいことはない。それよりは、買い切ることによって、返品の時間が浮くし、その分、この本はどうしたら届くんだろう、まずそのためには自分がこの本をちゃんと理解しようっていう、前向きな時間を作っていけますよね。

内沼それって、書店員にも「一冊入魂」させてくれるってことですよね。

三島まさにそうです。これは、出版社側にとっても、仕入れてもらえないリスクが高まるわけです。返品できないから、普段なら15冊のところが2冊しか仕入れてもらえないとか。実際にそうなんですよ。でも、逆に言ったらそれが健全な関係だと思うんです。

内沼そう、そうですよ。

三島それでも仕入れたいと思う本を作るっていうことなんですね。そこに、今回の本の創刊の意味がまたあって、さっきも言ったように「新人三冊」なんです。本屋さんにとっては著者の過去の実績データがないわけです。だから、一冊一冊の中身で判断して吟味するしかないのですね。

内沼みんなで買い切りに変えられると一番いいわけなんですけど、そういうわけにもいかないところを、手を挙げてやっているところがかっこいいなと。

三島もう、やるしかないですよね。そこ踏み出さないと。この三冊で、状況がいきなり変わるということはないですし、これからが勝負なんですけれども、一歩踏み出して、次の時代の可能性があるんだと思って日々働くのと、もうジリ貧しかないんですというふうに日々生きていくのでは、全然違うと思うんです。


本の世界は、今もう一回0歳児になってる

内沼僕は、いろんな出版社が真似をしてこの形が出て、もっとこういう本が増えるといいなと思っていますが、どうですか? 真似してほしいですか?

三島買い切りの形に関してはとにかくどんどん動いてほしいと思いますけど、同じようなのが出たら・・・どうでしょう。現時点の僕はこの三冊を愛してやまないから、いまは・・・。

内沼何年かしたらいい?(笑)

三島いいです、いいです。いえ、いますぐでも!

内沼というか、それはつまり出なかったらダメってことだとも思うんですよ。やっぱり「ミシマ社が始めたあれ、すごくいいじゃん」となって、他の出版社が真似して初めて成功だという気がします。

三島そうですね。いや、本当に自分たちの手で次の時代を作っていかないと。これまでなんとかやれていたのは、100年前とかの先達が作ったもののおかげです。でも、それはもう終わったわけであって、人口減という時代の中で、本というものがどう生きていけるかというときに、出版社とか、本屋さんとか、単体だけでどうこうという時代ではないと思うんですね。本の世界は、今もう一回0歳児になっているようなものだと思うんですよ。手のかけ方を間違ったら育っていかないことだって起こり得るわけで。

内沼そうですね。

三島今までの感覚だと新書と比べて100ページで1000円というのは高いという捉え方もできると思うんです。ただ、読者の人たちもこれまでの単なる消費活動とは違う捉え方、つまり、1000円であることによって、こうして新人の人たちが育っていくし、自分たちの一冊の行為が、自分たちが将来読むかもしれない人たちを育てていったりとか、出版社のあり方が変わっていったりだとか、本屋さんの新しい時代の生き残りに役立っていったりと、そういうすべてを巻き込んだ形での一個の共同体の話だと思っているんです。


50年後、100年後から見た岐路

三島今は本当に岐路だと思うんですよ。本という形が残っていくということが、このとき、あのときにこういう活動があって、あそこから少し変わっていったんだって、50年後、100年後に言われないといけないと思うし。

内沼それはもう完全にそうですよね。だからこそ、繰り返しになりますけど、これはこのフォーマットが「文庫」とか「新書」といったフォーマットのように、いろんな出版社に広まるといいなって思うんですね。書店には何を売るか以外の選択権があまりなくて、掛け率とか、どういった取り組みをするかといったことに関して、多くの書店はそれを作るのが難しいんですね。

三島そうですね。

内沼僕らはそこを出版社や取次任せにしないで、きちんと自分たちでやっていこうという理由で、こういうふうにイベントをやったり、ビールをはじめとするドリンクを出したり、吉本ばななさんと小さな本をつくったり、空間にこだわることによって、他にもここで何かやりたいという人と一緒に何か新しいことを作ったりすることで、なんとかやってきているわけです。でも、僕らみたいな形でやる人はあまりいないし、それまでの常識でやってきている人からするとハードルが高い。

三島うんうん。

内沼だけど、六掛け買い切り、1000円100ページのこういうものがどんどん増えてきて、それを売るぞって雰囲気ができてきたら、そこに乗っかっていくことは多くの書店さんはできると思う。

三島なるほど。

内沼それは本当に変えられるポイントで、僕らみたいなところが小さく毎日イベントやり続けていれば大丈夫と言い続けるよりも、業界全体に対してはインパクトがある。、だから、このシリーズは僕も一緒に盛り上げていきたいフォーマットなんです。

三島ありがとうございます。

内沼それは、100ページだったら読み切れるという現代の時間単位の短さの意味合いでもそうだし、出版社も前よりは少し利益が少ないけど成り立って、書店もちゃんと儲かる仕組みに対する熱い思いがあります。ぜひがんばっていきましょう。


  

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内沼晋太郎(うちぬま・しんたろう)

ブック・コーディネイター/クリエイティブ・ディレクター。1980年生まれ。numabooks代表。一橋大学商学部商学科卒。卒業後、某外資系国際見本市主催会社に入社し、2カ月で退社。その後、東京・千駄木「往来堂書店」のスタッフとして勤務するかたわら、2003年、本と人との出会いを提供するブックユニット「ブックピックオーケストラ」を設立。2006年末まで代表を務める。
のちに自身のレーベルとして「numabooks」を設立し、現在に至る。本にまつわるあらゆるプロジェクトの企画やディレクションを行う。2012年、東京・下北沢に本屋「B&B」を博報堂ケトルと協業で開業。ほか、読書用品ブランド「BIBLIOPHILIC」プロデューサー、「DOTPLACE」編集長なども務める。著書に『本の逆襲』(朝日出版社)など。

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